顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい 作:hikari kawa
「と言う事で、ですね。すみません星野さん。星野ラストリゾートは営業終了です」
「まだプレオープンもしてないのに……」
清廉と話した後、すぐに星野さんに連絡したところ。
十八時にフレッシュ・リュカ・バーガーの二階席に集まる事となり――。事務所名等は伏せつつ極力公平な目線でアレコレを説明したところ、青い花柄のシャツを着崩した星野さんは深く長い溜息を吐き……。
「言い方はともかく、綾野クンは悪くないよ」
そう、言ってくれた。
清廉には『上手く言っておく』と言ったものの、あれは結果的に嘘となってしまった。
最初は清廉に言った通りの『説明』をしたものの、星野さんに『ほんとのこと、言ってみ?』と言われてしまったので、洗いざらい白状してしまい今に至る。
「でも、せっかく曲まで作ったのに」
「いやいや、急造バンドなのに二人ともモチベーション高くて上手く行き過ぎてたまである。それに、綾野クンは筋を通しただけで清廉ちゃんは、そうしなかった。そうだろ?」
「でも清廉は」
「待ちなさいな。キミが庇うと訳わかんなくなっちゃうでしょ。清廉ちゃんのこと好きすぎ。それに、ライブはオレ達二人で出れば良いじゃん」
「え?」
「オレ、今の清廉ちゃんと出る気無いよ? 本人から何かしら言ってくるまではお節介する気も無い。あのキャラも歌声もベースも惜しいけど、べつに歌に関してはオレが歌ってもいいし綾野クンが歌ってもいい訳じゃん。なんなら二人で歌っても面白い。ツーピースバンドだって悪くないだろ?」
「いやでも」
「さーて高校生、民主政治の原則はなーんだ?」
突然始まるクイズ。
「……多数決の原則」
「たぶん正解。ま、オレらの場合は一人を追い出すというより、豪華客船から二人漕ぎおんぼろボートに移るみたいな感じだけどさ」
言い得て妙だと感心する。
そして、豪華客船に一人取り残された清廉を思うと罪悪感が湧いてくる。
あれで寂しがりなはずだ。むしゃくしゃしてベースかき鳴らす元気が残っていればいいけれど、ベッドで天井眺めていたりしたら心苦しい。言いたいことは言い切ったものの、
優れた言い方では無かったのは間違いない。
「んー、しゃあない。ちょっと待ってな。こーいう時やるコトは一つなのよ」
溜息を漏らす僕を眺めていた星野さんはそう言うとスマートフォンをタップ。どこかに電話を掛けた。
「よっす。今日の予定変更のお知らせです。いや、いやいや、オレが練習サボるヤツじゃないのはお前がよーく知ってるだろ? じゃなくてさ、お前の弟子のために一肌脱いでくれや。……お、話が早いじゃん。うちの店にドラトラ持って来てちょっ」
「……?」
しばらく通話していた星野さんを見つつ、ソイプロテインラテを飲む。
「ほーい、じゃあ一時間後にまた……。え? いや、会ってけよ……ハズい? はぁ」
星野さんはスマートフォンの画面にトンとタップし通話を終了した。
そして、楽しそうな、ワクワクしているような目で僕を見ると――。
「さっ、綾野クン。なんと星野ラストリゾート初の路上ライブが決定しました!」
晴れ晴れしい声と共に、そう告げた。
・・・
パラパラと降っていたはずの雨が止み、僕は大きなキャスター付きの大きな長方形の黒いケースを引いて歩道を歩く。
黒いケースの中身はドラトラ。ドラムトラベラーマークⅡの略で、個人で持ち運べるドラムだとか。星野さんの知り合いがフレッシュ・リュカ・バーガー前まで持って来てくれたらしいのだが、顔を見てお礼を言う前に去っていってしまった。
星野さん曰く『シャイなヤツ』らしい。
僕の隣ではベースを背負い小型アンプを持った星野さんが機嫌良さそうに鼻歌を鳴らしている。てっきりこの後もアルバイトかと思っていれば、今日の星野さんはこれからスタジオで練習するつもりだったとか。
「路上ライブって、あの高架下でやるんじゃないんですか?」
僕の中で路上ライブと言えばあそこなのだが、予想に反してどんどん人通りが多い方に進んでいる。
「あれはさ、自分でもどうかと思って反省してるのよ。どうせやるなら人目のあるところでやれば良いのに妙な見栄というかなんというか。たはは」
星野さんは自分に呆れるような苦笑い。
「なので、今回はその反省を活かそうかなと」
「前に妹が観ていたバンドアニメで許可とらず路上ライブしてる二人組が警察に注意されるシーンあったんですけど。許可って取ってます?」
「一曲さっと歌ってサっと帰ります」
「ドラム、サっと帰れます?」
「……」
「おーい」
どう考えても撤収に五分くらいかかるだろ。
「いや大丈夫。ちょいと注意されるだけだから。で、なおかつチケット売れれば売っちゃう」
「チケット?」
「バンドアニメ見たならさ、チケット売ってる描写なかった? チケットノルマ。バンドマンの宿命よこれ」
星野さんはリュックのサイドポケットから随分と分厚い長財布を取り出した。
「お金持ちですね」
「ふふふ、これは札束ではなくて全てチケットなのだ。一枚二千円、計三十枚」
「……じゃあ三人……いや、二人だとしたら一人三万円ですか」
「いやそこはさ。オレに持たせてほしい。なんせこれでも年長者あっ」
とりあえず長財布から十枚ほどチケットを引き抜く。アンジェと柚乃さんと、あ、ダメだ。あの霊感女は先月の無断旅行が母親にバレて夏休みの間夜間外出禁止令を喰らったんだった。
ま、もしもの場合は一枚二万円でも買ってくれそうな知り合い居るし大丈夫だな。
「綾野クンさ、一言いい?」
「なんです」
「ありがとぉっ助かったああ!」
「ふっ、いや、ふふ、キツイなら最初から言ってくださいよ」
何を言うかと思えば熱烈感謝で笑ってしまう。
「カッコつけたいじゃん。これでも一応大人だから六万は払えるんだよ? でも、絶妙に高いじゃん。しかも三十枚ってさ。ふつうは二十とかなのに。テスト無しで枠開ける代わりにプラス十枚ってさ、あのオヤジ酷いよねっ?」
あのオヤジとは、恐らくライブハウスのオーナーの事だろう。
「そっちの事情は知らないですけど。なら、テスト受ければ良かったじゃないですか」
「テスト先週よ? さすがに先週じゃ綾野クンが自信持って叩けないでしょ」
「今も叩けませんけど……。たしかに、先週じゃあ……なるほど」
世知辛い。
さっきまで弊バンドのボーカルの事で埋まっていた頭に『¥』が入り込んじゃったよ。
楽器用意して、練習スタジオ借りて、ライブの度にお金かかって。音楽ってかなり贅沢な趣味なんだなぁ。
「一応知り合いにお願いすれば捌ける枚数ではあるけど。でもさ、どーせなら直接歌聞かせて興味持ってくれた人に売ろうぜ?」
「星野さん、たまーにカッコいいこと言いますよね」
「だろ?」
そうこう言いつつ、僕の良く知る塾の最寄り駅まで辿り着く。
雨が止んでいるからか人はチラホラ居て、なんなら同じ年頃の学生も通りがかる。僕らは駅の地下に続く階段の横で準備をして……今更ながら緊張してきた。
「ドラトラ、ちょっと欲しくなったんじゃない?」
いたって普段通りの星野さんはベースを取り出すと、ケーブル……いや、シールドをベースとアンプに突き刺した。ドラムと違って準備がスマートで羨ましい。
「ちょっと欲しいかもです。電子ドラムも良いですけど、ドラムが直に響く音はやっぱり別物なんで」
「そんな好きになってくれたんなら、あっさりバンド抜けるとかドラム辞めるとか言わないでくれよ」
「……はい」
スティックを握りドラムスローンに座ると、星野さんにトンと背中を押される。
「緊張もさ、誰かに自分達の作った音楽聞いてもらえると思えば吹き飛ぶんだぜ? それでも緊張するのは今の自分の出せる音以上のものを見せたいって見栄を張るからだ。真剣な気持ちで、今の精一杯を見せつけてやろう。ボロ船だって、あんがい良いとこ行くかもよ?」
星野さんは一歩前に出ると、力強くベースをバーンと鳴らし注意の目を引いた後。
何度も見た僕からしても惚れ惚れするベース捌きで通行人を観客に変えていく。
中学か高校の制服を着ていたり、大学生っぽい人が足を止めてくれるけれど、中には仕事帰りのサラリーマンも足を止めてくれて――。
星野さんの腕前は、ホンモノだった。
なんで、辞めちゃうんだろうな。ほんと……。
いまだ厚い雲の残る空を見上げ息を吐きだすと、振り返った星野さんと目が合い、頷く。ここまで来たら、やるしかないな。
「みなさーん! 初めまして! 星野ラストリゾートって言いますっ」
星野さんが堂々と高らかにバンド名を宣言する。
「せっかく集まって貰いましたが、披露するのは一曲だけっ、だって警察来ちゃうからっ」
星野さんの声色と冗談にクスクスと小さな笑い声が起こる。
「でも――後悔させません。作曲、オレ。作詞、ドラム。ボーカルはケンカ中なので今日は二人で歌いますっ聞いてください、ハレーション!」
なんども練習でやった動作なのに、気持ちが重い。
ドラマチックに清廉が駆け寄って来る様子も無い。
不慣れなドラムに加えてコーラスもか。笑いが起きたら泣けそうだ。
でも。
星野さんにアイコンタクトを送り、スティックを鳴らす。
――まだ、終わりじゃない。バンドもドラムも友達も、あっさり捨てられるほど軽いものじゃなかった。だからこそ今、心臓が高鳴っている。あの歌声がなくとも、三人で演奏できることが楽しみだったんだ。
「っ」
さあ。全てぶつけて、明日に繋げよう。
お口直しできましたでしょうか。
いつもたくさんのコメント、評価、誤字修正していただきありがとうございます!
感謝!