まあ、ゆっくりやって行こうかな。
「今度有栖さんが高専にくるらしい」
「お、やっとか。入学ん時以来だな」
「しゃけしゃけ」
そう話すのは眼鏡をかけた女子とパンダ、おにぎりの具で話す男子。
パンダはパンダであるが、男女共に近いデザインの黒い制服を着ているため同じ学校の生徒だとわかる。ただ、デザインは同じだが白い制服を着ているもう1人の男子は何の話題なのかわからないようだ。
「えっと…その有栖さん?って誰?」
「そーいや憂太はまだ会ったことなかったか」
「こんぶ」
「非術師出身だと有栖さんのこと知らないか。信じらんねーよ」
そういって何も知らない少年…乙骨憂太の疑問に答える。
「節国有栖。悟や憂太と同じ5人しかいない特級術師の1人で、まあ色々と凄い人だよ」
「色々ってお前な…。ま、呪術界じゃその名前を知らない奴はいないくらい有名だよ。五条とも並ぶくらいな」
そう言われてもパッとしないのだろう。そもそも五条先生と並ぶくらい有名だと言われても、その五条先生ですら知らなかったのだ。
「どんな人なの?」
「いい人だよ。五条みたいにクズな訳でもなければ夏油みたいに他人を見下したりもしない。お前含めて問題児揃いの特級の唯一の光みたいな?呪術師全体でみても相当な善人だよ」
「やっぱり僕も問題児なんだ…」
「後はアレだな。なんというか、名前のイメージそのまんまみたいな?あれで悟達と同い年ってんだから不思議だよ。パンダでもないのに」
「しゃけ」
そう言われてますます分からなくなる。明確に分かったのは五条先生達と同い年であることと、とても良い人ということだけだ。名前のイメージとかなんとか言われても混乱するだけであった。
有栖…ありすのイメージというとやはり不思議な国のアリスだろうか、金髪の青いエプロンドレスを着た少女…。
そして、そんなイメージの通りだと分かったのは、数日後、件の本人に会ったからだ。
「3人とも、少しぶりね。それで、貴方が噂の乙骨憂太君ね?」
肩下まで伸びた金髪に私服だろう青いワンピース。腰辺りに大きな白いリボンが付いているのも合わさってエプロンドレスのイメージとも被る。
もし絵本から出てきたと言われても信じてしまいそうな少女がいた。
その衝撃に完全に固まってしまったが、他の3人が挨拶をしたことで咄嗟に挨拶を返すことが出来た。
「は、はい!乙骨憂太です。えっと、貴女が節国さんですか?」
「ふふ、私のことは有栖って呼んで?コンゴトモヨロシク、乙骨君」
今思えば少し癖の強い挨拶であったが、当時としては見た目が衝撃的すぎて何も気にしていなかった。
挨拶を返すのがやっとで、女子──禪院真希がぐいぐいと話しかけに行ったこともあり色々と興味はあったのだが話しかけるタイミングを逃した。
「真希さんって…あんな感じだっけ」
「ああ、真希は有栖が恩人かつ憧れらしくてな。いつもあんな感じになるらしい。前会った時もそうだった」
「たらこ」
「おいおめーら全部聞こえてるからな!」
そんなやり取りを皮切りに全員で喋ろうという雰囲気に変わったのだが、そんな空気を読まない奴らがこの高専には2人存在する。
その内の片方がドアを開けて入ってきた。
「おっはー!4人とも揃ってるねー!って、有栖ももう来てたのか」
真っ白な髪に目を巻いた包帯、全身真っ黒な服を着た不審者、五条悟である。
ピシャン!と音がしそうなくらい勢いよくドアを開けて入ってきた彼を見て、めんどくさい奴がきたと顔を歪める3人と1匹。呆れたようにため息をつく1人だった。
「みんなどうしたのさ、そんな顔しちゃってー」
「原因は貴方よ、五条」
そう言われても何も変えようとはしない。そんな人間である五条は自分が入ってくる前の状況なども一切気にせずいきなり本題に入る。
「ま、とりあえず憂太。今から有栖と任務ね」
「おい待てよ。なんで有栖さん連れていくんだよ」
「そうだそうだー。折角来てくれたのに」
「すじこ!」
「そ、そうですよ!それにいきなり任務なんて…」
それを止めるのはアリス。五条と違ってしっかりしているのだ。
「まあまあ、落ち着いて。別に任務が終わったらすぐ帰るって訳でもないし、来た目的の半分はその任務だしね」
「なんなら3人も見学する?面白いものが見れると思うよ」
そういって焦らすように口を閉じ、学生4人の視線が集まったところでその内容を口に出す。その口角は上がっていた。
「僕と有栖での監視の下、特級過呪怨霊祈本里香の完全顕現を行う」
「しっかし、よく許可が降りたな。そんなこと」
「確かにな。元とはいえ完全秘匿死刑の執行対象だろ?上が許すとは思えんが」
「しゃけ」
そう言うのは見学について行くことにした3人だ。
その疑問も最もだろう。五条が無理やり引き取り高専に通わせたとはいえ、元は死刑対象、そんな存在だ。特級という階級も術師としてではなく、特級被呪者という側面が大きい。
自分たちはある程度一緒に過ごして乙骨憂太という人間を知ったが、それを差し引いても祈本里香という存在はとんでもなく恐ろしいものだ。
「ま、そこは有栖が色々とね」
「特に何もしてないわよ。私なら問題ないって言っただけ」
それだけで悟れるのが呪術界にいて長い3人で、これまた理解できないのが元一般人の乙骨だ。
「えっと、それってどういう事?」
「そんだけ強いってことだ。もし里香が暴走しても問題なく祓えるくらいにはな。そんでそれが周知の事実でもある」
「そっちの五条もそうだが、有栖さんに傷を付けられる奴なんて数えられるくらいしかいねーんだよ。比喩とかじゃなくて本当にな」
「すじこいくら」
「棘の呪言も効かないから2人きりなら普通に喋れるらしいぞ。え?それマジ初耳なんだけど」
「こんぶ」
おそらく謝ってるのだろう棘とダル絡みするパンダ。
止めようかとも思ったが真希にほっとけと言われたので触れないでおく。2人の声の感じも軽いので、悪ノリしているだけだろう。
そんな雑談をしながら歩いている内にいつの間にか目的地に着いたようだ。
「さ、みんな着いたよー。ここからは憂太1人だ。里香ちゃんがいるから問題はないだろうけど、寧ろ完全顕現する前にそのまま祓っちゃわないように気を付けてね」
「見学の3人は一応私達の近くに居てね。いえ、むしろ五条に全員浮かせて貰おうかしら」
その言葉に軽く返事し、集まる3人。それとは逆に乙骨はあまり動けなかった。
ここまではいつもの様に雑談しながら歩いていたせいで気にならなかったが、いざやる事になると恐怖が湧く。
「あれ、憂太、どうした」
「もしかして1人で行くの怖い?…それか、里香ちゃんが出てきて他人が傷付くのが怖い?」
「ッ…!」
図星だった。今までの何度かの任務は里香ちゃんを出さないように言われていたし、呪具に里香ちゃんの呪力を乗せることでなんとか弱い呪霊を祓っていた。けど、里香ちゃんを出すとなると否が応でも前の学校の事を思い出してしまうのだ。あの、ロッカーに詰められた人達の事を。
「ま、そりゃ怖いか。けどね、1つ勘違いをしてるよ。今回に限っては、里香ちゃんがもし暴走したりしても心配するのは僕達じゃない、里香ちゃんの方さ。だって、ここには僕と有栖がいるんだからね」
「ふふふ、もし暴れても祓ったりせずにちゃんと鎮めてあげるから安心して?」
そう言われ背中を押される。普通ならこう言われた程度で変わったりはしないのだが、彼らの言葉は別だった。一切の嘘がないというか、自信に溢れているというか、その真っ直ぐな言葉には彼等なら大丈夫だと思わせる力があった。
「わかりました。行ってきます。…行こう、里香ちゃん」
「おーおー、始まったね」
「やっぱり空からだとよく見えるわね。私もどうにかして飛べないかしら」
「最初に見た時からヤバかったけど、アレはその比じゃねーな。近くで相対したらチビりそうだぜ。まあ俺そういう機能ないけど」
「アレはやべぇな…。眼鏡なしでも何か感じれるくらいヤバい」
「しゃけ」
「それで、有栖。もし相手するとなったらどう?」
「とりあえず、今のアレだけなら呪怨反射だけでどうにかなるわ。そこは普通の呪霊と変わらない。後は術式次第ね。六眼で見えない?」
「なんか変な感じなんだよね。常にうつろいでるというか、変幻自在みたいな?けど、とりあえず僕より呪力量は多いね」
「へぇ…。後はそうね、確定ではないけど、いつもの即死だと弾かれそうな気がするわ。流石においそれと試す訳にはいかないから、何故かはわからないけどね」
「その根拠は?」
「勘よ」
「勘かぁ」
真希の言葉使いが男っぽいから、呼び名とかで分かりやすいパンダとおにぎりな棘な今はいいけど恵とかくると分からなくなりそう。
棘のやつは適当、肯定のしゃけと今回は使ってない否定のおかかだけ気をつけてる。