東方増減記   作:例のアレ

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正体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはどこだ?

 

右を見ても左を見ても上を向いても灰色の空間だ

 

俺のスキマの中に似ているけど、ここには地面がある

 

死んだのかとも思ったが、三途の川はどこにも無い

 

ここに立っていても仕方ない、少し歩いてみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いていると、遠くに幾つかの家が見えた

 

和風な家もあれば洋風な家もある

 

村か何かだろうか?

 

それにしては静かだ

 

近くまで行っても生活音どころか人影すら見えない

 

廃村にでもなったのか?

 

とりあえず、1番近くにある和風な家の前に行く

 

家の中からはやはり物音1つしない

 

生き物の気配もない

 

戸を叩いてみる

 

 

トントントン

 

 

「誰か居ないか?」

 

しかし、予想に反して返事がある

 

「開いとるよ、勝手に入ってくれば良い」

 

正直、誰も居ないと思っていたので一瞬驚く

 

勝手に入って来いと言われたので、勝手に入っていく

 

戸を開けて玄関を通過する

 

足音が妙に響く

 

適当に近くの襖(ふすま)を開ける、誰も居ない

 

いくつかの襖を開けては閉めていく

 

何個目かの襖を開けた

 

居間のような部屋に1人の鬼が座ってお茶を啜っていた

 

かなり年を取った鬼だ

 

「ん? おお! 誰かと思えば小僧では無いか!」

 

向こうは俺を知っているらしい

 

俺も何となく見覚えがある

 

「どうした? まさかワシを忘れたのか?」

 

はて? 誰だったか

 

「おぬしは相変わらず記憶力が乏しいのぅ」

 

余計なお世話だ

 

「わしはおぬしの心臓を貫いて、おぬしはわしを喰った。そんな事くらいは覚えておかんとな」

 

なるほど、思い出した

 

俺に角が生える切っ掛けになった時の鬼の爺さんだ

 

「爺さん、生きてたのか?」

 

「死んどるよ」

 

そうか、死んでいるのか

 

「ここはおぬしの中じゃ」

 

「俺の中?」

 

「おぬしの精神の中、魂の中。まぁどうとでも言えば良い。おぬしに喰われたモノの行きつく場所じゃ」

 

ちょっと混乱してきた

 

それより、俺は生きているのか?

 

「俺はてっきり死んだものかと思ったけど」

 

何と言っても体中穴だらけになっていた

 

「じゃから、死んどる」

 

「いや、爺さんじゃなくて俺の話」

 

部屋の隅に置いてある座布団を勝手に持ってきて座る

 

「ああ、こっぴどくやられたようじゃのう」

 

爺さんは立ち上がり、隣の部屋に行き、湯呑みを持って帰ってくる

 

「やっぱり、分かるものなのか?」

 

急須からお茶を注ぎ、差し出してくるのを受け取る

 

「何が起こっているかくらいじゃよ」

 

お茶を啜って喉を潤す

 

「ここでの娯楽の1つじゃ、我慢せい」

 

「そうだ! さくやはどうなった!?」

 

異常な状況の所為ですっかり忘れていた

 

「げほっがはっ! いきなり大声を出すんじゃないわ!」

 

お茶が器官に入ってしまったようで咳き込んでいる

 

爺さんの後ろに回って背中を叩く

 

「あの娘の事は分からん」

 

なら、すぐに確認しに行かないと

 

「爺さん、ここからはどうやったら出られるんだ?」

 

「さてのぅ、身体の傷が回復したら出られるのではないか?」

 

そう言えば、前回もそうだった

 

あの騎士やら神父やらを喰っても70年眠っていた

 

今回は何も喰っていないからもっと掛かるだろうな

 

ってことは、あれが今生の別れか………

 

俺にできるのはさくやが無事でいるよう願う事、それだけか

 

卵の方は……生まれるのに後どれくらい掛かるのか分からない

 

だとしても、最低70年。悪くすればもっと年月が掛かる

 

生まれていたとして、会っても分からない可能性の方が高い

 

仕方ないと割り切るのは難しいけど、それでも諦める他ない

 

「まぁ、今回は幸運だったの。偶然通りかかった退魔師がおぬしを封印しなければそのまま死んでおったかもの」

 

「俺は封印されているのか?」

 

「うむ、さもなければくたばっていたじゃろうな」

 

なんでも、封印の中では死ぬ事は無いとか何とか

 

難しい事は聞き流したが、大体そんならしい

 

大体のゲームや小説でも封印された魔王が死んでいたって事態は無いし、そんなものなんだろう

 

「お邪魔しますよ」

 

一通りの話を終えてお茶を飲みつつ雑談をしていると、玄関のほうから声が聞こえた

 

「いやぁ、大変な事になりましたね。これからしばらくは楽しみが1つ減ってしまいますよ」

 

襖を開けて入ってきた男が開口一番そんな事を言う

 

こいつの事は憶えている、いや正確にはさっき思い出していたからだけど

 

「今本人が来ておるぞ」

 

目が合った

 

「おお! お久しぶりです! お元気でしたか?」

 

男、神父は両腕を開いて待っている

 

男に抱きつく趣味は無いので座ったままでいる

 

神父は残念そうに両腕を閉じると座布団を敷いて座る

 

「いやぁ、本当にお久しぶりですねぇ。何年振りになりますか」

 

しかし、矢鱈とフレンドリーだ

 

もっと恨まれているかと思ったが

 

「その顔は私が貴方を恨んでいるのでは? と言った顔ですね?」

 

言い当てられた

 

「いや、私も初めの頃は相当に恨んでいました。ですがここで過ごすようになって妖怪と鬼に触れ合って考えが変わりました」

 

早口に捲し立てる

 

「こうなっては長いぞ? 覚悟しておく事じゃな」

 

爺さんは我関せずと新しくお茶を入れている。ご丁寧に神父の分までだ

 

「そもそも私は神の教えの下に人外は邪悪と教えられて来ました。ですが実際に話してみればとても聞いていたものとは違いました。

確かに彼らは人を食べるのかも知れません、ですが我ら人間も動物を食べます。要は生きる為に必要な行為なのですよ。

私は戸惑いました、これでは神の教えとは全く違います。そこで考えた訳です、神の教えが間違っているのでは無く神の教えを広げる我ら人間が間違っているのでは? と。

つまりは長い時の中で教えが間違ってしまったのです。しかしこの考えは外では異端と捉われるでしょう。ならば私に出来る事は何もない、せめてこの中でだけは

私は私の考え、私だけの神の教えの解釈に従って行こう、と。聞いてます?」

 

さすが神父だ、説教は得意中の得意か

 

大半は聞き流していたけど

 

「爺さん、ここに妖怪なんて居るのか?」

 

「阿露(あろ)じゃ」

 

? ああ、爺さんの名前か

 

「あ、私の事はジャンとお呼びください」

 

長々と話していた神父も名乗ってくる

 

「妖怪なら居るじゃろう? 憶えが無いか?」

 

妖怪なんて喰ったか?

 

「酷い話よねぇ、いつも移動には私の能力を使っておきながら」

 

何時の間にか横に紫が座っていた

 

紫?

 

「なんでここにいるんだ?」

 

よく見れば何時もの紫よりも大分幼い

 

「忘れたの? あなた、私も食べたじゃないの」

 

そう言えばそうだった

 

確か勇儀と戦った時に紫の腕を喰った

 

「成程、だから紫も居るのか」

 

「紫なんて呼ばないで頂戴」

 

少しムスッとしながら答える紫

 

「あんなのと一緒にされては迷惑だわ」

 

「あんなのって」

 

どう見ても紫にしか見えないのに本人は不服そうだ

 

「私は紫の腕から生まれた紫とは全く別の存在よ。貴方もそのつもりで接して頂戴」

 

だから、同じにしか見えない

 

違いは見た目の年齢だけなのに

 

「なんて呼べば良いんだよ」

 

「私はここでは赤青(あお)と名乗っているわ」

 

紫から別れて赤と青か

 

聞いただけじゃ赤が混じっているのか青だけなのか分からないが

 

「で、俺の中には後どれだけの住人が居るんだ?」

 

残りの喰った憶えがあるのは騎士たちくらいだけど

 

「後は騎士たちと………見てもらった方が早いわね」

 

赤青は立ち上がり襖を開けて出ていく

 

ついて来いって事か

 

俺が立ち上がると阿露とジャンも立ち上がる

 

先ほどまであれほど喋っていたジャンは今は無言だ

 

とりあえず赤青について行こう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家が立ち並ぶ区画を抜けると広い場所に出た

 

そこには4本の馬鹿でかい水晶が地面から生えていた

 

「こっちよ」

 

水晶に向かい歩いていく赤青

 

近づくと水晶の大きさは4種ばらばらだとわかる

 

更に近づくと水晶の中に何かがいるのが見えた

 

「これは、犬……いや狼か?」

 

水晶の中には3,4メートルはありそうな狼が入っていた

 

「これには鳥、それには木、あれには……人間?」

 

木以外は皆、目を閉じている

 

まるで眠っているかのようだ

 

「これが一体なんだって言うんだ?」

 

水晶から目を離さない赤青に訊いてみる

 

「分からない? 貴方が1番理解している筈よ」

 

阿露もジャンも黙っている

 

もう1度水晶を見てみる

 

狼はかなりの巨体をしている、鳥の翼はまるで刃のようで、木には栗のような棘のある実が生っている

 

そして人間は……いや、まさか………これは

 

「俺……か?」

 

そこには、黒い髪でTシャツにGパンとラフな格好をした俺が入っていた

 

この格好は、確か俺がアイツに喰われた時にしていた格好だったと思う

 

「赤青、これはなんだ? なんで俺がこの水晶に入っている?」

 

「私の仮説で良ければ教えるけど? あなたには多少ショックかも知れないわよ?」

 

「頼む」

 

視線を水晶から俺に向けた赤青が話し出す

 

「この水晶に入っているモノが貴方を構成するモノよ」

 

俺を構成するモノ?

 

「ここに入っているモノたちはあの人間を除いて遥かな古代から生き続けている妖怪たち。

どれが初めの存在か分からないけど、あのどれかが食べたものを吸収する程度の能力を持っていて、他のモノを喰いあなたの言うアイツの姿になった。

それが合意の上によるものなのか、それとも生存競争によるものなのかは知りようが無いけど。

そして、それぞれが強い力を持っているが故にそれを逃がさないように水晶に閉じ込めているって所かしら? もしくはもっと別の理由でもあるのかもね」

 

「待て、なら何で俺までこの水晶の中に入っているんだ?」

 

俺は別に力が強い訳じゃない、いや無かったと言うべきか

 

「悪いとは思ったけど、あなたの記憶を覗かせてもらったわ」

 

いきなり何を言い出すんだ?

 

「あなたがアイツに喰われたのは何千年も昔よ。

つまり、その時点で未来から来たあなたの知識はその時代で最高のものだった。

人の形をしていたというのも大きいわね」

 

「つまり、力の大きさじゃなく知識の方で強大だと認識されたって訳か。

そして、人の形がこれからの時代で1番都合が良いとも」

 

「そう、だからあなたを吸収したんだろうけど、あなたの記憶を吸収した所為であなたは自分が元は人間であると思い込んでしまった」

 

「つまり俺は俺じゃ無い?」

 

「そうは言ってないわ。あなたはあなたでもあるしアイツでもある」

 

俄かには信じられない

 

そうか、俺は元人間じゃなくてある意味で純粋な妖怪って事か

 

………いや、だから何だ?

 

「その話が正しいとしても特には何も感じないな」

 

「あなたねぇ……あなたはあなたじゃ有りませんって言われたようなものなのよ? それなのにその反応でいいの?」

 

「今まで生きてきた中で特に支障は無かったんだし、良いんじゃないのか?」

 

これを聞いた所為で俺が変わるって訳でも無いんだし

 

「かっかっかっか!」

 

後ろに立っていた阿露が急に笑い出した

 

「まぁ、そう言うと思っておったわい。小僧がこんな程度の事で悩む筈があるまいとな」

 

「それが灰刃さんの良い所なのでしょう」

 

ジャンも微笑みを浮かべている

 

とても昔、俺の心臓を剣で刺した男と同一人物とは思えない

 

「ふぅ、まったく、馬鹿は羨ましいわね。単純で悩みが少なくて」

 

「なんだとこら」

 

結局、俺の正体はこんなものだったと言う訳だ

 

まぁ、どうでも良い知識が1つ増えたと考えておこう

 

実際、本当にどうでも良いからな

 

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