顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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言わぬが花

 

 ゴールデンウィーク最終日。

 

 ラジオを聞きながらマリリフィギュアのパーツを紙ヤスリで磨いたり、ラジオを聞きながらレトロゲームハードを眺めたり、ラジオを聞きながら勉強してみたりと、家での時間はかなり充実していた連休もついに終わろうとしている。

 

 一日だけ小林と大場と川釣りに行ったりしたのも良い思い出だ。

 今時の高校生が川で釣り、というのもなんだか笑ってしまうけれど。一年生の頃に大場と知り合ってからやり始めた川釣りは何だかんだ面白い。

 一度、大場になんで僕を誘ったのかと聞いたが、肌が白くて無表情で無趣味そうだったから、なんとなく試しに誘ってみたとの事だった。人を何だと思っているんだ。

 

 まあ、インドア趣味ばかりだったからか、山とか川の近くに遊びに行くだけで楽しいのは確かだ。夏休みにはキャンプでも行こうかという話も出ているし、ここらで自分用の釣竿を買ってみようかな。いつまでも大場のお古を借りるというのも悪いし。

 

 ほんと、僕を誘うなんて変な奴らだ。

 

 そんな事を考えながらリビングのソファに寝転んでいると真野先輩から着信があった。

 

「もしもし、お疲れー。悪いんだけど今日ってバイトこれる?」

「えー。何かありました?」

「おじさんが急に仕事が入ったみたいで、あ、本業の方ね。それで今日中に作っておきたいサンプルがまだ終わって無くてさー。ちょっと手伝いに来てくれないかなという相談です」

 

 面倒くさいなぁ。

 とはいえ。

 真野先輩には日頃から大いにお世話になっている上にマリリフィギュアまでタダで貰ってしまっている。これは非常に大きな借り、バイト一回二回で返せるものでもないわけで。

 

 というか面倒とはいえ、真野先輩が困っているのなら断る選択肢は無い。

 

「わかりました。三十分くらいで行きます」

「ほんと? 助かるー」

 

 そこから一言二言交わして通話を切る。

 連休最終日のアルバイトかぁ……。

 手早く身支度を整え、クロスバイクに跨りガレージイイダへ向かう。

 日が陰り気温が下がった街中は少しだけ肌寒い。道路の反対側に居た警官を見てライトを点灯していなかった事に気が付く。道交法は守らなくては。

 

「よっと」

 

 ポチリとライトのスイッチを入れてアスファルトを照らし、信号をしっかりと確認しながら再びペダルを漕ぎだす。

 なんとなくママチャリから卒業したくなった高一の夏、アルバイト代で買ってみたクロスバイクだがこれが思ったよりも乗っていて気持ちが良い。

 

 妹曰く「でた、収集へき」との事だが。

 

 コレに関して言えば買って良かったものの一つだ。手に入れてしまうと飽きてしまう性分ではあるものの、こうして日常的に使えるものにアルバイト代をつぎ込むというのは有意義なのかもしれない。フォルムが気に入っただけで買ったレトロゲームハード、遊んだ事ないやつあるもんな……。

 

 そんな事を考えながらペダルを漕ぐこと十数分、ようやくガレージイイダに到着。

 

「あの車、どこかで」

 

 道路の路肩には見覚えのある高そうな車が停まっていた。

 別にナンバーを確認したわけでもない。高級車とはいえ一般販売されている車種だ。

 

 けれど。

 

「んー」

 

 嫌な予感がする。

 一歩、二歩と雑居ビル二階へと向かう。そして。

 

「やっほーアヤノン、お邪魔してるよ」

 

 謎の美少女Mが現れた。

 大きなシルエットのロングトレーナーを着た彼女は親し気に僕を出迎えた。

 

「えっと、いらっしゃいませ」

「うん。いらっしゃってます。アヤノン来るって言うから待ってたんだー」

「それは、どうも」

 

 相変わらずキラキラとした美少女っぷり。妹とは違う現実的な可愛さは若手女優やアイドルだと言われても信じてしまうほどだ。

 

「あれ、見惚れてる?」

「ん? まあ、はい」

 

 そう言うと美少女Mは満足気に笑みを浮かべ頷いている。

 そんなMから視線を逸らして店内を見るとレジの付近で話し込んでいる男二人が見えた。

 一人は真野先輩。そしてもう一人が吉野さん。ペイントパレットのマネージャーが何を話しているのだろう。

 

「お、綾野っち。助かるよー。とりあえずエプロン着たらソコのやつ作ってくり」

 やや疲れた表情の真野先輩がボクに声をかける。真野先輩には健やかに生きて欲しいのであとで栄養ドリンクでも差し入れようかなと思いつつ指示されたブツを発見。

 三つほどのプラモの箱が積まれている。ニューグレードという初心者でも作りやすい規格のロボットプラモ。急げば閉店までには作れそうだけど。

 

「やあ綾野くん。久しぶり。凄いねーこのマリリフィギュア。ぜひ商品化したいなあ」

「なるほど」

 

 彩色済みのマリリフィギュアは抜群のクオリティだ。

 そして吉野さんが居る理由には納得。

 

「ぜひ商品化お願いします」

 

 真野先輩はさほど商品化に興味は無さそうだが、褒められている事は嬉しいらしい。個人的にはぜひ商品化してほしいところだが、そのあたりは先輩が決める事だろう。いや、でもチャンスがあれば僕も何かしら応援したい。

 やや後ろ髪惹かれながらバックヤードでエプロンを身に着ける。

 

「今日は作業スペースでサクサクやっちゃって。どうせお客さんいないし。レジは任せて」

「オッケーです」

 

 店内奥に設置されたプラモ製作スペース。

 ほぼ利用者が居ない知る人ぞ知る場所だがマノケンさんのこだわりで一応設置されている。

 確かにレジで作るよりもスペースが大きい分、プラモが作りやすいか。

 エプロンのポケットにニッパーとデザインナイフを入れてプラモの箱を作業スペースに持っていく。

 出来ればバックヤードで組み立てるのが一番だけれど、さっき見たところ非常に散らかっていた。誰かが作業中なのだろう。

 

「へー。そういうのってお店で組み立てるんだ」

 

 美少女Mが付いてくる。

 

「お出口、向こうとなっております」

「ひどー。こんな超絶美少女が親し気に話してあげてるっていうのに。なにそれ、照れ隠し? 若さゆえの『オレ、女子とかキョーミねーし』みたいな。あ、椅子ある。作ってるとこ見ちゃおーっと。今までプラモデルって作った事ないんだよねー。立体パズルみたいな感じなのかな」

 

 めちゃくちゃ喋るなこの女。

 

「あの聞いておきたい、のですが。どういう距離感で接すればいいのでしょうか」

 

 いまいちどう接すれば良いのかわからない。とりあえずあのマリリの中身である事は察する事は出来るけれど。

 

「そんなの、この前みたいなのでいいよ。数時間話した仲じゃん」

「そっちがそうならいいけど」

 

 こういうのって。

 じ、実は私、あのバーチャルアイドルの中身なの!? みたいなイベントがあっても良いんじゃないかなぁ。

 

「ふふ。アヤノンが考えている事はなんとなくわかるけど。こんなもんでしょ。学校が同じあの子がまさかアイドルだった!? とかなら驚くけど。あのバーチャルアイドルの中身が見知らぬ美少女だった? とかだとほら。そんなもんかってならない?」

「確かに。一方的にしか知らないわけだけど」

 

 パチン、パチン、とパーツを切り離していく。人に見られながらプラモ作るのってなんかやりにくいな。

 

「一方的。確かにこれまではそうだった。でも今はお互い知ってる。キミは綾野礼くん。わたしは霧江茉莉花」

 

 霧江茉莉花。随分と画数が多い名前だ。

 

「茉莉花って呼んでいいよ?」

「まっちゃん」

「可愛くない。あ、そっか。照れてるんだぁ。いいんだよー恥ずかしがらずに茉莉花ちゃんって呼んでも。どーせキミみたいな恥ずかしボーイは女の子をちゃん付けで呼ぶ機会なんて生涯訪れないんだし。でも大丈夫、わたしがいるから!」

「喋りのギアを上げないで下さい。茉莉花ちゃん」

「動じない、だと?」

 

 パチリとパーツを切り取る。

 

 生マリリキツイなぁ。

 

 画面越しでギリアウトなのだから直面するとソレだけでなんだか疲れる。まるで恒星みたいな熱量だ。

 

「妹もちゃん付けで呼んでるから、そんなに違和感はないですよっと」

 

 パチリとパーツを切り取る。

 

「ふーん。つまんないの。つまんないつまんない、その子、わたしより可愛いんだ。ね」

 

 多分、僕の言動から僕の心を読んでいる。妹と比較されたことに気が付いている。この人の観察力は恐ろしいものがある。さすマリ。

 

「まあ。そうかも。うちの妹、本人曰く誰もがビビるくらい美少女なんで」

「ふーん。そっかー。で、も、茉莉花ちゃんの方が良いと思わない?」

 

 パチリとパーツを切り取る。

 はぁ、なんか面倒になってきたな。自分が好かれる前提で動く相手って存外面倒だな。

「茉莉花ちゃんってさ」

「なに、なになに?」

「うっとーしいね」

「ガッ」

「あ」

 

 しまった。言葉がぽろっと零れた。

 

 パチリとパーツを切り取る。

 とりあえずまとめてパーツカット完了してから茉莉花の目を見ると。

 白目をむいていた。

 

「わ、わわわたし、茉莉花、茉莉花ちゃんがうっとーしい? 嘘じゃん。え、キミ、マリリちゃんの事は好きなんだよね?」

 

 息を吹き返した茉莉花が勢いよく詰問を始める。

 

「いやあ。……なんというか。やばいよ茉莉花ちゃん。いや、霧江さん」

「距離が離れた! グッ、待て、わたしは打たれ弱いことを念頭においてもらって」

「自分から美少女成分抜いてみ? 恐ろしいストーカー気質だから。怖いよ、怖すぎ、ガチのストーカーだよ」

「ガ、ガ、ダメだ。それ以上は耐えられねー」

 

 これは好機だ。可哀想だがこれ以上面倒になる前にここで息の根を止めよう!

 

「妹で美少女耐性が上がってるどころか美少女に対して心とか開かないから。ぜったい面倒くさい奴に決まってる。正直、嫌い。なんだお前ら構って貰って当然ってツラして。パーソナルスペースを考えてくれ近いんだよ」

「お、おいおい。この一瞬でこれまでの人生で喰らった事のないダメージ受けてるんだが。え、近いと嬉しくないの?」

 

 震える声で茉莉花は乾いた笑いをもらしている。

 しかしここまで言ってこのリアクションをとれるあたり、メンタルの強さが凄まじい。

 エアサンドバッグ並みの立ち直りの早さだ。

 

「ほんと、妹以来です。こんな微妙な気持ちになったの」

「……でもそれってさ。考えようによってはプラスにならないかな」

「え?」

 

 一転攻勢に回る茉莉花氏。

 

「家族以外にそういう、ある意味特別に思う相手ってそうそう出来る訳でも無いからさ。好きの反対は無関心。嫌いって事は実質好きって事じゃん」

「そうはならない」

 

 ノータイムでこの返答って同じ人間とは思えない。

 

「傷つきたくねえんだ。だけど、アヤノン。もし人の優しさが少しでもあるなら、一個だけ褒めてくれないか。そうじゃないと今日の夜絶対寝れない。思い出す度に傷ついて涙を流して。あーあ、綾野礼君今は何をしているのかなーって感情の籠っていない声で呟きながら壁を指で撫でて祝う」

「祝うな!」

「なら、褒めなよ。茉莉花ちゃんでもマリリでもいいから褒めなさいよ」

 

 この面倒くささエリーゼ以上かもしれない。

 なんなら口が回る分タチが悪い。うちの妹、可愛いもんだったな。

 

「褒めるって」

 

 パチリとプラモのパーツを嵌めてから茉莉花を見る。

 

「顔が可愛い」

「さっき美少女嫌いって言ってたじゃん」

 

 正確に言えば、身近な、僕のテリトリーにズカズカと入り込んでくる人が嫌いなだけなんだけど。さて、美少女さんの美少女である以外の長所ってなんだろ。

 

「じゃー名前」

「なになにっ、名前、可愛い?」

「いや。どちらかと言うと綺麗だと思う。白い花のイメージでさ」

「――っ、ナイス」

 

 茉莉花、つまりはジャスミンの花だ。

 

「だから、茉莉花ちゃんは名前が良い」

 

 パチリとパーツを嵌める。まだ腕だけだ。完成まではまだまだ長い。

 

「ふーん。そう。なるほどね。あっそう」

 

 茉莉花は目を逸らす。

 先ほどまでとは一変した雰囲気はしかし、不機嫌という訳でもないようで。あれほど分かりやすかった彼女の感情は今や霧に沈んだかのように読めない。

 そして。

 

「せっかく褒めて貰ってなんだけど。わたし、自分の名前好きじゃ無い。画数多くて書くの大変。だから次会う時までにもっと良い誉め言葉考えといて」

 

 茉莉花はツーンとした態度でそう言った。

 

「次?」

「このお店までの道のり覚えたから。というか、アヤノンの家も知ってるし。ラジオのメールに住所書いてあったから憶えた。『次』は必ず来るよ」

「警察呼びます」

 

 というか、どうして僕に拘るんだろ。自分でも言い過ぎかなと思うくらい毒づいたと思うんだけど……。もしかして、熊なのかな。熊は自分の獲物に物凄い執着を示すというけれど。どうして目を付けられちゃったかなぁ。

 なんて。現実逃避に考えを巡らせつつ、結論。

 

「わかった。良いとこ考えとくよ」

 

 愛想良く笑みを浮かべる。

 

「……」

 

 茉莉花は無言で立ち上がり去っていった。

 心を閉ざしたのがバレたのだろう。

 

『でもエリ、エリの事好きな人、こわい』

 

 妹の言葉が蘇る。あの言葉を聞いた時は驚いた。思わず絶句したほどだ。

 

「なにやってんだろ、はぁ」

 

 

 やはり兄と妹は似るらしい。好かれるのも、去られるのも、怖い。

 そして、あの妹と同じ事を考えているだなんて人間失格だ。

 マリリの人間性はともかく、それでも。

 

 大いに反省しないといけないのかもしれない。

 




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