顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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安楽椅子探偵と成すべき考察

 

「エリちゃん、エリーゼ、おーい」

 

 仲良くなったばかりの友達が『殺された』事実は、妹の心を傷つけたらしい。引きこもって数日、部屋から出てこず――。

 

 多分、光放つほど目立つ自分の傍に居たせいで隣にいたトネリコさんが目を付けられたと思ったんだろう。

 小学生の時や、中学に入った時と同じ。妹が家に籠り始めた理由と同じような事がまた起こってしまった。

 せっかく自分の力で居場所を作ったって言うのに、あっさりと手放そうとしているらしい。本当に打たれ弱すぎる。

 

 これでまた閉じこもっては……。

 

 ん? これ普段とあまり変わらなくないか? 

 特に気にする必要もないのでは?

 別に部屋に鍵をかけている訳でも、というか我が家の個室に鍵は付いて無いし。表面的にはこれまで(・・・・)と変わりがないとも――そんなわけ、ないよな。

 

「……はぁ。学校行こ」

 

・・・

 

 バーチャルアイドル殺害事件。

 

 それは世間でいうところの『殺害』とは様相が違う。

 より手軽でリスクの少ない殺し方。罪状で言えば不正アクセスとかなのかな。

 他人の積み上げたものを戯れに崩す悪趣味な遊び。

 そう、物騒な名前がついただけの、ただの遊び。

 

 

 以前小林がまとめサイトで見ていたなと思い出し、一連の事件を調べてみればここ最近、こういった事件が増えているらしい。

 

「トネリコ・ルリカ。最近の被害者だな」

 

 いつものように小林と大場と食堂で昼食をとっていると、小林が意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「まとめサイトで見たのか?」

 

 と、顔に似合わず俗っぽい趣味を持つ友人に聞いてみれば――。

 

「切り抜き動画で見た。とはいえ、生意気そうなのが面食らうのは笑えるんだが、普通のお姉さんがこうなるのは愉快じゃあないな。というか、面白くない。最近お前も気にしている風だったから先に調べ……、いやそれはどうでもいいとして。コレだ」

 

 小林はそう言いながらスマートフォンを見せてきた。

 液晶画面の中には二人の女の子。

 

『エリオット・リオネットだよ』

『みなさん、こんルリー。トネリコ・ルリカですー今日はなんと、前回に引き続きエリちゃん先輩と遊んでいくよー』

 

 記憶に新しい二人の二度目のコラボ。

 

『とってつけたような先輩呼びはいい。今日はエリの選んだゲーム。遊戯大戦。世界中のゲームで遊べるやつなんだけど。負けた方が引退ね』

『重っ。罰が命がけじゃないですかぁ。あ、エリさん。みなさんがお兄さんはどうしたとコメントをしてますけども』

『誘ったけど普通に断られた。はぁ、ほんとエリがいないと何もできないくせに』

『さっ、ではやっていきましょー』

 

 

 そんなオープニングトークからしばらく、二人はワイワイとゲームを始めたのだが。

 

 

『あれ。止まった。トネリコ、身体動いてな……。ん!?』

『え。あれーーっ、どうした私ーーっ!!』

 

 トネリコの2Ⅾモデルが停止した次の瞬間――。

 

「うわ。おねーさんがリアルなオバサンになってる」

 

 かつ丼を食べ終わった大場が端的に状況を呟いた。

 

 ――これがバーチャルアイドル殺害事件の全て。

 

 ネットの一部で騒がれている一連の事件の正体。

 それはバーチャルアイドルの2Ⅾもしくは3Dモデルに実在する人間のテクスチャを上書きし、そして『これが中の人です!』と大々的に拡散するという嫌がらせ。

 表情のトラッキングについて知る人であればすぐに『こんな風に映る事は無い』と理解出来るのだが、残念ながら素直に受け取ってしまう人が多いのも事実。

 

 実際の殺害事件という訳では無いけれど、ショックを受けて活動停止や引退をしてしまう人もいるとか。明確に人の悪意に晒され笑いものにされる、それはどれほど恐ろしい事だろう。

 

 ちなみに、今の所狙われているのは企業所属の人たち。

 こういうのは個人の人の方が被害に遭いやすいのかなと思っていたが、どうやらそうでもなく。犯人の見当はつかないものの――企業所属だからこそ狙われやすい、狙いやすいのかもしれない。

 

 正直なところトネリコさんのやつは笑ってしまうほどギャグっぽかったのだが、会社としては色々と問題があるのだとか。

 妹のマネージャーさんと相談しているうちに色々と教えて貰えた。被害に遭ったトネリコさんは事件と心と大学の課題が落ち着くまで活動休止らしい。

 

 手法はまだあるみたいで、配信中の事故を装いディープフェイクという技術を用いて実在する人物を画面に映し、疑似身バレを起こすという事もあるという。

 

 大抵の人は信じなくても、面白半分に拡散する人はいる。

 引退してしまえばそれはバーチャルアイドルにとっては事実上の『死』とも言えるし、楽観はできない。少なくとも被害者からすれば迷惑以外のなにものでもない。

 

 そしてこの問題。

『この人は自分ではありません』という証明も難しい。

 

 だって。

 実際に現実の自分の顔を映すわけにもいかないのだから。現実と二次元の曖昧な業界だからこそ対処に困る方法だったりするわけだ。

 

「これ以来トネリコ・ルリカは活動休止。事務所判断というやつだろうな。最初はなんというか、標的にされても問題ない相手に行われる悪戯、それこそ一つのショーとして成り立っていた側面もあったんだが流行ってしまうと、こういうただの嫌がらせが起こりはじめる。発起人と模倣犯がいるのかもな」

「で。どうして綾野はコレが気になるの?」

「アホ、見てれば分かるだろ。なあ綾野」

「それは」

 

 この二人であれば言っても問題ないと思い。

 逡巡の後、呟く。

 

「このアホっぽい顔の方。まあその、知ってる奴でさ。落ち込んでるんだよ」

「へぇ」

 

 大場はさほど驚くこともなく、小林は何かを察したように「なるほど」と呟いた。

 

「そんな顔するな。ま、このバーチャルアイドル殺害事件に関しては、そう心配する事もないだろ」

「それはどういう」

 

 僕の表情がツボに入ったのか、小林は苦笑する。

 

「なんだ。まさか自分でこの事件を解決でもするつもりだったのか?」

「いや……、そこまでは」

 

 とは言ったものの、意識していなかっただけで多分、そのつもりだった。それをこうもまっすぐに指摘されると恥ずかしいどころの騒ぎではない。顔が暑いよ小林。

 

「お前よりもよほど熱心なファンが、こういうのを許すわけ無いだろ。それは企業の方もそうだ。もう犯人の炙り出しは済んでいる、と思う。俺もPCに詳しくは無いがハード面からにしろソフトウェア面からにしろ、アプローチする経路は限られるだろ。企業所属が狙われるって事は、PC本体なりソフトなりを提供している側がまず怪しい」

 

 小林はスマートフォンを数度タップし、新たな画面を見せてきた。

 この男、ゴシップ関係なら機械の操作も得意なのだなと思いつつ、その画面を見ると。

 

「妖精の頂?」

 

 その名前には見覚えがあった。たしか――。

 

「企業ではないバーチャルアイドル集団。古くは地下アイドルをやってたとか。その中の一人が、この一連の事件の火元と言われている。メンバー限定配信で取り上げられた話で今から事実確認をするのは難しそうだが。

 過激派かつ技術力と行動力のあるファン、通称『妖兵』が標的のバーチャルアイドルのPCに遠隔操作ウィルスを送り込んだ。というのが通説。

 妖精の頂は歴史が古い分ファンの層も厚い。企業の中に潜り込んでいるのも居たのかもしれないな。企業支給のPCにトロイの木馬が仕込まれていた可能性もある。どのみち魔法じゃないんだ。遅かれ早かれ足は付くだろ」

 

 ログだって残っているんじゃないか? という言葉で締めた小林の解説と共に、ネットに上げられている記事を眺める。

 

「つまり。お前の出る幕は無いよ」

 

 至極真っ当な意見。

 反論の余地もない。

 ゴクリと唾を飲みこんだ僕をみて小林は続ける。

 

「探偵役はもう他に居て。お前がやるべき事は犯人捜しとかでもなく、そのいもう……知り合いとやらのケアなんじゃないのか?」

 

 なんとも、ほれぼれするほどの問題解決だった。

 

「……僕の悩みは解決しました。小林、お前は安楽椅子探偵になれるよ」

 

 出会って五秒のスピード解決だった。

 

「時間の問題だろうって話だ、俺のはあくまで素人の推測の寄せ集め。ただ、幼稚な悪戯も事が大きくなれば咎められる。お前が悩むまでも無い」

「おみそれしました。あと……、いつの間にか調べてくれてあり」

「ただの興味本位だ」

 

 僕の言葉を遮り、ポリポリと頬をかく小林。

 どうやら、トネリコさんが被害に遭って以来、そわそわしていた僕を不審に……、いや気にかけて事前に調べてくれたのかもしれない。 

 そんな素振りを見せたつもりは無かったと言うのに。

 

「小林……お前」

「なんだ?」

「めっちゃバーチャルアイドルに詳しいのな」

「ぶふっ」

 

 うどんを啜っていた大場が噴き出す。

 

「お前なあ」

「あはは、ごめんふざけた。うん、いや、そうだな。ほんとその通りだ。……ありがとな」

 

 あっさりと。漠然とした不安は払拭されて、きゅっとなっていた心臓も元通り。

 

 いや。

 どちらかと言えば大きそうな問題に目を向けて、自分だけが、自分こそが解決しなくてはならない問題から目を逸らしていただけなのかもしれない。

 

 どうやら僕は好きでもない妹を心配していると。認めないといけないらしい。

 

 ただ、その。

 そんな自分と向き合うのにはあともう少し勇気が必要で……。

 敬愛する真野先輩に電話を掛けると一言だけ頂けた。

 

『とりあえずがんばれー』

 

 という事で、とりあえず頑張ろうか。

 

 これまで遠ざけていたもの。

 まずは、妹との関係。そして……僕自身に目を向けなくては。

 




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