顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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推し活

 

 ペイントパレットという最低品質のタレント事務所があり、そこの第……なんとか芸能課がVtuberを取り扱っており。このたびそこのタレントがコンビニとコラボをする事になった。

 対象の商品をいくつか買うとクリアファイルが貰えるというものだ。

 アクリルスタンドも売り出しているようで、今回は五人のタレントが売り出されている。見知った悪魔風の女と失礼ながら存じ上げない男の人、そして夏頃にデビューしたトリニティというユニットの三人。

 なんでもこのトリニティというユニットの真ん中にいる歌姫さまがどえらい人気のようで、さっそく重宝されているようだ。

 

「……」

 

 で。僕としては学校帰りにコンビニに寄って余っている『天使』でもいれば買ってあげようかなと思っていたのだが。

 

「……なんですか、買うなら買う。買わないなら思わせぶりな態度は見せないでくださいよ」

 

 登校前の早朝。

『近所に住むシスターと共に近所のコンビニを外から監視する』という妙な儀式に引っ張り出されてしまった。歩道沿いのガードレールに腰掛けながらコンビニの中を覗き見るのはいかにも不審者で、すでに数回レジ内の店員さんと目が合っている。きっと制服を着ていなければ通報されているに違いない。

 

「アンジェ、自分のアクスタ余るのが嫌なら僕が買い占めようか?」

 

 立体的なフィギュアと比べてアクリルスタンドには興味をそそられないのだが、朝っぱらから不審者ムーブをするくらいなら身銭を切った方がマシな気分だ。

 白い息を吐きながらそう提案すると──。

 

「駄目です。ズルはいけません。そして私は余るのが嫌なのでは無くて、しっかり自分の人気がどの程度のものなのかを見ておこうというプロ意識からこうしているだけです」

「それはそれはご立派なことで……」

 

 虚勢を張るアンジェをなだめつつ、最悪のパターンが来ないことを願う。ポツンとアンジェのアクリルスタンドが本人の前で余っていたらとてつもなく居た堪れない……。

 

「あ。見てください。オタクっぽい学生が一人入店しました。ポスターに掲示されているお菓子の種類を確認しています。む、グミとチョコ。コスパ優先のチョイスです。どうやらあの方は一人分を交換するつもりみたいです。あ、あれはキリエのやつですね。さすがに人気がありますね。見たところ男子中学生、胸の谷間が強調されたデザインを前にしては選ばざるを得なかったようです。ああ、しかし限られたお小遣いをキリエに使ってしまうとは嘆かわしい……」

「まさかタレントに自分の買い物を実況されてるとは思わないだろうな」

 

 中学生くらいの男の子がコンビニから出ていくのを見送り、僕は手を擦りながら白い息を空にはく。今日は朝から気温が低く、空には灰色の雲が広がっている。

 

「ん。あのサラリーマンの男性……妙ですね。いかにも朝のルーティーンといった様子で淀みなくおにぎりコーナーとホットドリンクのコーナーに向かったあとに数秒停止しました。ははーん、外見年齢は四十過ぎといったところ。彼が学生の頃はまだ推し活、オタクであることは肩身が狭かったと聞きます。きっと逡巡があるのでしょう。でも、ふふ、ほら、商品を選ぶふりをしてポスターをちらっと見ましたよ。私の想像ではエナドリを……。わ、ほら見てください。対象のエナドリを三本ほど買ってレジに向かいました。ふふ、ちょっと表情見てましょうか」

 

 この女、性格終わってないか。

 アンジェはそろそろと立ち上がり、コンビニのレジが良く見える場所に移動するとコクコクと頷きながらほくほく顔で帰って来た。

 

「え、ああ、そんなキャンペーンがあったのか。まあせっかくなら貰っておこうかなというお顔でした。ええ、良いのです。主は全てを見ておられる。あなたの献身はきっと伝わりますよ」

 

 全部見てるのはあんただよ。

 

「あの人、アンジェのクリアファイル貰ってくれたの?」

「いえ、どうやら片切先輩のファンの方のようでした」

「あー、男の人?」

 

 消去法で片切さんの姿、というかイラストを思い浮かべる。

 

「外見上は男性ですね。ヘアメイクアーティストの方で、兼業で配信活動もされているんです。事務所の裏方をしていたそうですが、男性……男性? の中ではけっこう人気なんですよ」

「へえ」

 

 色んな人がいて、いろんなファンがいるものなんだな。

 遠ざかっていくサラリーマンの背広姿を見送り、あくびが口から出る。かれこれ二、三十分ほどこうしているけれどなんと有意義な時間なのだろう。スマートフォンを取り出しレドメモのデイリークエストをこなすのにぴったりの時が流れていく。

 

「お次は……。あの女の子たちはそれっぽいですね」

 

 遠くから歩いてくる中高生の女の子二人を見てアンジェが呟く。一見すれば普通の子に見えるけれどアンジェのセンサーは何かを捉えたらしい。いや、センサーってなんだよ。

 

「礼さん。なにか言いたげですね」

「さっきからよく人の顔みただけでグッズ買いそうな人かどうかわかるなって」

「目的のある人の顔とそうでない人の顔を見分けてるだけです。ほら、コンビニって基本的にたいそうな目当てがあって来る場所ではないでしょう? でも、クジだったりお目当てのものがある場合は少し足早だったり店内の様子を気にしている風だったり……。何かを期待している顔っていえば分かりやすいですか?」

「アンジェ……、普段そんなこと考えて生きてるの? 賢そう」

「今。最後の余計な一言を受けた私の気持ち。表情から読み取ってみてください」

 

 怒ってますね。

 

「……」

「……」 

 

 その後、女の子二人がコンビニに入るまでは特に会話をすることもなく彼女らの動向を見守ると……二人は案の定、掲載されているポスターを見てお菓子売り場に移動していった。

 

「きっと未羽さんのファンだと思います」

「だろうね。お。片方はアクスタも買って行った」

 

 クリアファイルとアクリルスタンドを嬉しそうに持った二人組が自動ドアから出てくる。清廉に女の子のファンがいたことを伝えれば喜ぶに違いない。

 

「……それにしても。私のファンが現れないのはどういうことでしょう」

「ファンは推しに似るらしい」

「どういう意味です」

「アンジェ普段から『コンビニでお菓子を買うのは贅沢です。同じものがスーパーでもっと安く買えるじゃないですか』って言ってるじゃん」

「…………確かに。私の配信、意外と主婦の方も見てくれているというか、節約レシピみたいな話をしたらけっこう盛り上がったんですけどスパチャは一円も入らなかった時がありました。もしかして私のファン層って清貧?」

「ふっ、いや、そこまでは言ってないけど……。お、新しい人が来たよ」

 

 愕然とするアンジェの表情に思わず笑ってしまった後。

 今度は大学生くらいの眼鏡をかけた男の人がコンビニに入店。そして──。

 

「あの動きは、まさか」

 

 アンジェが息をのむ。

 大学生らしき人は入店と同時にカゴを手に取ると流れるような動作でクリアファイル交換対象商品をカゴに入れていき横に撫でるような動作でアクリルスタンドの棚に触れると、その手には五種のアクリルスタンド全てが握られていた。

 

「は、箱推しです。礼さん。見ましたか、あのあまりにも無駄のない動き。きっと前もってクリアファイルと交換できる商品を予習してきたに違いません。しかも、キリエたちだけでなく新人の私たちのアクスタまで買って行ってくれるだなんて……」

「転売屋かもよ」

「水を差さないでください。ほら、見てください。コンビニから出るや否や、アクスタを扇みたいに並べて自撮りしてますよ。顔出しできるタイプのオタクです。自分の推し活に一切のやましい感情がないとあそこまでの事はできません。……あ、ほら、見てください。エゴサしたらあの人出てきました。とりあえずイイね押しておきます」

 

 こんな身バレの仕方あるんだ……。

 アンジェが嬉しそうにスマートフォンをトントンすると、箱推しさんはスマートフォンに爆速で到来した『イイね』に気付いたのか「ふぁっ」と声を出し、再びコンビニに戻ると追加でアンジェのクリアファイルを交換して今度こそコンビニから去って行った。買い占めない辺りも良いオタクであった。

 

「ふふ。なんだか自己肯定感が上がります。この気持ち、礼さんにも分けてあげたいくらいです」

「アンジェが満足したならそれで十分だよ」

 

 だからさっさと帰ろう、と言おうとした時。

 

「あ、おにーさーん」

 

 170センチは超えてそうな身長の見覚えある女の子がジャージ姿で駆け寄って来た。見覚えがあるというか、妹の友達かつ横浜さんの妹で我が家でもちょくちょく見かける顔、ナツキだ。ランニングでもしていたのか僕の前まで走ってやって来た。

 

「サマナッツじゃん。どうしたの」

「サマナッツじゃなくてナツキ。どうしたもなにもコンビニに来たんだけど。……って、そうだ。ちょっと待ってて。先に買うものあるの!」

 

 ナッツがアンジェの存在に気が付く前にコンビニに入っていき、ポスターの前で立ち止まると財布の中身を確認しだした。

 

「あれ、妹の友達」

「エリさんにお友達なんていたんですね」

「たまにうちに来てエリに高校のパンフレットとか見せてるよ」

「へぇ。それは物好きな……。というか、あの子もクリアファイル目当てっぽいですね」

「ね。ナッツがVを好きだとは知らなかったな」

 

 王子様風の見た目のナッツがバタバタしながら買い物をする風景を眺めていると。会計を済ませたナッツが再び僕の前に戻って来た。

 

「見て、これ、片切さんのアクスタとクリアファイルにアンちゃんのアクスタとクリアファイル買えた!」

 

 とりあえず誰かに自慢したくて仕方ないのだろう、

 末っ子気質のナッツが戦利品を順番に見せびらかしてくる。僕もそれなりに見知った顔のナッツがほくほくしているのは悪い気はしないが……。

 アンジェの方をちらっと見ればいつのまにか四歩離れた位置に移動してスマートフォンを眺めていた。そして手を口元にあて、なにやらこちらに伝えようとしている。恐らく、もっと『アンちゃん』に関するトークを引き出せと言っているに違いない。

 

「ナッツそういうの好きだったんだ」

「うん、エリのやつ見てたらyourtubeのおすすめ欄に色んなの出るようになって。最近はこの片切さんの動画でヘアアレンジとメイクの勉強してるの」

「へえ。じゃあグッズ買えてよかったね」

「うん!」

「で、そっちのボロ天使みたいな子はなにが好きなの?」

「ボロ天使じゃなくてアンちゃんだよ。アンちゃんはね、恋愛相談とか色々な人の話聞くのが上手いから、聞き上手になるために見てる」

「一人寂しくべらべら喋ってるだけじゃなくて聞き上手なんだ?」

「そうだよ? なつ……私、知ってる人相手じゃないとあんまり喋れないから。あれだけ喋れたらいいなっていうので好きなの」

 

 あまり記憶にないとはいえ昔から知っている妹の友達が僕の友人から悪影響を受けるというのは中々に居心地が悪い。ナッツは素直で良い子だというのに、アンジェの配信なんか見たら悪影響が出てしまう。

 

「じゃ、そろそろ行くね。お兄さんも学校さぼっちゃダメだよ」

「はいよ」

 

 ナッツは僕がここに突っ立っていた事には一切疑問を持たないまま走り去っていった。

 

「で、お喋り天使さん。満足出来た?」

「はい。それはもう。ああいった素直な子の好意ほど嬉しいものはありません」

「ふーん」

「ふふ、礼さん。今日はつきあってくれてありがとうございました」

 

 珍しく含みの無い笑顔を浮かべるアンジェは腕時計を確認すると「そろそろ行きましょうか」と促してくる。

 けれど、まあ、せっかくなので。

 僕もコンビニに寄っていくことにした。

 

 




 
 推しを見る時また推しも見ている回でした。
 読んでいただきありがとうございました! いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 クリアファイルは増殖するぞ!
 リオネット家のチャンネル(ゲーム修理したりドラクエ遊んだり)→ https://x.gd/Q9kC3
 作者のX→ https://x.com/hkrkwmsg
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