ある日、さくやを寺子屋に送った後、天気が良いので洗濯をしていると
「灰刃さーん!写真が出来上がったので持って来ましたよー!」
能天気な声が辺りの響いた
見上げてみれば、射命丸が数枚の四角の紙を持って飛んで来る所だった
「ああ、遅かったな。てっきり別の取材に行ったのかと思っていたけど」
「写真の現像には時間が掛かるんですよ」
降りてきた射命丸から写真を受け取る
そこには机に向かい授業を受けているさくやと、やはり見覚えのある女性が教鞭を取る姿が写っていた
見覚えのある青いワンピースに四角い帽子、白っぽい長い髪
絶対に何処かで会っていると思うんだが……思い出せない
「なあ射命丸、この人の事何か知らないか?」
「どの人ですか?……ああ、この人はちょっと前に幻想郷に住み始めた人ですね。名前までは知りませんけど、この人がどうしたんですか?」
「いや、知らないなら良いんだ」
射命丸も知らないか
後の手段としては本人に直接訊いてみる事だけど……面倒だ
さくやなら知っているだろうから、帰って来たら訊いてみるか
家事を済ませ、改めて射命丸の持ってきた写真を眺める
さくやが机に向かい、教科書だと思われる本を持って先生の話を聞いている
この時代では紙は貴重品だというのに、律儀なものだと思う
それだけ教育に熱心なんだろう
そういえば、学費の類はどうすれば良いんだ?
……今日迎えにいった時にでも訊いてみよう
「ところで………」
「どうしたんですか?灰刃さん」
射命丸が饅頭を頬張り、お茶で流し込んでいる
「何で当然のように家(うち)の饅頭を食っているんだ?」
「写真の報酬ですよ~、これくらい良いじゃないですか」
まあ饅頭くらいなら構わないが、食べている所を見るとこっちも食べたくなる
射命丸が伸ばした手を遮り、最後の饅頭を手に取る
「あー!何するんですかー!」
「元は俺のだろうが」
そう言うと、最後の一個の特別さがどうたらと言ってきた
仕方が無いので能力で饅頭を増やす
ぽこぽこと増えていく饅頭が皿の上に積み重なっていく
それに気を良くしたのか、射命丸は口に饅頭を運ぶ作業を再開する
「それにしても不思議ですねー、灰刃さんが増やした物って何処から来るんです?」
言われてみれば確かに不思議だ
「さあな、俺の妖力が形と性質を変えて出てきているんじゃないか?もしくは細胞分裂とか」
多分、深く考えたら駄目なんじゃないかと思い、そう結論付けておく
しばらくの間、射命丸と饅頭を食べながら雲を眺める
こういったのんびりした時間も悪くない
「お兄さーん!」
何時の間にか開催された饅頭の大食い大会をしていると、にとりが両手を振りながら飛んできた
「ほおにほりは、ほうひた?」
いかん、饅頭の所為でうまく喋れない
急いでお茶で流し込む
「んっ、おお、にとりか、どうした?」
何事も無かったかのように言い直す
「うん!お兄さんに教えてもらったのが出来たから呼びに来たんだ」
若干だが興奮気味のにとり
どうやら、前に戯(たわむ)れに言った物を作ったらしい
「何ですか?教えたって」
「ああ、実はな……」「良いから!早く来てよ!」
引きずられるような勢いで引っ張られる
宙吊りになる前に自前の翼を広げて飛ぶ
「何か面白そうなので私も着いて行きます」
射命丸も着いてくるみたいだが、しっかりと饅頭の山が乗った皿を持ってくる
食い意地の張った奴だ
にとりたち河童が住みかにしている洞窟に来た
これまでに何度も訪れているので、人見知りな奴からも挨拶される
にとりに手を引かれ洞窟の中に入っていく
「これだよ、お兄さん」
にとりに見せられたのは、木で出来た大きな箱だ
「名付けて『全手動洗濯機』使い方は簡単、この取っ手を回すと中に入れた水が激しく回転して洗濯物の汚れを落とすんだ」
実演を交えて説明していくにとり
しかし、冗談で話しただけなのに、本当に作るとは………恐るべき河童だ
「そして注目して欲しいのは、洗い終わった洗濯物を水を抜いてから回す事によって脱水まで出来る事!この機能を完成させる為に何着の服が空を舞った事か………」
しっかりと調整しないと洗濯物が遠心力で飛び出してしまうらしい
今までは洗濯物の発射装置でしかなかったとにとりは語る
「たったあれだけの情報で本当に完成させるとは思わなかったな」
「お兄さんの発想が面白かったからね」
当然の事ながら、この時代には機械はおろか機械と言う言葉すらない
そんな中で洗濯機の不完全な情報からここまで再現させる河童の技術は凄まじい
俺もうろ覚えな知識を話しただけなのにな
「これからはお兄さんに聞いた全自動を目指して頑張っていくよ」
動力が確保できないと無理かも知れないが、にとりなら何とかしそうで怖い
とりあえず今見たのは試作品なので今度、完成品を持って行くと言う
そんな中、饅頭を咥(くわ)えながら写真を撮るという器用な事をしている射命丸が見えた
「いやー、良いネタが手に入りましたよ」
言いながらも饅頭だけは離さない
そんなに饅頭に拘らなくても良いだろうに
「取材をするなら事前に申請をしておいてくれるかな!」
「ちょっとくらい良いじゃないですか!」
烏天狗対河童の争いが起こっている
巻き込まれてもつまらない、早々に退散しておこう
洞窟内の河童たちと少し雑談をした後、家に帰ろうと思ったが、まだ時間はあるがやる事が無くなったので早めに里に向かう事にした
どこで時間を潰すか迷ったが、茶屋に入る事にした
さくやが寺子屋に通うようになってから、偶に立ち寄る和風喫茶店だ
「いらっしゃ~い、ってあら灰刃ちゃ~ん」
普段、里の中で見ない顔は妖怪だと前に八百屋のお姉さんに言われたが、ここでもそれは当てはまる
「ちゃんはやめてくれって言ってるだろ?まあ良いや」
少し前に茶屋に来た時にお姉さんに顔を見られた途端に妖怪だとバレた
こっちが襲う事の無い妖怪だと分かってもらってからは気さくにちゃん付けで呼んでくる
間延びする言葉で話す結構可愛い女性だ
「寄っていくのよね~、一名様、ごあんな~い」
いくつか並んでいるテーブルの一つに案内される
テーブルもこの時代には無い筈なのだが、幻想郷では何でもありだ
「はい、お品書き~。決まったら呼んでね~」
メニューを置いて他のお客さんの応対をしにいってしまう
いつも頼む物は決まっているが、一応目を通す
……いつもは無い物がメニューに載っている
コーヒーと紅茶か、幻想郷では何でもありって事にしておこう
茶屋に来たら団子とお茶のセットを頼むが、今日はコーヒーを頼んでみよう
お茶は家にもあるけど、ここの店主が淹れたお茶は俺やさくやの物とは一味違う
しかし、今回はコーヒーだ
もしかしたら、一味違うコーヒーを飲ませてくれるかも知れない
「お姉さん、団子とコーヒーをお願い」
「はいは~い。お団子と珈琲お願いしま~す」
奥にいる店主に注文を伝えている
人里の七不思議の一つに『茶屋の店主の姿』があって、誰一人として店主の顔を見た者はいないとか
どうでも良いか
しばらく待って、運ばれてきた団子とコーヒーを見る
団子はあんことみたらしが2本ずつ皿に乗っている
コーヒーは………うん、コーヒーだ
黒い液体から独特に香りが漂ってくる
一口飲んでみると、やはり違う
吸血鬼一家の家で飲んだものとは一味違う
これは良いものを頼んだと思いながら団子を一本齧る
………合わない
コーヒーの苦味とみたらしの甘くてしょっぱい味が絶望的なまでに合わない
いや、人によっては好きとか嫌いじゃないとか言うかも知れないが、俺には許せそうに無い
これは、早々にどっちかを片付けてどっちかに集中した方が良い
そう判断した俺は、団子を片付ける方を選択して味合わずに飲み込んでいく
少し勿体無い事をしたと思いながらコーヒーを飲む
「あら~、灰刃ちゃ~ん。お団子、もう食べちゃったの~」
団子の一人早食いを見ていたらしく、茶屋のお姉さんが寄ってきた
「ああ、コーヒーと合わなかったからな」
「そうなの~?でも、お団子と珈琲を一緒に頼む人もいるのよ~?」
何だ?そんな物好きがいるのか
「白い髪で~赤い目の女の子~、お団子と珈琲が大好きみたいよ~。いつもならお店に来てる時間なんだけど~」
白い髪で赤い目?妖怪か何かか?
「随分と珍しい色をしているんだな」
するとお姉さんはちょっと怒ったようだ
「駄目よ~灰刃ちゃ~ん、女の子を外見で差別しちゃ~」
「分かってるよ。俺だって妖怪の姿に戻れば全身が灰色だって」
辛うじて目だけは黒だけど、髪やら翼やらは灰色だ
見えない所も灰色だけど、今の所見せようと思う人はいない
「そういえば~、灰刃ちゃんも妖怪だったわね~」
「出来れば忘れないでもらいたいな」
そろそろ時間だ
白い髪と赤い目に心当たりがあるような気がするとか思いながら、さくやの為に団子を買ってから茶屋を出て寺子屋に向かった