ヴァリアーのクソバイト→副官   作:やちは

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遅ればせながら、ヴァリアーリングの発売を知り、記念して(自己満足)書きました。
あまり文章はうまくありませんがよろしくお願いいたしますm(_ _)m


第一話 スクアーロの副官
スクアーロ隊長、お見合いするってよ。


 背広一式をクリーニングに出しておけと言いつけられた副官は、上司ーースクアーロのクローゼットから言いつけられたスーツを一着引っ張り出した。先日出入りの仕立て屋に注文して届いた一番新しい上質のスーツである。ついでに靴も磨いておけとのお達しである。

 しかしヴァリアーといえば暗殺部隊な訳だから、当然暗殺が仕事な訳で、仕事中には汚れてもいい動きやすさ抜群の隊服(特注品)を着るわけで。仕事中に背広を着る機会など正式な式典や九代目にお目見えするときくらいしかないわけで。

 となると、答えは限られてくる。

 

「親戚かご友人の結婚式か何かに出席されるんですか?」

「いや今度見合いに……」

 

 言ってからしまったと思ったようで、まずそうな顔をしているーーにもかかわらず副官は驚愕して大声を上げてしまった。

 

「えぇえええっ!? スクアーロ隊長お見合いするんですかあああああ?」

「声がでかい! チッ……断れなかっただけだあ!」

 

 明らかにスクアーロの方が声がでかい。ツッコミも忘れて副官はポカンと口を開けて固まってしまった。びっくり仰天。明日は飴玉が降ってくるかもしれない。大きな袋を用意しなければ。そんな算段をつけながら、気を取り直して書類を差し出す。

 顔にはどう見ても冷やかしじみた笑顔が浮かんでいる。

 

「隊長が結婚ですかぁ。いいパパになれそうですね〜」

「ゔお゛ぉおい! 気が早い! そもそも結婚するなんて一言も言ってねぇぞぉ!」

「え! するつもりがあるからお見合いするんじゃないんですか?」

 

 お見合いってそういうものでは? 

 一撃で仕留めるつもりで飛んできた分厚い本を難なくかわしながら首を傾げると、当の隊長はすごぉく嫌そうな顔で腕を組む。防御の意味を持つボディランゲージだ。

 

「……………九代目とそのファミリーからのお達しでなぁ。

『いつまでも息子の面倒を見てばかりで自分のことにまで気が回らないだろうから、私生活をサポートしてくれる女と結婚したらどうか』だとよ。チッ……あのジジイ共。変な気遣いしやがって」

「……………でもそれって結局、隊長を繋ぎ止めるための口実じゃないですかねえ」

 

 思ったことを口に出すと、スクアーロもわかっているのか、頬杖をついて明後日の方向を向く。

 

 

 ーーボンゴレ・ファミリーでありながら、独立した組織でもある独立暗殺部隊ヴァリアー。

 そのボスーーXANXUS。

 その強さからボンゴレ・ファミリーの切り札としてファミリー内でも恐怖の対象である。

 しかし、ヴァリアーのボスの地位についてはいるものの、実際の細々とした仕事や雑事はスクアーロを含む幹部がこなしている。部下に対する人使いの荒さと扱いの酷さには定評があり、幹部以下の下っ端には恐怖の対象となっていた。

 彼の気にさわればよくて解雇、最悪生死に関わるどころか死に直結である。

 そんな中で最低限、自分の身を守りつつボスの扱いを心得、世話を焼けるのは全世界を探してもおそらくスクアーロくらいしかいない。九代目サイドはおそらく、永久に息子を押し付けようと、ファミリーと関係の深い女性とスクアーロを結婚させようとしているのだろう。時代錯誤だが政略結婚の感覚に近い。

 そんな魂胆が見え透いた話をスクアーロが引き受けたのも意外だが……いや。多分何度もあれやこれや理由をつけて断ったが最終的に九代目含む上層部に半ば強制的に押し付けられて承諾せざるを得なかったというのが真相だろう。

 流石に過去色々あって救われたこともあり、九代目サイドには強く言えないらしい(抗議や文句は言うが)。どうせ断るつもりではいるが上の顔を立て、一応話だけ聞くことになったようだ。

 

 

 さてそうなると大変忙しくなる。まずは言われたスーツをクリーニングに出し、ついでにスプリングコートとカシミヤのストールもクリーニングに出す。春とはいえまだ冷え込むので、きっと必要になるだろう。

 ついでに着ていくシャツもクリーニング兼アイロンがけに出すため選別する。

 やっぱり無難に白かシックに黒か……悩むなあ。隊長は髪の色素が薄いからビビッドな色味も似合いそうだし、春だからパステルカラーも捨てがたい。あえてシャツはシンプルな色味にして、紳士雑誌を参考にベストの色で遊ぶのもアリだろう。

 それよりも結構おしゃれで可愛い柄のシャツも持ってるんだなあ。よく見ると傘柄ーーこれ絶対昔の女からのプレゼントだろ……て、この趣味の悪い柄シャツはどこに着ていくんだ? 見なかったことにしよう。

 ネクタイはやっぱりこのシルクがいいかなあ。

 そんなことを考えていると、ふっと視界が暗くなった。

 

「……ベル隊長?」

「あたり。当てるの早いよ」

 

 目隠しを解いたベルは白い歯を見せてニンマリと笑い、スクアーロの副官の手元を覗き込んだ。

 

「なにやってんの。楽しそ」

「スクアーロ隊長がお見合いをするらしいのでとっておきのコーディネートをご用意しようとクローゼットの中を漁ってました」

「お見合い? スクアーロが? マジ?」

「九代目と側近達に押し付けられたらしいですよ。災難ですよね」

 

「あ、ボスにはまだオフレコで」と囁くと、「わかってるって」とベルは頭の裏で腕を組む。巻き込まれて余計な怪我をするのは避けたいと思っているのだろう。

 

「誰と見合いすんの」

「さあそこまでは……でもさぞかし育ちのいいお嬢さんなんでしょうねー」

「……しししっ。ちょっと待ってろよ」

「はい?」

 

 十分後、ベルは愉快そうな顔で戻ってきた。

 

「見ろよ。これが見合い相手だって」

 

 そういって眼前に突きつけられたコピー用紙には、カラーで犬を抱いた女性が大きく印刷されている。

 

「これ何処から?」

「分析官脅してハッキングさせた」

「やめてあげてくださいよ……」

 

 露骨に頬を引き攣らせる副官を他所に、すでに興味を失ったらしいベルは顔を見ればもう用済みと言わんばかりに写真で手早く紙ヒコーキを作ると部屋の隅に飛ばした。

 

「幹部の末娘らしい。四ヶ国語を完璧に話して柔道黒帯、暗号解読までできるスーパーお嬢様だってよ」

「ハー。それはそれは……」

 

 ヴァリアーくらいになると、結婚相手のスペックも超人レベルじゃないといけないのだろうか?

 それよりもCIAが喉から手が出るほど欲しがるような人材を、よくぞ近場で見つけてきたものだ……。

 そんなことを考えながらベルが放った紙ヒコーキを拾い上げ、改めて写真をみた副官は穏やかな笑顔が素敵な女性だなーと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 スクアーロは一日休みをとり、お見合いにのぞむこととなった。

 待ち合わせ場所がここから車で一時間以上かかる街中だそうなので、それに合わせて副官は早起きし、慌ただしく上司の身支度を整える。

 

「ハンカチーフ持ちましたか?」

「持った」

「ポケットティッシュは?」

「持って……ゔお゛ぉおい。子供の遠足じゃねぇんだぞ」

「冗談ですよ。はいこれ絆創膏。内ポケットに入れときますからね」

「あ゛? いらねえよ」

「あなたじゃなくてお相手の女性がハイヒールで靴擦れした時のために持ち歩くんですよ。そんなことも知らないんですか?」

 

 副官の分際で生意気な口を聞いたせいか、ボックスティッシュが高速で飛んできた。しかし副官はくるりと身を翻して難なくそれを避けると、最後の仕上げとばかりに背広に念入りにブラシをかける。

 窓際で外の光に当てて埃が残っていないかチェックする念のいれようだ。

 

「今日はいいお天気ですねえ」

「でも昼からは風が強いってよ。なーセンパイの髪結んだほうがいいって。邪魔じゃん」

 

 気まぐれでやってきてそのまま居着いたベルは長椅子に我が物顔で寝そべったまま指示をする。彼のもっともらしい言い分に副官は頷いた。

 

「確かに……ちょっと結びましょうか」

 

 邪魔かどうかより、隊長の素晴らしいロン毛(褒め言葉)を見て見合い相手の女性が自信を損なわぬよう、対処しておく必要がある。これも副官の務め。

 なるべく風に靡かぬよう……それでいて不自然でないよう意識してバームを髪に馴染ませうなじで一つに結ぶ。結び目を隠すように一房残しておいた髪を巻きつけてゴムに入れ込む。

 

 スクアーロはそこまでしなくていいとかなんとか色々文句を言っていたが、風に靡いて人の顔に当たるといい気分がしないだのともっともらしい言い分で言いくるめる。

 そうしてやっと支度が済んだ後、副官はハンガーを外してジャケットを広げた。

 

「はいジャケット。袖通してください」

「ん゛」

「ネクタイ歪んでますよ」

「後で車で直す」

「今直しますから」

「いいって……ゔお゛ぉい。おまえは俺の母親かぁ?」

「そんなわけないでしょう。やめてくださいよ気持ち悪い」

「……………ボスのこと頼んだぞぉ」

 

 いつもならここで蹴りの一つでもとんでくるところだが、そういう気配もなく殊勝な態度にびっくりした副官は一瞬手が止まってしまった。

 

「まあ一日寝てる日も珍しくないし何もないとは思うがなぁ。何かあればマニュアルを見て対応しろぉ」

 

 視線の先にはこの日のために総集したらしきボスのマニュアルが積んである。今後も大変役立ちそうな代物に、ほかの隊員たちは涙を流して喜んでいた。

 

「何もないとは思うが、いいかぁ。ボスの部屋の周りを無闇にうろつくなよ。それと腹減って機嫌が悪そうなときはいい肉を焼いて持っていけば大抵機嫌が治る。牛かラムだ。焼き加減は料理長に言えば勝手にやってくれる。それと酒をもってこいと言われたら地下蔵にある秘蔵のウイスキーとテキーラを」

「あー! もうわかりましたって! 約束の時間に遅れちゃいますよ!」

 

 待ち合わせ時間を考えるともう出ないと間に合わないと言うのに、スクアーロが出発する気配は一向にない。

 ついに我慢の限界に達した副官は、尚も立ち止まり物いいたげにする上司の背をぐいぐいと押して車まで連れて行き、後部座席に押し込む。

 

「ほら乗った乗った。これ花屋で頼んでおいたお花です。相手のお嬢さんに上手くいって渡してくださいねー良い一日を!」

 

 殺し屋と花、現代美術のモチーフにありそうな組み合わせだ。

 明らかに堅気じゃないオーラを放っているロン毛の男と花束……加えて無理に笑って渡せとは言うまい。子供は確実に泣く。場所が場所なら職質されるかもしれない。フツーに渡してくれることを祈るばかりである。

 

「ゔお゛ぉおい」

「まだ何かあるんですか?」

「……本当にお前達だけで大丈夫かあ? 何かあったらすぐに仕事用の電話にかけて」

「はいっ車出してー! 隊長お気をつけてー!」

「いってらーセンパイ」

 

 珍しく終始心配そうにしていたスクアーロを強制的に送り出した副官はハンカチをひらつかせ、気紛れでやって来たベルと共に清々しい思いで見送りふう、と一息ついた。

 

「ハー行った行った。ずっとボスのこと心配してあんたこそ母親かよ……」

「それな。そんなに心配なら行かなきゃいいんだよ」

「そうなんですよ」

 

 深く深く溜息を吐く副官に、ベルは悪巧みをするような笑みを向けた。

 

「しししっ。今からゲームしようぜ」

「えっ。職務中ですよ」

「いーって。そのためにいつもより早く起きてきてやったんだぜ。前に出張で爆買いしたゲームやるぞ」

 

 いくら幹部格の言うことだとしても、従えることと従えないことがある。しかも直属の上司でもない。

 迷う副官の肩を組み、ベルは唆すように声を忍ばせた。

 

「どうせ一日書類整理だろ? いつでも出来んじゃん。モンペ夜までいないんだから帰るまで遊ぼーぜ」

 

 お察しの通り、『モンペ』ーーすなわち『モンスターペアレント』とはスクアーロのことである。

 上司を『モンペ』呼ばわりされた副官は肯定も否定もせず、ジト目でベルを見やる。

 

「……いやいや。部屋の掃除してほしいだけでしょ? ゲーム機どこにあるかわからないから」

「まーね」

「いやいいんですけどね……二時間で終わらせますよ。要らないものちゃんと自分で分けてくださいねー」

 

 なんにせよゲームは魅力的だ。掃除も嫌いじゃない。

 口うるさいスクアーロ(おかあさん)もいなくなったことだし、存分に仕事をサボるぞぉ〜と二人は仲良く歩き出した。

 

 

 

 事件が起きたのは、ベルの部屋の掃除をきっちり二時間以内で終えてゲームの一ラウンド目がちょうど終わった頃だった。

 

 顔を真っ青にした隊員は、ボスが肉を所望していると死にそうな声で告げ、次いでとんでもない難題を突きつけられたことを報告したのだった。

 

「そ、それが、肉は牛でもラムでもなく、熊の気分だと……」

「熊……?」

「にゃあ?」

 

 窮屈だろうと変な気遣いで匣から出していた副官の黒猫(雨属性)もまた、主人と同じ方向へ首をかしげる。

 イギリス育ちの副官はイタリアに住み出してまだ間も無く、言われたものの、イタリアの食文化の仔細についてまではピンと来ていなかった。

 はて、イタリアに熊は売っているのだろうか。そもそも、熊食の文化はあるのだろうか? 聞いたことがない。

 例えば、イタリアでは馬肉食の文化は割と身近であるそうだが、イギリスでは“馬は人間の友”というような位置付けであるので、犬猫と同じく馬肉食は忌避、あるいはタブー視されている。イタリアで売られているのを見て度肝を抜かれた記憶があった。

 

 話を戻そう。

 

 頭に疑問符を浮かべながら、まずは交渉すべくボスの元へ赴いた。

 

「申し訳ありません、ボス。熊は備蓄にありませんので別の物でご容赦いただけませんか?」

 

 いつもは上司に憎まれ口を叩いたりと慇懃無礼な態度をとる副官だが、ボスの前ではたちまち小物に成り下がってしまう。だって怖いもん。当たり前だ。ご機嫌を損ねたら冗談じゃなく死ぬ。

 平身低頭で頼み込んだが、ボスの返答は素気無い。

 

「今すぐ獲ってこい」

 

 しばし考え込む。

 とって……?

 ………。

 ……………………!?

 と、獲ってこいーーー!?

 

「い、今ですか?」

「ねえなら獲るしかないだろうが。何度も言わせるな」

 

 横暴ーーー!! 当然と言わんばかりの態度に副官はプルプルと震える。ナンテコッタイ。

 

「わーーわかりました。で、ですが調達に時間がかかります。お時間が欲しいのですが……!」

「夕食に出せるようにしろ。調理法は任せる。俺は寝る」

 

 マジか!? 交渉の余地すらない。

 だが気分屋のボスが夕食まで待ってくれると譲歩してくれただけでもありがたいと思うしかあるまい。

 

「か、かしこまりました……!」

 

 副官には了承の返事をする他、返す言葉も選択肢もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 さて、問題はその後である。

 手始めに部下や下っ端に命じて近隣の高級レストランに問い合わせ、熊肉がないか調べさせるが、格式の高いレストランにそんなものあるはずがない。

 まあここまでは予想通りだ。次に猟師や害獣駆除業者に問い合わせて熊を探させることにする。

 調べたところ、一応イタリアにも熊はいるらしいが、熊食に対しての馴染みが薄く、害獣駆除の一環で仕留めることはあっても食べることはあまりないらしい。

 つまり、“イタリア産熊肉”というものは国内に出回っていないと言うことだ。

 究極の案として、ボスの言う通り山に獲りに行くことも考えたが、見つけて仕留めて血を抜き、捌いた頃には恐らく夕食の時間どころかどっぷり日が暮れているだろう……そもそも見つかる保証もないし、帰りの時間や調理時間も確保しなくてはならない。

 やはり、人脈や人材をフルで使って近場の飲食店に問い合わせ、草の根かき分けて探させるしか方法がないことになる。

 それでも駄目ならどうしたものか……。

 

「S●it(クソ)……!」

 

 前髪をかき混ぜながら母語で悪態をついたとき、ドアを叩く音がした。

 姿を現したのはスクアーロと同じくヴァリアーの幹部であるルッスーリアだった。

 

「入るわよ〜……てうわすごい臭いっ。換気なさいよ、もぅ!」

 

 意気揚々とドアを開けた瞬間、むせ返るような煙草臭に面食らったルッスーリアは鼻を摘んで窓に直行する。

 窓を開け放つと爽やかな風が舞い込むが、なおも染みついたヤニの臭いは消えず、煙草の臭いを嫌うルッスーリアはハンカチで口を押さえながらスプレータイプの芳香剤を撒きまくった。

 

「あんたいつか病気になるわよ! ……て、すごい量吸ったわね!?」

 

 硝子の灰皿が山盛りになる程の吸い殻の量と周りに散乱する空箱の量にドン引きしている。

 毒にかなり耐性がある副官でなければとっくに急性ニコチン中毒で病院送りになっているところだ。

 

「あんた上司命令で禁煙成功したんじゃなかったの?」

「やっぱりストレスMAXになると吸いたくなっちゃって……いま吸ってるの終わったらやめます……」

 

 正確にいうと禁煙していたわけでは無い。

 ヴァリアーに(強制)入隊してからは上司命令で健康的な生活を心がけるようにと言いつけられ、禁煙せざるを得なくなっていただけだ(誠に遺憾)。

 

「あ、そうそう。差し入れに来たんだった」

 

 ようやく室内の煙草臭が平均値になり、窓から身を乗り出していたルッスーリアは、すっかり存在を忘れかけていたティーカートを思い出してテーブルに横付けする。

 

「ボスの無茶な命令に切羽詰まってるみたいじゃない。一息入れたら? 紅茶飲む?」

「ルッスーリア隊長〜愛してます〜」

「現金な子ねえ」

 

 この日初めて人の優しさに触れた副官はティーカップを受け取り、半泣きになりながら熱いお茶を啜る。

 その時だった。

 

「副官殿ー!」

「んぶふぅ」

 

 驚きのあまり鼻から紅茶が出てきた副官は滴る前に痛む鼻をハンカチで押さえる。

 

「な、なんですか?」

「熊肉が見つかりました!」

「エェエ!?」

「あらまあ。早かったじゃない?」

 

 ルッスーリアはのほほんとして、「調理はあたしに任せて〜」なんて言っているが、問題はどれだけ確保できたかである。

 

「そ、それでいかほど……?」

 

 不安げな副官に向けて、下っ端隊員(おそらく新米)は胸を張り誇らしげに報告した。

 

「三百グラムならあるとのことです!」

「三百グラム……?」

 

 ……………。

 ………………三百グラムて!

 

 ブチ切れた副官は下っ端に向けてテーブルを投げつけた。

 貴重な熊肉が三百グラムとはいえあるだけマシだと思うが、次手に詰まっていた副官に平静を装う余裕などあるはずがない。

 

「You f●ck id●ot(大馬鹿野郎っ)! ボスの体格と普段食べてる量を考えやがれ、ca●zo(くそがっ)!! F●ck off(とっとと失せやがれ)!! F●ck off!!」

「こら! そんな下品な言葉使わないのっ」

「F●ck youーーーーー!!」

 

 いまにも殴りかからんとする勢いの副官をあっさりと羽交締めにしたルッスーリアは、腰を抜かしている下っ端に視線で退避を命じたのだった。

 

 

 

 その後の吉報はなかなか訪れなかった。

 熊肉が見つからなかったことも要因だが、普段、キャラの濃い幹部に隠れて比較的影の薄い副官は、”上司に対しては失言が多いものの、話ができる真面目な人”と言うのがそれまでの総評だったのである。しかし、前後不覚になるほどブチ切れた姿を部下の前で披露したため、今ではボスに次いで下っ端達の恐怖の対象となっていた。

 ブチ切れた副官のそばに近寄りたくないと言うのが下っ端達の正直な感想であった。

 

 さて、そんなこととは知らない副官は、目的もなく室内をぐるぐると歩き回っていた。

 

 ーー自分の命はあと数時間か……。

 

 真剣に遺書を書くかどうか悩み、何度も何度も便箋に向き合っては離れるーーそんなことを繰り返していた。

 最後に猫ちゃんを吸いたかったなぁ……。

 遠い目で現実逃避していると、扉が勢いよく開け放たれた。

 

「副官殿!」

「はい?」

「隣町の中華料理屋の店主が新メニューの試作用に購入した冷凍熊肉が二キロならあるそうです!」

「えぇ!?」

 

 これこそまさに待っていた吉報であった。これは現実であろうか。副官はほっぺたをつねった。うん、痛い! 現実だ。

 

「ただいつもボスに供する肉よりランクが下がるらしく……それでよければ……」

「言い値で買い占めてください! 今すぐ取りにいきます! 最短の合流地点を割り出して!」

「確認します!」

「単車の用意を!」

「ただちに!」

 

 副官は急いで外出の用意を整え、熊肉の受け取りに出掛けて行ったのであった。

 

 分析官が割り出した最短の合流地点で熊肉を受け取り、慌ただしくヴァリアー本部に戻ってきた頃にはもう日が落ちかけていたが、ボスはまだ眠っているらしく、不在の間に問題が起きた形跡はない。

 肉を抱えて向かった厨房では、すでにルッスーリアがエプロン姿で待っていた。

 

「ルッスーリア隊長。よろしくお願いします……」

「用意はできてるわ。あとは任せなさいな」

「手伝うこととか……」

「ないわよ。あんたは休んでなさい」

「うわーーママ〜〜ン」

「はいはい」

 

 その言葉で一気に肩の荷がおりた副官は(割と本気で)泣き出してしまった。

 

 

 

 

 

 いつもよりランクの劣る肉は味の濃さで誤魔化すしかない。

 というわけで、今回、ルッスーリアが選んだメニュー名は“熊汁”である。

 薄切りの豚肉を野菜と共に味噌仕立ての味の濃い出汁で煮込んだ日本のソウルフードのアレンジである。

 

「ボス〜お夕飯出来たわよ〜♪」

 

 ノックに対しての返事だろうか。何かがドアに叩きつけられた鈍い音がした。

 数秒の後、恐る恐るドアノブを捻ると、分厚いガラスの灰皿が転がっていた。頭にぶつけられたら即死だ。

 ボスはソファでゆったりと寛いでおり、二人の姿を視界に入れるなり睨め付けた。

 

「遅い」

「ひゃい」

 

 こ、殺される……。

 その一言で副官は一層身を縮こまらせたが、ルッスーリアは慣れっこなのか、いつもと変わらずルンルンとしてカートを押しボスの配膳の支度を始める。

 

「ホホホ。熊肉は臭み抜きが大変でちょっと時間がかかっちゃったのよ〜

さ、冷めないうちに。お口に合うかわからないけどどうぞ」

「………」

 

 ボスは空腹が極まっているのかそれ以上何も言わず、無言でルッスーリアのよそった汁物を受け取り箸に手を伸ばす。

 その間にも、ルッスーリアは様々な質問を投げかけている。

 この空気の中よく喋れるなあ……。

 生来小物である副官は物怖じして一言も喋れないと言うのに。

 やはりこれが幹部とそれ以下の違いか。感心していると、熊肉を食したボスが心なしか満足げに鼻を鳴らした。

 

「フン。まあまあだ」

「あ……よかったです……」

 

 お褒めの言葉かどうかはわからないが、ボスの機嫌がいいだけで一安心だ。今日一日の平穏はこれで守られた……。

 普段は鬼スパルタなスクアーロ隊長もきっと褒めてくれるだろう。上手くいけば今月の給料をちょっぴり上げてくれるかもしれない。

 そんな風に空想を膨らませている最中、「にゃん」という鳴き声と共に、ボスの膝の上に黒い物体が乗り上がった。

 自分の匣兵器の猫に……似ているような……。

 ………。

 ……………………!?

 

「……あ゛ーーっ!! 昼から見ないと思ったらなんでボスのとこに!!」

「うるせェッ」

「ひえっ。す、すいません」

 

 黙らせる目的で飛んできた取り皿を紙一重で避ける。

 ……いやそれよりも!

 ずっと匣の中じゃかわいそうだと思って出してあげてから先、肉の調達ですっかり忘れていた! しかしなんでよりにもよってボスのところに!?

 

「テメェの猫か」

 

 こくこくと人形のように首を縦に振る。いつもならここで(タマ)を取る目的で食器が飛んでくる。ルッスーリアは隣で冷や冷やしながら二人のやりとりを見ていたが、ご所望の熊があることに満足しているのか、幸いにもボスのご機嫌は悪くなく、何も飛んではこなかった。

 

「ずっとここに居着いて目障りだ。失せろ」

「は、はい……ほら。こっちおいでっ」

 

 ボスの性格上、小さきものにもーーいや、小さきものだからこそ鬱陶しがって抹殺しかねないが、部屋に入り浸ることを許してくれる程度には情があるのかもしれない……なんだろう、ライオンの檻に子猫を入れると自分の子と同じように育て始める……みたいな話だろうか……?

 考えれば考えるほど分からなくなったので副官は考えることを放棄した。

 

「ホラァ、こっち来なさいっ。おやつあげるから」

 

 猫に自分の元へ戻るよう何度も促すが、肝心の猫はボスの膝が相当気に入っているのか、離れようとしない。それどころかボスの肩によじ上って左耳の飾りに猫じゃらしよろしくじゃれつく始末である。

 

「早くそれを寄越せ」

 

 そのうち痺れを切らしたボスがやや切れ気味に猫の首根っこを引っ掴んで地面に放り、汁物のおかわりを要求したので、捕まえるのは後にして、副官とルッスーリアはせっせと漆のお椀に汁物をよそいはじめた。味についての感想はないが、一分もしないうちに食べ切っておかわりを所望していたので、気に入ってはいるのだろう。

 せっせと配膳に徹していた二人だが、鍋の中身が半分を切ると少し腹が膨れ余裕がで始めたのか、黙々と熊汁を食べていたボスが口を開いた。

 

「で? カス鮫は何処に行きやがった」

 

 先に弁明しておくがーーこのとき副官は疲れていた。

 早起きして花屋に注文していた花をとりに行き、上司の身支度とお見送り、その後に続いたベルの部屋の掃除とゲーム対戦に加え、熊肉の調達に駆り出され身体中が悲鳴を上げていた。自身の匣兵器の迷走で精神的にも疲れ果てている。

 だからつい、こぼしてしまったのだ。

 

「今日は休みをとってお見合いに行ってます」

「!? ちょっと!!」

 

 即座にルッスーリアに首根っこを掴まれて引き戻される。

 

「馬鹿正直に言うんじゃないの!」

「だって知ってるんじゃ……」

 

 副官がそう思ったのには理由がある。

 ヴァリアーでは一応、有給でも遠出する場合は上司に申請することになっている。マフィアには、ファミリーの大事にはたとえ妻の出産であってもファミリーのために駆けつけなくてはならないという掟があるためだ。副官なら直属の上司がスクアーロなのでそこで終わるが、スクアーロの直属の上司はXANXUSなので彼に申請するはずだ(大抵は聞いていないだろうが)。てっきり報告済みだと思っていたのだ。

 

「ほんとこの子は素直にーーごめんなさいねえボス。この子言葉を間違えちゃったみたい。正しくはお見合いじゃなくてお宮参りよ、お・み・や・ま・い・り♡ ヴァリアー隊員全員の健康祈願に行ってるのよ」

 

 そりゃちょっと無理があるでしょー……。

 しかもそれって生後一ヶ月の赤ん坊を神様のところに連れて行ってこれからの健やかな成長を祈るという、日本の風習ですよね? 間違っても健康祈願ではないだろ。

 一先ず危ない橋を渡り終えたと思っているルッスーリアは、副官の肩を掴んで部屋の隅に連れて行った。

 

「おバカ! 九代目が企画したお見合いなのよ!? 話したら不機嫌になるに決まってるからスクがボスの耳に入れるはずがないでしょう!」

「見合い?」

 

 ちょっ。姐さん声でかすぎですってー。……なんて茶化している暇ではなくなった。一番聞かれたくない単語をボスの高性能なお耳が拾ってしまったのである。

 一度は見逃されたが、二度はない。

 

「カス鮫が見合いだと?」

「え、それはーあのー……」

「誰の差し金だ?」

「えっとー……」

 

 親切な近所のおばさんですと言い訳したところで通じるわけがない。スクアーロは殆ど職場を寝ぐらにしているし、暗殺部隊所属の殺し屋が安易に近所付き合いなんかするわけがないからだ。

 言い訳を考えているうちに、ボスの目が段々とイライラしてくる。

 

「俺の許可も得ず、誰の差し金で、何処の誰と見合いしてる」

「………」

「吐かねえならこのバカ猫をかっ消す」

「にゃ〜〜ん」

 

 ボスに首根っこを引っ掴まれ、助けてくれと言わんばかりに鳴く愛猫をみて、副官の中でプツンと何かが切れた。

 

「っ〜〜〜………わかりました。スクアーロ隊長は九代目サイドによってセッティングされたお見合いに出かけています。以上! 報告終わり!!」

「ちょっ!? ……ほ、ホホホ。いやあねえボス、この子一体何を言っているのかしら!?」

 

 気休めにしかならない言葉で時間を稼ぎながら、ルッスーリアは副官に詰め寄った。

 

「あんた一体どういうつもりなの!!」

「だって〜猫が〜!!」

「猫が〜じゃないでしょ! 言ってる場合!? スクアーロと匣兵器 (ネコ)一体どっちが大事なのよ!?」

「猫ちゃん」

「このお馬鹿ぁっ!!」

「おげふっ」

 

 ドラマの熱血教師顔負けの強烈なビンタを食らった副官は勢いのあまり一回転してから大の字に転げた。

 人一人の命に比べれば匣兵器くらい……ルッスーリアはそういうが、雨黒猫(ガット・ネーロ・ピオッジャ)の匣はかなりの大金を投資して改良に改良を重ねた、副官にとっては一財産なのである。スクアーロと比べたら圧倒的にこっちの方が大事だ。例えそれが直属の上司だとしても。元はただの他人だし。

 そうこうしている間にもーーボスの周囲だけ妙に空気が冷たく……いや氷点下へ変化していく……。

 

「ぼ、ボス落ち着いて……ほほ。スクアーロはちゃんと断ったのよ? だけど九代目がどうしてもって……九代目の命令となれば、ね? 断れないでしょう? やっぱり私たち恩があるわけだし……? そ、それにね、スクごときのペーペーが九代目に意見できるわけが……ねえ聞いてる? ボス……?」

 

 その瞬間、肌に直接スタンガンでも食らわされたように電流が走った。

 まずい、というや否や、二人は大声を上げた。

 

「たっ、退避ー!」

「みんなーー!! 退避よォーーー!」

 

 ボスの顔に痣が浮かび始めたのを見るや否や、ルッスーリアと副官は隊員全員に退避勧告を出しながら、自身の身の安全を確保すべく窓に向かって全速力で駆けた。

 

 ああ……。

 お見合いに出かけて行ったスクアーロ隊長。お元気ですか。

 自分は元気ですがなんとか首の皮が一枚繋がってる状態です。自分だけでなくヴァリアーのみんなが同じ状態で、隊長が帰るまでにボスに抹殺されそうです。

 早く戻ってきてください……!

 

 

 

 

 

 九代目の顔を立てに行ったスクアーロが帰宅を許されたのは夜もかなり更けてからのことだった。

 朝のベルの予報通り午後からは風が強く、いまも屋上でバタバタと旗がうるさくはためいている。

 いつも鬱蒼としているヴァリアーのアジトであるが、今日はいつもと雰囲気が違うように感じられ、スクアーロは心の中で首を捻った。

 

「……? ゔお゛ぉおい。帰ったぞぉ」

 

 敵襲を警戒して裏口から中に入り、一応宣言するが、応答はない。自身の副官の姿どころか、下っ端隊員の姿すら見えない状態だ。それもそのはず。玄関口だけでなく、建物全体が暗闇に包まれているのである。

 

「チッ……ゔお゛ぉおい! 誰かいるなら電気ぐらいつけろぉ! ……ったく使えねぇなあ!」

 

 手探りで照明のスイッチを探し当てたスクアーロは苛立ち混じりに連打する。

 しかし、パチン、パチンと澄んだ音が暗闇に響くばかりで、灯りがつく様子はない。

 

「……? 停電かぁ?」

 

 気配を殺して夜目を凝らしながら階段を上がり、幹部連が多用する居間へ向かう。周囲は暗闇に包まれていたが、そこだけは全開の扉から頼りない光が漏れ出していた。

 扉の影から中を覗くと、そこには蝋燭を囲んでひっそりと佇む三人分の影があった。

 

「おかえりなさいませ……」

「おかえりスクちゃん……」

「おかえりーセンパイ」

「お、おう……帰ったぞ……」

 

 異様な空気に若干引きながら入室したスクアーロは、室内を見渡した。やけに静かだ。

 

「なんで蝋燭取り囲んでんだぁ? 交霊会でもする気かあ?」

「んなわけないでしょ……ボスが寝る前にひと暴れしたせいで建物の半分が停電してるんです。一部はバッテリーで補ってますが……ちなみに節電のために隊員の多数は反対側に行ってます」

 

 それで人気がなかったのか、とスクアーロは納得した。

 副官がハンガーを持ってきて上着を脱いで座るよう促すと、スクアーロは背広を脱ぎ始めた。

 

「預かります……あー。それと今日ボスが怒って自室の居間を半壊にしちゃったんで、明日業者が来ます。電気配線も明日見に来てくれるって。ボスはしばらくホテル暮らしですかねぇ」

「そうか……わかった」

 

 ホテルはもちろんのことだが、こんなときのために、実はボス専用の(あなぐら)や別宅があるのでそちらを手配することも可能だ。

 明日の朝イチでボスの希望を聞いて、早急に仮住まいを手配するべきだろう。

 

「今日は運悪く怒りん坊の日だったよな。ほとんど部屋から出てないのになんでだろ? 夕方まで何ともなかったのにさあ」

「さ、さあ……」

 

 心当たりしかない副官とルッスーリアはさっと目を逸らす。ごめんなさい皆さん。アーメン……。

 

「! あら! スクアーロったらシャツに口紅つけて帰ってる!」

 

 背広をハンガーにかけようとすると、ルッスーリアが流石の目敏さでシャツにうすーく付着した口紅を見つけて声をあげる。この薄暗い中でよく見えたな。確かについてるけどほんとーにうすーくだよ?

 

「ししっ。やるじゃんセンパイ♪」

「なに? なに? 帰りも遅いしどこかでしけ込んできたんじゃない? ちょっと詳しく聞かせなさいよぉ〜」

「やだな〜初対面の女に手出してきたんですか?」

「出してねぇ! ぶつかっただけだ! 九代目の手前恐れ多くてンなことできるかぁ!」

「いてっ」

 

 突っ込みのつもりで蹴りが飛んできた。いつもどおり受け身を取ればそんなに痛くはなかったが、足に力が入らなくなってふらついた副官は背後へ割と派手に尻餅をついた。

 

「! そんなに強く蹴ってねえぞぉ!?」

「や……ちょっと貧血起こしたみたいで……」

「やだ大丈夫!?」

 

 ルッスーリアの声がする方向に首を向けるが、顔の造作が靄がかかったように見えない。

 

「夕飯ちゃんと食べたんでしょ?」

「うーん……あ……そういえば朝から何も食べてなかった……」

 

 朝は早起きで食事をする暇もなかったため、今日一日口に入れたものはルッスーリアが淹れてくれた紅茶くらいしか記憶がない。

 

「!? そんなに仕事が忙しかったのか!?」

「ボスが突然ジビエを食べたいと無茶振りを……」

「あ゛ぁん? ジビエぇぇえ? 鹿と鴨とうさぎは用意していただろうが」

「うーん熊を調達しに……行けって……」

 

 報告を聞いたスクアーロは額を覆って盛大な溜息を吐いた。

 

「熊か……熊は盲点だったなぁ……」

「ボスはたまに予想外のことを言い出すよなー」

「あぁ」

「こう見えてコイツ滅茶苦茶頑張ったんだぜ。上司として褒めてやれよ」

「………」

 

 ベル隊長が優しいこと言ってる! 国宝級に珍しい光景だ。明日は飴玉が(以下略)。

 それよりも……お? 隊長が考えている……? これはお褒めの言葉が期待できるか? 

 外野がニヤニヤして見守る中、髪をがしがしとかきあげたスクアーロは相変わらずの殺し屋の目で海老のように丸まって蹲る副官を見下ろす。

 

「……休んでマシになったら飯食いに行くぞ。奢ってやる」

「へっ? でも隊長食べてきたんじゃあ」

「飲み直しだ。小腹も減ってるしなぁ。高級な飯はうまいが量が少なくて食った気にならねぇ」

「貧乏性ですねえ」

「無駄口叩く元気があるなら大丈夫そうだな」

 

 腕をかしてくれたのでありがたく甘えて上体を起こすと、副官は服についた埃を叩き落とす。

 

「隊長〜。自分、分厚い肉とホールケーキが食べたいですぅ」

「あ゛〜わかったわかった。なんでも好きなもの頼め」

「イェーイ肉肉〜」

「俺も奢ってくれんの?」

「キャースクちゃん太っ腹〜♪」

「知るか。お前達は自分で出せ」

 

 にべもない態度に、二人からブーイングが上がる。

 

「なによケチくさいわねェ」

「経費で落とすんだろ? 別に良くね?」

「そうよねェ」

「馬鹿野郎! 自費に決まってんだろぉ!! お前たちはそうやって余計なことに経費を使いやがって……!」

「あ、俺やっぱパス」

「私もー。夜更かしは美容の大敵だもの。おやすみー」

 

 長い説教が始まる前に二人は自室へと退散して行った。

 ようやく邪魔者がいなくなったとばかりに息を吐き、スクアーロは再び背広に袖を通すと副官を振り返った。

 

「お゛ら。行くぞぉ」

「イエッサー!」

 

 副官は意気揚々と返事をして、上司の後に続いたのだった。

 

 

 ……翌日、スクアーロはXANXUSの行き場のない怒りの捌け口にされ、肋骨を数本折ってしばし安静を余儀なくされるのだがーー。

 それはまた別の話である。

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