顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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遭遇

 両親が旅行に出かけて一日。

 自室でぼんやりしていると部屋の扉が開いた。

 

「レー」

 

 自分の名前なのか妹の鳴き声なのか段々と分からなくなってくる呼ばれ方。こうして顔をみるのは一週間ぶりくらいだろうか。もしかして週一で現れる仕組みなのだろうか。オフィスチェアを回転させ振り返る。

 

「なに?」

「……」

 

 無言のまま部屋の扉が閉まる。確かに母の言っていた通り髪が伸びていた。

 僕が切ってもいいけど、そろそろ自分で美容室に行けるようになってくれないだろうか。

 

 ピコン。

 

 オフにしたままだったなぁと通知設定をオンにしてみると。

 早速ピコンピコンと音が鳴る。

 

「SNSからの通知が多いな……。あと吉野さん?」

 そういえばピザを一緒に食べている時にいつの間にか話の流れで連絡先を交換していたのだった。

 あの手腕でスカウトなどをこなしているのかもしれない。

「どうせマリリ案件かな」

 

 ――どうも、ピザパーティぶりの吉野です。ボクから連絡が来たという事で既に警戒しているだろうけれど。お察しの通りマリリ案件なんだ。ほら、綾野君が発案の例の企画があるだろう?

 マリリが綾野君と一緒に企画を進めたいらしいんだ。乗りかかった船だ、手伝って貰えると嬉しい。もちろん、作家代としてそれなりのアルバイト代も出すつもりさ。良い返事を期待しているよ。

 

「はあ」

 

 返事をしないのは失礼だと思う。けれど良い返事をするつもりもない。とはいえおっぱいマウスパッドと邪神像を貰った怨、いや恩もある。さすがに連絡を返さないのも……。

 

「マリリか」

 

 僕にこだわり過ぎじゃないか? やっぱりアイドルやる人って妹しかりなんか変わってる人が多いのかもしれない。

 仮に。

 前の会話で気が合ったと錯覚したとしても執着されるほどの事では無い気がするし。人気者の私を無視するアイツが許せない、的な奴だろうか。まさかな。

 なら一度会って……。

 

「んん」

 

 面倒だ。

 

「断ろ」

 

 スマートフォンを操作し、返信。一分後、吉野さんからの返信が届く。

 

 ――いやあ残念。もっともこうなるとは思っていたけれどね。ボクからしても申し訳ないと思っていたから断ってくれて安心したよ。これでマリリへの義理は果たしたというところかな。

 ま、気が変わったらいつでも連絡してよ。綾野君とはまた会うような気がするんだ。それじゃあ、また近いうちに。

 

「はあ」

 

 大人の気遣いを感じて罪悪感が過ぎる。けれどこれでいい。はず。

 ……正直『貰ったまま』というのは気分が良くないけど。

 マリリと会うのが、怖い。

 

「とりあえず、バイトいこ」

 

 近いうちに、か。

 少しだけ引っかかる言葉だ。

 

・・・

 

 真野先輩は連日のフィギュア製作が祟ったのか体調不良で休み。ガレージイイダには珍しく店長のマノケンさんが居る。エプロンをつけた姿はベテランモデラーの風格だ。

 

「綾野君、湊じゃなくてオジサンでがっかりした?」

 

 真野湊。下の名前かっこよすぎる。

 

「めっちゃがっかりしました」

「およよー」

「にしてもマノケンさんがこの時間に来るなんて珍しいですね」

「忙しかった本業がようやく落ち着いてね。この秘密基地で英気を養うつもり」

「大人って大変なんですね」

「それなりにね。さてと、じゃあ素組でもしよっかな」

 

 レジ裏にある折り畳み椅子を取り出すとマノケンさんは古いプラモデルの組み立てを始めた。

 

「新しい方が出来が良くないですか?」

 

 チラッと見たパーツを見て感想が漏れる。

 

「古いのはパーツが少なくて作りやすいからねー。今のものよりも気軽に楽しめるんだ。もっともガッツリカッコよくしようとすれば手がかかるけど」

 

 プラスチックをニッパーでカットする小気味良い音が聞こえる。

 

「綾野君はそっち作ってちょ。来週発売の新作キット」

「……うわ。シヴァユニット、遂に発売されるんですね」

 

 美少女プラモキットの中でもかなりの大型キット。これのサンプルを組み立てるのは大変そうだ。あまりのパーツの多さに目眩がする。

 

「向こうのスペースは珍しくお客さんいるから、レジやりながらでよろしくー」

「はーい」

 

 たまに現れるお客さんの相手をしながらシヴァユニットを作り続ける。多分、この街のどこを探してもここより楽なアルバイト先は無いだろう。

 

 そうして5時間が過ぎた。

 

「うー。終わったー」

「最新キットはパーツが多くて大変だね、お疲れさん。ブォオオオン」

 

 マノケンさんは完成させたプラモで遊んでいる。いわゆるブンドド。知り合いの大人が目の前でブンドドしていると薄っすらと怖い。

 

「出来ましたけどちょっとゲート処理が雑になっちゃったのが気になります」

 

 もう少し丁寧に作りたかったけれど、発売前にサンプル展示するのも大事な仕事だ。

 ただサンプル作ると欲しいと思っていたキットも作る気無くなるんだよなぁ。

 

「綾野君もモデラーとして目覚め始めたねー。最初はデザインナイフも知らなかったのに」

「ニッパーすら怪しかったですよ」

「ま、サンプルはそんなもんでいいのいいの。素組でどんなもんか見て、後は自分の好きなように塗ったり改造するのがモデラーの腕の見せ所なんだから」

 

 マノケンさんはそう言うものの、どうせ次のバイトも暇だろうからその時シヴァユニットの仕上げをしよう。

 

「さて。頑張った綾野君にプレゼント」

「なんですか急に」

 

 重みのある紙袋を渡される。

 

「湊が渡してってさ」

「……おお、これは!」

 

 マリリフィギュアの複製品だ!

 

「綾野君は相変わらず嬉しそうな顔するなぁ」

 

 色は乳白色一色で結構な数のパーツが梱包されている。

 

「ガレージキットだね。あと伝言だけど、パーツの組み合わせにはネオジム磁石を使うべし、種類はオジサンに聞いて。という事だったんでコチラにネオジム磁石を用意してあります」

「ありがとうございます!」

 

 しかしマノケンさんは笑みを浮かべるだけで磁石をくれない。

 

「……」

 

 用意してあるだけのパターン。

 アルバイトで稼いだ金をアルバイト先で使うやつ。

 

「給料から引いといてください」

「まいどー」

「どうも。ところでこれって――」

 

 組み立てに関する質問をしながら閉店作業をこなす。何度か真野先輩特製ガレキは作った事があるとはいえ学ぶことはまだまだ多い。塗装に関しては分からない事も多いし。

 にしても今日は特に疲れた。流石に大型キットを一気につくるのは一苦労だ。

 

「それじゃあお疲れさまでした」

「お疲れー、気を付けて帰ってね」

 

 マノケンさんに見送られ店を出る。

 カツンカツンと階段を下りて。

 

「あ。もう閉店なの?」

 

 目の前に美少女が現れた。

 

「……オールデイ、ジャパンキャップ。だと」

 

 高そうな生地のパーカーだとか、キュロットスカートから覗く細い足だとか、艶やかなショートカットだとか、綺麗な目をしているな、とか。そういった彼女を美少女と認識できるアイコンよりも。

 

 彼女が被っているオールデイジャパンキャップが気になってしょうがない。

 

「めざといなー。にしても閉店とは残念。出直すかな。これからスタジオ生配信だし」

 

 どこかで聞いた事のある声をした美少女は、自分がかぶっていたキャップを僕にポスンと乗せた。

 

「え、これ」

「いじわるしてゴメンねって事で。でも先にやったのはそっちなんだぞ?」

 

 彼女はそう言うとトトッと離れて行き、高級そうな車の後部ドアを開けた。

 

「なんだ?」

 

 ふと運転席を見れば見慣れた男。たしか、吉野さん。こちらに手を振っている。視線を美少女の方へと向ければ。

 

「じゃーね。アヤノン、また今度かまってあげるっ」

「あ、大丈夫です」

「……」

 

 バタンッ! とドアが閉まり、車は去って行った。

 

「アヤノン、か」

 

 そう呼ばれた事は一度しかない。

 いや、一人からしか呼ばれたことが無い。

 マリリの中身、声帯、内臓。それがさっきの子、だろうか。いや。マリリについて深くは考えまい。なんかすごい面倒臭そうな人間の気配がしたし。

 

「あ」

 

 そういえばアルバイト先の話をしたような……。そもそもあの尋問会場に行ってしまった後悔が迸って来た。

 

 うん。忘れよう!

 え、というかマリリってだれだっけ? 真野フィギュアの二次創作?

 

「と、いうか」

 

 これが、オールデイジャパンキャップ!

 

 おお……。

 いささか美少女Mの残り香が付着しているものの真新しいキャップは憧れの一品だ。

 正直なところ自分の力で手に入れたいものではあったけれど、それはそれとして。

 やったあ!

 そんな最高の気分で帰宅した僕を迎えたのは、面倒事を抱えた顔の妹だった。

 

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