「じゃ、乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯…するのはいいのだけど硝子はまだ未成年よね?いえ煙草を吸ってる時点でアレなのだけど」
3人で机を囲むのは歌姫、硝子、アリス。たまたま歌姫が高専に用事があり、ついでに泊まっていく事になったので久しぶりに3人で女子会をしているのである。
まあお菓子はともかく酒とおつまみが並ぶそれを学生がいる女子会と言って良いかは分からないが。
「いいじゃん。有栖も酒飲む?」
「硝子ー。こんな状況で私が言えたもんじゃないけど、人に勧めるのはやめておきなさい。後、煙草に関しては私も辞めた方がいいと思うけど」
「お酒、ねぇ…」
「お?有栖も乗り気じゃん」
つまみではなく持参したお菓子を食べながらアリスは考える。煙草や酒が20歳からと言われるのは、アルコール分解能力が未発達だったり、体が悪くなりやすいからである。ただ、それだとアリスはどうなるのだろうか。
「うーん、私ってこの肉体で止まってるじゃない?別に今も20歳も同じ体だからその辺がどうなるのかしら」
「それは…確かに今飲んでも20歳なってからでも変わんないかもね」
「でも逆に10歳とかで止まったんでしょ?じゃあずっとやめといた方がいいんじゃない?」
「成長が止まったというか、アリスになったというか…。分からないわね」
そんなこんなで考え込む3人。単純に成長が止まっているだけならば流石に酒を飲ませることはしないのだが、アリスの天与呪縛はかなり異質である。
もし飲めないという結論に至るのなら今後一切飲めない事になるので、結構真剣であった。
「考えてもわかんないね。とりあえず今日飲んでみて判断すれば?」
「判断材料もないし、それしかないわね。ただ有栖、無理は駄目よ」
「じゃあ、今日は飲んでみようかしら」
そう言って新しいコップを用意する。
そうして改めて3人で乾杯をした。
「…あら?もう朝?いつの間に寝ちゃったのかしら」
「ん?有栖起きたー?」
「硝子、おはよう。私、昨日いつ寝たの?」
「何杯か飲んでるうちに寝てたよ。たぶん体が小さいからアルコールの回りが早いんでしょ。体に違和感は?」
「まだ少し酔ってる気がするけどそれ以外は問題ないわ。『アムリタ』これで大丈夫でしょう」
「うっわ何それズル。私にもしてよ」
「流石にこの為だけに領域展開する気にはならないわ…。そうだ、歌姫先輩は?」
「先輩ならちょっと前に帰ったよ。ほんと入れ違いで起きたね」
「悟、少し相談したいことがあるんだけどいいかな?有栖も聞いて欲しい」
「あら、どうしたの?」
「なんだよ改まって。ほら、言ってみろ」
授業が終わり、放課後何をするか考えていた時に夏油が話しかけてくる。
前に殴り合いして本音を聞いてから、ちゃんと相談しに来てくれた夏油が嬉しいのだろう。五条は滅茶苦茶笑顔だった。
「私も有栖みたいに少し任務を変えたくてね、廃墟や山などの猿に関わらないものを受ける代わりに街中の任務なんかを受けないようにしたいんだ」
「あー、つまり非術師と関わるようなやつが嫌なんだな?」
「かなり開き直ったわね。まあ、たぶんそれくらいなら簡単に出来ると思うわよ?夏油も特級だしね」
「そだな。じゃあ色々手回しとくから、終わったら伝えるわ」
そう言って終わる。夏油は流石にこんな一瞬で話が終わるとは思っていなかったのか、豆鉄砲を食らったかのような顔をしている。
「あ、ああ。ありがとう」
「気にすんなって。こんくらいの事なら手間ですらねーから」
「五条様々ね。それにやりたくないことを無理にするのは疲れるでしょう?非術師を守るのは五条とか他の術師に任せて置くといいわ」
「たっく、めんどくせーけどしょうがねーな」
本当に頼もしい2人だ。今まで1人で抱え込んでいたのが馬鹿らしくなる。
「けど五条、非術師を守るのは貴方にとっても大切よ?」
「あん?そこまで関係あるか?」
「馬鹿ね、もし一般社会に大きな影響が出たらどうなると思う?」
「どーなるんだよ」
「それはね…。新しいスイーツやゲームが出なくなるわ…!」
「…!!!なん…だと…?」
「チェーン店だとある程度大丈夫かもしれないけど喫茶店なら襲われたら終わりだし、大手のゲーム会社なんて同業他社からも含め呪いが集まりやすいわ。私も前に任○堂本社で任務したことあるし」
「…マジか…!よっしゃ、安心しろ有栖!傑!俺がやってやんよ!」
何やら2人で話してる内に五条のやる気が上がったらしい。
まあ、内容がなんであれ非術師を担当してくれるというならば任せることにしよう。
「それに、夏油も時間が経てばマシになるでしょう」
「そうかな?自分で言うものなんだが、この気持ちは変わらないと思うんだが」
「傑は深く考えすぎなんだよ。もっと気楽にいりゃいいんだよ」
「その通りね。それに、全ての非術師が嫌いになった訳ではないでしょう?」
「そんなことは…」
「確かに美々子ちゃんと菜々子ちゃんを迫害したり、罵倒してきたりする人間もいるわ。けど、感謝されたこともあったんじゃない?」
「確かに、なかった訳じゃない。けど、それ以上に…!」
否定はできない。確かに感謝されたこともある。けどそれ以上に術師は虐げられている。それに、感謝してきたとて、奴らが何も出来ないのは変わりない。それを命を懸けて祓うのは呪術師なのだ。
「結局、人によるのよ。非術師と言っても良い人もいれば悪い人もいる。それは呪術師だって同じよ。というより呪術師のほうが悪い人は多いんじゃないかしら?上層部とか」
「あー、あいつらホントクソだしな。老害は黙ってろっつーの。腐ったミカンだよ腐ったミカン」
「そんなにかい?」
「特級なったから、傑もその内呼び出されることもあんだろ。マジでクソだからキレるなよ」
そういう2人の顔は真剣だ。五条はともかく、アリスまでそう言うということは本当にそうなのだろう。
「それこそ、理子ちゃんの件とかも上のせいじゃないかしら。五条に対する嫌がらせとかでやりそうよね」
「同化2日前に情報がバレたやつか。確かに腐ったミカン共なら有り得るな」
「それは本当なのかい?どうしてそんな奴らが偉ぶってるんだ?」
「周りの奴らもみーんなそうだからだよ。腐ったミカンって言ったろ?どんどん広がっていくんだよ」
否定するどころかどんどん肯定的な意見が出てくる。アリスのお陰で無事だったが、夏油では伏黒甚爾に勝つのは難しかっただろう。特に理子ちゃんを守りながらとなったら更にだ。そんな事の原因が呪術界の上層部の仕業?
「もしかしたら、灰原の時の件もそうかもしれないわね」
「それまで…?どうにか、出来ないのかい?」
「さっきも言ったけど、周りも全部腐ってるから頭をすげ替えただけだと変わらん。それこそ、全部新しくしないと無理だ。けどそんな人員はいない」
「夜蛾先生とかは本当に良い人なのよね。それこそ、先生が五条を教育してたみたいに人材をマトモに育て上げればいいのだけど」
「育てる、か…。教師にでもなるか?」
「五条には無理じゃないかしら?」
「そうだね、せめて口調くらいは直さないと」
「けど、懐かしいわね。最初に上層部に呼ばれた時なんて、良い胎になれとか言われたわ」
「うっわー、言いそう。それどうしたんだ?」
「胎になれ、ってつまり子供を産めということかい?」
「そういうこと。ふふ、言い返したから安心して。むしろ五条に見せてあげたかったわ」
「何て言ったんだ?」
「私、たぶん体が止まった時がたぶん8歳か9歳くらいなんだけど、初潮前なのよ。つまり、月経とかが存在しなくてそもそも子供が作れないのよ」
「…それ、滅茶苦茶面白いことなってそうだけど、笑っていいのか?お前的にはどうなんだよ」
「私は特に気にしてないわ。特にそういう相手もいないし、生理が無いのは楽だしね。まあそもそも経験した事ないから男と同じように辛いらしいとしかわからないけど」
硝子とか辛そうにしてるし、というアリスに男である2人は何も言えない。というよりも何を言っていいのかわからない。本人が気にせず話を続けているので、ありがたく乗ることにした。
「というか、硝子のやつも生理あるんだな」
「流石にあるだろう。けど、確かに気にしたことなかったかな」
「結構分かりやすいわよ?自分に反転術式使ってるのかあんまり普段と変わらないけど、露骨に煙草の本数が多い日とかあるから」
そんな他愛のない話に移っていく。
そんな日常の一幕。
「じゃあ、やるわよ」
「よし、頼むわ」
場所はグラウンド。領域展開を見せるという約束を果たす為に集まったのだ。
そう、集まった。見学として夏油を初めとしたみんなが集合した。
アリスとしても別に他人に害はない領域なので許可したのだ。
領域展開『影映空想界』
世界が塗り替えられ、そこで彼らが見たのは円形の空間だ。
柱が4本立っており、その柱で作られた四角形の天井から青い光が差し込んでいる。
何より目立つのは、真ん中に存在する大きな階段と、その先にある大きな時計を模した扉のようなものだろう。
「これが領域展開か…」
「これは…凄まじいね。さっきまでグラウンドにいたはずなのに」
「何ここ。なんか訳わかんないのあるし」
「うわー!すっごい綺麗!」
「前に見た地下鉄は不気味なものでしたが、これはどちらかと言うと神秘的ですね」
「ここは…タルタロスのエントランスね」
色々と気になるのだろう。思い思い歩いて空間を見て回っている。
アリスはサングラスを外しその六眼で集中して見ているのだろう五条に話しかけた。
「どう、何か掴めた?」
「有栖か。ああ、呪力の流れとか、生得領域を出してる感じとか色々分かった。やっぱ実物を見ると違うな」
「なら良かったわ。けど、本来は必中とか必殺の術式を付与するものだから、そこは私のは参考にならないけどね」
「なるほど、後はこっちで試行錯誤するしかないか」
そういって考え込む五条。自分の領域展開について色々と考えているのだろう。ただ、ついでだからともう少し話すことにした。
「そうだ、ちょっと聞きたいのだけど」
「どうした?」
「領域展開って、結界で閉じないで使えるかしら。こう、現実を侵食するというか、上乗せするというか…」
「無理じゃね?いや、理論上は出来るかもしれんがそんなイメージ出来ないだろ」
「いえ、逆にイメージは出来るのよ。理論上出来るなら色々試してみようかしら…」
そう言ってアリスも考えにふける。隣を見ると改めて五条も考え込んでいるようだ。
とりあえず領域展開や五条は放っておくことにし、周りの様子を伺う。
どうやら既に見終えて話し合っているようだ。
「あら、みんな集まってるのね。まあ特に何も無いしね、満足した?」
「そうだね、前に七海が見た景色を聞いていたんだ」
「前は地下鉄だったらしいし、こことは違って色々ありそうだなーって!」
「あそこはシンプルなこことは違いグチャグチャしてましたから」
「ここは待機所みたいな場所だからね。確かに観光には向いてないわ」
「有栖、あの時計の先はなんかあるの?」
「ああ、アレは本来は迷宮に続く扉なのだけど、流石に私の領域では開かないわ」
興味があっても流石にどうしようも無いものは仕方ない。
諦めてもらうしかないのだ。
「五条!そろそろ終わるわよー!」
「りょーかい!」
そう言って領域を閉じる。
アリスに出来ることは見せることくらいだ。後は五条次第だろう。
と、こんなことを書いているが五条が領域展開をものにしたのは数日後の事であった。
「有栖ー、領域展開試させてくんねー?」
「あら、もう出来たの?いいわよ」
「じゃ、いくぞー!領域展開『無量空処』」
「ッ!?『トラフーリ』!」
「あれ?有栖どこ行った?」
「有栖、どうやって外出たんだ?」
「ふーっ。それ、巻き込まない様に気をつけなさい。一瞬だったのに頭が痛いわ…」
「ああ、分かったけど、どうやって出たんだよ」
「逃げるスキルがあるのよ」
次改めて設定回でも書きたいな。