お互いに力を見せ合い打ち解けた、と言うよりも五条がアリスへの態度を改める事となった初日の出来事であるが、かと言ってその後何か特別な出来事が起きる訳でもなかった。
しかし特別な事が無いからといって別に親しくならない訳でもない。
まずは同性同士の仲の話だが、そもそもが4人しかおらず、そして男女2人ずつなのだ、同性同士で分かれるのは必然といえた。
特に五条と夏油は毎回のように言い争いに発展し、夜蛾がそれを止めるという光景は今や日常の変わらない風景である。
と言ってもいつの間にかお互いに下の名前で呼び捨て合うようになっていたりと、喧嘩するほど仲がいいと言える様なものであった為アリスと硝子も特に何をする訳でもなくお互いに巻き込まれないようにしながら駄弁るのが日常になっていた。
「あいつらほんと飽きないよな」
「硝子が言ってた様に気が合うんでしょう。あ、もうすぐ夜蛾先生来そうだから煙草は消した方がいいわよ」
とは言っても常に男女で分かれている訳でもない。名家の出である五条が寮生活で色々とはっちゃけたのだろう。色々なゲームの話をしたり、スイーツの話をしたりと子供のように騒がしいし、今まで普通に暮らしていた3人もそのような話題にはこと尽きない。
まあ、デジモンかポケモンかで話が分かれたりもしたが、それは特に詳しく記すようなものでもないだろう。
「なあ、今度桃鉄やらねー?」
「あら、良いわよ?でも私、運も良いのよ?」
「アレは戦略も大事なんだ、運だけで決まるものじゃないよ」
「友情破壊ゲームじゃん、負けても泣くなよ五条」
「はー?そっちこそ俺が泣かせてやんよ」
それにアリスと違い硝子は非戦闘員だ。訓練の時間は最低限の運動をしたり、呪力のコントロールを磨くのが主で場合によっては医療関係の本を読んでいる時もある。
それ故にアリスは五条と夏油と接する時間も多いのだ。
まあ、夏油とアリスの力が相性最悪なことや、夏油が『死んでくれる?』に対しトラウマを発症した事もあり、主に五条や夜蛾を中心としたものであったが。
硝子も訓練自体には参加しないが、訓練による怪我や打ち身を実際に反転術式を使い治療したりといった事がある為打ち解けていった。
8割が夏油、残り2割が術式無しの格闘による五条だと記しておこう。
「いつも悪いね」
「いーんだよ、これが私の仕事なんだし」
「反転術式、本当に凄いわね」
「一切怪我しない奴が言ってるのが何だかなー」
時間がある時は放課後に出かける事も多い。
五条とアリスはスイーツ巡りをしている事が多い。アリスとしては硝子とも来たい様だが、本人があまり甘いものを好んでいないので無理に誘ったりはしていない。
「今度スイーツ食べ放題の店が出来るみたいだしいかね?」
「いいわね、でもそんなスイーツばかり食べてると太るわよ?」
「完璧美少年の俺は太りませーんっと。お前こそ太るぜ」
「私、天与呪縛の影響で太らないのよね」
「…それ、硝子とか歌姫の前で言うのは辞めとけよ、一応」
夏油と五条でも食べ歩きしているらしい。どちらも健全な高校生で、ガタイも大きい。訓練で動く事も多いから食べ足りないのだろう。ついでにゲームセンターに寄って遊んだりもしている。
「悟はまた甘いものかい、有栖とも食べ歩いているんだろう?」
「俺はこの眼のせいで脳が疲れるから甘いもんでいいんだよ。お前こそ揚げ物とかばっかじゃん。体まで油まみれになるんじゃね」
「ハハハ、じゃあ君は糖尿病かな」
アリスと硝子で出かける時は色々だ。街をぶらつくだけの時もあればショッピングに行く時もある。荷物持ちとして夏油が駆り出される事もしばしば、そして3人が出かけるならと五条が勝手に付いてくる事も多い。
「硝子〜、つまんないんだけど〜」
「勝手に付いてきた癖に何言ってんだ。せめて奢れ」
「ひっど。傑は連れていくのになんでさー」
「お前みたいなクズに荷物持ちなんてさせたら荷物がどうなるかわかんないだろ。その点夏油はまだマシだ」
「うーん、これは怒ればいいのかな、それとも照れる?」
「一応褒めてるとは思うわよ。あ、これお願い」
五条はアリスに対しての態度は柔らかい。いや、本来は普通と言える程度なのだが他に対する態度が悪すぎるせいで相対的に柔らかく見えるのだ。
もし前の五条を知るものが見たら目を疑うような光景であろう。
しかしそれは他に対する態度が改善する訳ではない。
そんな五条に関わってボロクソに言われたくは無いのか2年や3年の生徒は1年にあまり関わろうとしてこない。
最初こそアリスと硝子という呪術師には珍しい女性、それも特級や反転術式の使い手に個人的に親しくなろうと近づこうとしていた者はいたが、それもその内いなくなった。
「有栖〜、硝子〜」
そんな中でも、同じ女性である4年、庵歌姫は五条に絡まれようとアリスと硝子と仲良くしていた。
数少ない同性でかつ可愛い後輩だ、五条程度では障害にならない。
「あら、歌姫先輩、こんにちは」
「歌姫先輩じゃん、どーしたのー、任務終わり?」
怪我してない?と聞いてくる健気な後輩に抱きつく。
「任務は問題無かったわ。問題あるのは五条の奴よ!こっちは任務で疲れてるってのに…!有栖〜、どうにかならないの〜?」
「五条、たぶん歌姫先輩弄る…話すの楽しんでるから無理かも」
「あのクズ、悪い事をしてるって1ミリたりとも思ってなさそうだしね」
項垂れる歌姫。出会す度に絡まれ、その度にこんな感じになるのである。まあそんな態度が五条に面白がられて絡まれているのではあるが、どうしようもないのである。
「でもあいつ、有栖と居る時はあんまり絡んでこないのよ?何かあるんじゃないの?」
「私、今のところ1番強いから。五条もあまり頭が上がらないのよ。一応歌姫先輩の事は言ってるから私の前だと一応考えてるんじゃないかしら」
「あー、あいつ反転術式使えないからそれ関係だと私もそんな感じかも」
「…。全く参考にならないわ…」
そうなのだ、自分を慕ってくれてはいるのだがこの2人もあの五条と肩を並べるような存在。2級程度の自分では五条に態度を変えさせる事は出来ないのだろう。
「私、これでも2人しかいない特級だから。まあ五条もその内特級になりそうだけれど」
「あ、特級といえば歌姫先輩、コレ見てくださいよ」
硝子がこちらに見せてくるガラケーの画面を見る。
そこに映っていたのは整った顔を歪めた何とも言えない微妙な表情をした五条の写真だった。
「あはははっ!何コレ!硝子これいつ撮ったの!?」
「あら、これ初日の時のじゃない、いつの間に写真撮ってたの?」
2人に詳しく話を聞くと、初日にアリスと五条が模擬戦した後に改めて行った自己紹介でアリスが特級であると知った五条の表情であるらしい。
歌姫は知らないが、アリスが特級であったこと、その資料を自分が読んでいなかったこと、模擬戦前にアリスが夜蛾の話を遮っていた事を思い出したことや自分で感じたアリスの出鱈目さを改めて突きつけられた結果がその顔であった。
硝子から写真を送ってもらい良いネタが出来たと思った歌姫であるが、アリスに仕返しが来るわよ、と言われ自分の中で笑うだけに留める事にした。
「とりあえず対策は有栖と一緒に居ることしかないのね…」
「うふふ、じゃあまた一緒に出かけましょう?」
「いいね、どこ行く?」
「前は私が着せ替え人形にされたから、今度は私が歌姫先輩を着せ替え人形にしたいわ?」
いいわよね?と見上げてくる有栖に歌姫は頷くしかない。
仕方ないのだ。アリスは西洋人形の様に整った容姿をしており、自分とはあまり縁がないフリフリの洋服が良く映える。小さい故に大人用ほどのレパートリーは無かったが、それでも夢中になるような時間だった。
一緒になって着せ替えていた硝子も自分がされる側に回る可能性に行き着いたのだろう。視線をさ迷わせて、それに気づいたアリスに見つめられていた。
「髪も結べるくらいには長いんだし、その髪型も色々変えてみましょう?きっと可愛くなるわ」
「そ、そこまで拘らなくてもいいのよ?それにショートの硝子はともかく有栖だって髪型変えてないじゃない」
「あら?私は偶にツインテールにしたりしてるわよ?うふふ、楽しみね?」
逃げ場がない。これ以上この話題を続けるとどうなるかわからないと思い硝子を見る。彼女も同じことを思っていたのかアイコンタクトで通じ合い話題を変える。
「ふ、服もいいけどさ、ご飯とかも考えよ?」
「私は2人の好きな所で構わないわ。2人の方が好みとか似通っているでしょう?」
「じゃあ近くにある店調べよっか」
その言葉と共にまた話は盛り上がる。
決して普通とは言えない呪術師であるが、その瞬間の彼女らは確かに普通の女の子だった。
歌姫は高専時代より教師時代の髪型の方が好き。
アリスがツインテールにしてる時はピンクの服を来ている事が多いとか。