「うふふ。こっちよ、こっち」
「やりやがったな幽香」
「悔しかったら追いついてみなさい」
「あっはっは。待てよ、この野朗」
「待てって言われて待つのはただのバカじゃないの。それと私は野朗じゃないわよ。うふふ」
傍(はた)から見れば和やかな会話だ
だが、その実………
「笑顔で家の玄関吹っ飛ばしやがって、誰が修理すると思ってやがる」
朝、さくやを送り出したのを見計らったかのように玄関を爆撃し、こうして逃げている
別に追う必要は無いような気もするが、ここで追っておかないと再度爆撃されそうなので追いかける。
………面倒だ
逃げている方向を見るに、何処かに誘導したいのだろう
確かこの方向は………向日葵畑がある方向だ
幽香の事だから、向日葵畑までは行かないだろう。恐らくは途中の小高い山でも舞台にするつもりだ
俺としても、無駄に被害を出すのは憚(かばか)られる
大人しく着いて行くか
遠く微かに人里が見える山の上で幽香が止まる
どうやら此処で戦(や)りたいらしい
「さて、始めましょう?」
差していた日傘を閉じてこちらに向き直る
「……はぁ。俺の都合とかは考えないのか?」
「良いじゃない。あの子は寺子屋とやらに行っているんでしょう? あの子を理由にする事が出来ない今が好機じゃない」
何処で聞きつけたのやら………
幸い…と言って良いか分からないけど、卵は家に布団を巻いて置いてきてある
ある意味で思う存分出来るが、面倒だ。………面倒だ
まあ、幽香もフラストレーションが溜まっているのだろう。この辺で発散させておかないと何をしでかすか分からない
仕方ないと割り切って戦うしか無いか
それにしても、本当に面倒くさい
幽香が前方に突き出した日傘
毎度毎度、芸が無い
何時もの通り、日傘の先端からマスタースパークが飛んでくる
距離があるので余裕を持って避ける
が、何時もと違ってマスタースパークは何時までも俺が立っていた場所に照射され続けている
俺も経験したが、アレは前が見えなくなる
俺の姿を見失ったのかと思い油断した
その途端、背中にかなりの衝撃が襲い掛かり飛ばされる
飛ばされた先には照射を続けるマスタースパークが待ち構えていてまともにくらった
衝撃やら熱やらを身体中で受けてもみくちゃにされる
ようやく照射が終わると、幽香が嬉しそうな顔をして立っている
俺が背中に衝撃を受けて場所に、だ
ならば誰がマスタースパークを撃ったのかと照射元を見てみると、何と日傘が浮いている
………これが噂のファン○ルか
「どう? 少しは効いたかしら?」
「ああ、おかげで翼と髪が少し焦げた」
プスプスと音をたてながら煙が出ている
「……本当に少しね」
落胆と言うか何と言うか、微妙な表情をする幽香
そういえば、俺って戦う時に先手を取った事ってあったっけ?
何時も先に相手が攻撃してこっちが反撃してって流れが多い気がする
ワンパターンだなぁ。今度もし戦闘があった先手を取ってみるか
あ、そうだ。前に紫が言っていたアレを試してみるか
確か…『あなたの能力の内2つ、増と減、上と下を同時に使うと歪むから気をつけなさいな』とか言ってたな
え~と…増やしながら減らして、上げながら下げる、と
おお、歪んでいる。何がって、空間が
何と言うか……こう……ぐにゃぐにゃと
陽炎とかをイメージすれば分かりやすいかな
「何? これ。気味が悪いわね」
うん、ずっと見てれば酔うかも知れないけど、それだけだな
これでどうしろと? …………ただ歪んでるだけだよな?
ここに何かが触れたらどうなるんだ?
試しにやってみよう
右手をかざして前が見える程度の太さのマスタースパークもどきを撃ってみる
ああ、威力とかにこだわりすぎて考えた事も無かったけど、威力を抑えて撃てば前が見えるのか、気付かなかった
で、撃ったマスタースパークもどきはどうなったか
消えた
撃った後、歪みに直撃した瞬間忽然と消えてしまった
かと思えば、こっちの様子を見ていた幽香の真後ろに出現した
直前で気付いた幽香が避けて、通り過ぎたマスタースパークもどきは別の歪みに当たり避けた幽香の横に出現する
…………これ便利だな
幽香が避ける度に歪みに当たって、全然違う所に現れて幽香を狙う
これって、俺が何もしなくても攻撃してくれるからすっごい楽
幽香が倒れるか対策を思いつくまでのんびりしているか
あれから30分くらい経過した
幽香は変わらず、と言うよりしぶとく避け続けている
時折こっちをチラっと見たりもするけど、それ以外は避けるだけ
隙を見て攻撃でもしてくるつもりなのかも知れない
……暇だなぁ
何か暇つぶしになるような事は…………技の名前でも考えるか?
そうなると、良い名前をかんがえなくちゃな
歪みを生み出すから歪曲とか? 安直だな、却下
マスタースパークもどき、却下
あーでも無いこーでも無い
10分掛かっても良い名前は出て来ない
幽香がこっちに向かって妖弾を放ってきたけど、歪みに当たって追いかけっこに参加してた
増減と上下を同時に使うから………増はフとも読めるな。じゃあ、減はヘか?
上はアだし下はサだなぁ
フヘアサ? 何じゃそりゃ?
フ、ヘ、ア、サ。不変? 朝?
不変の朝? 増減んの上下? んが邪魔だけど、それが無くなると意味が通じなくなるなぁ
増減(ふへん)の上下(あさ)って表記してみるか? ……子供っぽくないか? たしか、中二病だっけ?
でも他に良い名前が浮かんでこないしなぁ
「幽香はどう思う?」
ほんの少し前から横に立っている幽香に訊いてみる
「知らないわよ。あんな反則みたいな攻撃」
あ~あ、身体も服もボロボロになってる。盛大に当たってたしなぁ
見えそうで見えない状態になってるけど、生憎と性欲なんてモノは遥か過去に置いてきた
仕方なくスキマを開いて送ってやる
「次こそコテンパンにしてやるから覚悟してなさい!」
コテンパンか、懐かしい言葉だね。まさに古典
とりあえず、技の名前は家に持ち帰って煮詰めてみて、それで駄目なら増減の上下に決めるか
スキマを開いて家に帰るが、変わり果てた玄関を見てため息を吐きつつ大工道具を持ち出しに行く
面倒だなぁ
しかし、釘を使わない伝統工芸とかってどうやってやってるんだろうな
あんなのは真似出来ないけど、河童たちは出来てるんだよなぁ
弟子入りでもしてみようか
やめておこう、どうせ面倒臭がって宝の持ち腐れになるのがオチだ
で、修理が終わった頃にはさくやが帰ってくる時間な訳で
正直、これから技の名前とかを考えるのは面倒臭い。もう増減の上下でいいや
これはボムにしよう………ボムってなんぞ?
何か変な電波でも受信したか? まあいいや
「父さん、ただい……何これ?」
開いておいたスキマを通って帰ってきたさくやが玄関を見た瞬間に言った言葉がこれだ
「何だか……斜めになってるよ?」
一時期、修練を積んで改善した筈の建てたモノが斜めになる病が再発したらしい
「さくや……気にしたら負けだ」
今度、河童に頼んで修理してもらおう
そう心に誓ったとある日の夕暮れだった