顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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神釣家 3

 翌日の朝九時過ぎ。

 上水流村の老人たち、それにスーツを着た役人、会社員らしき人が代わるがわる神釣の武家屋敷にやって来ていた。お祭り……、奉納祭についてのお伺いらしい。

 僕も大人の難しい話が全く分からない年齢ではない。漏れ聞こえる話から上水流村がぶどうのハウス栽培、ぶどうの加工、出荷を村単位の産業として執り行う事で潤っている事が分かった。昨日見た稲穂は数年前に流行った米作りゲームで情熱を取り戻した農家の執念と探求心で続けているライフワークらしい。

 そして神釣家はというと金のかかるハウス栽培の初期投資を請け負い、やはり潤っているらしい。それどころか神釣は近隣の農家、配送会社、建設会社、タクシー会社等々にも関わっているようで──。

 

「……何が人の世だよ」

 

 神はここに居るじゃないか。

 彼らは列をなして日曜日だというのに神釣に参拝しに来ている。

 で、なぜ僕は東京に帰らずそんな光景を眺めているのかと言えば寝坊してバスの時間を逃したからである。上水流に来てからというもの妙に調子が良いというか、緩んでいる実感がある。

 

「れーたん、はやくー」

「はいよぉ」

 

 縁側の先。

 家の一軒は建ちそうな庭で息を吐き入れ膨らませたビニールボールを転がすと、紅葉ボーイが楽しそうにキャッチした。この小さな生き物にあの参列を受け止める器があるのかは不明だけれど。

 

「れーたんっ、もっかいっ」

 

 縁起物。期待は重そうだ。

 犬のようにビニールボールを僕の元まで届け、トテトテ定位置に戻る背中を見つめる。

 現在、神釣家の面々はお客様の相手に出払っており僕がご子息の相手を押し付けられているのだが。これ僕、帰れるよね? 気が付いたら日が沈みそうな予感がある。

 

「紅葉ボーイ」

「なあにー?」

「ちみもボールを投げてみたまえ」

「んん?」

「ほら、ポーンとさ。手渡しされても僕は楽しくないの」

 

 二歳児の言語能力がどの程度のものなのかまるで想像も出来ないが、紅葉ボーイなりに考えたようで手に持っていたビニールボールを両手で持ち上げ──。

 

「うう、えいっ」

 

 ベチンと地面に叩きつけた。

 昨晩、怪獣ごっこに付き合わされた時に気が付いたが二歳児とは見た目よりも力が強い。地面に叩きつけられたビニールボールは跳ね上がり、塀の頂点にポンとぶつかり。

ビニールボールは塀の向こうに飛んで行ってしまった。

 

「れーた……う、うええ」

「待て待て、泣くには早い。上手く投げれたじゃん、ボールは僕が取りに……」

 

 いや。二歳児を一人置いていくのは危険か。こんな全身弱点みたいな生き物を一人残せば魔界村よりも簡単にケガをしてしまうに違いない。

 

「……」

「……」

「だ……だ、だ、抱っこしてあげよう」

 

 仕方なく生暖かい生き物を抱き上げ、門の方へ向かい……参拝客の脇を通りビニールボールが飛んで行ったであろう方へ向かう。夜に雨が降った影響で塀の陰に隠れた地面はまだ濡れており、せっかく洗って貰ったスニーカーが汚れそうだ。

 

「れーたん」

「なに?」

「うふふ」

 

 にこにことしている。

 僕も口角だけ上げておく。見る人が見れば苦笑いかもしれない。とりあえず進路希望の紙には『保育士以外』と記入するか。

 というか幼児、体温高いな。柔らかいし甘ったるいニオイがするし……。

 

「あ! もみじのぼーる」

 

 小さな手が木々のすき間に挟まったビニールボールを目敏く見つける。随分と取りずらい場所に転がったというか。洗って貰ったばかりのスニーカーがまた汚れる事になりそうだ。

 

「紅葉ボーイ、ずいぶん景気よく飛ばしたなぁ。これじゃあ取れな──」

「うぇえ」

 

 見る見るうちに、クリクリとした目に涙が浮かぶ。

 

「いや取るけれどもね。そういう交渉手段は感心しないなぁ。ほら、最近は男だ女だ言う時代ではないけれども。それでも男児たるものすぐには泣かない方が良いと思うけどなぁ。ほら、ここだけの話。男女ともに泣かれると面倒なのよ。どんなシチュエーションであれ、あーあこいつ泣いたよって僕は思います」

「う?」

「とにかく、泣いて人をコントロールするのは止めるように。……いやでも、子供って泣くものなのか。じゃあ泣いていいよ」

「……れーたん。いいから、ぼーる」

 

 紅葉ボーイは二歳児とは思えないほどしっかりと呆れた表情を浮かべている。

 二歳児の語彙に「いいから」ってあるんだ。ふーん。有望じゃん。

 

「じゃあボール取ってくるから、どっか行かないでよ?」

「はーい」

 

 紅葉ボーイを地面に下ろし、木々をかき分け足元悪い中ボールに手を伸ばすと──。

 ズルっと足が滑りとっさに手を伸ばした先には石の感触。

 

「……」

 

 視界がゆっくり斜めにずれていく。

 なぜなら掴んだ石が、祠が、ゆっくりズレているからだ。

 まあ、これ、誰が悪いかというとご子息が悪いというか。

 紅葉ボーイさえビニールボールを投げなければこんな事にはならなかった。もし僕の脳内に賢い人でも現れれば紅葉ボーイにビニールボールを投げさせた真犯人に辿り着いたかもしれないけれ──ドンッ。

 祠もろとも地面に倒れる。

 やれやれ。

 祠、正しくは龍を模した灯篭の破片を数秒見下ろし……。

 

「ご子息ー、何を犠牲にしようとも取ってこいと仰られたボールありましたー」

「れーたんすごーい」

 

 この罪、二人で背負っていこうな。

 

・・・

 

 結局、トークスキルも語彙も無い幼児と二時間ほど遊んでいる。

 ボール遊びに木の実集め。泥団子作りに……お馬さんごっこ。この僕を馬扱いとはド田舎のボンボンめ。紅葉よ、SOUTH FACEという金はあるけれどファッションセンスのないおっさんが着るでお馴染みのアウトドアブランドの服を着るとは将来が心配ですよ。

 子供は金太郎さん見習って赤い裸エプロンでいいんですよ。

 

「礼くん、紅葉の相手ありがとう」

 

 塀の外で遊ぶ僕らの様子を見に来た承子おばさんは紅葉ボーイを回収してくれるかと思えば、シャボン玉セットとフリスビーを置いてまた家の中に引っ込んでしまい。

 

「しゃぼんだま、でないよぉ」

「息強く吹き過ぎ。ふーってやさしく吹くの」

「ふぅー」

 

 その後やって来た承子おばさんの母、継ばあちゃんは「あら。礼君のおさがり汚しちゃって」と嬉しそうにした後に虫かごと虫網を置いて家の中に戻った。

 なに、もしかして紅葉ボーイが着ている服僕のなの? どおりで良いセンスしてると思ってた。

 

「アリさんいた」

「水攻めする?」

「ふぇ?」

 

 子供の白目は少し青みがかっているらしい。

 そしてその、何もかも瑞々しく純粋な瞳を前にすると自分がひどく駄目人間のような、まるで普段からテキトーな事ばかり話して人を小バカにしている困った人間のように思えてしまう。

 子供って……ここまで無垢なのか。

 

「僕は、薄汚れた人間です……」

「あ、とんぼ!」

 

 紅葉ボーイが振った虫網が僕の頭を包み込む。

 

「おいおい、僕はドラゴンフライじゃあないんだぜ?」

 

 二歳児相手に軽口が自動的に飛び出す。

 なんだかもう恥ずかしくなってきました。こんな所を地元の知り合いに見られたら白い目で見られる事間違いない。特に近所の教会に住み着いている人に知られたら何を言われるか……いや「相手して貰えて良かったですね」と薄ら笑いされるに違いない。

 自分にため息をつきながら、つい一瞬前まで元気満タンだった紅葉ボーイを見下ろす。

 

「紅葉。そろそろ帰ろうか」

「やだぁ。まだあそ……ぶ」

 

 電池切れ寸前の幼児を手招くとドスンと全体重を預けられ、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。紅葉よ、僕は体重を預けるほど信頼できる好青年じゃあないんだぜ?

 

「よいしょ」

 

 幼児を抱っこし、虫網虫かごその他オモチャをどうにか回収して武家屋敷の門を潜り、人の往来のある玄関ではなく縁側の方へ向かうと。

ルカと紅葉の父、啓介おじさんが出迎えてくれた。

 

「礼くん、紅葉と遊んでくれてありがとう。大変だったでしょ」

「世間のパパさんの気持ちというのを少しは勉強出来た気がする」

「それは良かった。紅葉は人見知りする方なんだけど、やっぱり血の繋がりを感じたのかなぁ」

 

 恵介おじさんは入り婿だからか標準語で喋る。聞いた事は無いけれど関東出身の人なのかもしれない。

 

「あの、つかぬ事をお伺いしますが……」

「急にそんな他人行儀でどうしたの」

「いや、その。紅葉ボーイとルカ。年離れてるなぁと」

「あー。いやぁ……。その、はは」

 

 僕の婉曲的な言い方で察したのかおじさんは気まずそうに頬をかいた。

 

「すみません。つかぬ事をお伺いし過ぎました。なんだか、僕からすると本当にいつの間にか生まれてたのでつい。夫婦仲が良いのは素晴らしいと思います」

「あはは……、そうか。礼くんもそういうのに気付く年頃になったんだ。なんだか嬉しいよ」

 

 恵介おじさんは紅葉ボーイを縁側に寝かせると近くに転がっていたうちわで紅葉ボーイを扇ぎ、僕を隣に座るように誘った。

 

「まあ、そうだなぁ。この辺りって名産みたいなのが無くてさ。それで、十年前くらいの大嵐をきっかけに天候に影響されない作物を育てようってなって。立派な骨組みのハウス栽培を始めて」

「ぶどうだっけ」

「良く知ってるね。そう、そしたら予想以上に軌道に乗った。でも、やっぱり人口は減るばかりでね。だからこう……その、次世代的な……」

「言わんとする事が理解出来ました」

「良かった」

 

 次世代か。

 この上水流だけでなく地方の人口については教科書に載っている程度の情報しか知らないけれど、そりゃあ作らなければ産まれないか。

 

「あのさ、こうして礼くんと話す機会なんて無かったから……。前から一度聞いてみたいことがあって。いいかな?」

「体重以外なら」

「アイドルじゃないんだから。……その。この神釣の血筋みたいな話なんだけど。正直なところ、霊感とかってある?」

 

 何をバカなと言う前に、思いのほか真剣な目を向けられている事に気が付く。

 霊感……。

 

「僕は科学の申し子だから少なくとも水龍さまを祀ってダンスしたりはしないよ」

 

 正直なところ、仮に視えるとして。

 僕は『私、幽霊視えるんすよ』とか言う人を冷笑したいタイプなのであまり自分から視えるとかは言いたくない。視えたとて、何かに役立つ事もない。

 

「俺もね。まったくそういうの信じていなかったんだけど。でも神釣に来て……大ばあさまを見ると、そういうのがあるのかと思う事があって。目に見えない迫力というか凄みというか。そういうのが無いと……神釣家の当主には相応しくないのかなって……」

 

 言い換えるとカリスマ性みたいな話か。屋久杉に神秘性を感じるような。

 

「おじさん、さすがに新芽と老木比べるのはどうなの。紅葉も今後に期待ですよ」

「老木……」

「まあでも、そういうの込みで次世代というか。大ババアも特殊なものは期待していないというか。だからルカもお役御免で放逐……あ、すみません。ルカも一応おじさんの娘でした」

「礼くん、今全方位に攻撃してたよ?」

「僕、幽霊くらいなら会っても良いけど、あんまりオカルトに興味無いんで。我が子を思うなら霊感云々より、誰もが知る大学に進学させた方が分かりやすく村での人望集まるように思いまする」

「それは……ほんと仰る通り」

「それに。自分の父親がそういうオカルト信じてふらふら揺れているの、嫌かな」

 

 ま、うちの父親の事なんだけど。

 恵介おじさんはしばらくポカンとし、苦笑した。

 

「なんだか。礼くんもすっかり大人になっちゃって。……変なこと聞いて悪いね。大ばあさまとルカと似てるのって、礼くんくらいだからつい」

「……似てる? 僕はまともだよ」

 

 大ばあさまとルカの似た雰囲気は分かるけれど、そこに仲間入りは勘弁願いたい。

 

「顔つきというか、普段どこ見てるのか分からないところとか。たまにジッと人を見てるところとか。それに、何だかんだと言いながらお人よしなところとか」

「…………」

 

 反論したいのに該当項目にチェックマークが入り、口元をヒクヒクさせることしか出来ない。

 

「そういえば昔一緒に川に遊びに行ったの憶えてる? 大ばあさまと礼くんと三人で……あの時は俺も婿入りしたばかりで緊張してたんだけど浮き輪つけた礼くんが川に入った途端、アユがバシャバシャ跳ねて礼くん大泣きして大ばあさまも俺も慌てて宥めて……。そんな思い出があるからか、俺にとっては礼くんも神釣の子なんだよ」

 

 恵介おじさんは懐かしむように語った。

 ……大人は平気で十年以上前の話をする。話の内容からいってルカすら生まれていない頃っぽい。川遊び。そんな事もあったような無かったような、だ。上水流の川でアユなど見かけた事も無いけれど、機会があれば渓流釣りに挑戦してみようか。

 

「──水龍様を、天に還す」

「え?」

「神釣の家に伝わる古文書に書かれた言葉。神釣の者がやるべきお役目なんだってさ。礼くん、ルカのことよろしくね」

 

 おいおい古文書出てきちゃったよ。

 

・・・

 

「礼さま、ルカとID交換して下さいませ。帰りの飛行機のチケットを送りしまする」

 

 昼過ぎ。

 縁側で寝転んでいるとお客様対応を終えたルカがスマートフォンを握りしめながらやってきた。

 着物を着て熱が籠っているのか、ルカの顔は少しだけ赤みを帯びているように見える。

 

「飛行機。いいの?」

「はい。紅葉の相手をしてくださったので母さま共々とても助かりました。紅葉もあれだけ身体を動かして楽しかったようで、今はぐっすり眠っております」

「僕も遊び過ぎて疲れた。空の旅で優雅に帰らせて貰うとするかな」

 

 

「それがよろしいかと。きっと紅葉が起きるまでいては泣いて止められます。父さまが車の準備をしますのでルカの相手をしつつお待ち下さいませ」

 

 お客さんの相手をして疲れたのだろう。ルカは僕の隣に腰を下ろすと息を漏らした。

 ルカが取り出したスマートフォンに表示されるQRコードを読み込むとお友達一覧にルカが追加される。アイコンの下に表示される一言には何も綴られていないのが少しだけ意外だった。

 

「わぁ。礼さま、こちらの可愛いらしいアイコン、どちらのぬいぐるみなのでしょう」

「ああ、マリリちゃん人形ね。それ僕がアイコンに設定していないのに勝手にアイコンになっていた呪いの人形だから見ない方が良いよ」

「そんな言い訳せずともルカは男の子がぬいぐるみを好きでも構いませぬよ?」

 

 事実なのに照れ隠しと思われている……。

 今の今まで気にしていなかったけれど、そうか。このアイコンって学校の知り合いにも見られているのか。そう思うと嫌になってきた。アイコン変えよう。まずは教会に行って解呪してもらって二段階パスワードをマリリに聞いて更新すればアイコンを変更出来るはずだ。まったく、最近のスマートフォンというのはここまでしないとアイコン一つ変えられないから不便で仕方がない。

 

「そういうルカもアイコンがぬいぐるみじゃん」

「はい、エリオットぬいでございます。ルカはエリーも好きですが、エリオットのデザインも好きなので沢山持っているのです」

 

 雑談の最中にルカから送られてきた飛行機のチケット、そのQRコードを確認する。

 飛行機に乗るのは楽しみだけれど家に帰る頃には日が暮れそうだ。本来であれば今日はアルバイトの予定だったのだが、最近雇われた新人さんが代わってくれたので助かった。新人さんには未だ会った事が無いけれど何かしらのお礼……お土産くらいは買っていくべきか。

 体を起こし、スマートフォンをスワイプし神戸のお土産一覧を眺める。

 プリン、瓦せんべい、ゴーフル等々の知識を仕入れていく。空港に入れば何かしら売っているだろう。ついでに知り合いにも何か買っておくか。

 

「ところで礼さま。祠、壊したでしょう?」

「壊してないよ」

「あんなに重い石ころをどうやって転がすのです」

「壊してないよ?」

「あれは封なのです」

「ふーん?」

「大ばあさまがルカが生まれるより前に作らせた五つしかない神器」

「やめてよ、新たな設定出してくるの。なに、神器? 邪神でも封印されてるの?」

「邪神ではありませぬ。水龍の力を分け、封じる。いわゆる安全装置にございます。普通であれば見つけられぬ場所に隠された神の器こそ……。そう言えば礼さまの幼き頃。一つ壊して大ばあさまに怒られておりましたね」

「へぽ?」

「へぽではありませぬ。礼さまがぽこぽこ祠を壊すからルカは先ほどから頭痛がするのです。それに人間たちの相手もしてルカは疲れました」

 

 僕の膝の上に頭を乗せゴロンと寝転ぶルカのおでこに手を添えると確かに熱っぽい。僕はすこぶる調子が良いというのに難儀なものだ。

 

「もっと撫でてくだされー。礼さまの手は冷えてて気持ち良いのです」

 

 ルカは妹よりも年上なのだが、妹がこうするよりも可愛げがある。違いがあるとすれば大きさの問題だろう。うちの妹は物理的にデカくて邪魔くさいのだ。しかもリリーを見るにまだ伸びしろがある。

 

「いいですか。祠には壊して良い祠とダメな祠があるのですからね。新築の祠は何も灯っておりませぬが、古いのは大事にしてくださいませ。古い方がインテリアとして雰囲気が良いのです」

「僕もわざと壊した事は無いんだよ? すっごく簡単に転がっちゃうから」

「うかつなのが竜の子なのです……」

 

……神器に古文書か。民間伝承、民俗学が好きな人ならさぞ喜んだに違いない。探せば石碑みたいなのもあるのではなかろうか。

 

「ルカ。因習村ツアーなんだけどさ。僕も一つ考えてみた」

「妙案が浮かびましたか?」

「浮かびましたとも。祠を壊すだなんてもう古い。祠を直す事から始まる物語があったって良い」

「まさか自分で壊した祠を誰かに直させようとしておりませぬか?」

 

 鋭いなこいつ。

 

「まあ聞きたまえ。──大学で民俗学を専攻する若者がフィールドワークで村を訪れる。偶然見かけた壊れた祠を直してみれば、少女が現れ知恵を授ける。そうして村の痕跡を辿りながら祠を直していくと、滅ぶべくして滅んだ忌まわしき過去があらわになる」

「体験型のアトラクションでございますね」

「やがて若者は悟るのだ。ここは呪われた地なのだと。祠に祀られていたのは善き神では無かった。そして自分はもうこの村から出る事は出来ないと天を仰ぐ。隣には笑みを浮かべる少女、いや神が居るのだから」

 

 一通り語り終えると「んー。努力賞はあげまする」と評価を頂いた。

 僕に創作の才能は無さそうだ。

 

「やはりドラゴンが出ないと燃えないのです。主役はルカで、礼さまがドラゴン役。竜の子よ、気に入らぬもの全て滅ぼすのです」

「えー?」

「因習村、思えばなぜひっそりとやるのか疑問なのでした。真正面から圧倒的『暴』でプレイヤーを叩き伏せるのも一興でしょう。ね、竜の子」

「ジャンル変わってるよ」

「そして暴れる竜の子を平和主義のいたいけな巫女が鎮めるのです。どうですか。ルカのプラン」

「いや仮に僕がドラゴン役だとして。ルカに怒られたらすぐやめるよ」

「幼き日に躾け過ぎたのです。……あ、そうでした。こんな与太話ではなく言っておくべき事があったのでした」

 

 両手を合わせ、ルカは小首をかしげると僕の目をジッと見つめた。

 

「ルカが東京に遊びに行ったら、礼さまが東京でどのように暮らしているのか。それを見せてくださいませ」

「東京タワーとかスカイツリーでも見た方が良くない?」

「いえ。竜の子が普通に生きる姿。このルカにお見せください。きっと、よい参考になると思うのです」

 

 ルカは週末にやってくるようだが。どうせなら楽しそうな場所に連れて行ってやりたいのだが……ルカはそういうのには興味が無さそうだ。

 

「では、いってらっしゃいませ。ルカと離れるからといって癇癪を起してはなりませぬよ」

「それ僕のセリフね」

 

 かくして、僕はご神体より一足先に東京へと翻る。

 僕の生活……か。さして愉快なものとも思えないけれど。ルカが望むのであれば今一度自分の回りを顧みても良いかもしれない。





 帰省?編終わりです。また長くなってしまいました。
 読んでいただきありがとうございます、いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 高評価もぜひよろしくお願いします!

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 作者のX→ https://x.com/hkrkwmsg
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