顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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幕間  翅の無い妖精2

 

 真っ暗な部屋。

 

 スマートフォンの画面が二秒ほど光り、消える。

 レーからの着信かもしれないから目を向けるけど、マネージャーから。もしくはトネリコから。正直、もうどうでもいい。

 

 別に、トネリコは本当に死んでしまった訳ではない。そこはわかってる。

 めんどー事は終わったっていうのも知ってる。

 

 でも。そうじゃなくて。

 光輝く灯台のごとく目立つエリと一緒にいた事で、ヘンなことに巻き込んでしまったのかもしれない。そう思うと胸がチクチクする。

 

 本人も大学生の大人だから、そんなに気にして居ないって言っている。

 でも。エリは気になるんだ。

 エリと一緒にやったせいでトネリコが、誰かが傷ついてしまうのは嫌だ。

 小学生の頃もエリを庇った子が男子にちょっかいをかけられていた。一瞬行った中学校では、女子も男子も、エリを見る目が変わった。

 多分、可愛すぎたのが原因。

 レーは『協調性の欠如、偉そうだったんだろポンコツ』と言ってエリの顔を饅頭みたいにグリグリしてきたけど……はぁ理解度が低いよレー。

 

 正直なところ、エリがやっかまれるのはどうでも良い。けど、エリを守ろうとする誰かが嫌な目にあうのは困る。

 

 エリは、普通にしていたいだけなのに。

 この溢れ出る魅力が周りを惑わしてしまう。

 昔は構ってくれたレーも、いつの間にか離れて行ってしまったし。まあ、最近はまた構ってくれるようになったから良しだけど。

 

 エリは一人だ。

 

 この世界に馴染めない。

 おとぎ話の妖精みたいに、ふわふわと居場所がない。でも、妖精は珍しいから、誰もが手を伸ばしてくる。だから、仮想の世界に行った。電子の妖精ならば、きっと沢山の仲間がいると思ったから。

 

 実際、居心地が良かった。

 

 エリじゃない、エリオットとなる事で。エリでなくても、居場所があるような気がして。嬉しかった。

 良いコメント、悪いコメント、全部まとめて悪くはないと思った。ここを、エリの居場所にしてあげても良いって思ったのに。

 それなのに。

 また、イヤな現実世界から、影が伸びてきた。

 人は愚かだ。みんな、文字になっちゃえばいいのに。

 もう。面倒だ。

 面倒は嫌だ。兄妹は似るみたいで、エリもレーも面倒が嫌い。

 

 誰かと関わりたくない。現実でも仮想でも、けっきょく変わらないみたいだ。

 エリは、生きるのに向いていない。傷つきやすく繊細な美少女は壊れやすいのだ。

 

 友達がエリのせいで泣くなら、もう、外の世界なんて知らない友達も知らない。

 レーだけいればいい。

 

 レーは良い。エリが抱きしめて守ってあげないといけないけど。それくらいは妹としてやってあげる。レーは何だかんだ言って結局面倒見てくれるし、エリをまっすぐ見てくれる。

 

 あの『孤独で可哀想な子供』なら――『臆病な私』を理解してくれる。

 

 つまり。

 エリにはレーだけいれば良いって事。

 

 レーも多分エリだけいれば良いって思ってるはず。そーしそーあい。いえーい。

 という事で今日をもって、鎖国します。引退します。

 

 もう、居場所が欲しいとは、願いません。

 

 

 

 

 

 ――チャンチャラララン、チャラララ、チャンチャラララン、チャラララ。

 

「電話、あっ、レーだっ」

 

 つい飛び起きてしまった。

 

 スマホには昨日ようやくゲットしたレーの電話番号が表示されている。

 どうして今更電話番号を聞いて来たのかは分からないけど、やれやれやれ、ようやく妹の重要さに気が付いたのかなっ。

 引きこもっている妹を心配するのであれば毎時間声を掛けるくらい当たり前なのに。遅いよまったくっ。

 

「……もしもし」

 

 弾んだ息を整えダウナーに聞こえる声で電話に出る。

 

『あ、エリちゃん? 僕、学校辞めてアイドルになるわ』

「どゆことっ!?」

 

 先ほどまでのアンニュイが吹き飛ぶ大きな声が飛び出す。

 

『昔から憧れてたんだけど、やっぱ時代は芸能人かなって。ま、僕ならよゆーっしょ』

「む、むりだよ。レー、顔は普通でも華がないもん」

『うっ。いや、じゃあ、あれだ、バーチャルアイドル? になろっかな。らくしょーでしょ。とりあえず事務所みたいなのに入ったし』

「入ったの!?」

『まーね。ほら、身近に憧れのアイドルがいたから』

「それってエリじゃん!」

『マリリね』

「ぐぁっ」

『ペイントパレットから、兄、デビューしますっ!』

「いやああああ! 駄目! そこだけは駄目、何されるか分からないよ。マリリ、頭おかしいもん!」

 

 すると、ドタバタという音と共に一瞬通話が途切れる。

 

「レー、レーっ?」

『物が崩れ、いや、なんでもない。ともかく、実はデビューする日も決まっててさ』

「はやすぎぃ! いつ、いつなの?」

『え? 今日だけど』

 

 慌てて飛び起きてパソコンのスリープを解く。真っ暗な部屋ではキーボードが見づらいのでカーテンをばっと開き、タイピングして検索……。なんだか通信が遅い、繋がらない。

 そう言えば昨日、レーが「明日は回線がほにゃほにゃ」とか言っていたような。

 

「もう、なんなの」

 

 籠った空気では酸素が薄くて頭が回らないから窓も全開にする。

 

「ダメダメ! マリリの所なんてぜったい、認めません! そんなお兄ちゃんに育てた覚えないんだけどもっ! レーは子供なんだからエリがいないとだめなんだからっ」

『ごめんな、お兄ちゃん、ミュージシャンになるんだ』

「アイドルはっ!?」

『そうだった。ともかく、もうちょっとしたらお披露目放送があるから、遊びに来てくれよな。んじゃ』

 

「ちょっ」

 

 ツー、ツー、と電話が切られた音がする。

 

「もうっ。というか、パソコン、なんでネットつながんないの!」

 

 急いでスマートフォンでペイントパレットの配信予定を見てみれば。

 

「ぐ、マリリ、何が彼ピと凸待ち配信デビューだ。前からなんだか気に入らなかったけどこれは、時が来てしまったのかも。粛、しゅくほーしないとっ」

 

しかし。

 

復活する気配もなく家の通信環境が最悪。レーにネット関連は任せきっていたエリにはどうする事も出来ない。となってしまっては。

 

「うぅ、終わった。どうしよう。レーがとられちゃうよぉ」

 

 頼れる人は、いない。

 

 そう思った時。

 

 ――チャンチャラララン、チャラララ、チャンチャラララン、チャラララ。

 再び電話が鳴った。

 

「も、もしもし」

『あー。やっと出ましたね。ルリルリですよー』

「トネリコ?」

『ルリルリです。お兄さん、デビュー決まったんですね。おめでとうございます』

「めでたくないっ! っていうかどうして知ってるの?」

『先ほど連絡がありましたので』

「ダメ、そんなの許可できませんので。トネリコ、ち、ちか」

『ちか?』

 

 ――力を、かして。

 

 よりにもよって、困らせてしまったトネリコにそんな事言って良いのかな。

 口から出そうだった言葉が立ち止まる。

 もしかしたら――また。

 

『エリさん、あなたが居るべき場所は、そこですか?』

「え?」

 

 トネリコが、よくわからないことを言う。

 居場所、居場所なんて。

 

『大事なものは、一つでも二つでも自分で取り戻さないと。あなたは、一人じゃありません。でも、そこから一歩踏み出してくれないと。助けたくても助けられないじゃないですか』

「……それは」

 

 それは。

 とても優しい言葉だった。

 たくさん連絡を無視したのにそれでもトネリコは、エリを助けてくれるって言っている。

 じゃあ、あとは。……エリ次第なんだ。

 

「あ、あのね」

 

 勇気。

 

 勇気を出せば、間に合うかもしれない。

 本当は『全部手放したくない』っていう気持ちに向き合う勇気。

 面倒だなんて言ってられない、変態マリリと闘うには、『エリオット』の居場所に戻らないと!

 

「……エリは、エリはここじゃないところに、皆のところに、レーの傍に行きたいっ! だから、力を貸してっ、トネリコ!」

 

 思い切り、願うように叫ぶと――。

 

『もちろんっ、一緒に皆が待つ場所に行きましょうっ!』

 

 ――バッ、と部屋の扉を開く。

 帽子なんてかぶってる暇はない! 

 

 そうして。

 エリはあっさりと、自分でも驚くほどあっさりと外の世界に飛び出した。

 まずはトネリコの家に行って、いや、スタジオの方が良いのかな、でもまずはっ。

 

 レーのお世話はエリがしなくては、駄目なんだ!

 

 




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※セリフ回しに関しては正しさよりもキャラクター性を優先する事があります


※前回の補足
マリリが怖かったので常識的な部分もある事を『もしもの未来』でお届けします。
彼女は基本的には明るく優しく聡明で美人な女の子なんです。

・・・

アナウンサー「本日は犯罪心理学者霧江茉莉花さんにお越しいただきました」

マリリ「こんにちは綾野茉莉花です。さっそくですが、この容疑者、喝ですね。わたしであれば想い人に悲しい想いは決してさせません。支える、という思いが欠如している非常に身勝手で独善的な考えです。我々は愛する人の幸せを第一に考えるべき、傷つけたりなんて有り得ない。相手に恋人が出来れば涙を飲んでまとめて受け入れる、三人で暮らしていく覚悟を持つべきです。わたしは経験上この容疑者のような不手際した事がありません。」
アナウンサー「『経験上』というのは……あ、一端CM入ります」

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