顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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レイヨナのアフタークリスマスキャロル

 昨日の夜は妹が家出をして大変だった。

 どうにかこうにか、妹を連れ戻すことが出来たけれど、夜に――に乗って――したから……。

 

「ふぁ」

 

 クリスマスの翌日。今日は大雪がふるらしい。

 思わず出てしまうあくびを押さえながら、小学校から下校する。

 

 雪は綺麗で嫌いじゃないけれど僕の家は木造アパートで、こたつの電源を入れないとすごく寒い。だからたくさん雪が降るのも困ってしまう。

 外を歩いているとただでさえドキドキするというのに、その上こんなに寒いとカタカタと震えてしまうじゃないか。

 

 白いモフモフとした生き物に手を引かれながら、僕は家に帰ったらすぐにこたつの中に入ろうと決意する。

 

「レーイ、日本の冬ってフツーに寒いよネ。雪ってメッタに降らないと聞いてたのに毎年降るじゃん」

「めったに、ってことは。ふらないこともないんだよ」

 

 白いモフモフ……この豊かで暖かそうな髪の毛をもってしても今日の寒さは厳しいらしい。

 

「セーン、そうだ。まれによくある、ってやつだネ」

 

 白いモフモフは赤いコートのボタンを一番上まで閉めて白い息をはく。

 

「わ、レイ。見て向こうのアスントアにルミが走ってる」

「……ヨナ。なんていってるか分からないよ」

 

白いモフモフことヨナは――で――という――を使って日本語を話すので、たまにこうしてフィンランド語が漏れだす。

 

「おっと、オマジナイが切れそうだったの忘れてまシタ」

 

 ヨナのモフモフとした白い髪がモフりと揺れ、白い光がぼんやりと広がり、ぶつぶつと聞き取れない言葉が聞こえてくる。一度、ヨナのお父さんになんで光るのかと聞くと、目を大きくした後に「レーイ、おー視えるのですネ、それは。うーむ、セーン……。南無サン」と言い。……と言って。ヨナのお父さんの白くひ、――、が僕のおでこに……。……あれ、なんだったっけ。

 ヨナとのアレコレってたまに全然思い出せない。

 

「レイ、ヨナー、おかえりー」

 

 白く靄のかかったような記憶を探っていると、僕らの住むアパートの敷地から妹が雪玉を持って現れ――。

 

「ぎゃっ」

「冷たっ」

 

 僕らの首元に冷たい雪玉を突っ込んできた。

 

・・・

 

「礼、おかえり今日も頑張ったね。寒かったでしょ。ほら、コート脱いで。手洗って。あーあ、こんなに冷えちゃって」

「ん」

 

 家に帰るとリリーが立っていて、ぎゅっと抱きしめられた。今日はお仕事が休みらしい。

 リリーに背中をさすられてカタカタと震えていた身体がようやく落ち着いてきた。

 

「おじゃましマス」

「ヨナ、マリカやろうよ」

「いいですヨ、プロのドライビングテクニックを見せてあげマス」

「プロぉ?」

 

 僕の横をヨナと妹が通り過ぎていき、ふとリリーを見上げる。

 リリーは冬の女王とか、映画のエルフみたいな見た目をしている。妹はよくわからないけれど光っている。そしてヨナはいつもサンタクロースのコスプレをしている。

 

「礼どうかした?」

「ううん」

 

 すっかり見慣れた顔だけれど、僕はもしかしたらとても変な人たちに囲まれて生活をしているのかもしれないと思っただけ。

 リリーに抱き着きつつ呼吸を整えて手を洗って、僕もようやく部屋の中へ向かうと妹とヨナはwillUの電源を入れた後、どちらがプロコンを使うか争っていた。

 

「エリの方が年下なんだから、エリがプロコン使う」

「それはフェアではありまセン。エリーの方がマリカに慣れてるでしょー?」

「プロって言ってたじゃん。こーほー、筆を選ばずなんだよ」

「日本語わかりまセーン」

「しゃべってんじゃん!」

 

 我が家には使いやすいプロコンが一つ。willのヌンチャクコントローラーが一つ。willUの大きいゲームパッドが一つ。一番人気なのがプロコンなので、ゲームが始まる前にコントローラーの争奪戦が発生する。

 まったく、コントローラー一つで大騒ぎしなくたっていいのに。

 僕はこたつの中に入りつつ、気の利いたアイディアを提出してこの場を収めることにした。

 

「二人とも、プロコンをどっちがつかうか。マリカできめたらいいんじゃない?」

「レイはほんとにフィクスですネ」

 

・・・

 

「グヌヌ。ゲームパッド重いんですヨ、プロコンさえあれば勝ってました」

「ヨナはブレーキ使わなすぎなの。せっかく手加減でヌンチャク使ってあげたのに」

「サンタはブレーキしてる暇なんてありまセーン」

「はいはい」

 

 じゃんけんでそれぞれが使うコントローラーを決めて一時間ほど三人でマリカをした結果、一位が妹、六位が僕。ヨナは七位だった。

 

「ヨナ、ぼくねむくなってきたから、これつかっていいよ」

 

 身体が温まったのでこたつから抜け出し、ひとをダメにするソファに倒れ込む。ヨナがいると騒がしいから妹と二人で遊んでいる時よりすぐに疲れてしまう。

 

「レイ、ねー、レーもっかいやろうよー。キノコカップでいいからさー」

「駄目ですヨ、レイは疲れやすいのデス。しっかりと休まないといけまセン」

「えー? ヨナもおかーさんもすぐ甘やかしすぎ。うちのお兄ちゃんはみんなが思うよりは丈夫なんだから」

 

 妹にのしかかられながらも、押し寄せてくる眠気には勝てない。どうにか妹の期待には応えたいものの、僕と言う奴はMPがすぐに無くなってしまうのですーぐに眠くなってしまう。

 

「ゆるせエリちゃん、またこんどだ」

 

 妹のおでこを指先でトンと突き、意識がまどろんでいく――。

 

・・・

 

「……ん」

 

 妙に身体が重くて目を開けると、妹が僕にのしかかったまま寝息を立てていた。起さないようにそっと身体をずらし壁掛け時計を見ると一時間ほど寝ていたようだった。不思議と頭の中がいつもよりすっきりしていて――ヨナの真っ青な瞳と目があった。

 

「モイ、レイ。いい夢を見てるカナ?」

 

 ヨナはこたつテーブルの上に小さなろうそくを三本並べていた。

 

「ヨナ。子供は火をつかっちゃダメなんだよ」

「これに灯すのは火ではありまセン。良い子のレイに見せてあげようと準備していたのデス」

「……」

 

 ヨナは出会った時から不審者で赤い服を着て家の屋根の上を歩く習性があるのだけれど、それとは別にもう一つおかしなことが出来る子だ。催眠術、というやつかもしれない。

 

「レイは過去と現在と未来。どのヘンキと会いたいデスか?」

「ヘンキってなに」

「いわゆる、おばけみたいな。幽霊とか精霊みたいな感じデス」

 

 過去、現在、未来の幽霊。

 それはどこかで聞き覚えのあるような……キッズチャンネルで見たような。

 

「……あ。それ知ってるよ。ミッキーのクリスマスキャロルだ」

 

 今月のキッズチャンネルはクリスマス関連のアニメが沢山放送されていた。クリスマスキャロルもその中の一つだ。スクルージといういじわるなお爺さんが過去、現在、未来の幽霊を通して今の自分を反省するというお話だったと思う。

 

「おうふ。そんなネタバレはあんまりデス。はぁ、はいはい、そう、そのとーり。今からワタシはヘンキ……幽霊をろうそくに灯しマス。過去の幽霊であれば過去を、現在の幽霊であれば今を」

「……悪い子に、なにが悪かったのか教えるの?」

 

 不安になってそう尋ねると、ヨナは慌てた様子で首を横に振った。

 

「それはクリスマスキャロルのお話デス。レイには楽しい楽しい夢を見せてあげマス。なぜならヨナはとっても優しいサンタクロースなのだっ」

 

 ヨナは白い火を指先からだして、チョンとろうそくの先に灯した。このマジック、いったいどうやっているんだろう……。

 

「それじゃ、まずは現在の幽霊を呼んでみるネ」

「現在ってスマホじゃダメなの?」

「ん?」

 

 ヨナの表情が固まる。

 

「今のことが知りたいなら、スマートフォンで調べられるよ」

「いや、でもねレイ。魔法ってそういうのじゃないじゃん。ほら、今あの人なにしてるのかなーってわかるんだヨ?」

 

 ヨナは手をジェスチャーのようにバタバタと動かすも、僕の意見は変わらない。たぶん、幽霊……ヘンキよりもスマートフォンの方が便利だと思う。

 

「なにかあったらリリーもおとうさんもいつでも連絡してって言ってたよ」

「……忌々しい現代技術め。ワタシの出番が減るじゃないか」

 

 防犯用に持たされている子供スマホを見せるとヨナは小さく舌打ちをした。

 

「あ、でもヨナがどうしてもやりたいっていうなら僕は止めないよ」

「子供がサンタに気を遣うんじゃありまセン。よーし。現在は飛ばしてレイには未来に楽しいことがあるって教えてあげることにしマス」

 

 僕に楽しい未来などあるとは思えないけどもしそんなものがあるのなら……。

 

「エリちゃんにも見せてあげても良い?」

「ここはレイの夢の淵。エリは入ってこれまセン」

 

 ヨナの使った難しい言葉に頭をひねりながら、とりあえずうなずくとヨナは別のろうそくに白い火をつけた。

 

「さあ、レイ。きっとレイの未来はキラキラ楽しいはずですヨ」

 

・・・

 

 気が付けば僕とヨナは手狭な部屋に浮かんでいた。妙に圧迫感のある壁は小学校の音楽室に似ているような気がする。そして、その部屋の中にはお兄さんとお姉さんの二人が居た。

 お兄さんの方はなんとなく見覚えがある顔で、お姉さんの方は妹と比べるとまるで印象に残らない顔で憶えられそうにない。あ、でも、声は綺麗だ。

 そして、そんな二人が何をしているのかと言うと楽器の練習をしているらしい。

 

「だから、違う! 気持ちが高まるように音の圧も上げるの、魂を込めなさい。空間に広がる音の粒が見えるでしょ。もっとグッと一瞬溜めてから解放するの。ほら、もっかい!」

 

 怖い。お兄さんがお姉さんに怒られている。

 

「ねえ、ヨナ。もしかしてあのお兄さんが僕なの? すっごい怒られてるよ」

「怒られているわりに響いてない顔してるけどネ。んー、未来のレイにしては表情が死んでいるような……でも楽しそうではあるような……。来る未来間違えたかな」

 

 ヨナは腕を組んで頭をひねっている。

 でも……。僕はこの光景は、そんなに嫌ではなかった。

 厳しそうだけれど、二人とも楽しそうに見えたのだ。

 

「ともかく、レイ。将来あんな風に怒られたくなかったらちゃんと勉強しないとダメなのデス」

「結局お説教だ。キラキラ楽しいって言ったのに」

「未来は無限なのデス。次、次にいきますヨ」

 

 ヨナがパチンと指を鳴らすと、パッと景色が変わった。

 暗い森の中に穴が開いていて、穴の向こうには寒そうな冬景色が見えている。

 

「ずっと探してたんすよ。異――への扉――。全部捨てて一緒に――」

 

 目が金色に光っているお姉さんがさっきのお兄さんを冬景色の世界に引き込もうとしている。

 きっと、むこうに行けば楽になれる。そんな風に僕は思ったのだけれど。

 

「わーお。レイ、これは見ちゃダメ。将来あんな人と知り合ったらすぐ逃げるのデス。ぜったいろくな女の人ではありまセン」

 

 ヨナがコツンと僕のおでこを突くと先ほど見た景色が急に思い出せなくなり――パチンと指を鳴らす音が聞こえたと思えば、今度はボロボロの教会のようなところに景色が変わっていた。

 なんだか見覚えがあるような気のする場所だ。

 たくさんの椅子が並んでいて、その一番の席に先ほどのお兄さんとオレンジ色の髪をしたお姉さんが座っていた。

 妹と比べるとお姉さんの顔は普通であまり印象に残らない。

 

「レイ、すこしは男の子のおともだちを作ったらどうなんデス」

「そんなこと言われても。それにもしかしたらあのオレンジの人、男かもよ」

「ワ、女の人になんてことを。そんなこと絶対本人に言っちゃダメですヨ。ワタシの直観が、あのお姉さん、けっこう根に持ちそうだなと言っていマス」

 

 僕とヨナはお兄さんとお姉さんの後ろの席に座って、二人の後姿を眺める。

 なんだか仲が良さそうだ。どんな話をしているのだろう。

 

「私、ふと思ったんですよ。私の学友が私のような薄幸の美少女を好きになってしまうのも仕方がないのかもなと。物腰柔らかで清楚で――」

「サブスク大好きでお買い得品も好き」

「質素倹約を好むと言い換えてください」

「人の不幸話も好き」

「……。いえ、好きかどうかは置いておくとしてその情報は私を語る上で必要ではありません」

「で。なんの話だっけ」

「学友がどうにもがっつり私を好きなのかもしれないという話です。どうにか丸く場を収められないか意見を聞かせてください。得意でしょう? 女の子を言いくるめるの」

「実績があるから否定はしないけど。僕としては真心で接するのが良いと思うな。ね、主よ」

「軽々しく主に語り掛けないで下さい。パンチしますよ」

「右の頬を差し出しましょう。そして、左の頬も、そして右肩、左肩も交互に出し、右肩左肩交互に出…………あれ、アンジェさんもしかしてわりとしっかり怒ってる?」

「いいえべつに。続けて良いですよ、私も右こぶし左こぶしを交互に打ちますから」

「頬に?」

「はい」

 

 なんだかこの二人、言葉のトーンは穏やかだけれどすごく品の無い話をしている気がする。僕がこっそり聞いているラジオみたいな会話だ。

 

「……良い子ちゃんのレイになにがあったらこうなってしまうのデス!」

「博士に貰った時は可愛いモンスターでも二回進化するころには思っていたのと違う形になることは珍しくないからね」

「セオン、トラゲディア……」

 

 ヨナはため息をつきながらパチンと指を鳴らして、場所を変えた。

 今度は…………。

 暗い部屋だ。

 部屋の真ん中には大きなベッドが置かれていてそこに誰かがゴロンと寝かされていた。

 

「レーきゅん。もうレーきゅんが悪いんだから。のこのこ部屋にやってきちゃうんだから。それってさぁ、もう合法じゃんね」

 

 黒い髪の、妹と比べるとさして印象に残らない女の人がベッドに向かって語り掛けている。暗い部屋を良く見れば壁一面にお兄さんの写真が貼ってあって――。

 

「レーイっ! ここはダメー!」

 

 パチン、と指を鳴らす音が響き。

 僕らは元のアパートの一室に戻った。そして。

 

「すべて、無かったことにしマス」

 

 パン、とヨナが両手を叩くと同時に僕は目を覚ました。

 

・・・

 

「ん……」

 

壁掛け時計を見ると、一時間ほど眠っていたようだった。

テレビの前では妹とヨナが変わらずマリカで遊んでいる。

いつもは寝てもすっきりはしないけれど、なんとなく面白い夢をみたような気がして気分は悪くない。

 

「レーイ。目が覚めたのなら言いたいことがありマス」

「なに」

 

 目をこすりながら聞き返すと。

 

「顔の良いショートカットの女性には気を付けるのデス」

「ん?」

「良い子にしていれば、怖い人はやってきませんからネ。サンタとの約束ですヨ?」

 

 よくわからないけれど頷いておく。

 顔の良いショートカットの女性、か。

 妹が普通くらいの顔だとして、それより良いとなると。たしかにちょっと怖そうだ。

 




読んでいただきありがとうございました!
感想、誤字報告も助かります!
この話、去年書こうと思っていたのですが、なぜかもう一年経っていて不思議です。なぜもう十二月末なのでしょうか。謎です。
そしてリオネット家の動画完成しました、良ければ見て行ってください。
→ https://www.youtube.com/watch?v=LhVYF_U7OcQ
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