俺は今……何処だっけ?何か…外国に来ている
確か地図で言うと、左上の辺りだった筈
国の名前って覚えにくいよね
とにかく、その外国の街中で優雅に紅茶なんて物を嗜んでいる
ちゃんと人間の姿だ
服は元のままだと違和感が半端無いので、むしろ堂々とそのままでいる
おかげで視線が痛い痛い
でも、それがその内快感に変わって……こないな
最初は言葉の壁を心配したけど、紫の知識の中に言語関係のものがあったらしく苦労は無い
喰っといて良かったと言うか何と言うか……複雑な気分だなぁ
まぁ、ここには紫は居ないし、喧嘩売ってくる輩も居ない
何百年ぶりかの平和な時間だ
治安がそこそこ悪いのも良いね、追い剥ぎを返り討ちにしての収入のおかげで生活に困らない
しばらくはのんびりと過ごすのも悪くないな
景色は綺麗だし、飯は美味いし
「処刑だ!」
そう、処刑も良いねぇ………処刑?
「教会前の広場で公開処刑だ!」
何だ?………穏やかじゃないな
見れば若い男が騒ぎながら駆けていく
「吸血鬼を火炙りにするぞ!」
………世知辛いねぇ
吸血鬼が何だって言うんだよ
そんな事で一々処刑なんてやってるのか?この国は?
しかも、わざわざ公開までして
そんなの内々で済ませば良いものを
……俺には関係無い話だ
それでも話の種に見ていくか
教会前はすごい人だかりだ
この国の連中は暇人ばかりか?辺りはもうすっかり夜だってのに
やれやれだな
お?あれが吸血鬼か?
見た目は若い男が一人、同じく若い女性が一人、十字に組んだ木材に磔にされている
それに………生まれたばかりの赤ん坊が布に包まれ男に片手で持たれ泣いている
赤ん坊まで処刑するのか?…気に入らないな
「これより邪悪なる吸血鬼の処刑を開始する!」
生まれたばかりの子までが邪悪?ふざけてる
「この者たちは自身を人と偽り、領主としてこの地を荒廃させようとした!これは許されざる大罪である!」
恐らく神父であろう男が大声で集まった民衆に演説を繰り広げる
その声が妙に耳障りだ
「よって、この者たちを火炙りとし、せめてその身を浄化するものである!」
プチン、自分の中で何かが切れる音が響く
火炙りが浄化?ただ人外を恐れているだけだろう?
もう、我慢出来そうも無い
「神のご加護を!」
処刑人らしき男が火のついた松明を十字の下に置かれた薪に近づける
たちまち燃え上がる十字架
「滅せよ、悪しき魂よ!」
男が赤ん坊を火の中に投げ入れようとする
正直、部外者である自分は不干渉で行こうと思っていた
しかし、これは余りにも理不尽だ
あの吸血鬼夫婦は何かしらの悪事をしたのかも知れない
だが、生まれたばかりの子供には罪は無いと思う
「お願いします!子供だけはどうかお助けください!」
磔にされた女性が懇願する
「しぶとい悪魔め!さっさと地獄に落ちろ!」
男は構わずに赤ん坊を火に投げ入れる
限界だ、助けよう
周りの人ごみを気にせず元の姿に戻る
途端に周りが混乱に包まれる
「あ、悪魔だー!!」
「いやぁ!!神様!!」
「助けてくれー!!」
国が変わっても人の反応は変わらないんだな
騒がしい民衆を無視して飛び出す
人だかりの結構後ろの方にいたが、あっという間に辿り着く
神父らしき男が「退け、悪魔よ!」何て事を言ってるがこれも無視する
周囲いる兵士っぽい奴らを能力で地面に減(め)り込ませる。これも何時の間にか出来る様になっていた能力の応用だ
減と言う文字がついてれば何でも良いらしい
とりあえず、投げ込まれた赤ん坊を拾い上げようと火の中に手を入れる
熱い、燃えるようだ。って燃えてるっての
かなり、熱かったが何とか拾えた
赤ん坊は随分と火傷をしていてぐったりしている
心苦しいが後回しだ
火を消さなければ
俺は翼を動かし、強風を送る
すると、風に耐え切れなかった薪が吹き飛び、既に引火していた十字架の火が消し飛ばされる
すぐにロープを切って夫婦を担ぎスキマに放り込む
少なくても、スキマの中なら安全だ
ばしゃっ!
背中が冷たい、水を掛けられたようだ
「何!?聖水が効かないだと!?」
「悪いが俺は純和製だ、そんな物効くか!」
言い残し、俺自身も赤ん坊を抱えたままスキマに入る
繋ぐ先は何処でも良い
とにかく治療してやらないと
吸血鬼一家の処刑があった街から数十キロ地点の森の中
山賊か何かが使っていた小屋の中で治療をする事にした
因みに、山賊たちは丁寧にお願いをして引越しをしてもらった
さて、まずは赤ん坊を治療しないとな
多分、薬を使って何て悠長な事をやってたらこの子は助からない
必然的に妖力、霊力を使っての治療になる
って言っても力を使っての治療なんてした事無い
ぶっつけ本番、やるしかないか
とりあえず治癒の意思を込めながらこの子に霊力を注いでみよう
何となく霊力の方が治癒には向いているイメージがあるからな
力を使うには明確なイメージが大切だ
………その辺で治癒系の能力を持っている奴を喰ってきた方が早い気がしてきた
まぁ、そんな訳にもいかないし、頑張るしかないか
いざとなったら数年前に封印した、あの力を使おう
……何とかなったな
赤ん坊は少し痕が残ってしまったが大体治った
夫婦の方も問題なく治った
何でもやってみるもんだ
結局、封印を解いて神力を増やして治癒にあてた
これで俺も神の仲間入りか
いや、再封印するけどね
しかし、気のせいか昔より神力が強くなったような……
「う、ううん……ここは?」
お、吸血鬼の男が起きたみたいだ
「…私は……!……レミリア!レミリアは無事か!?」
レミリア?この子か奥さんの名前か?
「落ち着けよ。あんたの奥さんも子供も無事だ」
「そうか……貴方が助けてくれたのか?」
「あまり喋るな、病み上がりなんだからな」
言うと、安心したのかまた寝てしまった
しばらくはここでの看病生活になりそうだ
とりあえず、食事の用意から始めよう
……お粥で良いのかな?
この国の消化に良い食べ物なんて知らないしなぁ
赤ん坊にはミルクで良いのか?
一番良いのは母乳だろうけど……あの様子じゃ無理そうだしなぁ
こんな事なら少しはその手に関する事を学んでおけば良かった
時間なら腐る程あったってのに
とにかく、やれるだけの事をしてやろう
それが助けた者の責任ってものだ
「このオカユという物は不思議な食べ物だね」
あれから数日
吸血鬼夫婦は普通に喋れる程度まで回復した
「不思議って……俺の国を代表する病人食だぞ?」
正確には怪我人だけど、病人食
日本語って難しい
「あなた、せっかく灰刃さんがつくってくださったんですよ?」
「分かっている。感謝してもしきれないさ」
夫であるラドゥ・スカーレットと、その妻ローレン・スカーレット
そして、その娘のレミリア・スカーレット
この夫婦はこの辺一帯の領主をしていたそうだ
先祖代々吸血鬼の家系であり、先祖代々この土地を守り続けている
だが、ここ数年で宗教の縛りが強まり、少し油断していた所を使用人に見られ正体がバレてしまった
しかし、この土地を逃げ出す気になれず何とか説得できないかと思っていたが決裂
娘を人質に取られ、甘んじて処刑を受ける事になってしまった
……何て言うか、ありがち?
正直にそう言ったら力なく笑っていたが
以上、回想終わり
それにしても、早く回復してくれないと困る、非常に困る
特にローレンさんの方
何で俺がレミリアのおしめを取り替えてあげなくちゃいけないんだ
まだ自分の子供もいないってのに
レミリアも何故か俺に懐いているし
このままずるずると世話するハメにならなきゃ良いけど