顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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手招く悪魔

 ゴールデンウィークが終わりはや数日。

 学校に行き、家に帰り、アルバイトに行き、家に帰りの繰り返し。今から塾に入っておけば来年の受験が楽になるかなと思いつつも志望校がある訳でもなく将来やりたいことがある訳でもなく、この先ずっと続いていきそうな日常から抜け出せそうもない。

 

 大学生活は人生のモラトリアムだというけれど、良い感じに自由に暮らせる今こそ僕にとっては掛け替えのない猶予期間なのかもしれない。

 

 ピコン。

 

 夕方、リビングでダラダラウトウトしていると通知音が鳴った。

 

『やっほー。マリリちゃんだよっ! ねえねえ聞いてよ。最近ちょっとたいへんでさあ』

 うっかりマリリにダイレクトメッセージを送って以来毎時間マリリからメッセージが届く。

 最初は鬱陶しかったものの、AIからの自動メッセージだと思うようにすると無視する事にも呵責が無くなり、今ではたまに面白いメッセージを送って来るBOTだと認識している。

 

『それより。前に言ってたアレ。そろそろやろうよ』

 

 アレとは?

 

『バーチャルアイドルの実母、勝手にデビューどっきり。意地悪な企画だからちょっと調整してやる相手は慎重に選ばないといけないけど、ハマればけっこう面白そうだとはおもってるんだよねー』

 

 そういえばそんな企画を送ってたっけ。というか、この変態ストーカーに目を付けられた原因もコレだったか。あの時の自分を蹴り飛ばしたい。

 

『なんですぐにやらなかったのかって話なんだけど、やっぱこういうのって、企画募集したのを忘れた頃にやるのが重要だからさ。ね、一緒に企画を練っていこうよ』

 

 とか言ってどうせお喋りしたいだけだろうなこの人。

 

『もちろん協力金は出すよ? この動画で出た収益あげる。想像つかないだろうけど、たぶんアヤノンのバイト数か月分は稼げるけど、どう?』

 

 この女、金で釣って来たな。

 

 とはいえ魅力的な話だ。ちなみにここまで一切返信はしていないというのにメッセージだけは一方的に送られてくる状況。恐怖は常に感じている。

 

『見てるなら返信して。じゃないと家行くよ』

 

 スマホをタップして吉野さんに電話をかける。

 

『やあ、お疲れ様。どうかした?』

『お疲れ様です。そちらのバーチャルアイドルに付きまとわれて困っているんですけど。どうにかなりませんか?』

『なるほど。そう言う事ならぜひ本人に言ってあげて』

「え?」

『マリリー、綾野君から電話ー』

『やっほーマリリだよっ! 打ち合わせ中に電話かけてくるなんて積極的過ぎー』

 

 吉野ぉ!

 

『というか暇してるじゃん。マネージャーに電話かけてくるなんて。ちょっとツラ貸しなー』

「今バイトの休憩中なんで」

『嘘だね。この間アルバイト先に遊びに行った時にバックヤードも見せて貰ったけど、その時にシフト表見て覚えたから。今日は、休みだよね』

「通報します」

『マリリは美少女だから捕まりませーん。ねーねーアヤノン、今ちょっと面白いことやってるからこっち来なって。フィギュアとか好きでしょ? 試作品、あるよ』

「し、試作品?」

 

 特別好きなのは真野先輩が作ったマリリフィギュアであって他のは……。と思いつつも少しだけ興味が惹かれる。

 

『男子って試作品とかテストタイプとかロールアウト前とか好きそうだもんねー』

 当然のように心を読んでくるマリリ。

 

『綾野君、このタイミングで連絡してきた綾野君も迂闊なわけだから。これも社会見学だと思ってきてみなよ。出前ハウスで珍しいバナナジュースも頼んであるし、一緒に飲まない?』

 

 悪魔の眷属め。

 

『ねー。アヤノン、この間、アヤノンに罵倒されて深く傷ついたマリリちゃんを放っておくようなアヤノンじゃないよね?』

 

 そう言われると、ほんの少し微妙な気分だ。正当防衛のはずなのに罪悪感的なものは確かにある。

 

「……じゃあ、これで最後だから」

 

 そう返事をすると、珍しく間が空く。そして。

 

『え。今ので上手く行くとは。ゴクリ。うわ、わたし生唾飲み込んじゃった。おいおいアヤノン、マリリ心をくすぐる天才かよ。はぁはぁ、可愛いかよ。へへへ、ちょっと興奮して来ちゃったぜ。男のツンデレとかよお。ゴクリ』

「キモい」

 

 茉莉花の変なスイッチを入れてしまった後、僕はリュックを背負い必要になりそうなものを妹の部屋から持ち出し、欠伸をこらえながらペイントパレットへと向かった。

 さすがに襲われる事はないだろうが、一応の準備はしておこう。

 




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