ヴァリアーのクソバイト→副官   作:やちは

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前話の後日談(?)
前話のおまけのつもりで書いたのですが、あまりに長かったので分けました。
頑張った副官がただただスクアーロにご飯を食べさせてもらうだけの話です。



副官、上司の金で飯を食う(おまけ)

 分厚い肉を食べたいーーその要望に応えるべく、スクアーロは副官を連れて再びアジトを出た。

 強風が吹く中、街に出た二人は深夜まで開いている小洒落たビストロを訪れた。任務で遅くなった日でも温かい食事を頼める貴重な場所であるので、出張の多いヴァリアー隊員が重宝している店の一つでもある。

 すでに顔馴染みである二人は奥の席に案内され、座るなり勝手知ったる様子でメニュー表を広げた。

 

「遠慮しろとは言わねぇが、食べ切れる分だけにしろよぉ」

「イエッサー」

 

 一見、近年問題となっているフードロスに配慮しているかのようであるが、実際には違う。スクアーロなりに保険をかけての発言である。

 副官は細身の外見に反して大食である。朝の起きしなから揚げ物やケーキ、中華料理といった胃もたれしそうな食べ物の代表格を平然と平らげる胃の強さに加え、食べる量もアスリート並みだ。

 真の大食いに比べれば自分はまだまだ可愛いものだと本人は心外そうにしているが、一体その体のどこに入るのかーー副官の食いっぷりを見た人々は揃って首を傾げている。

 そんな人間を食事に連れ出すというのだから、いかにスクアーロがこの度の副官の働きに報いようとしているかが想像できるであろう。

 先に注文済ませたスクアーロから促された副官は、迷うことなくメニュー表の裏面を向けてそこにでかでかと載っている写真を指差した。

 

「じゃ、まずはこの五ポンドステーキを」

「おま……初っ端から飛ばすなぁ!?」

「二人前」

「……。……腹壊すんじゃねえぞぉ」

 

 一応忠告だけして、スクアーロは携帯電話に目を落とす。今日一日満足に画面を見る暇もなかったので、メールの確認でもしているのだろう。

 ステーキに加えて二、三品、パスタやピッツァを含む炭水化物や一品ものを頼むと、副官は次頁をめくって飲み物を指差す。

 

「飲み物は……このカクテル美味しそうですねえ。頼んでもいいですか?」

「テメェが飲んだら帰れなくなるだろうが! 俺に運転させる気かぁ?」

「? 運転しますよ?」

 

 体質的に毒物、アルコール、危ない薬の類……そういった刺激物に嫌ほど強い副官は酔っ払うという経験をしたことがない。スクアーロもそれはわかっているはずだが……。

 きょとんとする副官に、スクアーロは舌打ちをする。

 

「来る前に警察(サツ)がいただろうが。捕まったら面倒だ。我慢しろぉ」

「……わかりました」

 

 幹線沿いで警察官が道路整備をしていたことを思い出した副官は本意ではなかったものの、ノンアルコールのドリンクを頼んだのだった。

 

 

 

「そういえばお見合いはいかがでしたか?」

 

 上司がメールチェックを終えたのを見計らい、副官は雑談の口火を切った。

 スクアーロは心底つまらなそうな顔で椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「どうもこうもしねぇ。昼飯食って相手の父親が支援してるオペラ歌手の演奏会に連れ回されて晩飯食ってお嬢の話の聞き役にさせられただけだぁ。退屈でしょうがねえ」

「へー。それはそれは……」

 

 やかましいスクアーロ隊長を聞き役に徹させるとはなかなかやるなお嬢サマ……。

 まだ会ったこともないのに妙な親近感を抱いた副官であった。

 

「連絡先とか交換しました?」

「チッ。するわけねぇだろ」

「えーっもったいない。この先ウチにとって有利になる人材かもしれないのに」

 

 幹部の娘で、暗号解読まで出来るスーパーお嬢様。人脈も本人の能力も大変魅力的である。

 加えてスクアーロを一時的にとはいえ黙らせることができる力があるとすれば、これほど頼もしい仲間はいない。

 ヴァリアーの入隊には七ヶ国語以上の言語に堪能であることが必須条件だが、すでに四ヶ国語に堪能なお嬢様のことだから、その気になればすぐに七ヶ国語を話せるようになるだろう。

 うまくいけば副官を辞められるかもしれない……!

 ふざけた考えを読まれたのかーースクアーロはものすごい目で睨んでくる。

 

「……ゔお゛ぉおい。テメェやけに物知りじゃねえか」

「! やだな〜想像ですよ。ヴァリアーはエリート集団ですからね。それに見合った奥さん候補といったらやっぱり頭がいい人なんだろうなと思っただけですよ。九代目のご紹介ですし。頭悪いわけないでしょ」

 

 弾みそうな声を抑え、もっともらしいことをいう副官にスクアーロはしばらく訝しげな目を向けていたが、余計な詮索はやめたようだった。

 副官は心の中でそっと冷や汗を拭う。

 あ、あぶない……ベル隊長が本部にハッキングしたのは内緒だったんだった……。

 

「じゃ、次に会う予定もないんですね?」

「次もその次もねぇ。未来永劫な」

「もったいないですねえ」

「……殺し屋が家庭を持ったら(しま)いだろうが。何かあった時には真っ先に人質にされるに決まってる。いつ死ぬかもわからねぇし相手にもメリットがねぇ」

「ほえー。スクアーロ隊長も若干とはいえ人の心を持っていたんですねえ」

「どういう意味だぁ!!」

 

 そのままの意味ですが?

 副官は忘れていない。

 拉致監禁、軽めの拷問の後、隙を見て逃げ出そうとしたら連れ戻され、何故かアルバイトとしてこき使われ、最終的に騙されて半永久的にこき使われる羽目になったことを……(あまり気持ちのいい話ではないので詳しくは割愛)。

 しばしテーブル越しに睨み合っていると、何も知らないウェイターがやってきてスクアーロの前に料理と酒を並べ始める。

 時間がかかるかと思われたが、意外にも分厚い肉が運ばれてきたのはスクアーロが頼んだものが配置されたのと同じタイミングであった。

 

「わぁい。いただきます」

 

 カトラリーをとった副官はキラキラとした目で目の前に置かれた分厚いステーキにナイフを入れ、切り分けるなり大口を開けて頬張った。もちろん、ボスに供されるA5ランクの肉に比べれば劣るものの、十分に満足できる柔らかさで、副官は目を細めて瞳をとろけさせた。

 サシの多い和牛の美味さは世界的にも支持されており、もはや高級食材の代名詞となっているが、噛めば噛むほど肉の濃い味を楽しめるアメリカ産やオーストラリア産の肉はそれはそれで味わいがある。

 

「ゔお゛ぉおい。そうがっついて食うんじゃねえ」

「んえっ?」

 

 食欲に忠実に、次から次へと肉片を口に運んでいた副官は上司の指摘に顔をあげ、カトラリーを置いた。

 

「食べ方、汚かったですかねえ。お見苦しいものをお見せしてすいません」

 

 すでにステーキの皿を一つ空にしており、我を忘れて食欲に突っ走った感は否定できない。

 しかし、入隊に必須のテーブルマナーを習得済みである副官は、本人が気にするほど食べ方が汚いわけではなかった。

 では何が問題なのかというと……この肉が運ばれてきてからまだ五分と経過しておらず、次に頼んだ料理の間に合わせにもなっていないことだ。

 

「そんなにがっつかれたら飯食わせてねぇみたいだろうが。もっと味わって食え。こっちが落ち着かねぇだろうが」

「はい」

 

 オードブルをつつきながらワインの味を楽しむ上司の小言を素直に受け止め、副官は上司の言う通り食べるペースを落としたのであった。

 

 

 

 最初の皿の二倍以上の時間をかけて(それでもまあまあ早食いであるが)二枚目のステーキを平らげ、とりあえず飢餓の状態から脱した副官は飲み物で口の中をリセットする。

 付け合わせの野菜やスープを平らげ、パンでソースを拭って文字通り余すことなく完食した副官に、スクアーロは柄にもなく感心してしまった。

 

「それにしてもお前はなんというか……ルッスーリアの言う通り、食わせ甲斐がある奴だなぁ」

 

 すっかり綺麗になった皿に目を落とし、しみじみと呟く。

 こんなに美味そうに食事をするタイプだとは思っていなかったのである。

 それもそのはず今まで副官と食事をするといえば、任務中に片手間で食べる程度のもの、食事に出るとしたら交代で出掛けていたため、一対一で詰めて食事をした経験はほとんどない。

 ルッスーリアが「食べさせ甲斐があるわぁ」と感激していたことが数年越しになって理解出来たスクアーロであった。

 腹ごなしに頼んだ特大ステーキ二人前とパスタにピッツァをぺろりと平らげた副官はナプキンで口を拭いながら得意げに笑う。

 

「へへ。今度の任務成功したらまたご馳走してくださいよ」

「バカ言ってんじゃねぇぞクソガキ。任務成功ごとにテメェにいちいち飯食わせてたら破産するだろうがぁ」

「いや流石に遠慮はしますけども……?」

 

 遠慮ぐらいは知っている。そもそも自分自身、好きなように飲み食いしていたら財布の紐が逼迫してしまうので、普段から食べる量を抑えているのだ。

 流石に破産はしないと思うがーーいま現在全く遠慮をしていないので説得力がないことに気づき、副官は弁明を諦めた。

 

「ご注文はございますか?」

 

 スクアーロのワインが底を尽きたところで、気を利かせたウェイターが追加注文をとりに席までやってきた。

 上司の注文を見届けると、待っていましたと言わんばかりに副官はメニュー表を広げる。

 

「じゃ、次はここからここまで」

「まだ食うのかぁ?」

「締めのデザートはここからここまでお願いします」

「………」

 

 ……もう何もいうまい。

 副官の食欲に気圧されたスクアーロは軽い胸焼けをもよおし、自身のつまみの追加注文は取り止め、ワインのみを頼んだのだった。

 




次回「副官、ボンゴレ本部へ行く」。
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