顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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召喚直前

 放課後、数学科準備室に向かい田辺先生の指導を仰ぐ。

 数学準備室は職員室よりも狭いものの、人の目が少なく緊張もしない。パイプ椅子に座りながら田辺先生からの問いに何度か答えると、田辺先生は満足気に頷いた。

 

「うん、ある程度は理解出来ているんじゃないか。これならもう56点は取らないぞ」

「傷を抉らないで下さい」

 

 今日の授業で分からなかった箇所と前回のテストの範囲の質問をすれば、どうやらある程度は理解できるようになっていたらしい。

 

「基本的に文系クラスの数学であれば公式を正しく憶えて正しい数値を入力すれば簡単に解が出る。もし難しく思う事があるとしたら、それは数字の処理じゃなくて公式の暗記と解釈が不足しているって事が多い」

 

 中年特有の腹回りを擦りながら田辺先生が教科書を捲る。

 

「数学は暗記科目って事ですか?」

「先生は国語に近いと思う時がある……って、おいおい、そんな怪訝な顔をするんじゃない」

 

 国語と算数。これは幼少期から相反するものだと認識していたんですけど。

 

「なんなら作者の意図を問われるより、よっぽど素直な科目だよ。綾野、ゲームはする?」

「人並みにはします」

 

 田辺先生は机の引き出しからボンテンドーSHIFTを取り出し電源を入れた。

 

「あー、持ち込みは駄目ですよ」

「教師は良いの。ドラハンで例えると。このドラレウスの頭部にダメージを与えるにはどうすれば良いと思う?」

 

 ドラハン、元祖ドラゴンハンティングゲーム。最新作をやった事は無いものの看板モンスターのドラレウスであればよく知っている。

 

「頭はハンマー。足は剣、翼は射撃です。武器種類が公式って事ですか?」

「んー、減点。武器プラス最適なコンボが公式。武器の攻撃力が数値。モンスターが設問。これらを適切に理解する事で綾野、お前はプロのハンターになれる」

 

 スタンさせるぞ☆

 

「ともかく、こうして分からないトコを質問に来るとは良い傾向だ」

「英語よりも仲良くなれそうだったんで」

「はは。先生は数学が得意だったから一科目だけで大学受験したけど。学生は色んな教科の並列処理を求められて大変だ」

「あー。そういう受験の仕方もあるんですね」

 

 一科目受験か。よほど自信があればかなり効率的な方法だ。

 

「満点取る自信が無いとお勧めしないけどな」

 

 くっそー、僕にも得意科目があればなぁ。極端に苦手な科目は無いものの一芸持ってる人には憧れる。

 

「とりあえず、ありがとうございました」

「また分からないトコが出たら遊びに来なさい」

「はい、失礼します」

 

 手ごたえを感じながら数学準備室を後にする。今日はアルバイトも無いし、教会に行く約束も無い。つまり、暇だ。

 

 野球部の金属バットの打撃音と吹奏楽部の演奏が校内に響いている。

 最近はなんだかやる事が多くて忙しくて、急に疲れて来た。このまま家に帰っても夕飯の準備をしないといけないし、妹に捕まるかもしれない。空は梅雨時期にしては珍しくカラッと晴れているし、プラプラ寄り道しながら帰ろうかな。

 

 階段の踊り場を抜けて下駄箱へ向かう。

 薄暗い校内は環境音が響いているものの人影はなく、無性に心穏やかになる。

 

「…………ほぁ」

 

 やっぱり一人の方が落ち着く性分だ。

 さっき受験の話になったけれど、地方の国立大学あたりに進学するのが僕には合っているかもしれない。妹の世話もバーチャル関連のアレコレからも離れて、真野先輩のガレージキットをヤスリで磨くだけの生活を送りたいなぁ。

 

「……ぁ」

 

 まずは先立つものが必要だなと考えたところで思い出す。

 吉野さんに書類を渡されたんだった。必要事項は記入したものの封筒と切手を買いに行くのが面倒で後回しになっていたのだけど。

 

「直接渡すってのも」

 

 スニーカーを下駄箱から取り出しつつ呟く。

 ペイントパレット社まで行って書類一枚渡す為だけに時間を貰うのも悪い気がするけれど。

 

 ――ああ、そうだ。呼び出したとて気を遣わない悪魔がいるじゃないか。

 




短めですが、きりの良いところで。

 
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