顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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文化祭前日

 

 翌日、木曜日。

 後ろの吹奏楽部員二名が妙に気まずい雰囲気を醸し出す中ボレロを演奏し校内を練り歩き、何分でどの程度進むのか確認し。

 五階、一年生の教室に赴きギャル後輩のデザート作りの進捗を確認し、お料理研究会が巣食う家庭科室でお昼ご飯をたかり、生徒会室で緑茶をご馳走になり一服。

 文化祭直前の校内はいよいよお祭りムード一色で、あちこちから楽しそうな声と金槌と釘の音が聞こえてくる。

 自分のクラスでも装飾など最後の仕上げ作業はあるのだが『綾野は遊んでおいで』と放し飼いの犬みたいな扱いを受けたので現在の僕は諸国漫遊中だ。

 一年生の方は忙しなく三年生ともなれば余裕をもって文化祭の準備を終えている。

 もちろんそれはクラスにもよるけれど、そんな揺らぎもクラスの色のようで面白い。

 僕はお祭り当日よりも準備中の空気の方が好きなのかもしれない。模型が組み上がっていくような、多くの歯車が一つの目的に向かって動き始めるみたいな空気。

 

「……」

 

 文化祭実行委員会作成のパンフレットを眺めると生徒達の動きも見えてくる。街づくりのシミュレーションゲームのように俯瞰視点でもあれば更に楽しいだろう。

 僕が関わった出し物など数える程だけれど、関わった人数が多いほどこのパンフレットは厚みを増す。逆を言えば、在校生であっても知り合いが少なかったりするとこのパンフレットは酷く薄っぺらい内容に映るだろう。

 例えば占い同好会。プロを名乗る人間でも胡散臭いのに──いやプロと名乗る方が胡散臭いか──見ず知らずの学生がやる占いなんて受ける意味が分からない。

 だがこれも友人か知り合いの一人でもいれば遊びに行く程度の興味は沸いてくる。なにせどんな顔をして人の運勢を占うのか興味があるじゃないか。

 ……どんな顔して、か。

 なるほど。そう思うと見ず知らずの占い同好会に興味が出てきた。冷やかさないと。

 パンフレットにチェックマークを入れつつ占い同好会の場所を確認しに行く。

 三階、主に三年生が使用している階だが端の方に進むと空き教室があり──その奥、非常階段口近くに目的の占い同好会が作ったであろう違法建築がある事が確認できた。三角の形をしたアウトドア用のテントにオバケやオカルト系の装飾が施されており、なるほどそれっぽい雰囲気が演出されている。

 

「占う?」

 

 タイミングよくテントの中から出てきたのは眼鏡をかけたやや小柄な女子生徒。出会って早々のタメ口なので自分より上級生のいない三年生の可能性が高い。

 頭には三角帽子、肩にはマント。気だるげな雰囲気も相まって魔法使いのようだ。

 

「……」

「……」

 

 しばし目が合うが僕を急かす様子もなく見上げられる。泰然自若という程ではないけれど静かで落ち着いた先輩(推定)なので冷やかして遊んでも面白くなさそう。まったく。これじゃあ占いしかする事ないじゃないか。

 

「ここってどんな占いやるんです?」

「タロットにトランプ。それにルーンに風水におみくじ」

「けっこう本格的なんですね」

「本格的じゃないからこそのバリエーションとも言える」

「なるほど」

「今日は練習だから百円でいいよ」

「有料かぁ」

 

 ま、ものは試しだ。ポケットに入れていた小銭入れから百円玉を取り出し手渡すと、魔法使い先輩はテントの中に僕を手招いた。

 テントの中は狭く小さなちゃぶ台とキャンプ用のランプ、それに座布団が二つあるだけのシンプルな内装。お香やらアロマやらに関する知識は無いけれど、なんだかヒノキみたいな良い香りに包まれ着座する。

 

「どれにする?」

 

 ちゃぶ台の対面に座った魔法使い先輩に促され、先ほど教えてもらった占い方法を思い出す。

 

「じゃあルーンで」

「だと思った。それじゃあワンオラクル。やってみよう」

 

 魔法使い先輩は聞きなれない単語を口にし、マントの内側からジャラジャラと音のする紺色の小袋を取り出すとちゃぶ台の上に置いた。

 

「あなた。名前と学年は?」

「綾野礼。二年です」

「そう。なら敬語じゃなくていいよ。わたし一年だから」

「僕にも今は敬語じゃなくていいよ。喋るうちに自ずと敬語を使いたくなるだろうからね」

「楽しみ」

 

 魔法使い先輩改め魔法使い後輩の正面に座り、ちゃぶ台に置かれた小袋を見つめる。

 

「ワンオラクルというのは?」

「このルーンポーチの中にはルーンの刻まれた石が入っていて。その中から綾野を表す一つを取り出し占う。ルーンは25種類。心の中で質問や占いたい事を考えながら、これだと思う石を引いて」

 

 僕が引くのか。

 小袋……ルーンポーチの中に手を入れるとひんやりとした手触りの石がいくつも入っていた。これだと思う石、と言われてもそういう第六感はないのでジャラジャラ触りながら一番手触りが良く感じた石を取り出す。

 青い石に刻まれたルーン文字は、角ばったΩみたいな形だ。

 

「ペオース。あまり面白みのないルーン。何を思いながら引いたの?」

「あ、ごめん。石の手触りに夢中で考えて無かった」

「謝る必要は無い。むしろ、そういう人が引く石とも言える。ペオース、正位置の意味は偶然による幸運。逆位置だと偶然による不幸。状況の良し悪しが運によって決まる」

「ちなみにこれって何位置なの」

「教えない。だって、どちらにせよ運だもの」

 

 どちらにせよ運、か。

 人の意志が介在しないのであれば確かに面白みのないルーンだ。

 

「もう一回引いていい? 次は、対人関係について」

「どうぞ」

 

 再びルーンポーチに手を入れ、一つ取り出す。ローマ字で言うところのエックスみたいなルーンが刻まれていた。

 

「上下対称っぽいけど。これって逆位置とかあるの?」

「ギューフ。ルーンには逆位置の無いものがある。これもその一つ。綾野が人間関係を思い引いたのであれば、純粋な、無償の愛。人間関係には恵まれる」

「それは占いの前から知ってた」

「なら、占いは当たった。よかったね」

 

 未来予知ではなくこれまでの答え合わせという意味でなら……そうなるか。

 的外れな事を言う占い師の顔を拝みに来たものの、このルーン占いは出た目を自分がどう捉えていかに糧とするか……みたいなジャンルなのかもしれない。

 占いか。

 期待した遊び方は出来なかったけれどもジャラジャラと石に触るのは楽しかったな。

 

「ルーンが気に入ったのなら次はツーオラクルをやるといい」

「そうするよ。構ってくれてありがとう、魔法使い後輩」

「魔法使い後輩……。魔女ではなく?」

「時代に配慮しました。それともやっぱり占い師後輩にする?」

「綾野の呼びたいように呼ぶといい」

 

 心なしか魔法使い後輩は気の抜けた声でそう言った。

 敬語が使われる日は遠そうだ。

 それなりに楽しませてもらったので、軽く挨拶をして立ちあがると──。

 

「選択。後悔。水難」

 

 魔法使い後輩は無表情で僕を見上げていた。

彼女の手元にはいつのまにか三階建てのトランプタワーが建設されており──。

 

「それはトランプ占い?」

「トランプタワーはただの趣味。今言ったのは、ただの予感。第六感」

「第六感とは、このオカルト否定派筆頭剣士に向かって良い度胸だ」

 

 そう言うと魔法使い後輩は何言ってるんだコイツみたいな目を僕に向け──。

 

「魔女は裁かれない時代。でも剣士は捕まるよ。銃刀法」

 

 小さく息を吐いた。

 冗談を言うタイプには見えないけれど、巧く返されてしまったな。

 綾野ポイント三点を贈呈します。

 

「それじゃあ死相出てるから……あ。違う違う。綾野の場合だと、うっかりに気を付けましょう。だ」

「それ間違うことある?」

「さて。当たるも八卦、あたらぬも……六十四掌」

 

 トストスと指先で押されてテントから追い出される。

 あ、わかった。これ物騒なこと言ってグッズ買わせる手法だ。

 なんとあくどい手法かと一言わせて貰おうと再びテントの中に顔を入れ──。

 

「あの。幸運のアイテムとか取り扱ってますでしょうか?」

 

 腰を低く尋ねるも……首を横に振られる。

 なんて事だ。

 僕はただ占い師をからかって遊ぼうとした善良な市民なのに、百円を奪われ死の宣告をポロリされ八卦六十四掌まで喰らってしまった。

 

「だいたい。綾野。ラッキーアイテム触っても壊すでしょ。はい、ばいばい」

 

 アフターケア、×。不愛想な生徒が占いやっています。☆1。

 この情報を文化祭パンフレットに書き込み、改訂版のパンフレットを印刷するように文化祭実行委員会に直訴したが。あっさり断られた。

 

・・・

 

 文化祭の準備とはいえ六時間目が終わるまでは一応授業の時間なので帰宅は許されていない。なので悪質な占い宿を大本営に密告した後、再び校内をブラブラと散歩する僕なのであったが──。

 ふと思い立ち今この学校で一番熱いと噂されている部室へと近づく事にする。

 軽音部だ。

 軽音部の本拠地は部室棟にあり、部員は練習となると校内のあちこちで練習していたりするのだが……ひとまず部室棟に行ってみよう。

 もちろん手ぶらで近づくのも味気ないので園芸部の先輩のいる三年A組で売られる予定のポップコーンと特に関係者のいない二年D組で売られる予定のラッシーをそれぞれおねだりして手に入れた。

 そうしてワクワクしながら軽音部の部室、その扉を開くと……。

 期待していた泣き声や喧騒はなく、ボケッと天井を眺める男子生徒一人だけが部室の中にいた。見覚えのある男子生徒だ。

 名前は確か、高田とギャル後輩が言っていたな。

 昨日大いに輝いていた軽音部の雄が一人寂しくいるとは物悲しい。哀愁漂う姿を見ながらキャラメルをコーティングして貰ったポップコーンを口にしていると……。

 

「…………? ……!?」

 

 高田くんに二度見された。あまりに綺麗な二度見だったので僕の後ろに誰かいるのかと振り返るも特別目を引くような変わった人は居なかった。

 

「な、なにしてるんすか。というか、昨日の……綾野さんでしたっけ。何の用っすか」

「もしかしたら大揉めしてるのかと思って。一応ポップコーン貰って来たんだけど」

「やば。信じらんねぇ。俺らの大揉めは映画じゃ無いんすよ!?」

 

 部室の中は雑多な印象でバンドのポスターだったりライブの紙……フライヤー? みたいなものが無造作に貼られていて如何にも軽音部ですといった様相だ。夏休みにライブをしたライブハウスに近い印象。

 部室内に設置された複数本置けるギタースタンドにはギターとベースが置かれているので今日はずっと無人だったという訳でもない様子なのだが、残念ながらこれから始まる出し物は無さそうだ。

 

「……この北高で一番自由な男はちげえわ」

 

 高田くんが僕を呆れたような目で見ている。

 

「え。それって僕のこと言ってる?」

「二年の綾野って、綾野先輩のことっすよね。三年を血祭りにあげて違法な種を売ってるみたいな話。一年でわりと有名っすよ。夏ごろから校内でバケツ叩いてるって話も加わっていよいよ怪談みたいなノリっす」

「激ヤバなヤツじゃん」

「いや驚いてるとこ悪いんすけど、噂と違わぬ無法っぷりなんで俺は納得してます」

「実際のところは品行方正な好青年なのに」

「……?」

 

 立ち話もなんなので勝手に部室に入り、近くにあった勉強椅子を手繰り寄せる。

 

「なんで入ってきちゃうんすか」

「立ち話もなんだから」

「自分では言わないのソレ」

「これ飲む? 口付けてないラッシー」

「……。くれるって言うなら頂きます。喉乾いてたんで」

 

 軽音部。実は興味があったのだ。

 それは昨日今日の面白イベントがきっかけではなく、単純に同年代の人たちがどんな風なバンド活動をしているのか気になっていた。文化祭当日もライブを見に行くつもりだったのだが、それどころじゃなさそうなのが残念でならない。

 

「部室、珍しいっすか。……これ旨いな」

「軽音部の部室って意外と漫画とかアニメで出てこないから。実際はこんな感じなんだなって」

「ふつうの軽音部読んでないんすか? ここの軽音部もほぼあんな感じっす。鳩っちと鷹見のいない、ふつーの部活」

「マンガならぼっちちゃんの出るやつはちらっと見たけど。ここ、ぼっちちゃんみたいな子は居ないの?」

「居ないでしょ。俺も正直、入学前はちょっと期待してたって言うか。虹夏ちゃんみたいな子がいたらそれだけで良いなって思ってたらもう……終わっりすよ。大学でもないのにサークルクラッシャーが居るとか。夏休みに無双してたっぽいんすよあの女」

「……無双?」

 

 あの女というのは昨日見かけた四分の一マリリみたいな見た目の女子生徒だろう。今思い出しても良いものを見れたと胸が暖かくなる。感動した。

 

「俺の予想だと軽音部コンプリート狙ってたんじゃねーかなって。胸元に落とした男の写真並べてコンプリートフォームっすよ。実際、四つくらいのバンドが摘まみ食いされてるんで。もう見境ないっす。魔性の女。俺は、女なんて嫌いだ」

 

 あおる様にラッシーを飲む高田くんにポップコーンを差し出すと、彼は一摘まみ頬張った。きっと十年後はこれが酒と肴に代わっているのだろう。苦労人の哀愁がこうも似合うとは一年生なのに有望だ。

 

「というか。一応綾野先輩にだって責任あるんすからね」

「僕?」

「あのドラムロールさえなければ勢い付かなかったというか。最後の一押しされてしまったというか。ドラクエのタンバリンみたいな」

「僕らはあれ告白現場だと思っていたからね。キューピットになるつもりだったのよ」

「どう考えてもパックとかその類でしょあんた」

「パック?」

「シェイクスピアの話で出ます。人困らせて楽しんだり、かと思えば親切なとこあったりで憎めないたちの悪い妖精っす」

 

 高田くんはラッシーが気に入ったのか、ズズとストローで音を鳴らし飲み干した。

 

「ちなみに高田くんさ、好きな本とか映画ってなに?」

「……急だな。俺、乱読派で好きも嫌いも無いんすけど。最近だと革命前夜って小説は良かったっすね。映画だとベタに国宝、バンドメンバーと見に行った……元バンドメンバーと見に行った思い出の映画っす」

 

 悲しい訂正入ったな。

 

「でもなんで急に俺に興味持ったんすか」

「知識に幅がありそうだなと思ってつい」

「……変な人」

 

 高田くんは僕を呆れたように見ると苦笑し、小さく頭を下げた。

 

「でもなんか話したら気晴らしにはなったかもしれないんで、ありがとうございます。ラッシー美味しかったです」

「慰めに来た甲斐があった」

「絶対違うだろうけど、そういうことにしておきます」

 

 これで話は終わり、みたいな空気だ。

 男子の会話の終わりはこんな感じで終わるから丁度良い。近所の悪魔など放っておくと一生喋っているもんな。そして僕もずっと喋ってしまうからな。程よく終わるとは素晴らしい。

 

「あと。ふっ……。なんだかんだドラムロールもあざっした。結果的に大惨事でしたけど……正直、めっちゃ気持ちよかったっす」

 

 そんな交流を終え、僕は軽音部を後にした。

 




 
 後輩二人との心温まる交流回でした。
 読んでいただきありがとうございます、いつも感想、誤字報告ありがとうございます!
 高評価もぜひよろしくお願いします!
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