ヴァリアーのクソバイト→副官   作:やちは

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副官、ボンゴレ本部へ行く《3》

「血!?」

「大丈夫か!?」

 

 副官の口から流れた鮮血に気づいたツナと山本が駆け寄る。しかし本人は思ったよりも元気で、むしろ何事もなかったかのようにハンカチで口元を拭っている。

 

「大丈夫大丈夫。よくあることなんで」

「絶対に大丈夫じゃないですって! ……そうだ! 医者! シャマルは!?」

「せっかくイタリアに来たからナンパに行くって言ってたぜ?」

「肝心なときに役に立たねえ!!」

 

 頭を抱えるツナをよそに、ディーノは砕け散ったティーセットを検分しようとしゃがみ込んでいた。

 

「何もなさそうだが……とりあえず軽く片付けるか。ロマーリオ。そこの新聞紙を」

「! 触らないで!」

 

 親切心から陶器の欠片を拾い上げようとするディーノの手を反射で叩き落とした副官は、厳しい声で忠告した。

 

「これは毒です。耐性がないあなた方は触らないほうがいい」

「毒って……」

「あなたは大丈夫なんですか!?」

「自分は慣れていますので。流石にちょっとは効きましたが……鑑定に回した方がいいと思います」

 

 幸いにも攻略済みの毒物だったようだ。軽く吐血はしたが、体にそれ以上の変化はない。もちろん、自分でなければ今頃悶え苦しんで間違いなく死んでいる猛毒なので、片付ける際には厳重な装備の上、慎重に臨まなくてはならない。

 

「それよりも……毒ってなんで!?」

「そりゃあなたを始末したい人がいるんですよ、十代目」

「な!?」

「それかあなたかもしれませんね。跳ね馬ディーノ」

「俺か……」

「心当たりあるんですか〜!?」

「あわよくば二人ともと言う可能性も考えられるぞ」

 

 家光の指摘に、その場にいた全員が顔を険しくする。当たり前だ。自分達のボスの命が狙われているのだから、心中、穏やかでなくて当然であろう。

 日本育ちのツナはまだ状況についていけていないようだが、それを待っていては敵を逃してしまうことになる。その点、常時殺伐とした環境に身を置いている副官を含む大人組の対応は早い。

 

「まずは業者も含めて全員ここから出ないように封鎖しましょう」

「急いで九代目に許可を取ろう。うちの部下にも手伝わせる」

「ーーちょっと待て」

 

 目を合わせるなり今後の動きについて話し合うディーノと副官を、険悪な声が遮る。

 声を発したのは、獄寺隼人だ。

 副官とディーノの間に割って入った彼は敵意をむき出しにした目で真っ直ぐに副官を射抜いた。

 

「ウチのことはウチで片をつける。勝手に二人で話つけてんじゃねーぞ」

「ご、獄寺くん?」

「十代目。その女には気を許さない方がいいっすよ」

「? どういうことです?」

「とぼけやがってーーテメェは毒殺専門のプロの殺し屋だろうが!!」

「!?」

 

 大暴露に驚いたツナは信じられないような目で副官を見ている。

 そんな主人を自身の背中に庇うように立ちつつ、獄寺はツナに向けて幾分か抑えた声で説明した。

 

「いいですか十代目。コイツは数年前までさるファミリーに所属し、『野良猫』と呼ばれていた毒殺専門の殺し屋です。変装の名手で性別も本当の顔も誰も知らない、何処の馬の骨ともわからない人間なんです。

紅茶のこともコイツが計画したことに違いねぇ! 十代目を亡き者にしようとスクアーロから密命を受けて来たんだろうが!!」

「えー!?」

「そしてその座をXANXUSのものに!!」

「! スクアーロがそんなことするわけねーって!」

「テメーは黙ってろ野球馬鹿! ……おめーは黙ってねーでなんか言えや!」

 

 スクアーロを擁護する姿勢を見せる山本を黙らせ、獄寺は微動だにしない副官に向けて荒々しく怒鳴りつける。

 急に焦点を当てられた副官は驚いたように目を瞬かせていたが、数秒の後、ようやく口を開いた。弁明でもするかと思われたが……実際にその口から吐き出されたのは誰もの期待を裏切る予想外の言葉であった。

 

「……ほえー。迷推理もここまで極まると訂正する気もなくなるんですねえ」

「なっ」

「はっ」

「えぇ!?」

 

 その場にいた多人数の間に衝撃が走った。

 

(なんか煽ってきたーー!?)

 

 当然ながら、若さ故に気の短い獄寺は副官に掴み掛かろうと腕を振り上げる。咄嗟に手首を掴んだ山本は、なんとか止めようと必死だ。

 

「獄寺! 落ち着けって! な?」

「ッるせェ離せ! 十代目の右腕としてコイツは一回シメねぇと気が済まねえ!!」

「右腕関係ないから! 人としてダメだよ!!」

「落ち着けお前たち!!」

 

 ツナと山本では間に合わず、途中からディーノやロマーリオまでもが抑えにかかるほど獄寺は怒り狂っていたが、普段から失言が原因で上司や幹部達に怒られまくっている副官は一般人よりもある意味、怒られることに耐性がある。それ故に危機感も薄く、空気を読まない副官の毒舌は止まらない。

 

「そもそもですねえ。右腕を自称するなら十代目が口にする前にすすんで毒味を済ませるのが当然でしょ。君自覚が足りないんじゃないですか?」

「んだとぉ!?」

「それに犯人が自分から進んで仕込んだ毒を飲み干すわけないでしょ。それもターゲットの前で……間抜けヅラもいいとこですよ。プロなら絶対やりませんね。君、悪いこと言わないからもうちょっと頭冷やしてから考えた方がいいですよ」

「ーー!!」

「バカ! お前も煽るような真似をやめないか!」

 

 獄寺の額に青筋が浮いたことに一早く気づいたディーノは副官を叱り飛ばすが、普段から怒号と物と暴力が飛び交うバイオレンスな状況に身を置いている副官はいまいち危機感が薄く、ブチ切れた獄寺を見ても堪えた様子を一切見せずむしろ泰然としている。

 どうなってんだヴァリアー!? 全員が衝撃を受けたのだった。

 

「ははは。いーぞもっとやれー」

「応援してないで父さんも一緒に止めろよ〜!!」

「そいつの言う通りだな」

「!?」

 

 険悪な空気には似つかわしくない幼児の声に、全員が動きを止める。

 視線を下にやると、いつの間にそこにいたのかーー揉み合いになっている場面のちょうど間に位置するように、黒いスーツと揃いの帽子を被った幼児がちょこんと立っていた。

 

「ちゃおっス」

 

 気が抜けるような挨拶に拍子抜けする面々の中で、十代目のツッコミだけが鋭い。

 

「リボーン! お前今までどこいってたんだよ!?」

「ちょっくら九代目のところにな。戻ってきたら面白そうなことになっててワクワクしたぞ」

「しないよ! なにいってんだよ〜!?」

 

 この中で一番常識的な反応を見せるツナに、リボーンはニッと唇の端を上げて愉快そうな表情を見せる。その後、男四人がかりで抑えられている獄寺に視線を当てた。

 

「こいつの言う通りだぞ獄寺。ツナはもうボンゴレのれっきとした後継者なんだ。今まで運が良かったと思った方がいい。ちっとは大人になってアドバイスを受け入れるんだな」

「ですがリボーンさん!」

「いや今のは……」

「アドバイスではないだろ……」

 

 ツナとディーノが力無く突っ込む。

 一方の副官は興味深そうに幼児を見ていた。

 元アルコバレーノのリボーン……。

 殺しを生業にする身として、名前くらいは耳にしたことがある。凄腕の殺し屋、九代目の旧知で、沢田綱吉を立派なボンゴレファミリーのボスに育て上げるために家庭教師を引き受けているとか。ディーノを『跳ね馬』と異名されるまでに押し上げたのもこのリボーンだという話だ。

 幼児の姿をしているが、立ち姿だけで相当な手練れであることは一目瞭然である。現役の暗殺者にさえ察知させない気配の消し方には羨望さえ抱く。幼児であっても、下手な殺し屋は相手にすらならないだろう。

 リボーンの登場で少し空気が緩んだのを見計らい、副官は口を開いた。

 

「まあ獄寺さんの言うとおり、自分が一番疑わしいのはよくわかりますよ。……でもねえ。君達うちのボスの性格よくご存知でしょ?」

「? XANXUSの性格?」

「どう言うことだ?」

「まあな……」

「………」

 

 ピンときたのは跳ね馬だけかよ……。

 説明を求められた副官は胸の前で腕を組み、遠い目で語った。

 

「XANXUS様はプライドが高いですからねぇ。下々の者が余計な気を回して勝手に沢田さんを暗殺(バラ)したりしたら『余計なことしてんじゃねぇぞカス!!』って激怒してもれなく自分がこの世とグッバイですよ……だからそんなことするわけないです。ましてやウチのスクアーロ隊長が暗殺を命令……? そんなことするわけないですって」

「あ、ああ」

「確かに……」

「そうだよね……」

 

 ありがたいことに日々XANXUSの暴力に晒されているスクアーロを思い出してくれたのか、全員が微妙な顔で黙り込む。

 獄寺の方も、主人の説得に耳を傾け、ひとまず矛先をおさめることにしたようだ。とはいえ、かなり疑わしげな目でこちらを見てはいるが。

 さっきよりマシになったとはいえ相変わらず居心地の悪い空気を破ったのは、沢田家光の明るいひと言だった。

 

「まあいいじゃねぇか! 犯人探しはコイツに任せてオレたちは夏祭りを楽しもう〜」

「ばっ……出来るわけないだろ!?」

「いえ。是非ともそうしてください、十代目。下手に警戒されるよりも、自然に振る舞っていただいた方が相手も油断しますから。どうか普通にお願いします。もちろん警護は厳重に固めてもらわないとなりませんが」

「ほら、こう言ってるし任せておけって。こういうことも奴らの仕事のうちなのさ」

「そうかもしれないけどさあ!」

「お前は黙っとけダメツナ」

「いたーっ!?」

「こいつを見ろ」

「!?」

 

 ツナに鉄拳を喰らわせたリボーンは懐から一枚のカードを取り出し、ツナの前にちらつかせた。

 

「? なにこれ?」

「九代目からのメッセージだ」

「九代目からの!?」

「イタリア語で書いてある。読むぞ。……『綱吉くんへ 今回の暗殺未遂事件の犯人探しはヴァリアー隊員のお嬢さんに任せて君は友人と夏祭りを心置きなく楽しみなさい』」

「えぇーっ!? お前いつの間にこんなものを!!」

 

 毒殺未遂事件が起こったのはほんの数分前のことで、まだ九代目に報告さえあがっていない状態だ。だというのに何故ここにいない九代目がそのことを知っているのかーー辻褄が合わず、ツナが困惑するのも当然である。

 リボーンは相変わらず表情の読めない顔で続ける。

 

「さっきだぞ。何処で知ったかは知らねぇ。もしかしたら九代目もこのことを予測していたのかもなーースクアーロも勘がいいヤツだ。諜報活動が十八番の部下をここに寄越したってことは犯人探しに使えって意味だろう」

「リボーンさん! 仮にコイツが犯人でないとしても、ヴァリアーが雇った殺し屋や隊員が紛れ込んでいる可能性は高いんじゃないですか!?」

「だからヴァリアー隊員のコイツに犯人探しをさせるんだぞ。コイツが潔白であれば、真犯人を見逃す理由はない」

 

 リボーンの弁舌に反論も肯定も起きないーーただし、リボーンの言葉の正しさはその場にいた誰もが認めていた。

 

「こいつにとっても名誉挽回のチャンスになる。……そうだろ? 野良猫(のらねこ)

 

 急に焦点を当てられた副官は驚きながらも頷いた。

 

「……うちにもメンツというものがありますからね。疑われたままでは胸糞が悪い。喜んで十代目をお守りさせていただきます」

「こう言ってるしな」

「お前が言わせたんだろー!?」

「あいつはスクアーロによく鍛えられてるみてェだ。

いいように始末をつけるだろう。任せてお前は普通にしとけ」

「始末ってなんの〜!?」

 

 物騒な言葉を認めたくないツナの情けない声だけが書斎に反響したのだった。

 

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