顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい 作:hikari kawa
「あー」
終わった。
昼休み、園芸部部室でパイプ椅子にもたれ掛かりスマートフォンを見つめる。
妹のマネージャーから届いたメールはやる気に満ち溢れており、すでに『教えてエリオット様の100のことっ』の問題製作が進んでいるとの事だった。
妹がどう伝えたのかは知らないけれど、恐らく僕が企画立案したと思われている……。いや提案を僕がしたのは間違いないけれども、そもそもテレビの企画って勝手に真似して良いものなのか?
「こんなはずでは……」
仕方ない。
とりあえず、クイズ参加者の枠に『一般中学生』の枠を作って貰うのを僕が参加する条件にしよう。案自体は悪くない気がするんだ、これを無かったことにするのは惜しい。
『今日、ちょっと会える?』
と横浜さんの妹にメッセージを送り、スマートフォンをテーブルにポイと投げ置き、扇風機の風に当たっていると。
ポコン、とスタンプが送られてきた。
てっきり横浜さんの妹からの返信かと思えば、デフォルメされたマリリのスタンプが映っており――。
ピコン、と続けてメッセージが送られてきた。
『礼きゅん、一緒にゲームはどうしたの?』
まずい。悪魔さんの事を忘れてはいなかったけれど、どうしたものか。
『やっぱ無しって言ったら怒る?』
と返信すると。
ポコン、ポコン、と怒ったマリリのスタンプが送られて来る。
怒っているらしい。
……マリリを怒らせると後が怖いというか、僕の身が危ないだろうし、吉野さんの胃が荒れるだろうし。どうにか楽に事態を収める方法は無かろうか。
ピコン、と再度メッセージが届く。
『あやのん。あんまりわたしを雑に扱うと――だからね。――して――するからね』
『訴訟を恐れて具体的な単語を伏せるんじゃない』
『草』
物凄くバカなやり取りをしてしまった。
『もうわたしがいなくて大丈夫そうなの?』
『予想外に転がったからわからない』
『そっか。心配しちゃったよ』
あれ、もしかして良識的なマリリが現れたのかな。このまま大人しく引き下がって――。
『じゃあ二人っきりでゲームできるね。わたしの家で。二人で』
引き下がる訳が無いか。
『ちょっと待って、インターネット壊れた。マリリとれん、ら、で、な』
『わかった。わたしにも考えがある。逃げ場のないところで会おうね』
んー。
もうどうしようも無いからマリリが現れるまでは放置でいいか。
そう思っていると、ピコンと新たにメッセージが届いた。
『今日会えます! どこで待ち合わせしますか?』
横浜さんの妹……。中学生ってスマートフォン学校に持ち込んでもいいのか?
「うーん」
我が家はダメだとして、公園ってのも……。
あ、教会でいっか。
アンジェの家の位置情報を送り――、放課後の予定が決まった。
・・・
スマートフォンで時刻を確認すると十六時まであと少し。
「ふふ。みてください、それっぽい衣装に着替えました。歓迎のクラッカーも用意しましたし楽しみです」
上機嫌なアンジェというのは個人的には好ましいけれど、なぜ上機嫌なのかというところに注目すると世間的にはあまり褒められたものでは無くなってしまう。
なぜならアンジェさん、他人の不幸話が好きだから。
「本当に機会を与えてくれるとは思いませんでした。お茶請けのスコーンも用意しましたしお客様用の普段は飲まない茶葉も用意しました。ふふふ、さて、エリちゃんのお友達はどんな悩みを持っているのでしょうね。礼さん、待ち合わせの時間はまだですか?」
教会のシスターのコスプレをしたアンジェは教会の長椅子に座りウキウキとしている。
プレゼントを待つ子供のようなアンジェは見応えがあるものの、これからの事を考えるとアンジェにだけ注目するわけにはいかない。
今日の目的は横浜さんの妹が『教えてエリオット様の100のことっ』に参加するかの確認と、なぜ仲直りしたい……いや仲違いしてしまったのかの確認。
僕よりもアンジェのほうがお悩みを聞きだすのは得意そうなので頼ってはみるものの……。
「ああ。でも心配です。事前情報ではエリさんは学校でイジメられているお友達……夏生さんでしたっけ。夏生さんを庇った結果、エリさんがイジメられたとの事でしたけど。さて、私の勘ですけどそう単純なものでは無いはずなのです。なぜだかわかりますか?」
「さあ」
人の悩みを娯楽と思ってる節があるこのシスターが本当に適任なのか疑問だ。
「そうでないと面白、いえ、その、そう、人の……」
適当な言葉が思いつかないらしい。
「悪趣味を隠さなくていいよ」
「いえいえ。私は悪趣味な女ではないので。人の悩みに寄りそう再誕、天使見習いのアンちゃんなので」
「なにそれ」
「今考えている自己紹介です」
「人の悩みに這い寄る混沌?」
「違います」
名乗り口上まで考えているとは、ペイントパレットでの活動には乗り気らしい。良かった良かった。一安心だ。
「話を戻しますけど。私の趣味とは別に、本当に疑問なのです。あのエリさんが素直にイジメられるのだろうかとか。そもそも礼さん、その話って誰から聞いたんですか?」
「昔、エリにちょっと聞いて。あとはリリーからもちょっと聞いた。んで、推測も合わせた感じかな。状況からみて、まあそんな感じなのかなって」
「そこです。俯瞰で見た場合の、客観的事実がこのお話からは抜け落ちているのです」
「よっ、名探偵」
と茶化したものの、一理ある。
そうだ。妹は、他人にどうこう言われても響くような性格ではない。そもそも妹は人に馴染まないけれど、麻薬のように人の心を掴みはする。妹のマネージャーなんてそのせいで情報漏洩するくらいだし。ただの中学生がそんなエリをどうこう出来るのか……?
「じゃあエリは。なんで……」
「今までそこは考えなかったんですね」
「察しが悪い?」
「いえいえ、そうではなくて」
アンジェの瞳が僕を見透かすように瞬く。
「本当に興味あるのは、やっぱりエリさんじゃないんだろうなってこと」
この緑の目は僕をよく見ている……見られたく無いような部分まで、だ。
「一般論として学校には行った方が良いですもんね。一般論として、仲直りした方が良いですもんね。もちろん、礼さんの感性が一般的なものから逸脱しているとも思いませんけど。心の中にエリさんはいるのかなって。エリさんのお友達だってホントはどうでも良いんでしょ。ただエリちゃんが重くなってきたから、ちょうど良かったんだ」
「……それ、今関係ある?」
「しっかり興味を持ってあげないと。そのうちエリさん泣いちゃいますよ?」
今日アンジェに詰められるのは横浜さんの妹ではなくて僕の方だったか。
妹をアンジェに任せちゃおってした事にやっぱり怒っていたらしい。しかし。べつに今する話でもないというか、アンジェの趣味で言ってないか。そもそも僕がエリちゃんを――。
「泣いてたのは自分だろ」
「は?」
「置いて行かれた経験者としてエリに感情移入してるんだ」
「っ」
つい言い返してしまった。
「私だって怒りますよ」
目を見ればわかる。しっかり本格的に怒らせてしまった。しかも、謝る気にもなれない。
「……なに」
「……なんですか」
アンジェの眼力に負けないよう視線を合わせ――。
アンジェの眼力に負けて目を逸らす。
「アンジェが詰めてくるから」
「言いたいことがあるなら私の目を見てはっきり言ってください」
話がだいぶ逸れちゃってるし。なんの話してたっけ。あーもういいや寝ちゃお。
アンジェに背を向けて長椅子に寝転ぶ。
「あっ、ふてくされたな。起きなさい」
「もうあとはアンジェがやってよ」
「自分でやり始めた事でしょうっ。起きないなら抱きしめちゃいますよ。人肌で温めちゃいますよ!」
「うわっ、やめっ、生温かいっ」
強制的に仰向けにされ、アンジェに馬乗りされる。
「お兄ちゃんならしっかりしなさいっ」
「アンジェがやってくれたっていいじゃんっ」
「引き受けたのは自分でしょうっ」
「もうやりませんっ」
「子供みたいに駄々こねないの!」
ガタガタと長椅子の上で揉めてアンジェにマウントポジションを取られて頭をガックンガックン揺らされていると。
「あ、あのー。すみません、すみませーん、言われた通り入ってきたんですけど。えと、お取込み中のところ、ええと。出直しましょうか」
アンジェの両手で両頬を挟まれている僕の視界に、横浜さんの妹が現れる。
「っ、いや」
「お気になさらず」
そう言いながら息を切らす僕とアンジェの目が合い、ジリジリと身体が離れていく。
「その、ケンカは良くないですよ?」
横浜さんの妹が仲裁するように僕らの間に入る。
「そうですね、はぁ、ちょっと詰めるつもりが、手痛い反撃をくらったものでつい」
「僕の方こそ、はぁ、つい、差し出がましいこと言われたから」
「……何がですか。どう差し出がましいんですか」
「アンジェが言いたい放題言うから」
再び揉めそうになると――。
「ちょちょっ、あのっ、再開しないでくださいっ、今日はエリとの仲直り作戦で呼ばれたはずなんですけどっ」
横浜さんの妹がレフェリーのように両手で詰め寄る僕らを押しとどめる。
「そ、そうでした。礼さん、アレやってください」
アンジェに促され、頷く。
「ええと。横浜夏生さん、ようこそ寂れた教会へ。仲直りの事なら、僕らにお任せあれっ」
パッーン、とアンジェが用意していたクラッカーを鳴らす。
「……あ、う、うわーい、たのもしーです……」
歓声が虚しく響いた。
アンジェさんの回でした。
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