顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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告白日和

 

 水曜日の放課後。

 文化祭を週末に控えた校内は非常に浮ついた空気が流れていた。

 意外に思われるかもしれないけれど僕は恋愛について実は詳しくないので普段であればこういう空気には気づかないのだけれど──。

 

「俺と、付き合って下さい」

 

 さすがに目の前で本日二度目の告白イベントが発生すれば察するというもの。 

 現場は園芸部、部室近くの一番大きな花壇の前。

 コスモスやキキョウ等々が咲く場所はさぞロマンチックに見えるのだろう。告白をしているのは同じ学年の名も知らぬ男子生徒。サッカー部だったような野球部だったような……テニス部だったような。放課後の学校で何度か見たことがある気がする。

 

「これって文化祭前の出し物だったりする?」

「パイセンは黙ってて」

 

 部室の中でギャル後輩と二人、息を潜めつつ、窓から半分頭を出す。

 告白されていたのはマイフレンド横浜さん。意外とモテるらしい。本日一度目の告白を受けていたのも横浜さんだった。イケそう感でも出ているのだろうか。園芸部の幽霊部員は横浜さんを家に入り浸ってくれそうなギャルっぽいと評していたけれど……あれはどういう比喩だったのだろう。  

 ギャルってうちの後輩みたいに髪染めて爪を尖らせ睫毛を盛っている子の事ではないのか?

 横浜さんはすらっと背が高く髪が長い感じの外見でギャルという印象は無い。

 というか見慣れ過ぎて何も思うところがない。

 

「えーと。ごめん、付き合うとかは無いかな」

「っ、他に好きなヤツとかいるとか?」

「いないけど。なに、そういうの説明しないといけないの?」

「いや。そっか……。ええと。悪い、時間取らせた」

「いいよ。気持ちは嬉しかったよ。じゃあね」

 

 男子生徒はガクッと肩を落とし去って行った。

 一方のギャル後輩は隣できゃあきゃあ小声で騒いでいる。覗き見と言われると趣味が悪いかなと思いはするものの僕らの生息地のすぐそばで勝手に催された事なので大目に見て欲しいところ。

 

「まじドキドキしたぁ。あの先輩ってサッカー部かテニス部の強い人じゃなかったっけ。全校集会で表彰されてた気がする」

「一人で表彰されてたならテニス部なんじゃない?」

「どっちでもいいけど、いいなぁ、文化祭ムードっ」

「にしても今日? 付き合うとかどうとかって、文化祭当日とか文化祭後の話なんじゃないの?」

「パイセンわかってねーなー。あのね、明日が文化祭準備の最終日でしょ?」

「うん」

 

 ギャル後輩がネイルが施された指を出し、一日二日と数えていく。

 

「で。もし明日告白してダメだったら翌日も引きずるじゃん。でも今日なら、とりあえず文化祭当日までちょい猶予あるし、気持ちも持ち直せんじゃん?」

「けっこう打算的なんだ」

「そんな言い方すんなし」

「にしても何でここで告白するかなぁ。僕には視えない伝説の桜の木とかあったりするの?」

「そんなマンガみたいな設定ない。ほら、この場所校舎の上の方からちょい見えするんだけど花咲いてて綺麗だからさ。うちの学年でも良いねって言ってる子いるし、人も少ないから実は良い告白スポットなのかも説ある」

「僕らが日々手入れをして育てた花が告白の添え物か。勝手に摘んで花束にしなけりゃ別にいいけどさ」

 

 などと言いつつ窓から顔を出し横浜さんにねぎらいの声を掛けると「モテる女は辛いわ」と言い残して去って行き、しばらくするとフルートの自主練の音が聞こえてきた。そっか、この場所横浜さんの生息地にも近いから丁度いいのか。

 

「花束か。そうだパイセン、来年の文化祭前はさ、こっそり告白用花束売り出そうよ」

「……売れそうな気はする」

 

 皮算用ではあるが非常に良さそうな予感がする。

 

「でしょ?」

「今年のうちから花束送って告白成功した生徒がいる噂流しておこうか」

「それ何とかの流布ってやつじゃない?」

 

 さすがこれまでの園芸部にはいなかったタイプの人材。僕らでは思いつかない明確にイケそうな案を軽々と出してきた。入江めぐ、お前が園芸部の柱になれ。

 

「あ、でもパイセン。花束告白失敗して花束捨てられてたらけっこうショックかも」

「近くで押し花のワークショップでも開いておこうか」

「なんかそれおもーい念がこもりそうじゃない? 呪いの栞できそう」

 

 そんな話をしていると──。

 

「うわぁ、横浜の姉貴すっご。本日三人目じゃん、モテ期ってほんとにあるんだっ」

「これ以上失恋増えたらこの場所の評判下がっちゃうよ。しかもあの男子、吹奏楽部の中野君じゃん」

 

 ポーカーフェイスながらどこか気まずそうな表情の横浜さんが定位置のように先ほど告白されていた場所に戻って来た。

 

「もしかして男子の方ってパイセンの友達?」

「いや。文化祭の日にボレロを叩くって話したじゃん。そのメンバーの一人にいた」

「それは勝負に出たなぁ。これは流石にタイミングミスったのでは?」

「さっきと言ってること違くない?」

「いやだって同じ部活なら告白するタイミングはそれなりにあるじゃん。どちらかと言えば合奏終わった後とかそういうタイミングの方が後腐れないっていうか。あ、わかっちゃった。横浜の姉貴にボレロ誘われて火が付いちゃったんだ。きゃーっ」

 

 盛り上がっております。

 しかし、なんだ。さすがにこれ以上長年見知った横浜さんの気まずそうな表情を見るのは気が引けるし、同じ曲を演奏する中野君の敗北を見届けるのも心苦しい。

 音が鳴らないように窓を閉めてギャル後輩に撤退命令を下すと。

 

「こっからは有料プランかぁ」

 

 大人しく指示に従ってくれた。恋愛リアリティショーが配信番組で人気らしいけれど、あれを楽しむセンスは僕には無さそうだ。

 

「なんかさー、さっきから見てて思ったけど振られた三人勇気あって凄くない? 直接言うってやっぱポイント高いよ」

「いやまだ三人目の結果は出て無いんだけど。まあ、僕が良く知らない人にも感情があって、人間一人一人に人生ってあるんだなとは思った」

「深いことを言っている」

「どちらかと言うと浅い人間が深いところを見た感想」

「……禅問答?」

 

 パイプ椅子に座り、紙コップに入った冷めた緑茶で喉を潤す。

 

「僕も人間を知るために試しに彼女でも作ってみよっか」

「ぶふっ」

 

 面白い発言をした訳でも無いのに隣に座るギャル後輩が緑茶を噴き出した。

 

「今のぜったい女子の前で言っちゃダメだかんね。ロボットのセリフだったからマジで」

「一応補足するけど、冗談だったんだよ?」

「引くわぁ。あのね、その……ちょっと待って。子供にもわかるように教えてあげるから」

 

 ギャル後輩が両手でT字を作ったので口を閉じる事にする。

 この後輩とは春からの付き合いで、しかも放課後の限られた時間しか会話が無かったのだが、そんな短い付き合いでも理解できる。これから僕は諭されます。

 

「あのさ。例えば英語を勉強したいとするじゃん」

「うん」

「それで、じゃあ英語話せる子と付き合って教えて貰うのが英会話教室に行く必要も無くて合理的とか言う人いたらどう思う?」

「それは、良く……ないんじゃない?」

 

 今、僕はカンニングをしました。ギャル後輩の表情を伺いながら答えを探りました。

 なんなら僕の英会話の先生……あれ? あれは違うのか? どうなんだ?

 

「でしょ? 人の気持ちを知るために付き合うんじゃなくて、その人のことが好きだから付き合うの。一緒に居たいから付き合ってくださいって……言うの。やば、自分で言ってて恥ずいんだけど」

 

 駄目だ。難し過ぎる。こんなの出題されたらQuizKnockでも頭抱えるよ。

 

「ともかく。パイセンが遊びのつもりで付き合ったら相手が可哀想でしょ?」

「相手の事とか全く考えて無かった」

「まじでやば」

「いや倫理的な話ではなく想像力の話ね。具体的な相手を考慮してなかったって話」

「パイセンには早かったかぁ。はー、あたしも告白されてみたいなー」

 

 ギャル後輩は僕に構うのを止めると長机に置いていたスマートフォンを掴みSNSを起動してスワイプを始めた。

 彼氏、彼女か。

 対象年齢やら何やらできっと僕には縁遠い話だ。

 空になった紙コップを握りつぶし、ポイとゴミ箱に投げ捨てる。

 外での告白祭りも収まった様子なのでギャル後輩の背を叩き、お花のご機嫌を伺いに行こう……。

 そう思い立った時。キィと音を立てて部室の扉が開いた。

 先輩かと思えばそうではない。

 本日は特に見慣れた部外者、横浜さんの姿がそこにあった。

 

「わ、生の横浜の姉貴だ。顔ちっちゃ」

「ずっと生だったじゃん」

 

 ギャル後輩は立ち上がると体育会系のノリで「ちわっす」と挨拶した。中学時代にそういう部活に入っていたのかもしれない。中々見事な後輩ムーブだが……おかしいな。僕はこんな挨拶一度たりともされた事が無いぞ。

 

「急にどうしたの?」

「私ばっかり見学されるのもムカつくから。ちょっとここで一休み」

 

 横浜さんは窓際に近づくとしゃがみ込み、窓を少し開けると僕を手招いた。

 

「綾野、見てみ。あれ二年の軽音部の姫。男子をとっかえひっかえしてるんだけど、これがすっごいモテるのよ。で、遅れてやってきたのが見覚えないから多分一年の男子」

「詳しいね」

「これくらい女子の嗜みだから」

 

 僕とギャル後輩は横浜さんの両隣にしゃがみ込む。

 軽音部の姫さんはやや小柄で髪は短めで赤色っぽいインナーカラーが入っている。ワイシャツの上にはサマーニットを着ており胸はやや大きくスカートは短め。ソックスも短め。顔は一般的な価値観で見ると可愛い方だと思える。四分の一マリリみたいなクオリティだ。

 一方の男子は身長はやや高め、髪は目が隠れそうな長さで顔は良く見えない。これといった特徴は無い。軽音部と言われたらそうなのだろう、という外見で大人しそうだ。

 

「横浜の姉貴。ちなみにどっちがどっちなんすか」

「姉貴? まあいいけど。ええとね。一年の方が声かけてて、軽音部の姫がこっちに連れてきた感じ。あれはシチュに酔えるタイプだね」

「告白成功するかどうか賭ける?」

 

 二人に提案すると心底冷めた視線を向けられる。そういう事ではないらしい。

 

「って、あの男子うちのクラスの高田じゃん。そういえばアンプ? とかいうの持ってたの見た気がする。上手くいくといいなぁ」

 

 人間の興味深い営みではあるけれど、告白どうこうってのは見ていてもそこまで笑える要素がない。さっさと園芸部の雑用を終わらせて帰りたいんだけど……外のお二人さんは動きが無く時間が止まったようだ。

 軽音部の姫の方はその沈黙も楽しんでいるようでニマニマと嬉しそうだが、どうなる事やら。

 

「あー。じれったい。男なら、勇気、出せっ。いけ、高田っ」

「ま、口に出すのって勇気いるよね」

「おおっとギャル後輩、横浜さんとの経験値の差が思いやりと言う形で表れてるよ」

「言葉の暴力っ」

 

 ただじれったいというギャル後輩の気持ちも分かる。あんまり園芸部のテリトリーでちんたらやられては僕らの作業が滞る。

 よし決めた。今後ここでの告白は僕が後押ししてやろう。

 後押しという名の立ち退き勧告を慣行いたします。

 リュックからドラムスティックを取り出し、バケツを肩に掛け、窓を開け外に出る。

 すると──驚いた様子の軽音部の姫と男子の目が僕に集まり。

 

「では、この綾野礼。お二人の為に僭越ながらドラムロールさせて頂きます」

 

 ダダダダダダダダッ。

 男子生徒の背を押すつもりで胸の辺りに固定したバケツを十秒ほど叩くと、男子生徒は意を決したように口を開き──ダダンっ!

 

「てめえが! 男の部員たぶらかしまくってっから部の雰囲気最悪じゃねえか! ふざけんな! ぶち殺すぞっ!」

 

 ……やっば。

 予想外の暴言出てきた。しかも息継ぎしてる、第二波来るぞ!

 

「クソアバズレが、うっとおしいんだよ! 俺は! てめえみてえな女! 死ぬほど嫌いなんだよッ! くたばれ!!!」

 

 あまりの迫力に遠くでカラスが飛んだ。

 ここまで言われるって軽音部の姫さんなにやらかしたんだよ。現代っ子にここまで言われるって相当だよ。何があったか興味沸いてきたよ。

 あーほんと……すっごい良いもの見れた。ラッキー! 

 後でアンジェに教えなきゃ。

 男子生徒の罵詈雑言は心地よいほどの爽快感を僕に与え──。後ろに振り向き部室内で目をぱちくりさせているギャル後輩にハンドサインを送る。

 

「わ、わーかわいそー。だいじょーぶですかー」

 

 ぽっかり空いた口から魂が出ていそうな軽音部の姫さまを気遣うような素振りでギャル後輩が部室から慌てて飛び出し、校舎の方へと姫を連れていく。

 

「なんか私までスッキリしたかも。やるじゃん。またよろしくー」

 

 横浜さんは男子生徒の肩をポンと叩き、自主練場所へと帰って行った。

 そして我を取り戻した様子の男子生徒と一人残った僕の目が合う。

 

「あ、あの、なんかすいません。俺、あそこまで言う気は無かったんすけど。あいつのせいで軽音部、バンドがって思ったら……いやでもマジ言いすぎっすよね。っ、うわあヤラカシたぁ、明日からどうすりゃいいんだ。さっきいたの入江ですよね。うちのクラスに広まるじゃん……やばぁ」

 

 しゃがみ込んで頭を抱える愉快な男子生徒を口元を隠しつつ見下ろし、我が家の妹に思いを馳せる。エリちゃん。人間の世界けっこう面白いぞ。




  見学の回でした。
  読んでいただきありがとうございます、いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 高評価もぜひよろしくお願いします!
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