顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい 作:hikari kawa
木曜日夜。
網戸の向こうでは通り雨がしとしと降っているが、天気予報曰く夜のうちに止むらしい。
明日から文化祭が始まる。
ベッドに寝転がりながら文化祭のパンフレットに目を通すと柄にもなく楽しみになる。今までの人生、学校は辛い場所でも無ければ楽しい場所でもない特に語る事もない場所だったけれど。
高校生活が後半戦に差し掛かり、ようやくそれなりに楽しさを見いだせそうな気がする。
高校の名前は
学校に通っている人はまともな人間。今でもちゃんとした人生を積み重ねた人たちに自分は馴染めないと思っているけれど……それでも、愛着というのは生まれていたのかもしれない。
地に足がついた感覚。
生きている実感。
胸に手を当てると心臓が動いていた。
「…………」
あんまり、気持ちの良いものでも無いな。
自分を遠くに置いた方がよほど生きやすい。
例えるなら海。海は映像で見る分には綺麗だけれど、実際は潮臭いし日差しは暑いし肌はべた付く。山なんてもっとひどい。変な場所に繋がっている上にゲートウェイ因習村だ。
……でも。
初めて海を見た時。
そのあまりの広さに驚いた。建物だらけの東京で生まれ育ったから、視界に海と水平線以外の何もない光景は鮮烈だった。
山に感動したことはない。
ともかく実際に降り立たなければ実感も価値も測れない。大事なものが増えるのは酷くストレスだけれど、生きるというのは大なり小なり痛みを伴うのだろう。
窓の隙間から雨粒が吹き込み、そっと窓を閉める。
「ねぇねぇ。暇ならマイ・クラやろ?」
妹が部屋の扉を開け顔をのぞかせる。
「もう寝ます」
「まだ夜の十一時だよ?」
それに。地に足付けて生きたところで僕の『地』とはここで。どう考えても何か変なのだから真面目に考えるだけ損だろう。妹はキラキラしているし、親戚は雨を降らすし、近所にはストーカーが住み着いているし。
……これ言うほど『地』か? 足付けて良い場所か?
僕は訝しんだ。
「そういえばエリちゃん、ルカが何時に来るとか聞いてる?」
「聞いてないけど。明日来るの?」
「週末とか言ってたから。明日か明後日じゃないの」
「ふーん。それで?」
「いや、時間が合えば迎えに行こうかと思って。エリちゃんも一緒に行こうか」
「一緒に? なら、別に行ってあげてもいいけど。エリってこう見えて多忙だからそういうのは事前に言っておいてほしいなぁ。美容院とか行きたいし」
「……美容院?」
エリちゃんの髪は基本的に僕がテキトーにカットして今までやってきたというのに、美容院?
「エリって都会の女だからさ。あまりルカに舐められるわけにはいかないの」
妹とルカ。僕から見ると仲良くゲームで遊んでいる印象しかないのだけれど、そのわりにはやけに張り合っているように見える。
「一人で美容院行くの?」
「なんで。一緒に行こうかって言ったのレーでしょ。エリを美容院に連れて行って、その後ルカを迎えに行けばいいじゃん」
「僕こそ暇じゃないんだけど」
「プロにヘアカットされて更に美少女になったエリを見たくないの?」
「特には、関心が無い」
「信じられない。とにかく、そういうことだから早くかえって来てね」
妹はそう言い残すと部屋から去って行った。
何か大きなイベントがあるわけでもなく、妹が成長したような気がする。必要なのは甘やかす兄ではなく張り合える同年代という当たり前の事実がそこにあった。
・・・
「──では、第四十九回北奥高校文化祭を開催しますっ!」
体育館中に文化祭実行委員会委員長の開会宣言が反響したその直後。吹奏楽部の合奏が始まる。
二日間に及ぶお祭りの始まりだ。
周囲からは演奏に紛れて「どこ行こっか」などと楽しそうな相談の声が聞こえてくる。
僕はこのまま吹奏楽部の演奏を見つつ体育館で行われる出し物を見学しても良いけれど、それならそれで、ポップコーンなどのおやつも欲しい所。昨日は結局ラッシーも飲み損ねたからそれらを買ってきても良いが……ギャル後輩のクラスで飲み物をサービスして貰えるらしいからそれを貰っても良い。
体育館では吹奏楽、ダンス、演劇等々が三十分ごとに入れ代わり立ち代わりで交代していくので演劇部あたりの時にまた戻って来たいところ。昨日ブラブラしている時に知ったのだが、この学校の演劇部の顧問は大学時代にそれなりに名を馳せた将来有望だった劇作家だとか。真偽のほどは定かではないが一見の価値はありそうだ。
僕らのクラスの出し物、ハモリ我慢大会は午前午後で班分けされており、僕のシフトは金曜日は午後、土曜日は午前中となっている。園芸部の方の花の種売りは去年の感覚からいって女の子の方が買ってくれる確率が高いので目が合った生徒に売りつける事にしよう。部長曰く「綾野と目が合った時に髪の毛を直す仕草をする生徒がねらい目だよ」らしい。
で、ボレロを演奏しながら学校を練り歩くのも午後から。
初日の文化祭は午前中のうちに楽しまなければ。
吹奏楽部の一曲目が終わったタイミングで席を立ち、事前にチェックしていたボードゲーム研究会に足を向ける。
ボードゲーム研究会、僕の印象だと放課後ボードゲームで遊んでいるだけの集団と思っていたのだが、学生ながらボードゲーム愛好家の集まるイベントに自作のゲームを出店するほど熱心に活動しているのだとか。ボードゲームの小物製作には3Dプリンターを使用しているらしく、今日は出力品が販売される。
僕の狙いは『かさなるあにま~る』というスマホゲームで見た事がある気がするボードゲームで、様々な形をした動物を積み重ねていって崩してしまったら負けというシンプルなゲームなのだが。昨日ちょろっと見学させて貰ったところ動物のデフォルメされた造形が素晴らしかったので是非とも手に入れたい。
小走りで渡り廊下を進み職員用エレベーターにこっそり乗り四階の美術準備室へ。
いそげ、いそげ。
「すみませーん、かさなるあにま~る残ってますか」
「全部残ってますよ。綾野君、でしたっけ。あなたで一人目です」
「よかったー」
眼鏡をかけた男子生徒は模型メーカーのロゴが入ったエプロンを身に着けており、ボードゲーム部というよりは模型部といった風貌だ。
昨日ちょろっと見学させて貰った時に名前を聞き忘れたのだが、雰囲気から言って彼が部長さんだろう。部長さんの他にも男子二名、女子一名がそれぞれ「い、いらっしゃいませ……」と歓待してくれた。
それぞれのテーブルにはそれぞれが作ったであろう作品が並べられており、順番に眺めつつ目的のあにま~る前で立ち止まる。
「良い造形ですよねこれ。五千円は出しても良い商品なのに千五百円は安すぎる。動物十五体も入ってるのに……」
「ありがとうございます。製作者も喜びます」
部長さんが僕の隣に立ち、商品の並びを綺麗に整える。
「作った方は席外してる感じですか?」
「シャイなもので。買うのは、昨日言ってた通り未加工版でよろしいでしょうか」
「それでお願いします」
売り出されている『かさなるあにま~る』は塗装が施された完全版と、3Dプリンター出力品のゲートが処理された無塗装版、それと3Dプリンターから出力されたままの状態の未加工版の三つがある。完全版は全ての動物が綺麗に艶やかに塗装、コーティングされた状態で非常に美しいのだが。せっかくなら塗装含めて自分で作ってみたい。
「まだ人も居ないですし。ちょっと遊んでいきますか?」
部長さんにお誘い頂いたので、せっかくならと遊ばせて貰う事にする。試遊版あにま~るは既に何度か遊んだ痕跡があり、一部塗装が剥げていた。見たところ水性塗料で筆塗りしたっぽいので僕は下地塗装をした後にラッカー系塗料で塗る事にしよう。
付属品のカードにはそれぞれあにま~るが印刷されており、ランダムに引いたカードに記されたあにま~るを手に取り重ねていく遊びのだが、このカードの手触りも素晴らしい。
「ま、二巡目以降にキリン引いたらほぼ負けるから気を付けてね」
部長さんがカードをシャッフルしつつ僕も薄々気が付いていたこのゲームの欠点を口にする。でかくてバランス悪いのよ、キリン。
・・・
ボードゲーム研究会の面々に構ってもらい、次に向かうのは一年のコスプレ喫茶。
一応先輩としてギャル後輩の様子を見に行こうではないか。
階段を上り一つ上の階へ。
名前の響きだけで想像するとコスプレ喫茶は人が多く入っていそうな雰囲気なのだが。
「わ、綾野さん来た。人ぜんぜん来なくて暇してたんだぁ」
受付に立っていた女子高生のコスチュームを着た女子生徒に話しかけられる。ギャル後輩と一緒にデザートの作り方を教えた子だった気がする。
「そのコスプレがちょっと地味なんじゃないの?」
「これはうちの制服でしょ」
「ああ、どおりで見覚えがあるわけだ。普通コスプレ喫茶の客引きはコスプレするものじゃない?」
「そっか。着替えてくるっ」
商魂が逞しくなさすぎる。
店内に入ると四人席が八つあるものの、座っているのは二組だけ。確かに盛況とは言い難い。
飲食の本番は一般参加枠のある明日とはいえ幸先の悪い光景だ。
「いらっしゃいませ。綾野先輩。昨日ぶりです」
「……」
教室に入り僕を出迎えたのは愛想の悪い執事。高田くんだ。
制服の白シャツに誰かしらの私物であろう黒いベストに黒いスラックス。
「面白みのない恰好。笑わせる気あるの?」
「勘弁してください。身内ノリで決まったやつなんすよ」
「女装ってのも安易だけどさ。想像下回っちゃったかな」
「初日からヤな客来ちゃったよ。はい、こちらへどーぞ」
昨日今日出会ったばかりの後輩をいびりつつ席に通されメニュー表を受け取る。店の雰囲気やクオリティはなんとも言えないけれど、メニューを作った人はこだわるタイプなようでフォントや余白が可愛らしく彩られている。
「ゼリコ一つ。貰った無料券使います」
「はい、ゼリコ一つ。ありがとうございまーす」
ゼリコというか……ジェリコ。
アイスコーヒーに小さく切ったコーヒーゼリーを混ぜた飲み心地の面白い、既に商品として売り出されている事を考慮しなければ新感覚のデザートドリンクだ。
「おまたせしましたー。これ美味いっすよね。作るのめっちゃ簡単だったんで家でも作っちゃいましたよ」
「お店のやつだと氷入ってるんだけど、自家製で氷入れないバージョン作ると喉ごしなんかは自家製の方が良かったりする」
「まじで先輩のこと見直しましたよ」
「いやどこで見下げられてたんだよ」
テーブルに片手を付きながら僕と喋る高田くんを見上げるが……なんだこの店。お一人様専用サービス雑談とかついているのか。
「パイセン、おっつー。来てたんだ」
高田くんと、とりとめのない話をしていると視界に何かがブルンと揺れた。
長い一本の線……。メイド服を着たギャル後輩のはだけた胸の谷間だった。
「うわっ、はしたないっ」
慌ててメイド服のボタンを閉じると──。
「ちょっ、パイセンそれセクハラだからっ」
顔を赤くしたギャル後輩はばっと胸元を隠した。
「ギャルよ、園芸部の後輩たるもの谷間を安売りするべからず。これ部長の格言ね」
「部長に谷間なんてないじゃん。で、どう?」
「ああ、可愛いんじゃない?」
「はいお世辞頂きました。じゃなくてお店。パイセンの考えてくれたメニューはけっこう評判いいんだよ?」
「その割には客足少ないけど」
ギャル後輩が来てから口数がゼロになった高田くんを眺めつつ、ゼリコを啜る。確かにゼリコの味は悪くない。コーヒーゼリーが甘めの味付けなので、デザートとしても良い感じだ。
「やっぱ五階ってのがネックだと思うんだよねー。なんか良い案ない?」
「僕は頼めばしぶしぶ道具を出してくれるドラちゃんじゃ無いの」
「そこをなんとか」
「……じゃあギャル後輩も昼からのボレロ加わる?」
「いいの?」
「別にいいんじゃない? 看板かチラシでも持って列加わりなよ」
「やったー、それいけそっ。ねえ、みんな──」
ギャル後輩は騒がしく同級生達の方へ跳ねて行った。
「ボレロって、なんかするんすか?」
「ギャルが居なくなったら喋り出した」
「そこは柔らかいとこなんで突っ込まないでください」
「ボレロ。あれを演奏しながら廊下歩いて、僕のクラスの出し物と吹奏楽が音楽室でやるミニコンサートと、あと僕が気に入った部活とクラスの宣伝をする。生徒会も乗って来た話だから隊列も豪華になってけっこう良い宣伝になると思うよ」
昨日はこの『宣伝しますよ』の営業トークであれこれ無料で提供して貰えてお得だった。
「へぇ。先輩たちって色々考えてるんすねぇ。うちのクラスとは大違いだ。綾野先輩はビラ配りっすか?」
「僕は先頭で太鼓係」
「マジ意外っすわ。先輩ってぱっと見、文化祭とか興味なさそうなのに」
「まあクールな美少年な事は認めるけど」
「んなこたぁ言ってない。……ま、どうせなら楽しむべきっすよね。なんかおススメあったら教えて下さい」
テーブルにパンフレットを出し、目ぼしい場所を伝えつつゼリコを飲み干した。
・・・
「すぐちょろちょろしてあんたは子供かっ」
そろそろ『ハモリ我慢大会』のシフト交代時間だったので急いで教室に戻ると、ちっこいツインテール娘、北野に怒られた。
飾りつけされた教室内は三十分の小休憩中。前半の評判が良かったからかすでに教室の外では待機列が出来ており、北野の気合の入りようも理解出来る。
「なんでそんなにお菓子とかオモチャ買ってきちゃうの。ほら、衣装着て、髪整えて」
「……はーい」
前半組にポップコーンを差し入れるとガラガラの声でお礼を言われた。
そうか。みんなで歌う練習はしたものの、連続でどれほど歌うかはシミュレーションしてなかったんだ。ある程度セーブしないと喉、枯れちゃうんだ。
「はい次、綾野ー、こっちおいでー」
クラスのまとめ役、大路さんに呼ばれ近づくと流れ作業で頭にワックスを付けられ前髪を横分けにされ、ベレー帽みたいな合唱団がかぶっていそうな帽子と白いマントを着せられる。女子も男子も同じような前髪。みなモブみたいになっていて面白い。
そう、主役は歌うお客様なのだ。
「そういえば大路さん、結果発表のドラムロールって必要だった?」
「なんとなく盛り上がる感じはあった。かな?」
「微妙そうじゃん」
「いやだって、実際やってみるとダメな時は一発で分かるんだもん。まあ、でもほんとあった方が盛り上がるから後半よろしく。あ、ボレロも頑張って。綾野いない時は代役たてるから。はい、次の人ー」
改めて教室を見ると内装はシンプルだ。
機器に繋がったマイクとマイクスタンドとお立ち台。僕らは床と壇上に列に並ぶだけ。
あとは客席にずらっと椅子が並んでおり……、なんともコスパの良い出し物だ。
大変だったの衣装班くらいだろう。僕も歌って叩いて貢献しなければ。
「よーし、そろそろ時間だから後半組あつまれー、円陣くむぞー」
大路さんの一声でクラスメイトがぞろぞろ輪になり。
「前半調子良かったから後半も頑張りましょうっ、えい、えい」
「おーっ」
クラス一丸となり、後半戦が始まった。
・・・
「あやの」
「にげるのが」
「よぶな。ぞうえん」
「のどおわっぢゃうよ?」
後半戦が始まり一時間と少し。ボレロ隊出動予定時間となったので合唱隊から離脱しようとする僕のマントを幾人のクラスメイトの手が掴み、僕の耳にはお客さんに聞こえない程度のキュートな怨嗟の声が届く。
予想以上に好評な『はもり我慢大会』に観客席は埋まり、教室の外からも見学者が居るほど。やはりテレビの企画を丸ごと頂いただけあって大したエンタメ力なのだが……。
合唱隊は思った以上のハードワークに声にならない悲鳴を上げていた。
「みんな喉カラカラで可哀想……。僕、宣伝のついでに、みんなの代わりにはちみつラッシー飲んでくるね」
「ああやあのおおお」
先に廊下に出た横浜さんの元に向かうとそこにはマーチングバンドで使うような肩に掛けられるスネアドラムがあった。吹奏楽部の方々が持って来てくれたようだ。
何だかんだと増えたボレロ隊はチラシ係やゴミ拾い係などギャル後輩のような追加組を含めると十名を超えており、廊下を歩く生徒からも不思議そうな視線を向けられている。
「それ肩にかけちゃって。ま、うちのクラスの宣伝はもういらないかもだけど」
「そう? まだみんな元気ありそうだから沢山お客さん呼ばないと」
「またそういう……。ま、いいやとりあえず始めるよ。ここから五階に上がって、ぐるりと回って階段降りて行って音楽室でゴールだからね」
「はーい」
「それじゃ先輩、お願いします」
横浜さんが僕の前に立つ吹奏楽部の先輩に合図を送る。吹奏楽部の先輩はメジャーバトンとかいうでっかい棒を天井に当たらない程度に掲げ──いやもうほんとこれ吹奏楽部だけで良かったよな──僕も気持ちを集中させ私物のドラムスティックをきゅと握り、メジャーバトンの指揮に従いスネアドラムを……叩き始める。
・・・
メジャーバトンしか見ずに、一定のリズムを叩き続ける。
何かのタイミングでマリリが「わたし階段降りるの苦手なんだよねー」と言っていた事を何故か思い出しつつ階段を降り、廊下を練り歩き、また階段を下りる。
一歩一歩ゆっくり降りるのだが、この一歩とドラムの一音が微妙にズレるのが非常に厄介だ……と思っていると段ボール製の看板を持ったギャル後輩が僕の肩を横で掴んでくれた。気の利く後輩だ。これで足を滑らせても転がり落ちる心配は無さそうだ。
そうして進み続け音楽室に近づき、僕が一節叩き終えたタイミングで吹奏楽部の先輩が一足早く音楽室に入ると──。
音楽室から爆発するような迫力のボレロが鳴り響き始めた。
これまで背後で聞こえていたボレロ隊の音を大きく超える音は動画サイトのオーケストラのようでトロンボーンにシンバルに弦楽器その他諸々が重なり鳴動する。
これは……楽しいものだな。
まさかここまで豪華仕様になるとは聞いても居なかったので、音楽室の中に見えるメジャーバトンの指揮に従い続け──曲の盛り上がりが最高潮に達し、最後のシンバルが高らかに響き渡った。
「……ふぅ」
ドキドキしていた心臓の音が徐々に鎮まる。
どうやら上手く終わったようだ。
六回くらいミスしたものの、最後の大盛り上がり部分さえあれば多少のミスは帳消しになりそうな雰囲気を感じる。明日はもっと気楽にやって良さそうだ。
「…………はぁ」
それにしても動きながらのドラムは結構いい運動になるな。
「お疲れ。良かったよ」
「横浜さんもお疲れさま」
「パイセンやるじゃん、バケツ叩き続けた甲斐があるね」
「後輩こそ途中支えてくれてありがと」
いやはや、慣れない事をしたからどっと疲れたな。
「それじゃ私、吹奏楽のミニコンサート出るから綾野は寄り道しないですぐ教室戻りなよ」
「……」
「……」
「ドラム中に置いておくね」
「はぁ。せんぱーい、ドラムお願いします」
横浜さんに声を掛けられやって来た恐らく打楽器担当の先輩に肩をポンポンされながらボレロ用のスネアドラムを返却し、肩を回す。この後はすぐ自分の教室にとんぼ返りしなくてはならないのだが──。
「ギャル後輩、疲れたしラッシー飲みに行く?」
「いくいくー」
ちょっと休憩しちゃお。
文化祭始まりました。
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