顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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デイリークエスト

 チカチカとテールランプを光らせ、マリリが運転する車が去っていく。上水流の澄んだ風とも海ほたるで吹き荒ぶ潮風からも遠ざかり、面白みのない我が家にようやく帰って来た。

 玄関のカギを開け、静まった家の中を歩く。

 リビングにはお好み焼きの匂いが漂っており、ソファでは母親が寝息を立てていた。肩をトントンと叩くも起きる様子が無いので荷物を置いてお姫さま抱っこを試みると──。

 

「重っ」

 

 どうにか持ち上がり、母親の部屋まで運びセミダブルのベッドに寝かせる。

 170センチを超えている女性の平均体重は知らないけれど夏にドラムを叩き続け腕力でもついたのだろう。部屋の中は服と香水と子供の頃の僕と当時のリリーが写る写真がいくつか飾られ……写真の中の僕はどれもリリーの腰にくっついているか抱っこされている。とんだ甘えんボーイもいたものだ。

 

「……」

 

 ベッドの上で薄目を開ける母親と目が合い、手招かれる。

 我ながら飼い犬のような従順さでベッドに上がり並んで寝転ぶと耳元で「今日はね、エリーと夕飯食べたよ」と教えられ「良かったね」と答えると母親は満足したのか再び寝息を立て始めた。僕もこのまま一緒に寝てしまおうと良さげなポジションを探ると……部屋の入口の方から冷えた空気が漂ってきた。なんとなく嫌な予感がして目を向ければ──。

 そこには夜闇の中でボンヤリ輝く双眸があった。

 一部では見た目が違うだけのおおよそ綾野礼とも噂される我が妹は半袖白Tシャツとショートパンツというラフな格好で兄を冷めた目で見下ろしている。

 

「べつにエリは責めないけどね。でも世間はどうかな? SNSのアンケート機能使って母親と一緒に寝ようとする高校二年生ってどう思いますかって聞いちゃおっかな」

「やめてください」

「はー、やだやだ。エリの兄ともあろうものが乳離れ出来ないだなんて」

「せめて母離れって言ってくれない?」

 

 当たりが強い……。

 しぶしぶ立ち上がり妹の元へ向かうと、二十秒ほど口を尖らす妹にじろじろと見られ──。

 

「レーがいなくてさみしかった」

 

 妹は握りこぶし二つを口元に当てて上目遣いのポーズをした。

 

「なにそれ。ファイティングポーズ?」

「かわいいポーズっ」

 

 しゅっしゅっと右パンチ、左パンチが飛んできて左右に避けると最終的にドンと妹が飛び乗ってきた。

 

「へへっ、おかえりーレー」

「はい、ただいま」

 

 ここですぐに床に下ろすと『こいつ何もわかってねーな』的な目を向けられる気がしたので、ルカよりも一回りは重い身体を抱きかかえて二階の自室へと向かう。

 

「今日ね、おかーさんとおとーさんとお好み焼き食べた」

「美味しかった?」

「ふつう。レーは何食べたの?」

「あさりカレー」

「どこで食べたの?」

「海ほたる」

「……海ほたる? それって空港?」

「そうだよ」

「ふーん。あ、そういえば昨日はね──」

 

 妹からの近況報告を聞きつつ部屋のドアを開けて、大荷物をベッドに下ろす。一日ぶりの部屋だけれど神釣の家と比べるとまるでザリガニ用の小さな水槽のようだ。

 

「はぁ……もう土日終わっちゃったよ。寝て起きたら学校だ」

「休んじゃえば?」

「僕はね、わりと学校好きなの」

「人間たくさんいるのに?」

「人混みとは違うじゃん。それに外でドラムなりバケツなりを叩いていても怒られない場所なんて学校くらいだし。自分で考えなくても勝手に一般教養教えてくれてお得じゃん」

「人間関係は?」

「僕は人間に優しくされた事しかない」

「ゔっ。え? その性格で? このエリですら村八分なのに? サマナッツがお姉ちゃんに聞いたって言ってたけどレーって学校の先輩を血祭りにして停学一週間喰らって校内で怪しい種を売って休み時間にクラスメイトの女の子にセクハラして放課後学校の土を勝手にほじくってバケツを叩いてる人って思われてるんでしょ?」

「いや不審者すぎる。僕が停学? 先輩を血祭りとか…………あ」

 

 思い当たる節、あった。

 去年園芸部で実験的にトマトを栽培しケチャップに加工したのだが……。当時三年の先輩が躓いて倒れ顎を打ちケチャップ塗れになり、それとは別に当時二年の虚弱な先輩が何故か鼻血を出し、先輩の血を見た僕がノックアウト。三人まとめて別の先輩に台車に乗せられ保健室に運び込まれるという悲しい事件があったのだが……。

 どこかで尾ひれがついている。

 妹に釈明しつつ僕の学校生活を振り返るも……ろくな事が起こっていない。

 

「……レーは、エリとちがうもん」

 

 しかし妹はそんな僕の学校生活にまつわる話を唇を尖らせながらもじっくりと聞いていた。

 

「なに。学校行きたくなったの?」

「ち、ちがう。というか、段階踏まずに結論にいくのやめて。もっとゆっくりとエリの気持ちを聞き出して。そしたら教えてあげるから」

「はぁ……」

「今なんで溜息ついたの。こともあろうに可愛い可愛い妹のお話面倒くさがったのっ⁉」

「あのさそういう話はもうちょっと時間ある時に言ってくれない? 明日、月曜。というか今や月曜なの。寝たいの」

「だってレー、最近ずっと外いるじゃん。エリと話してくれないし」

 

 妹は拗ねた様子でベッドにゴロンと転がる。

 

「毎日一時間は話している気がするんだけど」

「じはつてきにエリに会いに来てる? エリの方から来るものだと思ってない?」

 

 何様なんだこいつは……。

 確かに八月が終わってからプラプラと出歩く事は増えたけれども。まさか妹がここまで機嫌を損ねているとは思いもしなかった。

 ルカに始まりマリリも妹もどうにも不穏な雰囲気。僕自身の精神状態は以前と比べるとすこぶる良好だというのに難儀なものだ。自分の機嫌くらい自分で取ってくれよな。

 

「それに、ご飯も作ってくれない」

「リリーか父さん家に居る事増えたじゃん」

「レーだけいればいいの」

「エリちゃんさぁ、たった一日会わなかっただけで拗ねないでよ」

「だって……レーってすぐどっか行っちゃいそうじゃん」

「エリちゃん置いては行かないって」

「……今日、一緒に寝てくれる?」

 

 物理的にデカくて邪魔な事を除けば一緒に寝るくらいはいいのだが……。少なくともこのままお喋りを続けて睡眠時間が削れるのは避けたい。

 

「とりあえずお風呂入って来るから、そこで寝たいなら寝てていいよ」

 

 妹は不満げに僕を見上げると、タオルケットにグルグルとくるまった。

 やがて風呂から上がり部屋に戻ってみるも立ち退く様子の無い妹は依然としてベッドを占領しており……タオルケットから出ているつむじを人差し指で押す。普段通りといえば普段通りの妹なのだが、妹にしては僕の学校の話を大人しく聞いていた気もする。

 

「……」

 

 週末にはルカが来る。

 週末には僕の学校の文化祭がある。興味があるのなら妹も誘ってみるか。

 ベッドに寝転び妹からタオルケットを奪うと、暗い部屋の中でぼんやり灯る妹の瞳が柔和に細まる。

 小学生の頃は、毎日一緒に寝てたっけ。

 

・・・

 

 月曜日、朝のショートホームルームが始まる前に紙袋からお土産の瓦せんべいを取り出しクラスメイトの机に一人一つずつ置いていく。クラスの半分くらいまで配り終えたところで僕が壇上に立ち一人ずつ前に来て持って行ってもらった方が良かったなと思い至るが、時すでに遅いので後半戦も地道に続ける。こういった地道な気遣いが『綾野は普段はあれだけど、お土産くれたしな』に繋がるのだ。ロビー活動とも言う。

 

「お前歌詞ちゃんと覚えておけよ?」

「完成した衣装、もうちょっとなんか出来そうだよねー」

「どうせなら優秀賞とか取りたいわ」

 

 などと瓦せんべいを配っているとクラス内の話題が文化祭で占められている事に気が付く。年に一度のお祭りが近づいてきたのだ。

 遅れてやって来た副担任の阿部先生にも瓦せんべいを渡しようやく席に戻ると、教室内でバリボリと咀嚼音が散見した。昼休みに配った方が良かったかもしれない。

 阿部先生が壇上隅に置かれたパイプ椅子に座ると文化祭実行委員の綿貫君が文化祭の準備の手順についてプリントを配りつつ説明し始めた。

 文化祭の日程は二日間。生徒のみの金曜日、外部を招いた土曜日で計二日。

 今週から授業に支障のない範囲での飾りつけが許可され、木曜日は午前授業となり昼前のロングホームルームから文化祭の準備をして良いとの事。

 このクラスの出し物『みんなでハモリ我慢大会』はほぼ合唱のようなものなので、お化け屋敷のような大掛かりな準備の必要が無くて楽だ。

 

「綾野、ドラムロールとか出来る?」

「ん?」

 

 綿貫君の話を聞き流しながら次の授業の準備をしていると、綿貫君になにやら話を振られた。

 

「ドラムロールという単語から察するに僕がドラムロールをするって事?」

「察するも何も今全部説明してたんだけど。ハモリの成功失敗を演出しようかなって話」

「それくらいなら出来るけど、僕スネアドラム持ってないよ?」

 

 なので後ろの席の吹奏楽部、横浜さんを見ると。

 

「自腹で買ってきな」

 

 無慈悲な言葉が背中に刺さり、綿貫君が僕をフォローするかのように横浜さんを窘める。

 

「吹奏楽部に借りる事って出来るかな」

「どうだろ。一応確認してみるけど、もしかしたら他のクラスでも同じようなこと考えてるかもしれないし。体育館での合奏でも使うから文化祭開始からしばらくは借りれない気がする」

「そっか、了解。とりあえずうちのクラスの出し物はほぼほぼ準備完了してるから、みんなも今から付け加えて面白くなりそうなのあったら今日、明日までにお願いします。以上」

 

 ドラムロールなんてフリー素材の音でも流せば十分だろうに。

 しかし……。

 これもまたポイント稼ぎ、ポイ活の一環。粛々と期待に応えようではないか。

 ホームルームが終わり数学から始まる授業を四つこなし、昼休みを迎えると──。

 背中をトントンと叩かれる。

 

「なに」

「ボレロって曲知ってる?」

「最近期間限定無料公開されてた僕らのウォーゲームのやつ?」

「なにそれ、ほら映画だとニノが出てた何番出口みたいなのの冒頭の曲。私あれけっこう好きなんだよね」

 

 いまいちピンと来ないけれど、同じ名前の曲が複数ある訳でも無いだろうし恐らく僕と横浜さんが思い浮かべている曲は一緒だ。

 スネアドラムの音から始まって、こう、仲間が集まって来るみたいに同じメロディを沢山の楽器が奏でる楽しい曲だ。

 

「そのボレロがなに?」

「先輩に吹奏楽の宣伝頼まれててどうしようかと考えてたんだけどさ。廊下でボレロ叩きながら歩いて吹奏楽の宣伝しようかなと思いついたから、あんたも手伝って」

「なんで僕」

「うちのクラスほとんど準備終わってるんだから暇でしょ」

「やだ」

「やるなら優先的にドラム貸してくれるように頼むから」

「べつにバケツでいいよ」

「たまには身に付けた技術を役立てようとは思わないの」

「……」

「オモチャあげよっか。この前家の掃除してたら綾野が好きそうなのあったよ。動物がロボットに変身するやつ」

「あのね。僕は幼児じゃないの」

 

 僕の乗り気でない表情を見るや即座に甘言で釣ろうとしてくるあたり手馴れている。

 逃げ道を探すのに頭を使っていると、僕らの話を聞いていた周りの無責任なクラスメイト達が「面白そうじゃん」と言い始める。黙っていなさい。

 ──結局。このクラスの出し物と吹奏楽部の宣伝をするために校内を練り歩く事となった。

 念のため生徒会にこういう宣伝をしますよと伝える役目も、僕に任された。

 

「あんた生徒会に友達いるでしょ」

 

 との事だった。

 

・・・

 

「ばやしこーっ」

 

 和菓子屋の倅、小林青年を探し弁当箱を持ちながら生徒会室の扉を開けると──。

 男女比一対一の生徒会役員たち六名が長机を囲んで話し合っている場に出くわした。何かしらの会議中だったようだ。

 

「あ。失礼しました」

 

 ペコリと頭を下げつつ空いているパイプ椅子を見つけ、僕も長机の一角に陣取らせてもらう。

 今日のお弁当は昨日の残り物のお好み焼きだ。

 前にカップ焼きそばを食べた時に使い忘れたマヨネーズの小袋も持ってきたので抜かりは無い。

 

「……ソース忘れた」

 

 抜かりはあった。

 僕の隣でまるで部外者が急に入ってきた事に驚いた様子の一年の男子生徒に「ここってソースありますか?」と会議を邪魔しない程度の小声で聞くと、困った様子で「ありません」と告げられる。さすがに求め過ぎたか。

 

「ならお茶は──」

「そこの部外者。出ていけ……とまでは言わないから黙って食え。あと初対面の一年を見つけたからといって困らせて遊ぶな」

 

 久しぶりの登場のような気のする小林が、トンと紙コップを僕の前に置き急須からお茶を注いでくれた。

 小林以外の生徒会の面々とも去年から何度か会う機会があり皆顔見知りで、会釈されたりヒラヒラと手を振られたりする。

 髪をポニーテールに纏めた雰囲気だけ凛々しい生徒会長さまは片肘を突きながら僕を一瞥し「校庭に野良犬が遊びに来たみたい。そんなの見たこと無いけど」と呟いた。相変わらずちょっと変わった人だ。

 ちなみに小林はそんな生徒会長さまが好きだ。本人は認めたことはないけれど僕にはわかる。

 隣に座る一年生にその推定事実をこっそり教えてあげると激しく動揺した。

 

「では、話を続ける。当日のタイムテーブルだがまずは開場から──」

 

 小林が中断された議題を掘り起こし会議を再開する。

 文化祭実行委員会とは別に生徒会でも何かしようというのだから偉い人達だ。

 僕も順序だてて物事を決めるのは好きな方だけれど、学校単位の行事を取り仕切る胆力も責任感も無いので素直に感心する。

 会議というか情報共有の時間は十五分ほど続き、会長さまの一声で解散となった。僕の隣に座っていた一年生は気まずそうにペコリと頭を下げて去って行ったが、何人かはこのまま生徒会室で昼食をとる様子。

 

「綾野。待たせて悪いが今日はお前用のおやつは無いぞ。欲しいなら前日までに言ってくれ」

 

 小林が空いた僕の隣のパイプ椅子に座り、紙コップに口をつける。

 

「あのね、僕はおやつとかオモチャに釣られてやってくるような安い人間じゃないから」

「どうだか。それ以外でお前が自発的に寄り付くなんて」

 

 小林は僕を横目に見て数秒経過。

 

「…………もしかしてちゃんとした用件でもあるのか?」

 

 僕を何だと思っているんだこいつ。

 憤慨しつつ『ボレロを演奏しながら校内を練り歩く宣伝』について確認をとると。

 

「楽しそう。許可」

 

 小林よりも先に生徒会長さまがパチンと指を鳴らす。

 小林の方も反対する様子はなく、手元の紙にサッとメモだけ記入した。

 

「階段を移動する時は補助を付けるなりして気をつけろよ? 何かあったらせっかくの文化祭のムードが沈むからな」

「やっていいの?」

「校内をバイクで走る訳でも無いし、その程度は問題ない。強いて言えば演劇だったりをやるクラスもあるから。その辺りの予定を調べて劇の邪魔にならないタイミングで演奏してくれ」

「あー、気配りというやつだ」

 

 大事な事なので頭の中のチェックリストに追加すると、生徒会長さまが机をトントンと指先で叩き僕の注意を引いた。

 

「キミ。どうせならうちのクラスの宣伝もして?」

「会長さまのクラスって何やるんです?」

「お化け屋敷からの、怪談。何人か集まったら怖い話がはじまるよ」

 

 生徒会長さまがお化けのポーズをとる。

 お化け屋敷の迷路の先で怪談が始まるのか。ムードを作った後に始まる怖い話。

 ……普通に怖そう。想像するだけでゾッとした。

 

「でもなぁ、会長さまの頼みとはいえタダで宣伝するのはなぁ」

「それじゃあキミのボレロ隊にうちのクラスの吹奏楽部を貸し出そう」

 

 僕個人としては何も美味しくないものの、断る理由も無いので頷いておく。お化け屋敷とハモリ我慢大会ならお客さんが競合する事も無いだろう。皆が得するならその方が良い。

 

「会長。綾野が都合よく面白い話持ってきて良かったですね」

「重畳、だね。キミ。せっかく来たんだしボレロに関わらず他に有意義な出し物は考えられる?」

「出し物ならもう十分あるじゃないですか」

「クラス単位のものではなく、学校全体に影響のあるものが好ましい」

 

 生徒会長さまは無理難題を言うと蒸しパンをビニール袋から取り出し食べ始め、補足するように小林が口を開く。

 

「大げさなものじゃなくて良いんだけどな。現時点で例年通りの文化祭を行う準備は完了しているから、あまった時間で何か出来そうなものはないかって話が出てたんだ。例えば……」

「スタンプラリーとか?」

「おお、さっそく出たな」

「優秀」

 

 小林と生徒会長さまに褒められる。一瞬悪くない気分になったけれど、かつての記憶がフラッシュバックする。

 

「去年こんな感じで二人に褒められて雑用押し付けられたの憶えてるよ」

 

 二人は僕に向けていた視線を急に逸らした。まるでサンタの実在を尋ねられた親のような反応だ。スタンプラリーみたいな定番イベントなど誰でも思いつく。きっと僕はこのままおだてられ続けて案を出す機械として生徒会室の備品にされるんだ。

 

「生徒会は真面目な連中ばかりだから、困ったちゃんの意見が貴重な時もある」

「変数、だね」

「……」

 

 ま、考えるだけなら安いものだ。冷めたお好み焼きをもちゃもちゃ食べながら有意義な出し物とやらを考えてみる。

 

「ボレロでもスタンプラリーでも、どうせなら目立たないけど実は凄いみたいな場所を紹介出来ると良いんじゃないの。そんな出し物のクラスとか部活があるのかは知らないけど」

「お。やっぱりたまに視野が広いな。ほら、ご褒美の大福をやろう」

「おやつあるじゃん」

「これは自分用だったんだよ。会長、とりあえずこっちで演奏のルート出しましょうか」

「目立たない部活、サークルの子にチラシや看板でも持たせて演奏隊の後ろを歩かせよう」

 

 小林と生徒会長さまは資料を見ながら線を引き始める。二人がルート作りをしてくれるのならば僕も助かるけれど……。

 企画ねぇ。

 二人を意識の薄い膜の向こうに置いて、真剣に考えてみる。

 たまにはこういう学校のための奉仕活動に関わるのも悪くは無い……のだが。

 僕の手には余りそうな分野だ。目の前にいる人間を楽しませたいという気持ちは何となく理解出来るけれど学校全体だとか大きいことを言われると想像が出来ないというか。こう、具体的に楽しんでくれる人を想像した方がまだ思い浮かびそうというか……。

 

「何か浮かんだか?」

「うちの妹とか、外部の人とか学校見学の子たちが楽しめそうなのがあると良いな。と考えていた」

「そういうのも良いな。俺の弟も来るらしいし。未来の新入生に向けての企画か。それこそ生徒会の仕事。進路相談、部活相談……勉強会? 会長はどう思います」

「小林のは固い。もし私ならどうされたら嬉しいのかを考えると……。私は、あまり人に干渉されるのが好きじゃない。放っておいて欲しい」

 

 自分ならどうされたい、か。そういえば去年の文化祭って──。

 

「会長さま。発言してもよろしいでしょうか」

「許可する」

「座れる場所増やすというのはどうでしょう」

「……続けて?」

「去年、出し物の多さに比べて座って休める場所が少なかった気がしたので。学校ってとりあえず椅子は沢山あるからテラスみたいな感じで中庭とかゆっくりできる場所に椅子を増やす……のはどうでしょう。椅子動かすだけで簡単だし。今から面白い企画考えるのとか面倒だし」

 

 会長さまと小林、そして話を聞いていた生徒会役員達は目を合わせ──。

 

「採用」

 

 となった。

 ついでにボレロ隊には最後尾にゴミ拾い係が同伴する事に。

 会長さま曰く「ま、生徒会は目立つことより裏方仕事が丁度良いね」との事だった。あんまり気を回して干渉し過ぎるのもお節介と判断したのだろう。その考え方は、なるほど生徒会長さまらしい視野だと頷けた。

 妹もルカも、僕のイメージよりは成長しているだろうし。あれこれ用意せずとも楽しい場所くらい勝手に見つけるか。

 




 
 学校生活編でした。
 読んでいただきありがとうございます、いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 高評価もぜひよろしくお願いします!
 リオネット家のyoutubeチャンネル→ https://x.gd/Q9kC3
 作者のX→ https://x.com/hkrkwmsg
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