顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい   作:hikari kawa

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短編と言いつつ七千文字ほどです。お時間ある時にどうぞ


短編 フィラー・フラワー

 

 私は添島智恵理、高校三年生。

 家族構成は一般的、家族関係も良好。

 お父さん、お母さん、お兄ちゃん、そして私。

 お父さんは映画鑑賞とロケ地巡りが趣味の普通の人で、お兄ちゃんはサッカーが好きなスポーツマン。お母さんはインドア系のオタク。

 

 私はとくにお母さんとは仲が良くて、家では二人でアニメを見たり週刊少年マンガを読んでは語り合ったりしていた。押し入れの中に厳重に保管されていたお母さんの秘蔵の薄い本コレクションを発見してしまった後もお母さんとの良好な関係は変わらない。なんならそれ以降、二人で同人誌を買いに行ったりカップリングについて言い争ったりと前にも増して仲良くなれたまである。

 と、そんな普通の家庭に育った私なのだが。

 

「あ、え、と。わ、私が、その、ひゅっ、配信者としてやや、やっていきたい活動は――」

 

 七月の初め。

 私は思わぬ試練と直面していた。

 私はただちょっとブイチューバーって面白そうだなと思い。

 数か月前、面白半分で録音したお母さんとの『カップリング論争』を企業ブイチューバーの所属オーディションに送ってしまっただけなのに。

 

「うん、大丈夫。おちついて。正直キミの。添島さんの経歴的にこういう場所でスラスラ喋れるとかは期待していないから。とりあえず深呼吸しよっか」

「ひゃ、ひゃい。しゅみません……」

 

 私は、ペイントパレットというまあまあ大きい事務所の三次オーディションまで呼ばれてしまっていた。直接会っての面接なんて聞いてないよ……。

 お母さん、たすけて……。面接室の外で待っているであろう母の顔を思い浮かべる。

 ただでさえ緊張するシチュエーションだというのに、それに加えて目の前には三十歳くらいのイケメン。吉野と名乗ったマネージャーさんは裏方とは思えない爽やかさで……男慣れしていない私は手に背中に胸の下に汗をかいていた。

 そして吉野さんの隣には、詳しくは説明されなかったもののこれまたスゴイ美少女が座っている。ショートカットの髪はとっても似合っていてツヤツヤしていて、化粧っ気の薄い顔は女優さんみたいにキレイで、服の上からわかるお胸の膨らみがしゅごくて……。

 私みたいな普通科高校三年の女子が来て良いような場所ではないと痛感する。

 芸能事務所って美男美女しかいないのかよっ!?

 これじゃ制服姿の私が……。

いや、制服で良かった。こんなとこダサい私服じゃこれないよっ。うわーんっ。

と、脳内大混乱。

 

「添島ちゃんは進学とかはどうなの?」

 

 混乱している私の耳に、美少女さんの聞き覚えのあるきゃわいい声が届く。

 

「ほら、高校三年生って大事な時期でしょ? わたしの……。わたしの彼氏というか、まあおおよそそういう感じの。将来的には監……確保する予定の子がいるんだけど。その子は高校二年なのにもう受験勉強始めるとかいってわたしに会う時間は向こう十年はとれないって言ってるくらいなんだけど」

「ふっ」

「吉野。笑わそうとしてないんだけど」

「いや失敬。つづけて?」

「添島ちゃんは高校三年らしいから、進路どうするのかなって。ここ、就職先としてはお勧めしないよ?」

 

 美少女さんの長台詞のお陰でどうにか呼吸を整えた私は。

 

「えと、勉強はけっこう好きというか、だ、大丈夫で。その」

 

 ああ、上手く答えられない。

 美少女さんはパラパラと私が記入したアンケート用紙を確認する。

 

「ふーん。歴史とか好きなの?」

「は、はいっ! 鎌倉とか平安時代とか、江戸にも幕末にも推しがいてそういうの調べているうちに好きになって。勉強のつもりは無かったんですけど、いつの間にか得意になりました」

「そっか。ね、添島ちゃん。やりたい配信なんてつまらない質問忘れていいからさ、そういうのもっと教えて?」

 

 美少女さんの柔らかい口調に私の緊張が少しほぐれ、何度か質問されそれに答えていくうちに口も回るようになってきた。

 

・・・

 

「――じゃあ添島ちゃんは歴女さんなんだ、いいね。わたし、そういうしっかりと自分の好きなもの持ってる子好きだなぁ。ね、添島ちゃんは特に誰が好きなの?」

「それはもちろん織田信長です」

「えー? そんなメジャーなところ行っちゃうんだ。意外だなぁ」

 

 ちょっとがっかりしました、みたいな表情に反論したい心がくすぐられる。

 

「だ、だってあんなにキャラ立っているのに周りのキャラまで色とりどりのより取り見取りで誰と絡ませてもおいしい人っていないので! わわ私は普通だとか王道だとかなんと言われてもノブが好きですっ」

「そっかそっか。ちなみに誰と絡ませるのが好きなの?」

「明智です! ぜったいヤッてますも……ん」

 

 ああああああああ、調子に乗ってベラベラ喋ってしまった!

 

「ヤってるのは蘭丸でしょー。ま、そういう関係性を想像出来る余地があるのが信長さんの懐の広さでもあるのかもだけど。で、話を戻すと進路については問題はなさそうってことでいいのかな?」

「ひゃ、……ひゃい。たぶん、指定校推薦貰えるので、はい」

「化学式にも可能性感じたりするの?」

「そ、それは、だって、公式の方が率先してカケてるので」

「もしかして教科書のこと公式って呼んでる?」

「うっ」

 

 顔が熱い。火が出そうって比喩、ホントだったんだ。

 

「ふっふっふっ、ほら吉野。言った通りじゃん。あんた一人で女子の面接なんて出来ないでしょー? ほんとわたしちゃんが居ないと女の子緊張させることしか出来ないんだから」

「いやぁ。ボクは綾野君としか仲良く出来ないみたいだ」

「なにその言い方」

「他意はないよ」

「は?」

 

 目の前で二人がなぜか言い争っているが。

 不思議と、さっきまでの嫌な胸の締め付けは無くなっていた。こんだけ変な感じで喋ったらオーディションも駄目だろうけど。たぶん、帰る頃にはいい経験したなって思える気がする。

 

「で、枠は?」

 

勝手に燃え尽きた私の前で二人はなおも会話を続ける。

 

「本命は清廉さん。追加で例のシスターさん。シスターさんは転生前のアーカイブ見た女性社員からの評判よかったから決定。せっかくなら舞台映え考えて三人にしようって」

「セーレンの保険で二人追加なんだっけ」

「彼女の舵取りが不安だから。あわよくばユニット組ませようかなと」

「セーレンとユニット?」

「あわよくば、ね。公募の他にウチのタレントからも良さそうな――」

「無理無理、一緒に歌う方が損する」

「けど、面倒見るように三課から頼まれちゃったし」 

「……まあいーや。そっちはともかくとしてさ、二枠強いなら変化球あってもよくない?」

「良いとは思うけど。さすがに最終決定はここでは」

「ただ可愛い声ってだけじゃもう無理な業界じゃん。お喋りはシスターちゃんいるし歌は、もしセーレンがこっち来るなら話題全部持ってかれる。だから地味に面白いなコイツくらいの子が丁度良いの。わたしが面倒みてもいいし。変に自信持ってる子来たらすぐ潰れちゃうよ?」

「……わかった。茉莉花がそう言ってたとは伝えておくよ」

「というか男子はどうしたの。ついにラインオーバーに引っ張られて女子推しな感じ?」

「男子はゲーマー枠で。FPSのチーム組ませるかRTA走者から選ぶか、かな。男の子は一芸ないときついから」

「そもそも数増やし過ぎ。育てる気あるの?」

「芽が出るか否かは本人次第。芽が出たら育てる。そういう方針だろ」

「はー。はいはい」

 

 ……私を置いて難しそうな話が始まってしまった。聞いて良いのかわからない話が広がっているきがする。すみませーん、私まだいまーす。もしかして、もう見えてないのかな。

 そうです、あたしゃあ道端の小石です。

 

「ねー、添島ちゃん。添島智恵理ちゃん」

「ふひっ」

 

 急に美少女さんの大きい瞳が私に向けられて心臓がドキッと飛び跳ねる。

 

「メンタル強い?」

「よわいです……」

「仲良い人はいる? もしくは応援してくれる人」

「お」

「お?」

「お母さんが、あ、あとオタク友達が一人」

 

 うぅ、少ない……。

 つい俯いてしまう。

 

「良いじゃん。お母さんと仲良いの。わたしは子供のころから距離あるからなぁ……。ふふっけっこう面白かったよ、添島ちゃんとお母さんとのカップリング論争。あーいう感じを最初から出せれば良いのにね?」

「は、はい……」

 

 あぁ、オーディション落ちたな私。

 期待はしていなかったけど、なんだかんだやっぱりショックかも。

 

「たぶんさ。添島ちゃんってすぐに結果出ないタイプだよ。デビューしたところであんまり日の目を浴びないまま終わるかも。一級品の声質でもないし、唄って踊れないし。控室でやってもらってたゲームこっそり見てたけど、すっごい下手だったし。1の1で何回死ぬのかと不思議すぎて興味深かったよ」

「うぅ、はい」

 

 あれもオーディションのうちだったのか。

 私、昔からゲームはノベルゲーか恋愛シミュレーションゲームかアイドル育成ゲームしかやらないから……こんな事ならお兄ちゃんと遊んでおけば良かった。

 

「いや、下手なのは美味しいか。ま。世の中には可愛いよりも面白い方が好きな人もいて。そういうヤツほど流行に乗らずじっくり推してくれるってこともあるのではと、わたしは思うけどね」

 

 美少女さんなりの激励というか、お祈りメール的な励ましだろうか。

 私の今後にご期待ください……。

 

「……げんに、あの男は添島ちゃんみたいなタイプが一番気に入りそうではあるんだよなぁ。おもしれー女じゃないと視界に入らないというか。ああ、わたしちゃんみたいな可愛いだけの女は雑に扱われるだけか、およよ」

「…………キミは十分愉快だよ」

 

 黙っていた吉野さんが何かを呟くと、タンっと美少女さんに足を蹴り飛ばされた。

 

「ともかく。オーディションはこれにて終了っ。おつかれさま。気をつけて帰ってね」

 

 パァっと気分が明るくなるような可愛い笑顔を向けられて、ちょっとテンションが上がってしまう。ああ、美少女ってズルいしスゴイ。お顔だけでメシ食えるわけだよ。ここまで来て良かったー。

 

「ありがとうごじゃいましたっ」

 

 盛大に噛みつつ、ガタッと椅子を揺らし立ち上がり頭を下げ。

 私のオーディションは終了した。

 何年かあと。就職活動しないといけなくなったら今日より上手く応答できると良いなぁ。

 

 ・・・

 

「ということで、こちらに親御さんのサインを頂ければ」

 

 リビングテーブルには家族四人とお誕生日席にプラスで一人。

 

「お、お父さん。これ」

「あ、ああ。修一、印鑑を持って来てくれ」

「っ、おお」

 

 我が家に、俳優もかくやという爽やかイケメン吉野マネージャーが来たことにより家族一同がアワアワとしている。私が未成年という事もあり一度は家族と顔を合わせておきたいと言うので住所を教えたのだが、うん。華やかさが我が家のキャパを越えている。

 

「各種レッスン費用は弊社持ちで。そうですね、娘さんが芸能事務所に入るということで不安もあるでしょうが良くも悪くもご自宅での配信がメインの活動の場所となるので、危ないことに巻き込まれたりすることはまず無いかと思います」

 

 吉野さんの説明に家族が頷いている。本当に理解しているのか?

 

「レッスンと言うのはちなみに?」

 

 お父さんの質問。

 

「主にダンスとボイストレーニングを予定しています。弊社の預かりタレント、同年代の子との合同レッスンにはなりますが、大きな目標としましては半年後、一年後の記念配信に向けて練習に励んでもらうつもりです」

「学業については」

「もちろん学業が最優先です。特に今年度は様子を見ながら週に1、2回の配信活動をしていただければ問題ありません。個人的にデビュー後一ヵ月は特に精力的に活動して貰う方が良いと考えておりますが、細かいことはおいおい話し合っていければと」

「智恵理が歌って踊るんですか?」

 

 印鑑を持って戻ってきたお兄ちゃんの質問。

 

「はい。そのつもりです。もちろん本人の意思が一番ですが――」

 

 その後も、家族の質問攻めに吉野さんは丁寧に答えていく。

 私はその様子を他人事のように眺めるだけだ。私……デビューしてなにを話すんだろう。何をするんだろう……。

 そんな私に気がついたお母さんがそっと耳に口を寄せた。ああ、気を遣わせてしま――。

 

「ちーちゃんお母さんね、マリリちゃんのサインが欲しいなぁ」

「……」

 

 ただウキウキしているだけだった。

 私みたいな下っ端がマリリさんに気軽に絡めるわけがないじゃん。

 そして。――バタン、と玄関のドアが閉じた。

 

・・・

 

「ふぅ、はぁー緊張したぁ」

 

 お父さんはふらふらとトイレに向かい。

 

「あー。俺もスーツ着こなしてぇ」

 

 普段からサッカーのレプリカユニフォームを着ているお兄ちゃんは自身のファッションを顧みて。

 

「今日はピザにしよっか」

 

 お母さんはご機嫌な様子でスマートフォンを触り始め。

 

 私は、部屋の扉をパタンと閉じて、ボスンとベッドに倒れ込む。

 

「…………こわい」

 

 ものすごく、怖くなってきた。

 あとたった一ヵ月でデビュー。はや。

 私、どこに行くんだろう。

 目を閉じると、先週少しだけ顔を合わせた『同期』の顔が浮かぶ。

 

 ハーフ、じゃなくてクォーター美少女のアンジェリカさんはお淑やかで可憐すぎるし。

 ほっそりペッタン繊細でお人形さんみたいに麗しい黒髪美少女の清廉さんは声がマジで綺麗だし。

 ……場違いだ、私。

 指が震える。

 ブイチューバーに見た目は関係ない。中身で勝負。それは分かっているけれど。

きっとあの二人はこれまでの人生でも『多くの人に受けいれられた』人たちだ。その経験値の違いはいかんともしがたい。

 私は自分に自信が無い。これまでの人生に特筆すべき点があるとは思えない。

 他社だけど私が最近ハマっているエリオット・リオネットちゃんは『ライブ前に緊張? このエリちゃんが緊張するわけないじゃん。どうやったって可愛くなっちゃうもん。あはは』とか呑気に笑っていたけれど。あそこまでの自負はきっと生来のものだ。

 私がもしライブをするとかなったらブルブル震えるに違いない。

 私は、ただ。

 進学を前に、徐々に定まっていく自分の人生に一滴、波紋が広がって欲しかっただけで。まさかこんな、大岩が落ちて心の水面を揺らすとは思いもしなかった!

 宝くじを買って夢だけ見るつもりだったのに、身に余る大金を現金で渡されたみたいな気分だよもうっ!

 

 ……そんな風にあれこれ考えながらベッドの上で枕に顔を埋めていると。

 ポコン、とベッドの上に置いていたスマホが震えた。

 

『お疲れ様です。ちょっと連絡先おしえて欲しいと言われたので、教えちゃいました。仲良くしてやってください』

 

 吉野さんからのメッセージにはそう書かれていた。

 

「……?」

 

 誰に?

 液晶画面を見ながら疑問符を浮かべていると、再度スマホが震えた。今度は電話、しかも知らない番号から。

 普段は知らない番号からの着信は絶対取らないけど、でも今のメッセージからしてもしかしたら会社の人……。あ、そうだ、まだ清廉さんとは連絡先を交換していなかったからソレのことかも。

 ポンとスマホの画面をタッチして通話に応じると――。

 

『やっほー、マリリだよーっ。吉野から連絡先聞いちゃったっ。ひさしぶり、げんきー?』

「うぇっ? え、ま、マリリちゃん?」

 

 あえ、あ、マリリちゃん、じゃない、先輩だからマリリさんだ。ああ、どうしよう、運動部であればこんなミスはしなかったのに。私がインドア人間だからこのような初歩的ミスを。先輩後輩はしっかりしろとお兄ちゃんが言っていたのに。

 というか本物?

 いや、というか、ひさしぶり?

 

『あ。もしかして気づいて無かった感じ? んーそれじゃビデオ通話をタッチしなさい』

「はぅ」

 

 私は返事をしつつすぐにスマホ画面をタップすると。

 

「あっ」

 

 見覚えのあるご尊顔が現れた。

 

「やっほー普通の女の子」

「はぃ、普通の女ですぅ……」

「ふっふっふっ、やっぱりそんな顔してたか」

 

 スマホ画面に小さく表示される私は確かに『そんな顔』と言われるに相応しい、なんとも情けない顔をしていた。

 

「なんで、連絡」

「わたしは、芽が出るまで育てるよ」

 

 美少女さん――マリリさんの目には、確かに私が映っている。

 

「でも、私。あの二人と比べると」

「あの二人のことそんなに知らないけどさ。たぶん、すっごく相性悪いよ」

「え、そうなんですか?」

「このデーモンアイがそう睨んでる。正直、同期デビューさせるとか信じられない。二人だけじゃ破綻するね」

「でも、アンジェリカさんは穏やかな感じで清廉さんは……まだ良くわからないですけど」

「人間観察パワーが足りんね。あ、この人すっごいタイプ! ぜったい保管する! っていうのが直感的にわかるようにさ」

「……保管?」

「あ、この人は合わない。っていうのもわたしちゃんは分かるのよ。それが自分じゃなくて他人同士でもね」

「……つまり、あの二人は」

「太極図に黒い点と白い点が無い感じ」

「完全に溶け合わないじゃないですか」

 

 陰と陽……。印象的に、アンジェリカさんが陽で清廉さんが陰なのかな。

 

「あの二人は。確かに、普通の人よりはなにか人を惹き付けるモノがあるのかもね。シスターちゃんの方なんてさ、ふふ……うちの子を……。まあいいかこの話は。キレそう」

「……」

 

 美少女が怒りを抑えてる顔初めて見た。こえー。

 

「ええと。そのマリリさん、それでその」

「あーごめん、話それちゃった☆ とにかく、添島智恵理ちゃん。あんたはこのマリリちゃんの推薦枠なんだから。デビュー早々辞めたり、病んだりしてわたしちゃんのメンツを潰さないように」

「え?」

 

 私が、マリリさんの推薦枠?

 

「デビュー配信失敗しそうだったら例の『カップリング論争』流すからね」

「ひっ」

「それがイヤならしっかり準備しなさい。他の誰でも無いあなたのお喋りをわたしは待っているから」

 

 マリリさんは言うだけ言って。

 プツ、と通話は一方的に終了した。

 

「……ぁ」

 

 夢を見ていたかのような非現実感を、画面に表示される通話時間だけが否定する。

 私は確かに、マリリさんと会話をしていた。

 たぶん、激励だ。

 言い方を変えれば更にプレッシャーをかけられただけとも言えるけど。

 でも……。

 少しだけ。

 単純な私は、私がどういう配信をするのかと楽しみになっていた。

 私のお喋り。私が誰かに堂々と話してみたかったことを頭に思い浮かべる。あの時言えなかったブイチューバーとしてやってみたかったこと。素面では無理でも仮面を被れば、理性が咎めるありのままの気持ちを出せるのかも――。

 

「……まずは、国民的忍者の卵アニメの正しい楽しみ方から布教してみようかな」

 

 不安でうまっていた心にワクワクとドキドキが芽を出した。 

 




 本編に出るとしたら画面端に映るくらいの智恵理回でした。
 感想、誤字報告いつもありがとうございます!
  
 
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