また加筆修正します。
※追記
『ヴァリアーのクソバイト→副官』の時間軸は原作終了後、数年先の話となっております。なのでツナ達は高校卒業〜大学生くらいの設定です。
ヴァリアーの皆さんはアラサーです。
副官、ボンゴレ本部へ行く《1》
夏風の爽やかな季節である。
空気の入れ替えにと窓が開け放たれた廊下を通り過ぎ、副官は目的地のドアを軽く叩く。
直属の上司、スクアーロの仕事部屋である。
「失礼いたします」
返事がないので一声かけてドアノブをひねる。
スクアーロは眼鏡(ブルーライトカット)をかけてパソコンを操作していた。報告書でも作っているのだろうか。
「さっきお達しのあった資料です」
「ん゛。ご苦労」
「……それと呼ばれてるって聞いたんですが」
何か悪いことをしただろうか、と心の中で冷や汗をかく。さっきベル隊長のたま●っちにエサやりしてたのバレたかな。
しばらく立ち尽くしていると、エンターキーを叩いたらしき軽快な音が響く。途端に、背後のプリンターが音を立て始めた。
スクアーロは排出トレイから出てきた書類を取り、一通り確認してからそのまま副官に差し出した。
「お前、午後からこれ持って沢田んとこ行ってこい」
マジカ!?
下の署名欄にサインをもらうだけの簡単なお仕事とのことだが、本部にいくとなると話は違う。副官は食い下がった。
「……お言葉ですが隊長。本部に行くような用事は隊長以上の幹部の仕事では」
「今日は幹部会議があると言っただろうが」
「あー予算についての……今年度、減らされたんでしたっけ」
先日、幹部が集まって数ヶ月後に行われる予算会議に向けて話し合わなければと話をしていたことは記憶に新しい。
「そうだ。来年度の予算会議に向けて、上と交渉するための材料を集めねぇとな……」
「ボスが破壊したものの修繕費もバカになりませんからねえ」
「……それもそうだが、なにより平和な世の中になってきたんで、上からの暗殺依頼も減ってきてる。九代目も沢田も穏健派だからなぁ。そうなれば真っ先に予算を削られるのは」
「ヴァリアーですか。世知辛い世の中ですねえ」
その通りだ、というようにスクアーロは頷く。
今日の会議で上との交渉について話し合うのだろう。いつも無茶振りをしてくる鬼のような上司であるが、結構苦労してるんだなあと副官は少しだけ同情を示した。
「てことで行ってこい」
「えっ」
しかし、それとこれとは話は別である。
副官はぶんぶんと首を横に振った。
「いやいやいや!! 自分みたいなぺーぺーのぺーが行ったところで門前払いされるのがオチでしょ!!」
「やけに嫌がるじゃねぇか」
仕事を選ばないーーそれが副官の最大の強みである。
不平不満は言うものの、なんだかんだできっちりと仕事をこなす。その姿勢を評価して自身の副官に昇進させたのだ。
その副官がここまで嫌がることは稀である。あるとすればボスの御用聞に行くよう言い付けられた時くらいだろう。
「あそこに行ったら息の仕方を忘れそうで嫌なんです!! 怖いお兄さんに睨まれるし!!」
暗殺を生業とするヴァリアーはファミリー内で恐れられている一方で、嫌われてもいる。過去に起こしたクーデターを持ち上げてヴァリアーの解体を推奨する人間が多数いることは想像に難くない。
本部に赴くだけで嫌悪の目で見られることも多々ある。
生来小物の副官は、そういう空気が嫌なのだという。
スクアーロがいるならまだしも、一人となると心細い。
「署名をもらうだけの簡単なお仕事なんですよね? 誰でもできるでしょう」
「………」
“自分以外の下っ端に頼んでくれ”と暗に匂わせながら断固拒否の姿勢を見せる副官を、スクアーロは苛立たしげな目で睨みつける。
「上司命令だ。先方に話は通してある。つべこべ言わず行ってこいや」
「………」
そう言われては反論できない。なんだかんだで上司に忠実な副官は、不満げにしつつも矛先を納めたかのように思えた。
しかしーー
「S●it(クソが)」
「口が悪い!!」
即座にパコーンと丸めた書類で頭を叩いて黙らされたが、心の声が漏れ出る程度には納得していなかった。
解せぬ……。
しかし上司命令となればいたしかたない。
用事ついでに自室に戻り、似合わないスーツに袖を通して仕事の続きに取りかかろうとすると、スクアーロは黒スーツと黒ネクタイでまとめた副官を見てわかりやすく顔を顰めた。
「テメェは葬式に行く気か」
黒スーツに白シャツに黒ネクタイ。靴まで黒となると、イタリアでは葬祭の典型的な出で立ちである。
駄目出しをくらって頭に来た副官は、頬を引き攣らせながら反論する。
「……お言葉ですがスクアーロ隊長。隊長だって式典で喪服みたいな黒スーツ着てたじゃないですか。しかも幹部全員で」
「オレ達は嫌われるためにやってるんだぁ。お前は真似しなくていい。あっちの意向に合わせて敵意はないことを表明しておけ」
筋の通らない理屈だなあ。
物言いたげな副官に、スクアーロは当然のように続けた。
「念のため顔も変えていけよ」
そんな面倒なことも言い出したので、副官は抗議した。
「えーっ。だって署名もらうだけなんですよ!?」
「身内とはいえ暗殺者の顔がバレたらまずいだろうが。何もないとは思うが、念のためだ」
「上がド派手なので誰も自分の顔なんて覚えていないと思いますが……!?」
もっともらしいことを言っている割に、自分たちの事は棚に上げまくりな上司に突っ込む。ただでさえ顔の印象が薄い自分のことだ。認識レベルもかなり低いに決まっている。
そもそも目立ちたがりな幹部達の顔がバレまくっている時点で今更意味がないことだ。
色々と反論するが、上司は書類越しに殺意のこもった目を向けてきた。
「上司命令」
……その一言で、副官の反論は全てねじ伏せられたのであった。
やけになった副官は衣装部屋にこもり、自身のメイク道具をフル動員させた。
あーハイハイ。じゃ革靴はやめてパンプスを履いていきますよ! コルセット巻いてくびれを作って衣装部屋で埃を被っている芋臭いレディーススーツを着てお化粧だってしてやりますよコンチキショー。ついでにセミロングのウィッグを被ってまるっきり別人になってやる。白シャツも洒落乙なブラウスに変えてやりますわ。
持てる技術の全てを使って変な方向に張り切った結果、副官は歩けば二度見されるキャリアウーマン風美女へと
元々、殺しよりも情報収集などの諜報活動に長けている副官の変装技術は相当高い。
当てつけもこめてスクアーロの元を訪れると、珍しく目を丸くした。
「化けたなぁ」
「失礼だなあ」
……暗に薄い顔だって貶してません?
本人の前で堂々と感嘆する上司に副官は頬を引き攣らせたが反論は諦めた。本部に行くまでに余計な体力を使いたくない。
「……とりあえず行って参ります。お土産はどうしますか? てかいりますか?」
「……そういや、書斎の増築が終わったとか何とか言ってたか」
スクアーロは視線を上向けて思案するような間を置いた。
なんでもいずれイタリアに住まうであろう沢田氏のために、九代目が本部に彼専用の書斎を増築したのだという。
「無難に花でも買っていけぇ。
「……イエッサー」
「領収書を忘れるんじゃねぇぞ」
そんなに細かく指定してくるなら自分で行ってくださいよ……。
などと言う心のつぶやきも空しく、副官は本部へと旅立つ支度を始めたのだった。
出発の際、扉の先に数人の気配があることに気づき、副官は先にドアを開けて来客を迎え入れた。
「隊長の皆様。おはようございます。どうぞお入りください」
予想通り、幹部格四人である。それぞれの手に今日の会議で使うであろう資料を携えており、よそ行きの格好をしている副官に一瞬驚いたように固まっている。
「ちょっと用事で出てきますので、自分はこれで失礼します」
「待て」
「はい?」
言われるがままに副官は足を止めた。呼び止めたのは幹部の一人、レヴィ・ア・タンだ。彼はものすごい目でこちらを睨んでいる(心臓止まりそう)。
「貴様……」
「あい」
「何者だ? 名を名乗れ」
「……エッ」
「……マーモン。このムッツリマジで言ってんの?」
「今に始まったことじゃないよ」
「お前たち聞こえておるぞ! 誰がムッツリだ!!」
ベルは呆気に取られたように口を開け、マーモンは呆れたように溜息を吐いている。
そんな三人のやりとりを見た副官は書類の入ったバッグを抱え直し、横を通り過ぎた。
「誰ってスクアーロ隊長の副官でーす。ではこれで失礼しまーす」
「なぬ!?」
「なぬ、じゃねえよ」
「気付くのが遅すぎるよ……」
「まあまあ。あの子のビフォーアフターの差が大きすぎるのも事実なんだから」
「ゔお゛ぉおい! いつまで突っ立ってやがる!! さっさと入ってこい!!」
やんわりと仲裁に入りながら、ルッスーリアはスクアーロの机に資料がファイリングされた冊子を載せる。スクアーロに急かされた他の三人は一旦矛先をおさめ、ルッスーリアに続いて資料を積み上げていった。
「スクアーロ。今日の会議の進行表だ」
「こっちは会計係に出させた来年度の予算の見積もり。少なく見積もった分がこっちだよ。確認よろしく」
「ん゛」
マーモンから差し出された書類を受け取り、交互に見るなりスクアーロの表情は心なしか苦くなった。
「……まぁ少なくともこれくらいはかかるよなぁ」
「なに。ウチ金に困ってんの?」
「そうじゃねぇけどよぉ……ボスの食費や壊したモンの修繕費が馬鹿にならねぇからなぁ」
「多いに越したことはないわよねえ」
何故ここまで幹部が来年度の予算について頭を悩ませているかーー一応理由がある。
元々、今年度は昨年度と同じ額が支給されるはずだったのだが、最終の予算会議で決定が覆り、何故か減額されてしまったのである。
ヴァリアーの存在を快く思っていない人間の仕業であろうことは安易に想像がつく。
これ以上予算を減らされてしまうと、今度はヴァリアー隊員の給料や雇用形態にまで関わってくるし、最終的には人員整理も考えなくてはならない。そうなると組織の運営にも関わってくる。
それを避けるためにも今年中に抗議をしなければ、来年度も、その先も予算が削られていくに決まっている。……そもそもXANXUSの破壊癖さえなければここまで幹部が頭を悩ませることはないのだが、そこに触れるとやぶ蛇になる可能性が高いため、敢えて言及しないこととする。
「しっかし上の人間も露骨よねえ。うちのこと嫌ってるのはわかるけどここまで大幅に減らされたら逆に清々しいわ」
「ししっ。殺っちゃう? 上の奴ら全員」
「馬鹿者! そんなことをしたら減額だけでは済まんぞ!!」
「同感だよ。勝手なことだけはしないでよね」
「ただでさえ今年は安くで扱き使われてるのにさ」とマーモンは不服げに呟く。
「ところでアイツ変装なんかしてどこいったわけ」
「沢田のところだぁ。署名が必要な書類をいくつか持って行かせた」
「あーいま九代目に会いにこっち来てるんだっけか。でもそれならもっと下っ端にやらせりゃよかったんじゃねえの? 署名もらうだけだろ」
「……何かあるのか?」
「いや」
レヴィに言われて、スクアーロは窓の外を睨んだ。理由はない。ただの勘だ。
「……何もないとは思うがなあ」