顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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 自室にて。PCスピーカーから雨音の環境音を流しつつ、予習と復習の為に数学の参考書を眺めていると――。

 

「どいてどいて、配信の時間だよー」

「え」

 

 ドカドカと急に部屋に入り込んできた妹がオフィスチェアに座っていた僕の上にドシンと座り、スマートフォンとマイクを自作PCにセット。入れた覚えのない配信アプリを起動。

 

「こんエリ。ということで今日は案件です。みなさんご存じamason.com様より『エリオット・リオネットさまがおすすめしたい商品がありましたらご紹介ください』みたいな感じで依頼があったのでこのブラック・フライデーでエリが買ったり、前からエリが使ってて便利なものを紹介しようと思います」

「…………」

 

 妹の侵入からわずか一分の間に開始された生配信。勝手にインストールされていた配信アプリのアンインストールを決意しつつ、どうにか妹をどかそうとするも失敗。あれよあれよと配信画面にコメントが流れ始めてしまう。

 

「なんか今日エリのパソコンの調子が良くなかったからさ、配信一分前にレーのパソコンを合意をとらず使わせてもらうことにしたの。やー、こんなこともあろうかとレーのパソコンに色々とインストールしておいて良かった」

 

 僕のパソコン、それなりに長いパスワードでロックしてあるはずなのだが……。

 腹の底から出る深いため息をつきつつリビングに避難しようとすると、僕の体重移動に合わせて妹が身体を動かすのでまるで立ち上がれる気がしない。

 机の上に置いていたスマートフォンには『我が義妹ながらこれはプライバシーの侵害だと思うな』と僕の内心に寄り添うメッセージが届く。そうだね。

 

「はぁ……」

 

 仕方なく妹をぎゅっと抱きしめて。

 

「ちょっとレー。今配信してるんだからそんな抱きしめたら――あ、やば」

 

 オフィスチェアのリクライニング機能を最大限に生かし、自分もろともフローリングの上に転がった。いわゆるバックドロップである。

 

・・・

 

「はいということで兄にバックドロップされるという若干の放送事故はあったけど、気にせずエリとレーでおすすめの商品紹介していくね」

 

 バックドロップのさなか、さすがに妹を固いフローリングに叩きつけるのはどうかと一瞬躊躇して手を緩めたのが悪かった。

 結果。背中にフローリング、あごに妹の後頭部が直撃した僕は大ダメージを受け、妹は持ち前の身体能力で体勢を崩した瞬間にバク転をして無傷。世の中どうかしている。

 

「ちなみにモバイルバッテリーは紹介しないから安心してね」

 

 倒れたオフィスチェアを立て直す流れでうっかり再びオフィスチェアに座ってしまい、その隙を見逃さなかった妹が何食わぬ顔で僕の膝の上に座り配信を再開する。

 

「エリこういう商品紹介yourtuberの動画を見るのは好きなんだけどあの人たちいっつもモバイルバッテリー紹介してるの。どんだけ充電するんだろってくらいモバイルバッテリーばっかり紹介してるから見飽きたなーって。だからエリはモバイルバッテリーは紹介しません」

「そりゃ家から出ないエリちゃんには必要ないわな」

 

 配信に参加するつもりはないというのについ相槌を打ってしまう。綾野礼くんってそういうとこあるよね。

 

「ということで最初はこちら。スウィッターでバズっていた本。『ウォーク博士の驚天動地の動物行動学。アニマルシークレット』だよ。めっちゃ分厚いでしょ。こちらamasonさんで購入しました」

「皆さん、amasonで本買うと梱包雑で折れてる時ありませんか」

「あえてだよ、amasonさんは町の本屋さんにも気を使ってあえて雑な梱包をしてバランスをとっているの。悪口を言うのはやめてください」

 

 僕の妨害をよそに配信画面には妹おすすめの本が表示される。

 クジラをはじめとした様々な動物が表紙に描かれており、なんとも興味をそそられる装丁だ。

 というか。

 

「この本知ってるかも。ラジオとかでおすすめしてた気がする」

 

 SNSのアカウントをマリリに取り上げられているので基本的に世間でバズったアレコレの情報は学校かラジオか巨大マリリちゃん人形からしか摂取できないのだが、この本は学校でも話している生徒がいたしラジオでも本好きの芸人が話題にしていたし巨大マリリちゃん人形も口にしていた気がする。普段本を読まない妹にまで届くとは相当面白いのだろう。

 

「興味があるならあとで一緒に読んであげるね」

「ありがと、貸してくれるだけで良いよ」

 

 素直に感謝するが、うちの妹って活字読めるんだ……という奇妙な感情が湧いてくる。

 そりゃあ中学生にもなれば本くらい読むだろうけれど、意外な一面が顔をのぞかせた。

 

「エリちゃんが本買うなんて珍しいね」

「動物はわりと好きだし。それにこの本ね、ほんときょーみ深いというか。動物の社会性って人間にも通じるところがあるんだなーと考えさせられたね」

「へぇ。…………。そうなんだ」

「なに今の()。誰が社会性語ってるんだよ、って間じゃなかった?」

 

 さすがに鋭い。

 

「いやまさか。エリちゃん。あ、ほら、エリちゃんにおすすめされたからって買った人が居るみたいだよ」

「ほんとだ。……へえ、こういう本他にもあるんだー。ためしにポチってみよっかな」

 

 上から下に流れるコメントを盾にして妹の指摘から逃れる。

 ……それにしても、このコメントの人たちは妹の買ったものを見て何が楽しいのだろう。本は珍しかったけれど妹が欲しがるものなんてゲームかおもちゃ。基本的に男子小学生が欲しがるものと同じだろうに。

 

「レーは最近面白そうなの買った?」

「僕?」

 

 人に紹介したいものなんて買っただろうか。最近は日用品を買う程度で特別これといったものを買った記憶はない。

 

「そ。レーが買ったものってエリはほとんど把握してるけど一応聞いてあげるね」

「前から思ってたけど僕宛の荷物を勝手に開封するのやめてくれる?」

「妹として兄が何を買ったのかは確認する義務があるから。エリもね、本当はこんなことしたくないんだけど、──我慢してね?」

「お父さんお仕事だから遊園地はまた今度ね、みたいな笑みを浮かべるんじゃない」

「レーのものはエリのものでエリのものはレーにも貸してあげる関係でしょ。レーがエリの荷物開けてもエリは怒らないよ?」

 

 ああ言えばこう言う……。

 なんだかこの妹、誰の影響か知らないけれど昔よりも口が上手くなってきていないか?

 昔のエリーゼちゃんは素直で良い子だったというのに……。

 僕を見てにんまりと目元を細めるその姿は……。

 なんだか身に覚えがあるな。

 

「で、なにかないの? ないなら次行っちゃうけど」

「……そこまで言われて何も出さない僕ではない」

 

 そう言いつつ、膝の上に座っている妹をどけて机の上に置いている高さ十センチほどの細長いデジタル時計を引き寄せる。面白くはないものの最近買った物の中では便利な商品だ。

 

「ほら、これ」

「ただの時計じゃん」

 

 妹はまるで興味がない様子でパシャっとスマホで撮影を済ませ、手早く配信画面に写真を載せた。流石に手馴れているというか、もうちょっと僕の個人情報が映り込んでいないか確認してほしいところだ。

 

「時計機能もあるけど、これNITANIの温湿度計ってやつでけっこう便利だよ?」

「湿度なら加湿器をオートでつけっぱなしにすればいいじゃん」

「オートだと部屋の湿気がけっこう高くなる……というかエリちゃんさ、そのつけっぱなしにして加湿され過ぎた部屋の窓枠に発生したカビ、僕が掃除してるんだけど」

「せーんきゅ、ちゅっ」

 

 妹からの投げキッスってこんなにムカつくものなんだ……。

 

「じゃ、次はエリの番ね。ででん、電子工作用シリコンマットー!」

 

 パソコンのモニターには灰色のシリコンマットが表示された。横幅は四十センチほどで、マットの上部にはネジだったりを置けそうな窪みがいくつかある。おおよそ女子中学生には無縁そうな味気の無いデザインだ。

 

「なにこれ、はんだこてでも使うの?」

「そーなのです。と、思って買ったんだけど。これ実はかなり便利で別の使い方できます。はい次の写真」

 

 続いて表示されたのは先ほどのシリコンマットの上に乗せられた雪平鍋。鍋の中には湯気立つインスタント味噌ラーメンの姿がある。

 

「このシリコンマットなんと五百度くらいまで耐えられるのです。だから『あ、これを置けばラーメンをわざわざどんぶりに入れなくても鍋のまま机におけるじゃん!』とエリは閃いたの。デスクマット汚すこともないし、しかもシリコンマットだから滑らないの凄くない? もうね、これはみんな買うべき。おススメです」

「ずぼら過ぎ。これ人に見せて恥ずかしくないの?」

「レーだってたまにやってるじゃん」

 

 誰に似たのか、まるで女子力を感じない子に育ってしまった。

 いや……女子力というか。

 

「なに。なにか言いたいことでもあるの?」

 

 僕の視線に妹が若干の動揺を見せる。客観的に見たら確かに『お行儀が悪いかも』とでも思い始めているのかもしれない。

 

「エリちゃんって、ほんとに顔以外に良いとこ無いなって。モテなさそう」

「なんてこと言うの!」

 

・・・

 

「という感じで案件配信ってのがあったんだけど」

「知ってるよ。途中までは見てた。んでもさ、わたしちゃんってレーきゅんに興味があるだけで妹ちゃんが何買ったとか全く興味ないから低評価ボタン十回くらい押しちゃった」

「一回でいいのに」

「あんたの兄を押し出さんかいという気持ちを込めて何度か押させていただきました」

 

 低評価ボタンをクリックしてしまうのがなんともマリリだし、偶数にするあたりもなんともマリリだ。

 妹の案件配信に無理やり巻き込まれた翌日の夜。

 アルバイトの帰り道にスーパーマーケットに寄って、値下げシールの貼られたデザートを眺めつつ偶然居合わせたとのたまうマリリとぼそぼそ雑談をする。

 相も変わらず大き目のパーカーを着ているマリリのカゴの中にはヨーグルトとゼラチンとハチミツとココアパウダーが入っており、おそらくyourtubeで流れてきた簡単デザートでも作るつもりなのだろう。

 

「でさ、なんでみんなそんなに他人の買うものに興味があるんだろうって。有識者である霧江氏に聞こうかと思ったんだけど……」

「だけど?」

「聞く前に、なんとなく理解出来たよ」

「えー、つまんなーい。沢山質問していいんだよ?」

 

 マリリさんからパチン、と大きな目からウィンクをいただく。しばらく考えないと質問したい事なんで出てこないけれどせっかくのご厚意、ここは何か質問をしてみるべきだろう。

 

「じゃあ。夜ご飯何食べた?」

「出前ハウスで……、まあ、色々と。いや、ほんの少しだけどね?」

 

 どうやら沢山食べたらしい。

 

「今、何時だっけ」

「夜の十時半過ぎ……」

 

 アンジェ曰く『キリエは食生活乱れがちですから。礼さんも気にかけてくださいね』との事だったので一応釘を刺したところ、シュークリームに伸びていたマリリの手が引っ込んだ。

 

 ──なんでそんなに他人の買うものに興味があるんだろう。

 

 その疑問の答えは、簡単なものだった。

 ついマリリの買い物かごを見てしまった後。

 家でヨーグルトをかき混ぜてゼラチンとハチミツとココアパウダーを入れて……なんて事をするマリリの姿を想像してしまった。それは普段は見ることのない生活感が漂っていて──。

 確かに、少しだけ、興味深かった。




 読んでいただきありがとうございました! いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 昨年のブラックフライデーの時に書いていたやつでした。個人的にはAnkerのリバティー5を買って良かったです。ノイキャンが凄い。工事の音が消える。
 リオネット家のチャンネル(ゲーム修理したりドラクエ遊んだり)→ https://x.gd/Q9kC3
 作者のX→ https://x.com/hkrkwmsg
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