顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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※この回は昨日十二時ごろに誤投稿した話です。昨日すぐに読んでいただいた方は一つ前の回を読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします


コン・フォーコ(2)

 見慣れた店内の嗅ぎなれた匂い。

 慣れない事をしてフワフワとした気分は、実家のような安心感の模型店によって急速に落ち着いていく。アルバイト先、ガレージイイダは今日も平和だ。

 時刻は昼過ぎ。

普段は大人ばかりの店内も夏休みだからか保護者に連れられた小学生がチラホラ。

 僕も社交性エンジンをフル回転させ接客に臨む。

 

「なるほど、お子さんがパトカーのプラモを作りたいけれど初めてなんですね。かしこまりました。それではまず、こちらのニッパーがおススメです。小さな手でも握れますし、性能が良いので力を込めずにパーツがカット出来ます。あー、百均のとは全然違いますね。ということでコチラをご覧ください。百均のニッパーで切ったパーツと、こちらのニッパーで切ったパーツです。同じ切り方で試したんですけど、はい、そうなんですよ。どうせ使うならこっちの方が良いかと。あ、はい、ありがとうございます。他には……」

 

 昨今は模型人気もやんわり高まっているらしく工具も多様に出ており、店員としては怪我の心配のない工具が出ているので親御さんたちにおススメしやすく助かる。

 ジルコニアで作られた刃とか、セラミックで作られた刃とかは優秀だ。

 指を容易く切り裂き、うっかり落とせばフローリングに突き刺さるデザインナイフと比べると圧倒的に安全で感動するほど。

 そんなちょいお高い工具たちは特に親御さん受けが良く飛ぶように売れていく。

 

「あ、これなんかおススメです。マジ・スティック。これ、僕も使ってみたんですけどすっごく削れて使いやすいのに。ほら、こんな感じで指が切れたりしないんですよ。刃の強度もあるので長い事使えますし一本買っておくと……。ありがとうございます。ちなみに接着剤なんですけど、そちらよりもこの海外製のやつがおススメで。ちょっと高いんですけど毒性も可燃性も無い……、ありがとうございます。あとは塗装ですか……。んー、確かこのシリーズはシールが入っていたと思うんですけど。あ、なるほど、塗ってみたいと。初めてだとすこーし、んー。真野せんぱーい、ちょっといいですかー」

 

 特に、孫を連れたお爺さんお婆さんが狙い目……いや、良いお客さんだ。自分がセールスマンに向いているのではないかと思うほど売れる。子供達はゲームの方が好きだろうけれど、大人達は手を使った遊びを体験してほしいのだろう。

 そうした人たちにあれこれ説明しつつ商品を売っていると、一時間二時間と時間があっという間に過ぎていき。

 ようやく客足が引いたのは十六時ごろだった。

 

「綾野っち、おつかれー。いやぁ、今日はバカみたいに売れたねー」

「売れましたねー。八月なんで早めのお盆休みの人とかもいるんですかね」

「そーかも。老若男女来るのはこの時期くらいだわ。ふー」

 

 一緒の時間にシフトに入っている真野先輩が肩をコキコキと鳴らす。

 

「肩揉みましょうか」

「気持ちだけ貰っとく。しかしま、きみも接客が上手くなったもんだ」

「真野先輩の真似してるだけですよ」

「そりゃ光栄だ」

 

 真野先輩は僕が冗談を言ったと思ったのか柔らかく微笑むが、僕としては本当に真野先輩を真似しているだけというかラーニングしたというか、真野湊ごっこをしている感じだったりする。僕の社会性、社交性は真野先輩が作り上げたと言っても過言ではない。

 

「あ。そういえば妹がプラモ欲しがってたんだった」

「妹ちゃんかぁ。そういえば前に店来てたっけ」

「あの時買ったやつ、自分で作れて嬉しかったのか玄関に飾ってありますよ」

 

 自分の部屋に飾らずに玄関に飾るあたり、父母にも見て欲しいのだろう。我が妹ながら何とも奥ゆかしいことだ。

 

「気持ちわかるなぁ。次もロボットが欲しいの?」

「いや、スマホにメッセージ届いてたんですけど。速そうなバイク買って来てとだけ」

「難題だ。バイクって大抵速いからね」

「ふふっ、ですね。多分、レースとかに出るフルカウルのやつかなーとは思うんですけど」

「ロボットとか好きだとそっち系だ。デザインだとイタリアの赤い奴とかが定番だけど……」

 

 真野先輩はそう言いながらパパッと棚から幾つかのバイクプラモをピックアップする。

 

「見慣れた定番商品ですけど改めて見るとやっぱりカッコいいですね。んじゃそれ買ってきます」

「そんなあっさり決めていいの? 写真送ったりとか」

「……? 妹にそんな手間かけませんよ。そんな事より真野先輩は僕が作るやつも選んでください」

「え」

「僕もかっこいいの欲しいです」

「はいはい、かしこまり」

 

 恥ずかしながら僕と妹、大概の感性が似通っているから僕がカッコいいと思ったものはエリちゃんもカッコいいと思うはず。買うものはテキトーで良いだろう。

 

「綾野っちさ、来週のワンダフル・カーニバルで買うもの決まった?」

 

 僕用のバイクを選んでくれた真野先輩が来週の予定を口にする。僕と真野先輩が数か月前、なんなら一年前から楽しみにしていたガレージキットの販売イベント。もちろん欲しいものは決まっている。

 

「レッドメモリーのホヘトちゃんと戦車のセット、それにドレスヒイナは欲しいですね。人気のディーラーさんなので当日は他の卓は回れなさそうです」

「その二つ狙うならしょーがないわ」

「万が一、お金が足りなそうだったり列に並び損ねたら別のディーラーさん、ヘラジカエリちゃん出してる所に行こうかなとも思ってますけど」

「ヘラジカ……。それ、まだチェックしてなかったなぁ。というか綾野っち、ほっそりした子が好きだよね」

 

 ほっそり、か。

 我が母リリーが身長もろもろ大きいので、違うタイプを求めているのかもしれない。

 

「あー。性能でしか生徒を見たこと無かったですけど、確かにその傾向があるかも。機能美というか、造形美を感じさせる程よい感じの子が良いですね」

「なるほど。ああ、うんうん。確かに最近は胸ドーン、太ももドーンみたいなキャラが人気だけどそういう観点なら納得の人選だ。昨今は色々とボリュームを求めすぎているかもね」

「真野先輩は何が欲しいんですか」

「レドメモだと体操服ハッスかな」

 

 体操服ハッス。キャラとしてはそれほど使う性能では無いけれどその見た目は――。

 

「胸ドッカーンじゃないですかハッス。昨今は色々とボリュームを求めすぎているかもねって、他ならぬ自分が求めてるじゃないですか」

「これがほんとの万乳淫力ってね」

「え、きも」

 

 血の気が引いた。

 僕の真野先輩が照れ隠しとはいえこんなしょうもないセリフを言うだなんて……。

 

「待って待って待って! 今の無し。綾野っちから向けられる初めての軽蔑の目に耐えられないから。大学生男子ってこんなもんだからっ」

「反転アンチになりそう」

「たった一度の失言じゃん、爆乳のガレージキット買いますって年下の子に言ってると思ったら恥ずかしくて茶化したかったんだよっ」

「お盛ん、ですね」

「ひぃっ、息子のエロ本に理解ある母親の目してるっ」

 

 礼よ……真野先輩も、人の子なのだ。失言もすれば、造形美とは無縁の破壊衝動とすら言えるハッスの度を越した爆乳が好きなのもまた真野先輩なのだ。受け入れてあげなさい……。

 自分に暗示をかけるように語り掛ける。そうだ、僕は真野先輩を崇拝しすぎていたのかもしれない……。

 

「うん、確かに最近の合理的なデザインの車って悪くはないけど面白みも薄いですもんね。クリエイターの真野先輩がそういうのを嫌って昔のアメ車とかが好きって言うのなら、理解できる気がしてきました」

「どうにか理解しようと別ジャンルにまで想像を膨らませてくれてありがとう。今後、爆乳って単語が言葉狩りされたらアメ車って言うようにするね」

「そうして下さい」

「ちなみに対義語は?」

「ステルス戦闘機」

「薄っす」

 

 と、お客さんが来ないのをいい事に二人でふざけていたら、バイトの時間が終わった。

 






真野信仰が落ちた回でした。
いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
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