星漿体護衛の任務で覚醒した五条、及びそれに追いつこうとした夏油は、3年に進級する頃には正式に特級術師として任命された。
といっても、特級になったからといって何かが大きく変わる訳でもない。強いて言うならば任務が多くなった位で、2人の実力的には問題のないものであろう。
七海も灰原も順調に腕を上げており、強いて問題を上げるとすれば新入生である伊地知潔高であろうか。
戦闘の才能があまりなく、本人の性格も臆病だ。弱い故に等級も低く、それ相応の任務しか与えられないため今はそこまで危険なものでも無いが、あまり呪術師に向いているとは言えないだろう。
まあ、本人としては任務もそうだが高専での日常も苦労が溜まるものかもしれないが。
原因は我らがクソガキ五条悟。七海はその図太い性格故、灰原は多少の事ではものともしない根明な性格故に気にせずに接していたが、五条の性格は色々とアレである。特に伊地知は臆病で内気な性格、2年上の先輩という事もありあまり強く言うことも出来ずよく絡まれているのだ。
といっても、五条として後輩の世話を焼いているつもりなのだろう。内容の半分くらいはパシリをさせたりとアレだが、逆に五条から奢ったりもしているらしい。七海や灰原という後輩と既に1年過ごしたことで多少は成長したのだろうか。
それ故、夏油やアリスもあまりとやかく言ってはいない。まあ止める時は止めるが、どちらかというと子供の成長を見守るようなものであった。
お前ら本当に同級生か…?
この年は呪霊の数が多かった。前年に頻発した災害の影響や、毎年のことである初夏の繁忙期、それらが重なり中々忙しい年になった。
とはいえ、あくまでそれは中々止まりだ。寧ろ数年前以前と比べるとその任務数は遥かに少ないとさえ言える。
それはアリスの影響だ。本来呪術師が行う任務は単体の呪霊相手、もしくは場所によっては複数体を超えるがそれも2や3、複数人で行う任務ならもっと多いこともあるが人数で分けるとそれも片手で数えられる程度でしかない。
しかし1年後半の頃から自身の任務体系を自分達で改善し、その埒外の力を容赦なく振るうアリスは百人力所の話では無い。正真正銘万人力とでも言えるそれは、たった1人で万年人手不足である呪術界を傾ける存在だった。
恐らく、アリスとそこらの呪術師が祓った呪霊の数を比べようとしたら桁が違うことになるだろう。それも1や2ではない、3─あるいは蝿頭も含めるならば4桁に届きうるだろう。本人が祓ったと認識しているのはその百分の1、千分の1に届いているかすら分からないが。
そんなこともあり、呪術師全体としての任務数が目に見えて減ったのだ。まあ、地方へ行く任務が増えた等の不満を呟く者もいたが、それを声に出して言うわけでもなく、呪術界全体が多少なりとも明るくなったと言えるだろう。
アリス本人は広範囲に死んでくれる?をばらまいた後は休みとなっていることもあり、実は他の呪術師よりも任務に出る回数自体はかなり少なかったりするのだが。
因みに呪詛師としてはそれによって隠れ蓑などが少なくなったり、呪術師が対応してくる事などが早くなったりした事で節国有栖に対し五条悟にも並ぶ懸賞金がかけられた。が、何処から流れたのかかの術師殺しが敗れたという話も同時に広まっており、襲おうとするような輩はいない。
「いっくよー」
その掛け声と共に五条に向け硝子が鉛筆を、夏油が消しゴムを投げる。
今までならばどちらも無限で止まっていただろうそれらは、鉛筆が止まり消しゴムがそのまま五条に当たるという結果を齎した。
「うん、いけるね」
「げ、何今の」
「術式対象の自動選択か?」
「へえ、器用なことやるわね」
「そ、正確には術式対象は俺だけど。今までマニュアルでやっていたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく、質量、速度、形状からも物体の危険度を選別できる」
鉛筆と消しゴムで手遊びしながらそう答える五条。聞けば、最小限のリソースで術式を出しっぱにし、自己補完の範疇で反転術式も回し続けることで脳のダメージを治すといった事をしているらしい。
「正に六眼様々ね。五条、私も少し試していいかしら」
「おう、いいぞ」
許可も得たということで、エイガオンとヒートライザを五条に向けて発動する。エイガオンはいつもの様に無限によって止まり、ヒートライザは効果を発動したのを認識できない。
「なるほどね。呪力の強弱だけじゃなくて、質も選別に入れるといいわ。五条にはあまり必要ないかもしれないけど、呪力の強弱だけで味方の支援とかも止めてしまうのは勿体ないわ」
「あー、術式ってサポート寄りのやつ少ないからそこは気にしてなかったな。ちょっと考え直してみるか」
まだまだ改善点はあるのだろう。話し合う2人を見つめ、夏油は少し物思いにふける。
「手印の省略は完璧。蒼や赫の複数同時もボチボチ、後は領域か。有栖、そろそろ俺に領域見せてくれよー」
「はあ、仕方ないわね…。明日遠くの地方で任務終えれば休みだからその後見せてあげるわ。帰り道に七海と灰原の任務地があって合流して帰るからお土産用にお茶とか用意して待ってなさい」
「マジ!?やっと見せてくれんのか!いやー、2年くらいずっと言い続けた甲斐があったってもんだな」
「普通そんなにしつこかったら嫌われるわよ」
「そうだ五条。夏油が最近悩んでるっぽいしどうにかしなさい。見てるこっちが暗くなるわ」
「あ?たっく仕方ねえな。とりあえずゲームでも誘ってみるわ」
故にそんな事を話している2人の言葉は夏油には聞こえてなかった。
「非術師は嫌いかい?」
そう聞かれたのは、高専に訪れて来た特級術師、九十九由基と話している時のことだ。
非術師が嫌いか。わからない。呪術師として力のない非術師は守るべきものだ。それが力を持つものの責任。弱者生存、弱気を助け強気を挫く。
いつか悟に言ったことだ。けれど本当にそれが正しいのか分からなくなって来ているのだ。
切っ掛けは分かっている。盤星教、あの後始末の時に見た光景だ。星漿体の暗殺に失敗したと聞かされた彼らの憎しみ、そしてその後星漿体が同化しなかったと知った彼らが浮かべた笑顔。
あの自分勝手な人間共が忘れられない。それ以外もそうだ。任務で助けた非術師に罵倒された事など1度や2度ではない。
呪術師は命を懸けて戦っている。そんな奴らの為に?
「そういえば、節国有栖ってどういう感じなの?」
「有栖…ですか?」
「そうそう。いやー、直接会いたかったんだけど丁度出かけてるって言われちゃってね」
おそらく街をぶらついているのだろう。明日遠出の任務だと言っていたのでスイーツ巡りでもして気力補充をしているのかもしれない。もしくは移動中に読む本でも買っているか。
「とんでもないですよ。それこそ、場合によっては悟以上に」
「うん、そうだろうね。軽く聞いた話だけでもそう思うよ。私としてもね、彼女は原因療法などしなくても対症療法で原因そのものまで対処出来るんじゃないかと思えるような存在だ。だからこそ今日会ってみたかったんだけどね」
「そんなに…ですか。いや、わかります。有栖がどれほど規格外なのかは近くで見てきましたから」
「ははは、私も是非この目で見てみたかったなぁ」
そんなアリスが、七海と共に気を失った灰原を抱えて帰ってきたのは翌日のことだ。
灰原がどうなったのかは次回で。