朝、眠気を払いながら起きる
今日も変わらず、家事をこなす為に起き上がる
この時に隣で眠っているさくやを起こさないように注意するのを忘れない
これからさくやの弁当を作ったり、朝飯の準備をしたり。さくやが起きてから洗濯、掃除を終わらせてスキマを人里の寺子屋まで繋げる
忙しいと言えば忙しいが、充実しているとも言い換える事が出来る
そんな日課になっている事を済まそうと立ち上がろうとして、違和感に気付く
まだ布団の中にある足に何か硬い物が触れた
深く考えずに布団に手を突っ込み、硬い物を掴んで手を引き抜く
……………卵?
布団の中から出てきたのは、紛れも無く卵だった
何故、俺の布団の中に卵が入っているんだ?
寝る前に布団に入った時には当然何も無かった
誰かの悪戯か?いや、俺の布団の中に卵を入れて得する奴は人間にも妖怪にも鬼にも居ない………筈
さくやには食べ物で遊ぶなと厳しく言ってある、萃香はこんな暇な事をするぐらいなら酒と肴を持って大声で俺を起こすだろう
他に可能性があるとすれば、紫と射命丸か?
紫の方が可能性は高そうだけど、藍が食べ物を粗末にする事を許さない、射命丸なら記事の為にやりそうだが、写真を撮りにこない所を見ると犯人ではないのだろう
なら一体誰が?
いや、待てよ。食べ物と言う認識から違うのかも知れない
俺の中では、卵=食べ物だが、その辺を飛び回っている鳥にとっては卵=子供だ
つまり、この卵は子供だって事になる………………誰の?
卵は俺の布団の中にあった、誰かが侵入したのでなければ、それはつまり………………俺の子か?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!落ち着け、俺、落ち着け!
大体、俺が卵生な訳が無いじゃないか!
そりゃ、翼は生えているけど俺は鳥じゃ無いんだから……って、確かアイツの能力は食べたものを吸収する能力だったな
アイツが鳥を食べて、それを吸収していれば俺も卵生って事になるのか?そもそもアイツの本体が鳥の妖怪かも知れない
結論として、俺の子供って事になる?
待て待て待て待て待て、相手が居ないだろう!流石に妖怪であろうと1人で繁殖は難しいぞ?
相手が居る筈だ………さくやじゃないよな?
違う、だったらなんで俺が生んだんだ?さくやが相手だったら少なくてもさくやが生む………あれ?それってもしかして、俺が誰かに何かされた?
………………違うよな?そんな事無いよな?俺の貞操は無事だよな?
いかんな、ちょっと頭を冷やそう
とりあえず、ぱっと着替えて卵を懐に仕舞い、庭先にある井戸から水を汲み顔を洗う
大分すっきりしたが、その分問題の深刻さを再認識してしまう
……………良し!朝飯を作ろう!
決して現実逃避じゃないぞ!
日本人ならやっぱり和食だな!今日も味噌汁が美味いぜ!
さくやの弁当も作ったし、今日はこのまま俺より強い奴に会いに行くとするか!
「父さん、何かあったの?様子が変だけど」
「はっはっは、ちょっと現実から逃げようとしているだけだ」
さくやにも分かるくらいには動揺しているらしい
「そろそろ時間だよ?父さん」
そんなさくやの言葉にスキマを開く事で答える
終始心配そうな顔でこっちを見ていたさくやには悪いが、今は本気で余裕が無い
今度埋め合わせをするとしよう
それにしても、この卵は一体何なのか?
可能性を考えてみる
1 俺の子供。さくやの弟妹って事になる
2 誰かの悪戯
3 人様の子供を知らない間に預かった
こんな所か?
俺的には2を押したい、って言うか2であって欲しい。それか3
子供が増えるのは構わないが、それが俺の子である必要は無い訳でな?
相手もいないのに子持ちは印象が悪いと言うか、再婚する時に相手に邪険にされるかも………一旦落ち着こう
何を狂ったような事を言っているんだ?俺には既にさくやがいるっての。結婚する予定もないし
とりあえず、妖怪に詳しい奴の所に行って見よう
「あれ?灰刃さんじゃないですか、珍しいですね」
「藍、紫は居るか?」
恐らくは俺と同い年くらいじゃないかと思っている紫の所に来た
紫の悪戯である事を祈っている自分がいたりする
「朝ですからね、もう寝る所じゃないですか?」
「緊急事態だ。起こしてくれ」
俺の真剣さが伝わったのか、「居間で待っていてください」と言い残し、藍は家の奥に消えていった
待っていてくれと言われたので勝手に入って待つ事数十分
眠たそうな眼をした紫が障子を開けて現れた
「早朝から何の用なの?くだらない用事だったら貴方でも許さないわよ?」
明らかに不機嫌な紫に、懐から取り出した卵を見せる
その卵を興味無さそうに見ていた紫だが、段々と顔色が変わってくる
「………まさか、貴方の卵だなんて言わないわよね?」
「それが分からないから態々(わざわざ)ここまで来たんだ」
この態度を見るに紫が悪戯した訳では無いのだろう
朝からの事を簡単に説明する
説明中…………
「朝起きたら布団の中に卵………一体誰との子なの!?私をいうものがありながら!」
「今は冗談を言ってる場合じゃ無い」
眠い所為でテンションがおかしくなっているのか?
「とりあえず、簡単に解決する手段ならありますわよ?」
言いながら卵に手を伸ばす紫
その卵をおもむろに机に叩きつけようと………って!
「何してるんだ!馬鹿か!阿呆か!」
急いで卵を取り返す
実行前だったおかげで罅は入っていないが、危なかった
「何って……卵が無くなればあっという間に解決するでしょ?」
「だからってお前!もし俺の子だったらどうする気だ!」
できれば否定したいが、俺は子宝の神でもあるんだぞ?
子供を司る神の前で子供を殺すような真似しやがって
「もうお前を頼るのはやめる。邪魔したな」
卵を懐に仕舞い立ち上がる
紫が後ろで騒いでいるが、無視して外に出た後スキマを開く
他に相談できる人物と言えば………1人しかいないか
「おや?あんたは確か……何時かの妖怪だったよね。遂に死んだのかい?」
「だから死んでないっての。映姫は何処に居る?」
真面目に話しを聞いてくれて、尚且(なおか)つ答えをくれそうな人物。初めから映姫の所にくれば良かった
「映姫様だったら死者を裁いていると思うけど?」
小舟の中で寝転がりながら川の向こう側を指差す……赤髪の女性
そういえば名前を知らないな
「自己紹介を忘れていた。俺の名前は灰刃だ」
そこで漸(ようや)く身体を起こし、こちらに視線を向けてくる
「ああ、そうだったね。私は小野塚小町(おのづかこまち)。三途の水先案内人さ」
水先案内人?それにしては………
「半透明な人たちが川岸をうろうろしているけど、案内しなくても良いのか?」
「良いの良いの。アタイは今、自主休憩中だから」
つまりはサボりか。気持ちは分かる
「そうか。で、映姫は川の向こうにいるのは分かった。そこで1つ質問だ。俺が川の向こうに行っても大丈夫なのか?」
三途の川の向こう側って事は彼岸、つまりはあの世だ
映姫に会いに来てそのままポックリは避けたい
「輪廻転生の輪に入りたいなら送るけど?」
「是非とも遠慮しておこう」
困った。これじゃ映姫に相談する事が出来ない
「………そうだ。小野塚、映姫を呼んできてくれないか?」
「言ったろ?あたいは自主休憩中だって。面倒な事は御免だよ」
言いながら、小舟の中に寝転がってしまう
面倒な事が嫌いなのは共感できてしまうので強くは言えない
此処で待つしか方法は無いか。出来ればさくやが返ってくる時間に間に合えば良いけど
気持ち良さそうに眠っている小野塚に誘われるように俺も眠ってしまっていた
頬杖を付いていた手から顎(あご)が落ちる衝撃で目を覚ますと、正座で説教をされている小野塚の姿が見えた
説教をしているのは……映姫じゃないか
「何度も言うようですけど、貴女は渡し守としての自覚が足りなさ過ぎます。良いですか?貴女は…………」
ああ、サボっていた事を咎められているのか
「う~~………」
起きたのなら助けろと言わんばかりの視線を向けてきている小野塚だが……助けるべきか?
「聞いているのですか?」
「はい!聞いてます!」
面倒臭がり仲間な気もするが助けるのも面倒だ。その内に終わるだろ
と思ったのが1時間前
そういえば、俺も昔に説教を受けた時は軽く3時間は越えていた
このまま順調に行っても後2時間か………冗談じゃない
ちょっと中断してもらうか
「映姫、ちょっと良いか?」
「? ああ、起きたのですか?」
あからさまに助かったという顔をする小野塚
今の内に逃げろと視線で送ってみる
感謝と視線で送られてきた
こそこそと逃げていく小野塚を視界の端で見送り、映姫に向き直る
「ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだけど」
「貴方がですか?珍しい事もあるものですね」
映姫の言葉を受け流しながら懐の卵を取り出す
「これなんだが」
掌の上の卵を覗き込む映姫
「これは……貴方の子供ですか?」
ここでもか。何で俺が卵生だと決め付ける?
「違う。実はな………」
説明中…………
「朝起きたら布団の中に……ですか」
卵を手に取り見つめている
「見た所、魂が宿っていますね。育てますか?」
冗談っぽく言ってくる
これで誰かの悪戯である可能性は無くなった
残るは俺の子か誰かの子を預かったか
「誰の子なのか分かるか?」
「流石に分かりませんね。生まれてみれば分かるかも知れませんが」
参った。手がかりが無くなった
こうなれば俺が育てていくしか無いか
さくやに続いて2人目の子供か、俺まだ未婚なのになぁ…………まぁ良いか
「親が判れば1番だけど………分かった。俺が引き取って育てる」
「そうですか。頑張ってください」
言いながら卵を返してくる映姫
こうなったからには責任を持って育てよう
「さて、俺はそろそろ帰る」
「お待ちなさい」
スキマを開こうとした俺を引き止める
「良い機会です。貴方に訊いておきたい事があります」
急に神妙な顔つきで見てくる
「何だ?改まって」
「貴方……何十年も前に人間を大量に食べましたね?」
何十年も前に………吸血鬼一家の所から出てくる時か?
あの時は確かに神父らしき男と騎士団を喰ったな
「ああ、ちょっとした不可抗力でだけど」
「その土地の死後の世界を管理している者から調査の依頼がきました。曰く、大量の人間が死んだにも拘(かかわ)らず、その魂が一つも天に帰って来ないと」
帰って来ないと言われても、それは俺にも分からない
しかし、死後の世界にも管轄ってあるんだな
「初めの内は死に切れずに無念を抱えて地を彷徨っていると思ったらしいのですが、何年待っても一人も天に昇ってこない。おかしいと思って調査してみると……」
「俺が原因だと分かったって事か」
はい、と返事をしながら頷く映姫
「どうやら、貴方が食べた者は魂まで取り込まれるようですね。………まあ、本人達に不満は無さそうですので構いませんが、それでも摂理というものがありますので出来るだけ魂ごと取り込むのは止めてください」
魂まで取り込むのか、食べたものを吸収する程度の能力だから仕方ないか………ん?
「待て、本人達ってのは何の事だ?」
「気付いていなかったんですか?貴方の中には無数の魂たちが意思を持って存在しているのですよ?」
魂たちが意思を持って?つまり、俺の中で暮らしているって事か?
何時の間に俺は集合住宅になったんだ?
「………本当か?それ?」
「私は嘘は吐きません」
そうだよな、閻魔が嘘吐いてたら裁かれる側も納得出来ないよな
思わず片手で額を押さえながら項垂(うなだ)れる
「………中から外の様子とか見れるのか?」
「恐らくは見えてないと思いますが、大体は把握しているでしょう」
良かった、俺のプライバシーは最低限だけど守られているんだな
………確かに、集中してみると俺の中に無数の意思のようなモノが存在しているのが分かる
「まあ、最近はどこのあの世も一杯になり始めていますし、いずれ解放するのを条件に目を瞑りましょう」
閻魔がそれで良いのかと尋ねたいが、あまり突っ込んで薮蛇になってもつまらない
魂の解放の仕方など分からないが、ここは素直に頷いておくとしよう
「さて、私も仕事がありますので失礼します。部下の教育もある事ですし………」
言いながら辺りを見回し何かを探している
「ふぅ、逃げましたね」
ああ、小野塚か。逃げた事に気付いていなかったのか?
「程々にしておいてやれよ?口煩(くちうるさ)く言っていたら辞めるかも知れないぞ?」
辞められる仕事なのかは知らないが
「確かにそうですが、逃げた事は褒められた行為でないのは確かです。その辺りは確りとお説教をしますよ」
微笑みながら川の向こうに飛んでいく
俺もそろそろさくやを迎えに行かないと
結局、親は判らなかったけど生まれてみれば判るかも知れない
それまでは気長に待つとしよう