顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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大激戦バーチャル黒ひげ危機一髪!!

 

「続きまして二戦目となりますが。その前に一戦目はいかがでしたか?」

 

 二戦目の準備をしている黒子スタッフさんの時間を稼ぐようにトネリコさんが場を繋ぐ。

 

「トネリコさんが人柱になってくれたので緊張はほぐれましたけど……。というか色々食べたのに元気ですね」

「実は私、こういうのずっとやってみたかったんですよー。押すなよ、絶対おすなよ、みたいなやつとかクイズに失敗したら逆バンジーとか」

 

 バラエティ好きなのかな。

 

「レー、こういうの誘いうけって言うんでしょ」

「どこで覚えたそんな言葉……」

 

 やっぱり特殊な業界にいる人は特殊な人ということなのだろうか。

 

「あーでもスタッフさん、ぜったいホラー番組とかは止めてくださいよ? 私怖いのホント苦手なんで!」

 

 お手本のような『饅頭怖い』を披露するトネリコさん。

 もしかしたら初生配信に呼ばれた僕に気を遣って身体を張ってくれているのかもしれない……そう思っていたものの、ただの面白れー女なだけなのかな。

 トネリコさんに抱いていた大人のお姉さんのイメージにヒビが入る。

 

「っと、私のことはともかく、第二戦にかけるお願いは決まってますでしょうか?」

 

 トネリコさんが周囲の様子を伺いつつ話を進める。

 

「エリはね、週三日以上同じご飯を出さない、にします。最近のエリはパスタ、スパゲッティペンネばかり食べているので、別の食事をよーきゅーします」

 

 なら自分で用意してくれ。

 

「週三回以上同じご飯をださない、ですね。確かエリさんのご飯は全てレーさんが作っているんでしたっけ。私も一度食べてみたいです」

「エリも手伝ってるけどね」

「後ろで見てるだけな。はぁ、週三日か。まあそれくらいならいいか。正直僕も、どうかなと思う時はあるから」

 

 ただし、僕が勝てばもうしばらくパスタ生活だ。

 

「続いてレーさんはいかがでしょう。第一戦目はお皿洗いとの事でしたが」

「そうですね。じゃあ、部屋掃除を自分でするでお願いします」

「レーがやってくれればいいじゃんっ!」

「はい、お願いが出揃ったところで、第二戦目のお題発表です、コチラ!」

 

 サブモニターに文字が表示される。

 

「『運が全て! バーチャル黒ひげ危機一髪!』 こちら優秀なスタッフが作り上げた逸品でして――」

「知ってるよ。教えてもらったから」

 

 空気の読めない妹が話の腰を折る。

 

「エリさん、お静かに。ふっふ、じつはこちらも、お二人に知らされていない変更と文字だけでは伝わらないギミックがあるのです……。ということで、スタッフさん、お願いしまーすっ!」

 

 楽しそうなトネリコさんの宣言の下、サブモニターに映るバーチャル空間の照明が落ち、ドラムロールが鳴り響くと。

 

 デデンッ!

 

 照明の復活と共に、玉座のような椅子に座り王冠を被ったトネリコさんがドアップでカメラに映し出される。

 

「プリンセス・トネリコ、爆誕ですっ!」

 

 パァっとバーチャル紙吹雪が乱れ飛び――。

 

「……」

「……」

 

 兄妹揃って絶句。

 

 

「こちら、私トネリコ・ルリカ発案のゲームとなっております!わーっ」

「なにやってんのトネリコ……」

 

 はしゃいでいる年上に妹が引いている。

 

「エリさん、いえ、エリオット。今の私はお姫様なので敬語で話すように」

「あー、うん。はいはい」

「この黒ひげ危機一髪、普通のモノとは少し違います。ということでそこの少年、ルール説明をしなさい」

 

 トントンとスタッフさんに肩を叩かれカンペを貰う。

 

「えーと。プリンセス・トネリコに捕まったエリオットとレー。二人はプリンセスとゲームをすることになる」

「そういう設定なんだ」

 

 妹が冷めた目で楽し気なトネリコさんを見ている。

 

「黒ひげが収まるタルには二十四個の穴が空いていて、その中に一つだけ女王を倒せる『電撃魔法』が収まっています。

 見事、プリンセス・トネリコを倒せた方が勝ち……。つまりトネリコさんが座る椅子から電流が流れるらしいです」

「トネリコ、自分でそんなの考えたの?」

「ふっ甘いですねエリオット、この勝負のキモはそこにはありませんっ」

 

 プリンセス・トネリコからアイコンタクトを送られルール説明を促される。

 

「はい。二十四個の穴の内、ハズレの二十三ヵ所にはプリンセス・トネリコからの『お題』がうまっております。ハズレの穴に剣を突き刺してしまった場合はその『お題』をこなさなくてはなりません」

「例えば?」

「例えば『年末までお姉ちゃんと呼んで欲しい』とか。これはエリちゃんに言ってもらいたいやつかな」

「私はレーさんに言って貰っても良いですけどね。可愛い弟が欲しかったので! 手作り料理も希望です! 一人暮らしで家庭の味に飢えているので!」

 

 他には『一緒にグランピング』『お泊り』『カラオケコラボ』『渓流下り』『みんなで花火で遊ぶ』『登山』『スイカ割り』等々、トネリコさんの夏の欲張りセットが詰まっている。夏休みに遊ぶ気満々だなこの人。

 

「レー。この剣、トネリコに刺せばいいの?」

「あ、エリさん、タルに刺してください。太もも刺さないで下さい」

 

 さっそく反乱を起こされているプリンセス・トネリコ。

 

「エリちゃん、ルール説明するよ。僕らの目の前にある黒ひげ危機一髪は、皆さんの前に表示されたバーチャル黒ひげと同じもので、剣だったりがこうしてバーチャル空間でも動くらしい」

 

 サブモニターの中でもエリオットが持った小さい剣が動いている。センサーでも埋め込まれているのかな。

 

「そして、皆さんが見ている画面には、すでに当たりの場所が表示されています」

 

 視聴者の人には当たりの場所が見えているというのは、ちょっと面白そうだ。

 画面の前であーでもないこーでもないと言いつつコメントしやすそうだし。

 これはある程度は長引かせた方が良いのかもしれない……。

 あ、でも取れ高みたいなのを考えると『お題』が増えてくのか。

 

「ふっふっふっ、さーて私に得しかない最高のゲームの始まりですっ。ということで第二戦目はこちら! 後輩の願いを叶えろ! 黒ひげ電流危機一髪!」

 

 プリンセス・トネリコの宣言と共にサブモニターにゲームタイトルが表示される。

 

「このプリンセス・トネリコを倒せるものなら倒してみなさーいっ」

 

 上機嫌なお姫様。

 スタッフの方々は微笑を浮かべている。もしかしてこれ、トネリコの夢かなえたろかスペシャルだったりするのかな。

 

「先攻後攻は、第一戦の敗者が先だから、エリちゃんからだ」

「おっけー」

「なんだかドキドキしますね。あー、エリさん、そこはどうかなー。あっ、うわあ」

「ちょっとトネリコうるさい」

 

 妹は剣を摘まむと黒ひげの周りをくるくると回り始め。

 ピタッと立ち止まると。

 一切の迷いなく剣を突き刺す――。

 

「えいっ」

「ギャああっ!」

 

 ビターンとプリンセス・トネリコが地面に転がる……。

 

 え?

 

 僕もスタッフさん達も、そしてコメント欄も呆然。

 

「エリの勝ち」

 

 あっけなく、第二戦の決着がついた。

 プリンセス・トネリコスピード失脚である。

 

・・・

 

 スタジオ内に慌ただしい空気が流れている。原因はもちろん第二戦のスピード決着だ。

 

「はい、ええと、あまりの早さに私のお尻もスタッフさん達も驚いております。あれー可笑しいなぁ。楽しい夏休みの予定が崩れちゃった……。ええと。ちょっと皆さん、えー、お喋りでもしましょうか」

 

 お尻を擦りながらトネリコさんが場を繋いでいる。その目はどこか遠くを見ているような……。

 

「トネリコさん、儚い女王生活でしたね」

「トネリコ、女王ごっこは楽しかった?」

「うわあ、ご兄妹の冷ややかな目が染みるぅ」

「ふ、ふふ」

 

 あまりに不憫で笑ってしまう。

 

「まずはそうですね。電流って凄いですね。今までテレビを見ていて疑っていた芸人さんたちすみません。もう声が出る程ビックリしました。そして、はい、一方のバーチャル黒ひげを作ってくださったスタッフさんも消化不良といった顔を浮かべております」

「エリね、あーいう運ゲー強いんだ」

 

 段取りをぶち壊した妹は誇らしげだ。

 そういえば昔エリちゃんと遊んだファミコンポの人生ゲームで惨敗した気がする。

 

「で、なんだっけ。僕は三日以上同じ料理を出さないだっけ」

 

 夢破れた様子のトネリコさんに代わり、話を進める。

 

「これでもじょーほしました。とりあえずもうパスタ、スパゲッティはヤです。ピザとかを要求します」

「ピザは難しいけど、仕方ない、分かったよ。前向きに善処します」

 

 まとめ買いしたモノは自分で処理するか。

 

「どうやら兄妹間での約束が取り付けられたようです。それではっ、ラスト、第三戦でのお願いをお二人に伺っても宜しいでしょうか」

 

 気を取り直したトネリコさんが先を促す。どうやら準備がひと段落したらしい。

 

「エリは、門限を設置します」

「も、門限?」

 

 門限。我が家では聞かない単語だ。

 

「最近のレーはお勉強会とやらで帰りが遅かったりしてエリが暇なので九時までには家に帰るように」

 

 こいつずっと僕の行動を制限しようとしてくるな。

 

「門限設置、ということですね。ではレーさんはどうしますか?」

「じゃあ、さっきと同じで」

「お部屋掃除を自分でする、ですね」

「レーがやりなよ。エリが見ててあげるから」

「なんで僕がわがまま言ってるみたいな反応なんだよ」

「レー」

 

 妹が後ろからくっ付いて来ようとするので、頭を押さえて制止する。

 この一連の動きを多くの人に見られていると思うと、もう怖くてコメントが見れない。

 

「そしてですね。一勝一敗のお二人、次の勝負で決着がつくわけですが。大事なコトをお忘れではありませんか? そうです、大きなお願いですっ」

 

 すっかり忘れてた。

 小さいお願いで門限設置なら、大きいお願いだと常に一緒に行動するとか言うんじゃないかこの妹。

 

「ふっふっふ、エリはね。自作のルーレットで決めようと思います」

「どういう事でしょうか」

「それは後でのお楽しみだけど、最近ちょっとコメントに教えてもらいながらプログラムの勉強をしたんだけど。そのルーレットの結果をレーにやって貰おうかな」

 

 まさか仕込みルーレットじゃあるまいな。

 

「おお、ギャンブル性が高くて面白そうです。ではレーさん」

「レーは塾だもんね? レーが勝ったらエリが養ってあげます」

 

 僕に先駆けて妹がどや顔を浮かべる。

 

「いや、エリちゃん。塾はいいよ」

「え」

 

 妹に本気で金を出して貰う訳がないだろ。

 だから。

 

「僕が勝ったら、学校行きな」

 

 妹が、エリオットが口をポカンと開ける。

 勝った時のお願いは、エリーゼの為に使ってやろう。

 

「おお、これは注目の試合となりそうです。エリさん、準備は宜しいですか?」

「これは、絶対に負けられない戦いがここにあるヤツだ。エリは、教育を否定します」

 

 さて。これまでの傾向から言って、僕らがマネージャーさんから聞き出した情報は全てトネリコさんの犠牲を伴って上書きされている。

 確か第三戦の内容は――。

 

「第三戦の内容はコチラ!兄妹の絆を示せっ! バーチャルタライ落とし!」

 

 それは事前に教えられた通りの内容。

 どうやら最後の最後は兄妹水入らずで決着らしい……。

 




第二戦は大激戦の結果、エリーゼの勝利です

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