極東支部第一部隊のメンバーはまるで氷河期の中にいるような気分であった。
「アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、防衛班に意見したらしいね」
普段、誰にでも優しく陰口を叩かれても放っておき、支部長からの信頼も厚い。
それが第一部隊のメンバーの神薙ユウへの評価であった。時は1時間ほど遡る。
ユウが任務から帰還するとタツミ、ブレンダンの両名からアリサについて相談を受けたのだ。
ユウはベテラン神機使いとしてリンドウと共にアリサの教育係をしている。
これは幼馴染みという事もあるが、知人の方がアドバイスを聞き入れるのではというツバキの采配からだ。
「……ねぇ、ユウ今回は」
「オレーシャ・ユーリエヴナ・バザロヴァ。引っ込んでて貰えるかい?今は僕とアリサの会話だから」
怒気が孕んだその声に幼馴染みのオレーシャすら、引いてしまう。
「……アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、君は防衛出動のさい、民間人の守護よりもアラガミの討伐を優先したと聞いているが、本当かい?」
「はい、それに何の間違いが」
その時だ、パンと乾いた音がエントランスに響いた。普段温厚なユウがアリサの頬を叩いたのだ。
「ベテラン区画の僕の部屋に来るんだ。一対一、君の理論の根本にある理由について話そうか」
「……なんで!」
エレベーターに乗っていく二人を見ていたオレーシャと第一部隊のメンバー。
それだけでなくエントランスに居た全ての人員が驚きを隠せなかった。
そして、コウタが言う事。
「盗み聞きしません?」
「やるか?」
リンドウとコウタが実感の興味から聞きに行く。
そして、ユウの部屋では一対一で会話が行われていた。
「まず、叩いた事は謝ろう。すまない」
「……はい」
アリサ自身、ユウと生活していて叩かられた事など一度もなかった。
常に守ってくれる良き男性なのだ。
「まずだ、君を叩いた理由を君が納得行く方法で説明する。
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ新兵。
君の当時の任務を復唱せよ」
「市民の防衛です」
「では何をした」
「アラガミを討伐しました」
「何故だ」
「アラガミの討伐を優先した方がより、被害を食い止められると思ったからです」
アリサの問に眉間にシワが寄るユウ。
「お前は、何を言っている」
「え」
受けたことのない冷たい言葉にアリサが動揺する。
「あの時、第二防衛ライン、第三防衛ラインときちんと構成されていた。幸い、極東は優秀なゴッドイーターが揃っているからな」
「……そんなの」
「お前は、また俺と同じ子供を作り出す気だったのか」
「違う!」
アリサは知っている、自分の馬鹿な行動の為に死んでいった夫婦。神薙夫妻。
「お前はそういう事だ、タツミさん、ブレンダンさんの活躍で抜けたアラガミは倒せ、被害は最小限で済んだ」
「それなら」
「聞いていたのか?最小限といったんだ」
「避難誘導していた48人の民間人、その中で親子が食われた。オウガテイルに」
「な……」
「君が居れば変わったか?そんなのは判らない、だが、アリサ、君が任務から外れアラガミを討伐していた際、抜けてきたオウガテイルが親子を殺したんだ」
「そんな…私は」
「……黒いヴァジュラ、君の前で僕の両親を喰い殺したな」
「アレは……違う、違うの……ユウ、」
「そうだ、死んだのは二人の落ち度だ。それに、アレは俺のせいだ!でも、俺の左腕は違う。君が、ヴァジュラに怯えた時、食われた。……僕が……俺が何の為にゴッドイーターになったと思ってる!俺は、アリサと、馬鹿な義愚妹と、アレな義姉を守るためにゴッドイーターになった。驚いたよ、ロシア支部に配属されたのは知ってたが、まさか新型にまで……」
「それは」
「君と義愚妹がヴァジュラに襲われたと聞いた時、極東に異動何てしなければ良かったと感じたよ。でも、その時は何とか義愚妹が倒したらしいね」
「………」
「何ができた、ゴッドイーターになって!アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、お前は何の為にゴッドイーターになった!」
「……私は」
「アラガミへの復讐心か?そんなのは捨てろとは言わん!俺だって、黒いヴァジュラに復讐心はある!だがな、復讐心よりも命なんだよ!お前は、ソレを理解してない」
「そんなのは理解してます!私は」
「なら、何故見捨てた!」
「……」
「…言えないか」
「…て……しかった………認めてほしかった!他でもない貴方に!私は、貴方の為にゴッドイーターになった!なのに、貴方はロシアから極東に呼ばれた!私も、私もここにこれて嬉しかった!」
「そんな下らない事のためか!俺に認めてほしい!?ヴァジュラも倒せず、何が認めろだ!」
「!」
アリサはユウのその言葉が決め手となり、部屋から飛び出す。
「……くそ……」
そしてユウは鏡に写った自分の顔を何度も、何度も、殴り続けた。
「……聞くのは不味かったなぁ」
「リンドウさん、あの……」
「コウタ、お前リディア先生と、あの嬢ちゃん呼んでアリサの部屋行かせろ。俺はユウと話す」
「すみません、任せます」
リンドウはユウの部屋に入る。
そして、自身の顔の写った鏡を叩き割るのを見た。
「気が済んだか」
「リンドウさん」
義手が今までユウがどんな戦いをしてきたかを物語る。それほどまでリンドウから見ても痛々しいものだった。
「配給のビール、一本貰うぞ」
「どうぞ」
ソファに座りながらユウを見る。
「お前、さっきの言葉」
「……えぇ、僕の両親はアリサの前で死んでしまった。昔話です。リンドウさんも参加していた、ロシアでのアラガミ殲滅作戦。結局は逃れたあの、黒いヴァジュラが僕たちの住んでいたロシア支部を襲った。アラガミ防壁は破られ、ゴッドイーター達が戦った。当時はまだ第零世代が主流でした。アサルトライフル型の神機で……」
「かくれんぼ、だったか」
「えぇ、アリサが彼女の両親とかくれんぼをしていたんです。僕はアリサを探しに出ました、幸い、両親がフェンリルの技術者なのもあってアラガミの特性とか理解していましたから」
「……」
「挑発フェロモンを遠くに投げて、囮にして探してました。そしたら、リンドウさんに保護されたんです」
「…子供がたった一人でアラガミに怯えずにいたんだ。俺の方が驚いたぞ?」
「えぇ、リンドウさんのお陰でアリサのご両親は無事でした。しかし、アリサを探していた僕の両親が駄目だった」
「……」
「手分けして探していた僕等、運悪くアリサの前で両親が捕食された」
「…お前は、泣かなかったな」
「泣きませんよ、アラガミに喰われる何て日常茶飯事。両親を殺されたのは憎いですけど、その程度」
「お前は………」
「僕は、自分のせいだと泣き叫ぶアリサを慰めました。死んだのは僕のせいだと。僕が殺したと擦り込ませようとしましたが、アリサは理解していた。ずっと謝るアリサを見ていて辛くて!ゴッドイーターになろうと思ったんです」
「そういやお前」
「えぇ、リディアさんは義理の姉。オレーシャは義理の妹になります。彼女達も、実の弟、兄のように思ってくれた。守りたい者が、沢山できました」
「そして、ゴッドイーターか」
「はい、アリサも親の都合でフェンリルの所属でした。僕がゴッドイーターになって1年、ヴァジュラが襲いに来たんです。居合わせたゴッドイーターは僕だけ。スナイパーで何とか戦っていました。そこに、オレーシャとアリサが入ってきてしまった」
「……」
「二人が食べられそうになりました。僕は、自分の左腕を逆に捕食させ、ヴァジュラのコアを撃ち抜いた。この左腕は戒めです、二度と二人にあんな思いはさせない。その誓いなんです」
「お前ねぇ……」
リンドウは自分の部下がここまで拗らせているとは思っていなかった。
愛する者を守りたいのはリンドウも同じだが、ユウはその為になら自分が死ぬことも恐れていない様に見える。
「あー…よし、上官命令だ。お前、一旦頭冷やせ。後で何かしてやるから」
リンドウはそれだけを告げるとビールを飲み干し、部屋を後にした。
「ったく……」
「リンドウか、そんな顔をするのは部隊長になった時以来か」
「姉上…まったく、今の部下は色々と拗らせ過ぎてましてね。危ないと思ってたレンカよりも、ベテランのユウと新型のアリサが危なすぎる」
「アリサは定期的なカウンセリングも必要だが!今回の件の話は聞いている。……リンドウ、任務があるが受けるか。どの部隊に回すか考えていたのだが、お前の部下達ならやれるだろう」
「姉上、ありがとうございます」
「今は、まだ二人が会うべきではない。リンドウ」
「俺がアリサの教育ですね、お任せを」
「ユウは近いうちに尉官となる。部隊指揮の経験は必要だろう」
「新型が勢揃い、優秀な事ですな」
リンドウはそんな軽口を言いながら、翌日、任務を受領した。
ノヴァside
「なぁ、アレ何だ?」
「妹よ、アレは空だ」
「ソラ?」
「空だ」
「ソラって、おいしいか?」
「空は食べられんさ、空は飛ぶものだ」
「とぶ?」
私は居合わせた妹と空を見ていた。
アラガミが跋扈する世界で、変わらない青空を。
「とべたか?」
「飛びたいか?」
空を飛ぼうと何度もジャンプし、腕を羽のようにする。妹よ、それだけでは飛べないぞ?
「とびたい!」
「行くか」
自身に大翼を出現させ、妹を抱き寄せる。
「行くぞ!」
「いくぞー!!」
アホウドリの様に助走を付けて、羽撃きを始めればこの身は空へと駆け上がる。
「とんでる!とんでるぞ!!」
「あぁ、行くぞ!」
落ちないように私の腕を握りしめ、初めて見る風景に笑顔で笑っている。
「キレイだな!」
「そうだ、この星は……キレイだ」
「…ニィ……あれ」
「ニィ……ニィ?!」
一瞬、私のほうが混乱してしまったが妹が指さした方を見ればディアウス・ピターもプリティヴィ・マータが教会を襲っている。
あれを起こすために何人が死んだんだろうな。
「アレ、助けたい」
「……そうだな」
ゴッドイーター達が撤退していく。
人数がおかしいが、新型が何人もいる時点でお察しだ。だが……プリティヴィ・マータの数もおかしい。そう思ったら、壁を壊し道を塞ぎ、プリティヴィ・マータに囮になるゴッドイーターが居る。
原作では居なかったが仕方ないのだろう。妹は教会の中に入っていく。ならば、私は外だ。
「良くやっているさ、極東のゴッドイーター」
神機もボロボロで身体中から血が溢れている。
「久しぶりだな、ヘリの墜落現場以来か」
喋れも、意識もはっきりしていない。
死ぬ間際なのかと理解できる。
「休め、神薙ユウ」
空木レンカside
「もう、サクヤさんとレンカも聞いてくれよ。俺、あれから何回もアリサとユウを仲直りさせようとしたんだよ。でも……」
「今はそっとしておくべきだろ、あの二人は」
「そうね、恋人でも仲違いはするから」
「恋人持ちの二人は言う事違うよな!」
「コウタ!」
軽口を言うコウタの背後にターゲットのヴァジュラが居た。何故か所々結合崩落している。
「お!ターゲットだ!」
「レンカ!援護するわ!」
サクヤさんとコウタの支援を受けながら、俺はヴァジュラの左腹を切り裂く。
「浅い?!」
「エリック!ホーミングを撃て!!僕を気にするな!」
「わかった、戦友!」
「ソーマ!!」
「ちぃ!」
上空からバスターブレードとロングブレードが落ち、最後に弾丸を受けたヴァジュラが沈黙する。
「ユウ?なんで」
「サクヤさんまで……」
「同じ区画に2つの班」
「ちっ…とっととやるぞ」
ターゲットのヴァジュラはまだ残っている。
丁度俺達サクヤさんの班とユウの班で手分けして討伐が終わる。
「偶然か?」
「兎に角、一度」
「お前等、どうして」
「リンドウさん?」
「…何故、3班が」
俺でも判る、何か怪しい。リンドウさんがアリサを連れて教会の内部の探索に入る。俺達6人は警戒だ。
「……ユウ、アリサとは」
「レンカ、リンドウさんからの命令に従うんだ。今は無駄話する余裕はない」
「あぁ」
(こぇぇ……)
コウタが小声で何か話していたが、怖いとかそんなことだろう。
「なぁ、レンカ。大丈夫か?」
「あぁ……なんだ?」
ヴァジュラ種の咆哮が聞こえた。
「不味い……ソーマ!エリック!任せるぞ!」
「ユウ!」
「戦友!」
ユウが教会の中に突入しようとした瞬間、教会の壁が崩れる。
「ちがう……違うの………ユウ……本当に」
「リンドウさん!そっちは!」
「大丈夫だ!ユウ、サクヤは部隊を率いてアナグラに」
「ユウ!コイツラは」
「白いヴァジュラ……」
「リンドウ!大丈夫なの!リンドウ!!」
「サクヤ、配給のビール。取っといてくれよ!」
リンドウさんからの撤退命令、俺はサクヤさんの手を引いて白いヴァジュラ種達から逃げる。
「……サクヤさん、このままじゃ全滅だ。僕が足止めする」
「貴方は」
「部隊の生存が第一だ!エリック、ソーマ、ごめん、アリサが起きたら僕の部屋のデスクを調べるように言って」
「自分で言え、馬鹿野郎」
「終わったらね」
その時だ、ユウが壁を撃った。
天井はないから飛び越えれば良いがその先にはあの白いヴァジュラ種が大量に居る。
「……撤退よ」
俺達はアナグラに帰還した。
ノヴァside
プリティヴィ・マータ4体をたった一人で討伐せしめた男神薙ユウ。
まったく、恐ろしい。
「今は休め」
残ったプリティヴィ・マータのうち数体は私が捕食する。しかし、妹から逃れたのかディアウス・ピターが残ったプリティヴィ・マータを連れて何処かへと消えていく。
「酷い怪我だな、」
私の血を数滴飲ませ回復が早まるようにする。
案外すぐ、捜索隊が来るだろう。
ここでアーク計画に気付いていたのはリンドウのみだ。それに、優秀な新型はかの支部長殿にとっても必要な手駒のはずだから。
「眠れ、神薙ユウ。アラガミから守ってはやれるさ」
妹のオラクル反応が遠のく、あちらはリンドウを連れて何処かに消えたのだろう。
「………まったく、人間は良いものだな」
だからこそ、繋ぐのだ。
進化させるのだ、地球という母と、アラガミという兄弟と共に生きられる世界のために。