天与呪縛【アリス】   作:[ゆーや]

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改めて

「今回は問題なかったけど、流石に私達がいない時は出さない方が良さそうね。今まで通り乙骨君本人が戦った方がいいわ」

 

無事に任務を終え帰ってきたところで改めて先程の任務のことを思い出す。

呪霊に遭遇した後里香ちゃんを顕現し祓う所までは良かった。他に襲いかかることも無く、祓った後もちゃんと言うことを聞いてくれて戻った。おそらく五条先生達がかなり遠くから見ていたことも功をなしたのだろう。

ただ、今回でも明確な問題が1つあった。

 

「そうですね…。あの場所、とんでもない事になっちゃったし…」

「爆心地みたいだったもんな。周りはボロボロ、クレーターも出来てた」

「アレを見たら確かに特級だな。並の術師じゃどうにもならんだろ」

「しゃけしゃけ」

 

そう、周囲の人的被害ではなく物的被害である。任務が山奥だったから良かったものの、もし街中の廃墟等だったならばとんでもない事になっていただろう。

最低でも大型デパートや学校などの広さが無いと確実に被害が出る。

 

「いやー、ほんと凄かったね。まるで怪獣映画でも見てるみたいだったよ」

「気にしないで、とは言えないけどそこまで重く考えなくてもいいわ。10年くらい前はアレと同規模の被害を毎回のように起こして、挙句の果てには帳を下ろさないままやったようなお馬鹿さんもいた事だし」

 

ねぇ、五条?と威圧感のある笑顔浮かべるアリスに対し冷や汗を書きながら下手な口笛を吹く五条。目こそ包帯で隠されているが、そもそも顔ごと明後日の方向を向いている。

今度は乙骨を含め、全員が何があったか悟った。

 

「うわー。その光景が目に浮かぶわ」

「全くだ。日頃の行いってのは大事なんだなぁ」

「こんぶ…」

「せ、先生、流石にそれはいくらなんでも…」

 

流石に教え子達から一切の擁護なく貶されるのは五条でも心に来たのだろう。

教室の端を向いていじけている。

しかし、もう慣れているのかアリスは五条を無視して話を続ける。

 

「とりあえず、暫くは今までのように訓練していればいいと思うわ。呪力操作は大事なことだからね」

「俺らだといい感じに教えれないんだよなー、それぞれで教えるのはいいんだが、全部一緒にやるとなるとスタイルが合わん」

「私は武具の扱いはいいけど呪力関係が無理だし、棘は特殊だしなぁ」

「たかな」

 

3人は色々と特殊だ。天与呪縛によって呪力を扱えない真希、突然変異呪骸でありそもそも人間ではないパンダ、その相伝の呪言に特化した故に正確な意思疎通が難しい棘。基礎的なことを教えるのが難しい。

となると本来頼るのは担任である五条なのだが、その天才性故に他人に教えることが究極的に向いていない。

 

「そうねぇ。私も特殊だからあまり向いてないし、やっぱり夏油が帰ってくるのを待つのが良さそうかしら。五条、夏油はいつ帰ってくるの?」

「傑ならそろそろ戻ってくるんじゃない?海外は呪術師少ないから早く帰って来れるようにハイペースでこなしてるらしいし」

 

話を振られた五条がいじけから戻り答える。夏油は現在海外出張中だ。

来年美々子と菜々子の担任になる為に今年をどの学年も担当しなかったので、その分海外出張を命じられたのである。

呪術師が少ない海外は夏油としては地獄のようなものだろう。

 

「夏油さんって、確か変な前髪の人ですよね、五条さんと一緒に僕に会いに来た」

「変な前髪って、ブフッ!そ、それであってるぞ」

「アハハ!傑のやつまた変な前髪って思われてやんの!因みに、よく袈裟着てるからもっと面白いよ」

「2人とも、あんまり笑わないの。いえ、私も前髪と袈裟はちょっと思うところもあるけど」

「有栖もフォローする気ねーじゃん!」

 

そう言って笑うのは付き合いの長い3人。乙骨もつられて笑いかけたが、流石に数回しか会ったことない人を本人がいない所で笑うのは失礼だと我慢した。

 

「あー、夏油かぁ…」

「真希さん、どうしたの?」

「いやな、なんか私に対しての態度が微妙なんだよなぁ、あの人」

「あー、傑ってさ、非術師嫌いなんだよ。で、天与呪縛で呪霊が見えない真希もその対象に入ってるわけ」

「けど、禪院での待遇とかを知ってるから純粋に嫌いにもなれないのでしょう。あの子たちとも似てるしね」

 

その内マシになるだろうとは五条とアリス談。逆に被呪者とはいえ呪霊が見え呪力を扱うことの出来る乙骨に関しては何も問題ないだろうとのことだ。

 

「過程とかは全然違うけど、傑も呪霊を使役して戦うからね。相性は悪くないんじゃないかな」

「近接戦もかなり鍛えてるからね、かなり参考になると思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば有栖さん。真希さんが言ってた傷を付けられないってどういう事なんですか?五条先生のは前に聞きましたけど」

「そうね、言葉で説明するより見た方が早いかしら。パンダ、思いっきり殴ってみて頂戴」

「あいわかった」

「え!?ちょっと待って!」

「まあいいから見てろって」

 

そういって止める間もなくいつものパンダの絵が描かれた拳当て?をつけ殴り掛かる。

咄嗟に止めようと身を乗り出した乙骨が見たのは、パンダの拳がアリスの前で止まった光景だ。それはまるで前に見せられた五条の無下限による防御のようだった。

 

「と、止まってる…?」

「ま、こーいうことだ。有栖に物理攻撃とか呪力による攻撃は効かないんだよ」

「それどころか反射されたりするからな、大抵は有栖さんに攻撃したら逆に自分が傷付いて何もされなくても負ける」

「火とか電気とかそういうのは効くから、そういうのを出す術式を持ってれば通るわよ?」

「いや、有栖って数少ないとそれも対応してくるじゃん。基本術式は1つなんだから1人でやるのは複数の式神使ったり傑みたいな増やせる感じじゃないと無理だって」

「よ、よくわからないけど凄いのはわかりました。もしかして里香ちゃんの攻撃も防げるんですか?」

 

それはほとんど確信に近いものだったが、口に出たのは無意識だった。先程改めて感じたばかりの里香ちゃんの力を防げるなんて、言われても中々納得出来るようなことでは無い。

 

「そうね、里香ちゃんも呪霊…呪いの塊だから、私には効かないわ。むしろいつものままだと反射して里香ちゃんが傷付いてしまうわね」

「だから言ったでしょ?心配するのは里香ちゃんの方だって。僕ですら有栖に効く攻撃なんて2つくらいしか無いんだから」

 

改めてそう言われ、そして先程その目で見たことで今度は心の底から納得する。

彼らは里香ちゃんすら上回るような理不尽の権化なのだ。

こんな自分が、自分達が頼っても笑って許してくれるようなそんな存在なのだ。

 

「そういや反射するなら棘とはどうやって会話してるんだ?」

「こんぶ」

「反射じゃなくて吸収するように上書きしてるのよ。無効化するだけだと呪言の性質上反動が行くけれど、全部吸収してしまえばそれも無くなるわ」

「へー、そうなるんだ。僕だと呪言は効かないけど全部棘に反動いっちゃうから無理なんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶり…というほどでもないかな。元気だったかい?」

「あ、夏油さん。お久しぶりです。海外出張に行ってるって聞いてましたけど、終わったんですね」

「ああ、元々海外は呪霊はそんな多くないからね、移動には時間かかるけれど、任務自体は簡単なものさ」

 

そう言って教室を尋ねてきたのは変な前髪をした、件の夏油傑先生だ。

今は普通の服を着ているが、パンダや五条が袈裟を着ている時もあると言っていたのを思い出してしまい少し笑いそうになる。

 

「どうだい?呪術高専は。馴染めてきたかい?」

「あ、はい。パンダ君や狗巻君、真希さんもとても良い人ですし、有栖さんにも会いました。僕も、ここに居ていいんでしょうか」

「ははは、良いに決まってるじゃないか。呪いに対応出来るのは呪術師だけだからね、ここでどうにかしていけばいい」

 

そういう彼の言葉はとても柔らかく、自分の事を思ってくれているのだと簡単に察せるものだ。非術師が嫌いだと聞いていたが、五条やアリスが言っていたように、呪術師相手には優しいのだろう。

 

「さて、早速だが悟と有栖から君のことを頼まれていてね。これから訓練するかい?」

「お、お願いします!」

「そう固くならないでいい。私と君はある程度似ているスタイルだからね、色々と教えられるだろう。まあ、最初は基礎からかな」

 

歩きながら話そう、という言葉に従い教室を出る。

簡単に呪術戦の基礎から式神使いを始めとした使役系での術者の戦い方、そもそもの呪術に関してなど、色々と教わりながらグラウンドを目指す。

 

それは途中からパンダや真希も合流し、1年全員で訓練することとなったのだった。

真希に関しても最初こそどちらもぎこちなかったが、終わる頃には少しマシになっていたのでこちらも時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夏油と乙骨って色々似てるから、敵対関係じゃなければ結構いい感じの関係になれそう。
次はある程度時間を飛ばして進めようかな。

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