顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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マリリとファミレス

 

 一階部分に駐車場、二階部分に店舗という造りのファミリーレストラン『ジョイナス』に到着する。僕とマリリの家の近くとはいえ、この後マリリをマンションまで送っていくことを思うと門限を過ぎるのは間違いなさそうだ。

 

「一番隅っこの場所でいいですか?」

「かしこまりました、ご案内いたします」

 

 入店するや店員さんに半個室風の場所が空いている事を確認するマリリ。あぁ、なるほど。身バレ対策ってやつだ。

 

「そろそろ深夜料金に切り替わりますのでお早めに注文していただけるとお得ですよ」

「あ、ほんとだ、ありがとうございますぅ」

「ごゆっくりどうぞ~」

 

 半個室の四人席に座りタブレット端末をスワイプするマリリ。

 

「茉莉花ちゃん、個室が良ければ今日はもう帰ろうか」

「来たばっかじゃん。人少ないし大丈夫だから、わたしそんな大声で叫んだりしないし」

 

 さっき路上でんあああって叫んでたろ。

 

「ファミレスなんて久しぶりだなー、ドリンクバー頼む?」

「水でいいよ」

「えー。じゃあわたしは東方美人茶にしよっと。わ、見て、美味しそうなの沢山ある。とりあえず二人で摘まむ用のポテトと、んーカキフライにしよっかな、でも。あー、このデザート美味しそー」

「ふっ」

「ん?」

 

 笑ってしまった僕をマリリが不思議そうに見返す。

 どうやら気がついていないらしい。

 

「あのさ、タブレット見ながら実況しなくてもいいよ?」

「わりとしっかり恥ずかしい」

 

 すす、とタブレットを渡される。これも職業病というやつなのだろう。

 ポテト、東方美人茶、カキフライ定食、ハンバーグ定食をタップして注文。水と美人茶をドリンクバーのコーナーで用意し、しばらく雑談しながら待っているとタヌキ型配膳ロボットがやって来た。

 

「うわ、かわいいー。写真撮っちゃお」

 

 まるで普通の女の子みたいな反応しているなと思いつつ、運ばれて来た定食を取り出す。

 

「じゃ、いただきます」

「いただきまーす。んふ、いやぁ、今日は良い日だなぁ」

「昼は仕事だったの?」

「まーね。夏のイベントの資料とか貰ってダルーって思って吉野にチクチク言ってた。でもアヤノンが会いたいって言うから全部オッケー」

 

 基本的に上機嫌のマリリしか見た事が無いけれど、機嫌の悪いマリリというのはとても扱いにくそうだ。

 

「一応、僕の英会話の先生の面倒見てくれてるみたいだし。たまにはご機嫌取りするよ」

 

 今日、すぐに会うと決めたのはこれが理由。そうでなければ疲れたバイト終わりに会いたい相手ではない。

 

「ふーん」

 

 上機嫌だったマリリの表情がすっと落ち着く。

 

「アンジェのこと気にしたから珍しくすぐに返信したんだ」

 

 近所の廃墟みたいな教会に住むなんちゃってシスター。今月からマリリが所属する芸能事務所ペイントパレットでバーチャルアイドルとしての研修を受けるらしい。

 

「茉莉花ちゃんのことは寝込んでいる間ずっとブロックしてたのにさー」

「吉野さん介しての連絡は返してるじゃん」

「やだやだ、礼きゅんの何もかも独占したいのー」

 

 おどけた風のぶりっこ仕草だが、そのあざとい上目遣いには欲望が滾っており合コンでやたらと酒を勧めてくる男というのは今のマリリみたいな感じなのかなと想像する。

 

「動物園とか海外の映像でさ」

「あれ話題変わった? このきゃわいい上目遣い見えてない? あれ、茉莉花ちゃん可愛いとか微塵も思ってない?」

「どんなに懐いているように見えても結局襲われちゃうみたいなのあるじゃん」

「それ今のわたし見てふと思っちゃったの?」

「どれほど慣れたつもりになっても緊張感ってのは常に持つべきなんだなって」

「わたしのこと獣だと思ってるの?」

「ははっ」

「いやなぜ笑った。話を逸らさずちゃんと答えなさい」

「見て、ドラゴン!」

「ドラゴンを袋から出すんじゃありません!」

 

・・・

 

「アヤノン、学校生活は楽しい?」

「まぁまぁ」

「虐められはしないだろうけど、クラスで浮いてない?」

「僕が風船だとして。紐を持ってくれる人は何人かいるよ」

「あ、浮いてはいるんだ」

 

 何故か保護者みたいなことを聞いて来るマリリ。言い淀むほどの事でもないので素直に答えていると――ああ、こういう時に無警戒に喋っているからマリリアーカイブに僕の情報が蓄積していくのだなと気付く。

 

「でも何だかんだ今の学校は居心地良いよ。部活も、なんか変な先輩いるし」

「ふーん」

 

 マリリは僕を見ながら白米を口に入れ、ゆっくり飲み込んだ。

 

「礼きゅんと一緒の学校通いたかったなー。そうすればさ、テスト勉強したり同じ部活に入ったり、帰りにハンバーガー食べたりゲームセンター行ったり出来たのに」

 

 そんなことを言われて、その光景を想像してみる。

 

『アヤノンおはよ。一緒に学校行こうって言ったよね』『アヤノンお昼なんで一人で食べちゃうの』『アヤノンだれその子』『アヤノン体操服かして、あ、さっき着てたやつで良いから』『アヤノンさっきの子誰』『アヤノン、部活一緒のにしたよ』『アヤノン一緒に帰ろうって言ったよね』『アヤノン、だからその子誰』『……れいくん。みーつけた』

 

 怖っ。

 

「僕はたまに会うだけで十分だよ」

「織姫と彦星的な?」

「そのスパンで良ければなお良し。そろそろ帰ろうか」

「あれ? なんか心の距離遠ざかってない?」

 

 久しぶりのファミリーレストランは、なんだかんだ悪くはなかった。

 

 





ということでマリリちゃんでした。
感想ありがとうございます! 誤字報告も助かるラスカル!
また来週投稿します、よろしくお願いします

※ 前話くっ付いていた部分修正しました
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