顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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秋葉原ナイトウォーク

 小学生の頃からだろうか。

 サンドボックスと呼ばれるジャンルのゲームが流行りだした。

 僕は流行に疎い上に主体性が無く元気も無い子供だったのでさっぱり興味を持たなかったけれど、父親が子供の教育に良いという話を聞いたらしくコンシューマー版のサンドボックスゲーム『マイ・クラ』を買ってくれた事は憶えている。

 ま、結局僕はやらずに妹がせっせと地面を平らにする、いわゆる整地をしている姿を眺めていた記憶しかないのだが……。

 

 実は最近、そんなマイ・クラをちょっと遊んでいる。

 日村柚乃という悪友にPC版で遊びませんかと誘われたのが切っ掛けだ。八月のライブが終わってからすっかり燃え尽きて暇をしていたので誘いにのったのだが、いざ始めてみると中々面白い。元からちまちました作業が好きなのもあって、相性が良かったのかもしれない。

 ただ……そんなマイ・クラ。

 やればやるほど不満が出てきている。

 

「んー。もうちょっと遠くまで描写してほしいなこれ。動きもなんかカクつくし」

『礼くん、今どんなパソコン使ってるの?』

「昔父親が使ってたデスクトップ」

『あー、昔となるとメモリ不足かグラボの性能不足かな』

 

 サンドボックス特有の土を削る音に紛れて柚乃さんの声が聞こえてくる。

 大きな目的も無いのだが、でっかい城でも作ろうかと話しているところだ。

 

「柚乃さん詳しいの?」

『お絵描きするにあたって自作PCを組んだんで、一通りの知識はあるっすよ』

「自作かぁ。なんか難しそうなイメージあるかも」

『自作とは言いつつ基本的に大きいパーツをくっつけていくだけなんで、プラモとかガレキ作れる礼くんなら普通に組めると思うよ?』

「へえ」

『というか、礼くんのパソコンって家電量販店で買ったやつ?』

「多分そうじゃない?」

『じゃあオンボかもね。そりゃ性能不足だ』

「オンボ?」

『オンボードってやつ』

 

 聞きなれない単語だ。

 

『ほら、グラボ。グラフィックボードとかは聞き覚えあるでしょ? あれって追加武器みたいな感じでパソコンのグラフィック性能を強化してくれるんすけど、オンボってのはCPUに最初から搭載されている、まあ、必要最低限のやつみたいなやつなの』

「初期装備みたいな感じか」

『そんな感じ。一般的な使い方する分にはそれで問題ないけど、ゲームなんかはグラボあるのが前提かな。マイ・クラはかなり古いゲームだからオンボでも動くっちゃ動くけど。性能の良いパソコンでやるマイ・クラはかーなり快適。一度エリさんので試してみたらどうっすか』

 

 その提案、自宅でさっと試すには最適な方法ではあるけれど一つ大きな穴がある。

 

「エリの借りたら一緒にやろうってなるまでがセットじゃん」

『遊んであげればいいじゃないっすか。というか一緒にやりましょうよ』

「エリってこだわり強いから一緒に建築とかやったらうるさいと思うよ」

 

 なんなら先ほどから背中に妹の視線を感じているのだが、振り返ったら最後。一緒に遊ぶ事になってしまう。僕は柚乃さんとのんびりほどよく遊びたいだけであって、ガッツリやりたい訳ではないのだ。

 

「まー、でも自作かぁ。それはちょっと興味あるかも」

『私も一回作っただけだけど、けっこー面白いっすよ? なんだろ、ロボットゲームみたいな感じで自分の好きなパーツをくっつけて起動させるって男の子好みなんじゃない?』

「そう言われると更に興味が出て来た。でも先月ドラム買ったしなぁ」

『お金は、ピンキリだからなー。中古込みなら五万で作れるのもあるかもだけど、とりあえず十二万くらいは欲しいっすね』

 

 一年以上アルバイトをしているので多少貯めてはいるものの……。パソコンか。

 あっても困るものでは無いし、自作って響きに興味も惹かれるけど。マイ・クラ一つやるには中々大きな出費だ。

 

『あ、そうだ。私秋葉原でちょっと用事があるんすけど、自作に興味あるなら一緒にぶらつきます? 見るだけならタダっすよ』

 

 やはり悪友。丁度良い誘惑の言葉をポンと出してくる。

 

「じゃあ見に行くだけ、見に行ってみようかな」

『りょーかい。あ、やばっクリーパッ』

 

 かくして、エネミーに爆殺された柚乃さんと共に後日、秋葉原に行くことになった。

 

・・・

 

 ここ数年の秋葉原は観光客でごった返しており非常に居心地がわるいのだが、日が沈んだ時間帯という事もあり駅前はそれなりに空いていた。

 

「お待たせっす」

「んー。僕もバイト終わりで今来たとこ」

 

 リュックを背負い半袖シャツに短パン姿というラフな格好の柚乃さんに片手で挨拶する。

 

「それはそれはお疲れ様で。なにか食べてから行きます?」

「いや、閉店まで一時間だし先行こ」

「んじゃ、さっそく行きますか」

 

 雑談をしつつ移動開始。大きな道を横断歩道で抜けて、パソコン関連のお店が集まっているエリアへと向かう。

 

「柚乃さんってガジェットとか好きなの?」

「好きというか、イラスト描く時ってペンタブとか液タブとか使うんすけど。その脇に左手デバイスっていうテンキーみたいなのあるとめっちゃ捗りまして。それ調べてるうちにちょっと詳しくなってるかな」

「へえ」

 

 清廉にリップとかネイルの話されるよりよっぽど興味深い。

 

「秋葉原には個人の人が作ってるデバイスのアンテナショップみたいなのがあって、礼くんと合流するまではそっち行ってました」

「面白そう」

「じゃあ今度一緒に行きましょっか。でも、けっこー深い沼なんで気をつけた方が良いっすよ?」

「沼?」

「最初は左手デバイスを見るだけのつもりだったんすけど、そのデバイスがかなりカスタマイズできる奴で、キーの軸を変えられたり出来て。で、それを買ったはいいものの自作するにあたって自分ではんだこてとか使わないといけないヤツでして。でもいざやってみたら楽しい」

「中学の授業以外ではんだって使うんだ」

「ほんとそれ。仮にも女子高生の私がはんだこて買うとは思わなかったんすけどね。夏休みとか夜間外出禁止令出てたんで夜な夜な家で一人はんだ付けしてましたよ」

 

 やっぱりこの人って面白い人だ。

 

「んでいざ完成させたらかーなり満足感があって。マイブームは完全に自作デバイス。キーボードなんかも面白そうで……」

「そういう自作のってけっこう良い値段するんじゃないの」

「はい。なのでパトロンにイラスト売りつけて稼いでます」

「……そのパトロン僕の知り合いだったりしない?」

「守秘義務がありますので質問はお控えください。ヒントだけ言うと、近所にお住まいです」

「息子のイラストで金を儲ける母……」

「人聞き悪いな。需要と供給っす」

 

 物は言いようだな。

 

「なんならファンボって知ってます?」

「イラストレーターの人の小遣い稼ぎでしょ」

「棘のある言い方」

「で?」

「そこの月額制のプランにレーきゅんのイラスト乗っけたら想像以上の反響がありまして」

「そっちでも稼いだのか」

「あざっす。同人誌に続き稼がせて頂きました」

「うん、今後どっか行くときは全部柚乃さんに出して貰う」

 

 肖像権はないかも知れないが、何かしらを請求する権利はある気がする。

 

「ほら礼くん夏休みの間は配信とか全く出てなかったでしょ? 飢えたレースレ民が集まって来たんすよ」

「怖」

「こんだけ人気あるんだからいっそのこと配信活動でもしたらいいのに」

「なんで配信?」

「需要があるなら応えても良いんじゃないかなって」

「んー?」

「ほら、マイ・クラ一緒にやるの楽しいじゃないっすか。そんな感じで視聴者の方とあれこれしながらゲームする楽しさも知って欲しいという親心」

「柚乃さん過疎配信者じゃん」

「……」

「配信の楽しさなんて知らないでしょ」

 

・・・

 

「とりあえずPCショップと言えばここヤクモ電気。かくいう私もここで店員さんに相談しながら自作PCのパーツ用意してもらったんでおススメ」

 

 やや手狭な七階建てほどのビルに入ると視界一面PC用品に出迎えられる。

 あと一時間で閉店という時間だからか店内は空いており、品物を物色するには都合が良さそうだ。

 

「ケースとCPUとマザーボードとメモリ、ストレージ、電源とか必要なんだっけ」

 

 パソコンの構成に必要なパーツを指折り数える。あとは何が必要なんだっけ。

 

「お、勉強してきたな? 今言ったのに加えてCPUクーラーとグラボ、あと忘れがちなのがOSっすね」

「あ、そうなんだ。OSって最初から入ってるイメージあった」

「自作あるあるっすね。というか、そんな調べて買う気満々じゃないっすか」

「見るにしても知識くらい必要だから一応ね」

「素直じゃないなー。ま、あとは店員さんに聞けば良いっすよ」

「買う気無いのに聞いていいの?」

「見積りもらうくらいなら平気っすよ。あ、すいません、ちょっといいですか」

 

 柚乃さんがレジの中に居た店員さんを呼んだ。まるでノソっと擬音がなるような感じで近づいて来た身長の大きな男性店員さんは――。

 ……ん?

 どこかで見覚えがあるな。

 

「あ、ガレキ売ってたお兄さんだ」

「!?」

 

 ワンダフル・カーニバルでヘラジカエリちゃん売ってた人と会うなんて、妙な縁もあるものだ。僕を見る目からして、向こうも僕の事を憶えていたらしい。客の顔を憶えてるなんて凄い記憶力だ。

 

「お知り合いっすか」

「いや、一回会ったことあるだけ。前に写真見せたヘラジカエリちゃん作った人だよ」

「めっちゃ凄い人じゃないっすか。私もあれ見て欲しかったんすよー。次は冬っすか? ぜひ買わせて下さいっ」

「……。…………。!?!?」

 

 店員さんは僕と柚乃さんを交互に見た後、驚いた様子で動き、棚の上に置かれていたPCケースに肩をぶつけた。

 

「大丈夫っすか?」

「は……は、い。失礼しました。その節はどうも。それで、ご、ご用件は」

 

 そう言えば口下手な人っぽかったな。妹さんが売り子してたっけ。

 柚乃さんの肩をポンと叩き先を促す。

 

「なんで自分で言わないんすか。ええと、連れがマイ・クラで快適に遊びたいみたいなんですけど、見積もりというか、おすすめの構成があれば教えて頂きたいなと」

「――――ちょうど、一式無料であります」

 

 まっすぐな目で、そう言われた。

 そんなわけないじゃん。ヤクモジョーク?

 

「あの、とりあえず見積もりだけいただけると……」

「……すぅ、取り乱し、ました。見積書を持って来るので、少々お待ちください」

 

 店員さんが一度レジに戻っていく。

 

「あの方、体調不良っすかね。ガレキについてもお話してみたかったんすけど」

「スウィッターのアカウントフォローしてメッセージ送ったら?」

「あー。まあ優しそうな人なんでそれもアリっすね」

 

 店員さんが戻って来るまでの間、こそこそと話す。

 

「お待たせ、しました。ええと、マイ・クラで遊びたいとの事でしたが。マイ・クラは比較的軽めの負荷でも設定次第では遊べるゲームですので、ご予算によって組める構成が変わってきますが。いかがしましょう」

「ええと。うーん、十万と少しか、十五万いかないくらいだと嬉しいなと」

「…………うちに使っていないパーツが沢山あるというのに」

 

 店員さんがボソボソと何か言っている。

 

「ちなみに、マイ・クラ以外のゲームをやる予定は?」

「今のところ無いです」

「かしこまりました。他にパソコンでやってみたい、やる予定の作業はありますか?」

「今のところは特には無いですけど……。増えるかもしれないので拡張性があると嬉しいです」

「かしこまりました。ではマザーボードはMicroATXかATXが良さそうですね。拡張性、出来る事に幅を持たせるならCPUは少なくともミドルレンジのモノが良いかもしれません。これら二つ合わせて、安く済ませると四万円ほどでCPUの性能を上げると八万円ほどになります。後ほど吟味してみてください。個人的にマザーボードとCPUの規格は新しい方が長く使えるので、ご予算はここに割り振るのも良いかと思っていますが……。学生さんの場合は一世代前の規格で揃えるのがコストパフォーマンスとしては良いかも知れません。いかがしましょう」

 

 事前に勉強してなかったら今の文章量丸々理解出来なかっただろうな。

 

「特に最新が良いとかって拘りはないです」

「かしこまりました。でしたら、それなりに快適にマイ・クラで遊べつつあわよくば配信もしてくれる……出来るような構成を組めるかと」

「……配信?」

「いえ、失言でした」

 

 

 拡張性とは言ったものの……。

 自作PC組む人って配信者の人が多いのかな。

 見積書に幾つかのパーツと、その価格が書き込まれていく。

 

「メモリはDDR4にすると価格が抑えられて……GPUは……で、電源は良いの使って欲しいとして……。はい、私としては十五万円以下で収めるならこのような構成が良いかと。これでしたら現在販売中のBTOより性能は劣りますが品質は高いかと思います。チェックを入れてある部分は他社の方が安いパーツですのでご確認下さい」

「おお、ありがとうございま――」

「あれー。レ、お兄ちゃん。こんなところで奇遇だねー」

 

 店員さんから見積書を受け取ろうとすると、細い腕に邪魔されて見積書を奪われる。

 細腕の主は大きな店員さんの背後から現れ、その不審な姿をさらした。

 僕の帽子に青のカラーレンズが入った伊達メガネとグレーのマスク、そして僕の半袖Tシャツに僕のワイドパンツ。長い髪は三つ編みにしたうえでグルリとお団子状に纏められている。

 

「……エリ」

「お、生で見ると相変わらず眩しいっすねー。元気っすか?」

「ぼちぼち元気。でも、まさか偶然会うなんて思わなかったなー。二人でなにしてるの?」

 

 こいつ、恐らく僕のバイト終わりからつけて来たな。

 背後から突然人が現れた事に驚いたのか店員さんは雷に打たれたかのように固まっている。

 

「パソコン見てるだけだよ。ほら、返してそれ」

「エ……私もそれなりに詳しいから見てあげる。ふーん、デカい人、けっこー良い感じにしてくれてるじゃん」

 

 妹は馴れ馴れしく店員さんの肩をポンポン叩き僕の隣へ並んだ。

 

「でもねーグラボは私のお下がりあげるからカットして、その浮いた分でしーぴーゆーとマザボ、それにメモリをじょーほー修正して……。あ、PCケースはこっち。うちの子はピカピカ光ってるの見てもこれ意味あるの? とか言うので。ほら、固まってないで書き直して?」

 

 失礼な態度で見積書を店員さんに渡そうとする妹の帽子を叩く。

 

「なんで叩くの」

「偉そうにしてるから」

「いえ、いいのです。私はこの日の為に、見積書を書いて、いたのです」

「そんな大げさな」

 

 店員さんが震える手で見積書を書き直し始める。

 あれ、なんだか買う空気になってない? 

 今日はほんとに見に来ただけなんだけど。

 

「ねー、これはただの直感なんだけど二人はマイ・クラやってたりするの?」

 

 マスクを顎に下げた妹がにじり寄って来る。

 

「いや?」

「面白いよねーマイ・クラ。一人で秘密基地みたいなの作るのも楽しいんだけどさー、意外と大人数でやるのも楽しいっていうか。私もね、普段は大人数の企画とか行かないけどマイ・クラの時は悪くないと思うんだー。でもたまには少人数というか、二人でやるのも良いと思うんだけど」

「ああ、じゃあ無理だ。やるとしても柚乃さんと雑談しつつやるだけだから」

「またまた。ね、柚乃はそんな意地悪言わないもんね。どうしてもって言うなら三人でも良いんだよ?」

「まあ私は一緒に遊びたいと思ってたんで良いっすけど」

「僕は嫌」

「レー!」

「わっ、叫ぶなバカ」

 

 急に叫んだ妹に驚いたのか店員さんの身体がビクンビクンと痙攣している。幸い周囲に人が居なかったから良いものの、こんなのが妹だと思うと恥ずかしい。

 

「……もうこっちが金を払いたいよ」

 

 店員さんがボソボソと呟く。

 

「ん? 大きい人、書き終わったの?」

「ひゃい。これが一番、良い、構成かと」

「じゃ、お会計。パーツ用意して?」

「はっ!」

 

 ドドドと音を立てながら店員さんがレジへと向かっていく。

 

「いや、今日買うつもりは」

「ここ来る前にATMでお金おろしてたじゃん」

「あのね一応持ってきたけどこれは僕が汗水たらして稼いだお金なの。一人暮らしする時に使おうと思ってるの」

「じゃあ余計に全部使わなきゃじゃん。それともエリに買ってほしいの?」

「……それは嫌だ。絶対イヤ」

 

 横で僕らを見ていた柚乃さんに目を向けると。

 

「まあ、口座に入れておいても円の価値は下がるだけですし」

 

 などと裏切り行為を働いた。

 リリーであれば絶対に僕の味方をするというのに、第三の母は妹寄りだ。

 お金とは自由の象徴。

 僕が妹や悪魔の束縛から逃れる為の絶対的な力だというのに――。

 

「お客様っ、パーツの準備が整いました!」

 

 かくして、口座残高と引き換えに自作PCをゲットしたのだった。

 

・・・

 

 後日。

 リオネット家の三人でマイ・クラをやると妹が言い出したのは、また別の話だ。

 






windows10のサポートが切れるまであと半年……。
ということでリオネット家の三人でした。

そして、先日 つは様 よりファンアートを頂いたのであらすじの方に掲載させて頂きました(掲載許可済)。四章の素敵なイラストなのでぜひご覧ください

いつもたくさんのコメント、評価、誤字修正していただきありがとうございます!
感謝!
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