顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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 教会で清廉と合同練習を始めてから三日が経過した木曜日の夕方。

 星野さんを交えた三人で三葉音楽スクール練習スタジオに集まり――。

 

「っ、いいぞ、そのまま音に乗ってけ!」

「集中切らさずいきなさいっ!」

 

 ベース二人に同時に喝を入れられながらスネアハイタムロータムフロア、それぞれ三回づつ叩いて――。

 ジャーンッ、と左側のクラッシュシンバルを鳴らし――。

 本日十回目の演奏終了。額からポタポタと汗が落ちる。

 半袖シャツに短パンの星野さんも、ジャージ姿の清廉にも汗が滲んでおり、自分たちの身体から出る熱量にエアコンの冷却が追い付いていない。

 

「ふぅ……はぁ、ちょっと、二人とも……」

「どした」

「なによ」

「アドバイス、有難いけど、一人ずつ喋ってくれ」

 

 星野さんと清廉、どちらもかなり熱心に僕に声を掛けてくるのだけれど。さすがに二人同じ様なタイミングで口を出されると、集中がそがれる……。

 

「悪い、綾野クンここ何日かで良くなってたからオレも気合入っちゃって」

「贅沢言ってないで叩きなさいよ。昨日注意したとこ、まだ駄目よ?」

 

 飴と鞭の間隔が狭い。

 タオルで汗を拭いている間にもあれこれと言われ続ける……。

 

「いやでもほんと、綾野クンもしかして才能あるんじゃない?」

「無いわよ。ろくに寝ないでずっと叩いているだけ」

「えー、寝ないと体力もたないよ?」

「あたしもそう言ってるのに、なんかずっとスティック振ってるのよ」

「そうなの綾野クン?」

「そうなのよ」

「……せーれん、星野さんは僕に話しかけてるから」

「あら。気づかなかった」

 

 僕のお喋りターンを強奪してまで清廉が星野さんと喋りたがっている。

 

「というかさ。あたしたち、この曲さんざん練習してるけど。曲名は? そろそろ仮曲じゃなくて正式な呼び名が欲しいんだけど」

 

 清廉の一言に、星野さんと目が合う。

 そう言えば昨日の夜、星野さんに『曲名どうしよっか? 綾野クン決めちゃってくんない? グンナイっ』とメッセージを貰ったので考えてみたのだ。

 

「――ハレーション」

 

 強い光が当たった部分が白くぼやける現象。

 いつだったか写真を撮影していた父親に教えてもらったカメラ用語だ。

 教会で歌っている清廉の姿、そして、僕にとっての強烈な光を思っての曲名。

 

「ハレーションって、曲名なのね?」

「そういう現象があってさ。それにハレとレーでちょうど良いから」

「あたしっ! あたしの名前が入って無いんですけど!」

「作曲と作詞から取っただけじゃん」

「あたしもどっか入れなさいよ。せいれー、はれん、はれぴみうれ……全然隙間がない……」

 

 清廉が不満そうに僕を見るが。

 

「ま。仕方ないか。綾野の詩だもの、あんたを尊重してあげる」

 

 思ったより早く折れた。

 

「というか、あたし達、バンド名も決めてないじゃない。そっちの方が一大事よ」

「あ」

 

 僕と星野さんの声が重なる。その部分はまったく気にしていなかった。

 

「じゃあそこはせーれんが決めなよ」

「そうしよ、清廉ちゃんの決めた名前なら文句言わないからさ」

「あたしが……?」

 

 清廉がベースの弦にボンボンと触れつつ考えだす。そして。

 

「ハッピー……いや、ふわふわ、違うわね。もっとこう……楽しそうな雰囲気の。ふわもこ?」

「せーれん、男二人もいること忘れないでよ?」

「片方おっさんだからね」

「さっそく文句言ってるじゃない。あたし名付けるの苦手なのよ、パワプロでオリジナル選手の名前つけるのも苦手だし……。スターレイ……じゃ、またあたしが入らない」

 

 清廉、パワプロでオリジナル選手まで育成してるんだ……。

 

「よし。綾野、あんたつけなさい。あたしが判定を下すわ」

「えー」

 

 バンド名なんて考えてもどうせ一回限りだしなぁ。あんまり凝ったもの考えても……。

 

「じゃあ清廉が好きな楽しそうな雰囲気がありつつ、八月で終わるバンドだから……。

星野ラストリゾート」

「ぶふっ」

 

 給水中の星野さんが噴き出す。

 

「綾野クン、既にあるよ、星野とリゾートの組み合わせ」

「ラストついてるじゃないですか」

「いやいや、ね。清廉ちゃんもおかしいと思うよね?」

「……星野ラストリゾートのボーカル、清廉未羽です。星野、……未羽です」

「清廉ちゃん?」

 

 清廉が口の中でボソボソと反芻している。

 

「よし。採用。綾野の案でいくわ」

「え」

「あたしたちは、星野ラストリゾートよ!」

 

 バンド名が決定した。

 

・・・

 

 三時間の練習を終え。

 三葉音楽スクール近くの街路樹前に三人で集まると。

 

「えーと、ですね。ここで星野ラストリゾートのメンバーにご報告がございます」

 

 ごほん、とわざとらしく改まった様子で星野さんが僕と清廉二人の前に立つ。

 

「もう二曲、追加です」

「は」

「え」

 

僕らのリーダーと言っても過言でない男からそんな事を言われた。

 

「ここ来る前、ちょっとライブハウスのおっちゃんと話したんだけど。オレらが出る時間帯が夕方なんだけど。一曲だけ歌って終わりってのは、ビミョーって言われてさ」

「……」

「……」

 

 あと二週間。あと二週間で二曲?

 

「あと二週間で綾野はぜったい一曲分は仕上げるけど、追加で二曲なんて無理よ」

「ま、そこは考えてる。というか、前にも言ったけどオレが作るドラムの音ってそう複雑じゃないから、綾野クンなら大丈夫。二週間も経たずにこんだけ叩けてるんだから、二週間後はもっといけるはず」

「だめよ、こいつがどんだけ一生懸命やってると思うの。それでもう二曲追加なんて」

 

 一緒に練習している仲だからか、清廉が僕を庇っている。

 

「せーれん、とりあえずもう少し聞いてみよ。星野さんも、無理を言う人じゃ無いと思うよ」

「言ってるじゃないっ」

「せーれん」

「…………わかった、負担の大きいあんたが言うならもう少し聞くわ」

 

 ドラムを始めて二週間ほどの僕に期待をされるのも困るけれど、ドラムを初めて二週間ほどの僕ですら分かる事がある。

 それは、星野さんの作る『ドラム用の楽譜』はホントに簡単だ、という事。

 逆にベースとボーカルの難易度は異様に高い。

 僕らの曲ハレーションもそれは同じで、二本のベースが独立して音を奏で、要所要所で同じ音を重ねるというシンプルなようで複雑な譜面だ。

 楽譜は音楽の授業で習ったレベルでしか読めないけれど、清廉に見せてもらったベースの楽譜のオタマジャクシの多さには目眩がしたほどだ。

本当に負担が大きいのは、清廉に他ならない。

 

「今まで恥ずかしくてあんま聞かなかったけどさ、清廉ちゃんはオレの、ハレPとレクチルの曲知ってるっしょ?」

「全曲憶えてるわ」

「さ、さんきゅー。で、綾野クンも無貌の星は、聴いてくれたんだよな?」

「はい。一日一回くらいは聴いてます」

「そ、そっか。そんだけ聞いてくれてるなら話は早い。セトリは決めてある。一曲目は無貌の星でいく」

 

 ――無貌の星。高架下で初めて聞いた星野さんの曲。

 星野さんの代表曲って言ってもいいはずだ。それを、一曲目?

 

「星野さんの、無貌の星がトリじゃなくていいんですか」

「気、遣わなくていーよ。というかオレのこれまでと、綾野クンのこれまでを注ぎ込んだ曲。それを清廉ちゃんが歌ってくれんだ。正直、ハレーションはメジャーでだって勝負できる曲だと思ってる」

 

 セトリ……セットリスト。ライブの曲順の事だったと思う。長くバンドをやってきた星野さんが決めた事なら文句は無いけれど。僕のドラムでは力不足だ。そこだけが残念でならない。

 

「三曲って言ってなかった? 無貌にハレーション。レクチルにもハレピにもこれ以上に強い曲ないでしょ」

「ハッキリ言うなぁ清廉ちゃん。でも、その通り。良さげな三曲目は今はまだ無い」

「?」

 

 僕と清廉に疑問符が浮かぶ。

 

「今回のライブ、だいたい三曲分の時間を貰ってる。オレは一曲のつもりだったけどライブハウスのおっちゃん、というかオーナーに『下手な演奏したら途中で帰らせるけどよ。どーせ来るなら三曲やってけ』なんて言われてさ。ふと思ったのよ。メジャーデビュー目指してる訳じゃ無いんだ。やるだけやってみるのも悪くないなって」

 

 星野さんの視線が僕らに向けられる。

 

「オレの無貌の星、綾野クンのハレーション、と来たらもう一人。自分の気持ち吐き出せてないヤツいるよな?」

 

 なるほど。そんな理由なら三曲やるのは悪くない。ライブが上手くいくに越したことは無いけれど――。

 星野さん、そして僕の視線を受けて清廉が固まる。

 

「え、でも、あたし。あたしの曲、あんた達にさんざん笑われたし、正直自分でも二人のと比べるとそんなに良いものとも思えないというか若気の至りと言うか」

「んなことないよ。オレ思うんだけど――」

「わかったわ!」

「え」

「ハレピがそんなにお望みなら書き下ろしてあげる。実は二曲くらい思いついてはいたの! すぐに出来るわっ!」

 

 ハレピなにか良い事言いそうな雰囲気だったじゃん。

 なんで推しのカッコいいとこ見るまで自分の気持ち我慢できないんだ。ハレピに一曲求められた光が強すぎてハレピ本人が見えなくなっちゃってるよ。

 

「あ、うん、そっか、じゃあよろしく……」

 

 ほら、星野さん恥ずかしそうに頭ポリポリ掻いてるじゃん。

 

「綾野はドラム、星野がベース、あたしがホイッスルとベースとボーカル……ああ神曲がうまれそうっ」

 

 どうか、演奏していて恥ずかしい気分になる曲ではありませんように。

 名曲女子中学生日記からは進化していますように。

 そんなこんなで、段々と、終わりが近づいて来た。

 

 





 ということで星野ラストリゾートが爆誕しました。

 いつもたくさんのコメント、評価、誤字修正していただきありがとうございます!
 感謝!
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