呪術高専の生徒は実習、もしくは単に術師としての任務を行う。
基本的に1、2年では複数人で行う事が多いが、その内容はアリスにとっては退屈なものである。
御三家である五条家次期当主の五条悟は幼少期から呪霊を祓っている。懸賞金が掛けられていることもあり呪詛師等も多く撃退しており、特に今更学ぶ様なことも無い。
特級術師であるアリス…節国有栖はその超広範囲に及ぶ必中必殺の即死術により戦闘という戦闘をする必要は無く、またその理不尽とも言える耐性により危険も無い。
故にその任務らは主に夏油に対して経験を積ませる、及び夏油の呪霊操術で取り込ませる事が目的となっている為、アリスがやる事がほとんど無いのだ。
偶に現場の雰囲気に慣れるために硝子が同行することもある為、その時は硝子の護衛のような事をするがそれ自体も常に気を使うようなものでも無い。
「テトラカーンとマカラカーン。はい、これで1回は大丈夫。一応近くにいてね」
「あんがと。でも特にわかんないからこれで安全なの、なんか実感わかないんだよねー」
「発動してからの数秒間、一連の攻撃を全部反射するから安心して」
と、このような気楽なものである。
アリスが暇な理由は幾つか存在する。
まず1つ目はその即死。『はやくしんでよ』によって消費が0になる影響で、その範囲は広大だ。任務を行う建物や橋やトンネル等の建築物、山や森すらも1度で全ての呪霊を一切の物理的被害無く祓うアリスはその力によって任務のエリアに入る必要が無い。アリスにとって任務とはその地に赴くことであって呪霊と戦い祓うものではないのだ。
しかしそれでは同行者…つまり主に夏油に経験が積めない。
2つ目もその即死故。弱らせる事すらなく、万全であろうが瀕死であろうが関係なく即死させるそれは、呪霊操術によって取り込む事が出来なくなる為たとえ接敵したとて即死をばら撒く事はできない。
3つ目、呪怨反射。呪霊の攻撃は一切が届くことなく、全て反射される。調伏する為にも祓わないよう気をつける必要がある故にアリスはダメージを与えすぎないように基本的に攻撃をすることは無く、反射だけで済ましている為歩いているだけなのだ。
あるいは1級の上澄みや特級ならば術式によっては攻撃を与えることが出来るかもしれないが、まだ夏油が同行するような任務ではそのレベルのものは無い。
アリス1人での任務だった場合は遠距離から即死させられるだけであり、結局は変わらない。
これらのことが合わさり、アリスにとって呪霊を祓うだけの任務は1人であるならばその地域へのお出かけ、夏油との合同ならば散歩なのだ。
呪霊にとって攻撃が効かないどころか、自身の知覚より遥かに遠方から与えられる抗いようのない理不尽な死は正に死神とでも言えるものあろう。
アリスは考える。アリスに与えられる任務の数は、学生といえど特級術師という力を使いたい上層部によるものか夏油や他の学生と比べると遥かに多い。
前述の通り、任務自体は一瞬で終わる為それ自体は疲れたりしないのだが、移動は別だ。
移動手段は専ら補助監督の車や電車であり、アリスがこなしている任務の数的に積み重なる移動時間は馬鹿にならない。また、いくら本等で時間を潰し気を紛らわせているとはいえ座りっぱなしかつ揺れる乗り物というのは間違いなく疲労を貯めていく。
故にアリスは働き方改革を進めることにした。
この時代に働き方改革という言葉が無い等のことは考えてはいけない。
とはいえアリスは特級といえど非術師出身の元一般人、だから頼ったのは権力を持つ五条だ。
「ねえ五条、貴方の家のツテとかコネとか権力とか、色々貸してほしいのだけど少し聞いてくれない?」
「ぶっは!何考えてんのか知んねーけどおもしろそーじゃん、聞かせろよ」
ミッションコンプリート!
五条家は五条悟のワンマンであるため、当の本人さえ引き入れてしまえば後は流れるままだ。それにまだ歴が短いとはいえアリスは特級、その特権なども合わせればよほどの事でない限り既に済まされたようなものである。
ひとまずアリスは現状の任務数、任務における実情などを簡単に説明し、何を望んでいるのかを話した。
まず最初に与えられる任務の厳選。
アリスに回される任務を1級以上、2級以下だが既に明確に被害が出ているもの、緊急性のあるもの等条件を限定し、それ以外は請け負わないようにするというもの。
しかしこれだけでは流石に受け入れられる筈がないというのはアリスでも分かる。故に次の話に移る。
任務を厳選する代わりに成すこと。
それは上記のアリスに与えられる1級任務の周辺地域における低級を含めた全ての討伐任務を纏めて熟すというものだ。
単純にいうと、1級任務の為に訪れた地域の任務を全てついでにこなしてあげる!というもの。
それを聞いた五条は爆笑しながら既に色々な面に連絡していたが、アリスは気にせずに話を続ける。
他にも、呪具や呪物の捜索が含まれる場合は捜索専門に他の術師を使う合同任務にすること、緊急性のある任務の場合はある程度周りも祓うがあくまでその任務に集中すること、広域で呪霊を祓った場合次に広域を受け持つまである程度休む期間を空けることなど、五条の意見や参加してきた夏油と硝子の意見も混ぜつつ案を出していく。
本来ならば絶対に通らないどころか、頭の心配をされるようなものであったが、アリスが見つかるきっかけとなった■■市のこと、夜蛾を通じて改めて知らせられたアリスの力のこと、またアリスの任務に付いたことのある補助監督の意見や実際の任務状況などによって、その案は通った。
通ってしまったのである。
上層部としても、自分達の立場を脅かすようなものでも無く、特級術師としての力を今まで通り問題なく振るってくれるようなものであったため特に反対する意見が出なかったのも大きいだろう。
こうしてアリスは定期的に広域即死をばら撒くことで今までとは比べ物にならない自由な時間を手に入れたのだ。
それを後から聞いた夜蛾は相談もせずに勝手なことをしたアリスやそれを手伝った五条を怒ったが、元となる原因が明らかに過剰なアリスの任務数やそれをどうにか出来なかった自分達のせいだと分かっていたので、軽い説教で済まされた。その説教も大人を頼ってくれ、などと言ったものであったが。
因みに、その任務には術式や呪力の出力を強化できる術式を持つ歌姫がサポートとして駆り出され同行する事が多いのだが、それが誰の思惑通りかは…黙っているとしよう。
ある1級任務、呪霊が潜んでいる館に向けていつもの様に『死んでくれる?』を放ったアリスは首を傾げた。
「節国さん、どうしました?」
車から降りてすぐ死んでくれる?を放っていたため、車の中からも見えていた補助監督がいつもと違うその様子に気付き声を掛ける。
いつもなら目的地にたどり着いたらアリスが術式を使い、それで終わりなのだが今回はそうでは無かったらしい。
「館の中に手応えが無かったわ、結界の中にでもいるのでしょう。少し行ってくるから、一応帳をお願い」
「あ、わかりました。お気をつけて」
死んでくれる?を遮断出来るような高度な結界を使うのが相手ならば他の攻撃で貫く事も必要になるかもしれないと考えながら歩く。しかし後ろで帳が降りたのを確認してから館へ入ったアリスが見たものは全く別のものだった。
空中に浮かぶ扉、階段、廊下、明らかに物理法則を無視したものであり、また空間自体も明らかに広い。
「これは…まさか生得領域…?初めて見るわね…」
そう言いながら色々と見て回るアリス。確かに生得領域自体には驚いたが、別にだからといって警戒する様なものでは無いのだ。
むしろそうそう御目にかかれない珍しい現象に夢中だった。
領域の中に主と一緒に潜んでいたのだろう呪霊が空中に浮く扉から飛び出し攻撃してくるが、アリスにとっては気にするようなものではない。
反射によって勝手に消えていくのを眺めながら少し考える。
生得領域という空間の遮断があった為に外からは即死が届かなかったが、中に入った今なら問題なく全て殺す事が出来るだろう。
しかし、それは勿体無いのではないか?
今は誰かが取り残されて命の危険が迫っている訳でもない。あまりに時間をかけすぎると補助監督に心配させることになってしまうだろうが、少しなら大丈夫だろう。
そう結論を出したアリスはゆっくりと領域内を歩き始めた。
特に何事もなく領域の主の元までたどり着いたアリスだが、その内心はとても浮かれている。生得領域という特殊な空間を自身の目で見て、手で触れ、そして肌で感じたアリスには、ある確信があった。
呪術の極致、領域展開。それが今の自分ならば可能であると。
本来であればいくら存在が規格外であるアリスといえど、呪術に対する理解度や熟練度などが圧倒的に不足している為にそんなことは不可能であるはずであった。
しかし、アリスの術式である表出術式。自身の内にあるモノを現実に出す。本来なら役に立たない術式であるが、1つだけ利点があった。
本来であれば術式と全く関係なく1から組み立てる必要のある領域展開、自身の生得領域を現実に表すそれはこと表出術式においてのみ術式の延長線上にあった。
そしてもう1つ、アリスは自身の領域において一切の術式付与をする必要が無いと、領域を展開する事そのものが何よりも力になるとその魂で理解していた。
故に本来であれば必要である必中や必殺の術式を付与しないことにより、現代で普通と言われる領域展開よりも遥かに楽に展開出来るようになる。
件の呪霊に向き直る。
術式はあくまで空間を繋げたりするものだったのだろう。先程から瞬間移動のような事をしているが攻撃自体は物理攻撃や呪力の放出しかしてこなかったため、既に反射によってだいぶ消耗している。
流石にこのまま反射で終わってしまうのはあまりにも可哀想だ。
自分に生得領域を見せてくれた感謝を乗せ、冥土の土産としてアリスはそれを展開した。
領域展開『影映空想界』
「あ、五条、私領域展開出来るようになったから」
「え、は?ちょっと待て、待てって!」
自分で書いていてなんだが死んでくれる?があまりにも無法すぎて笑ってしまう。