もう一度目を覚ますと、朝日が窓から差し込んでいた。
オレは仰向けで寝ており、オレの右肩にはミカサの手が乗っている。
そして、オレの肩に頭を寄せ右足はガッチリとミカサの両足で固定されている。
クークーと、可愛らしい寝息が聞こえる。
ミカサも寝ていれば可愛い少女だ。
起きれば煩い。
どうせ今日も小言をネチネチと言われる日になるだろう。だが、何故か嫌とは感じない。
それが日常であるからなのかは分からないが。
右隣で寝ているミカサの頭を撫でてみる。
「んぅ〜っ」
と、声を出し寝返りを打つ。
仰向けとなったミカサに今度は顎の下を犬を撫でるように触ってみた。
「がぅッ」
擽ったかったらか、子犬が鳴いたような声でくしゃみをした。
本当に犬みたいだ。
オレは少し面白くなり、ミカサで遊んでいた。
だが…弄くり回せば…
突如、何の前触れもなく目をパチッと開け目が合った。
オレはミカサの鼻を摘んだまま固まってしまった。
暫く固まっていたが、ミカサに睨まれたので鼻を摘むのを止めた。
「おはよう」
オレは何もなかったかのように挨拶をする。
「おはよう。
私で何してたの?」
ミカサも挨拶を返すが…当然聞いてくるよな…
「……いや〜…すまん…あぁ…」
言い訳を探しミカサが怒らない答えを探し出す。
「ミカサが可愛かったから…つい」
これなら怒られないだろう。
ヒストリアに怒られた時に偶に使う戦略だ。
「っ…!?ふんっ!」
「ぐぅっ」
真っ赤になったミカサはオレの腹に蹴りを入れた。寝ながら器用なものだ…
結局怒られてしまった。
やはり、十人十色と言うだけあってヒストリアには聞て効いてもミカサには効かないらしい。
対ミカサも考えておかないとな…
「起きるか」
「………うん」
オレは身体を起こしミカサに起きるように促す。
ミカサは寂しそうにしながら身体を起こした。
そんなミカサを見てオレは言う。
「また一緒に寝てやる」
「えっ…!?
あっ………っ…!?うるさい!」
ミカサの顔は一瞬笑顔になったが、すぐに顔を赤らめながら怒りだし蹴ってくる。
「あぶなっ…だが、嬉しそうだったじゃないか」
少し煽ってみることにした。
「もう…!!キヨン!出てって!!」
完熟トマトと化したミカサは、オレに思い切り枕を投げてきた。
躱してから枕をミカサに軽く投げて返し颯爽と部屋をでた。
一度オレの部屋に戻り支度をした後、食堂に移動する。
オレが一番乗りか。
いつも通りのメニューであるシチューとパンを貰い、席につき食べ始める。
それにしても今日は目覚めが良いな。
ずっと、木の上での生活で、久々のベットが良かったからなのか…はたまたミカサと一緒に寝たことでぐっすりと眠れたからなのか…
……
…
後者…だろうな。
前のオレでは考えられない事だ。
だからこそ、オレは「また一緒に寝てやる」なんて上から言ったのかもしれない。
オレが自分自身の変化について考えていると、ミカサが食堂にはいってきた。
「おはよう」
さっき、おはようの挨拶は交わしたはずだが…
「挨拶はもうしただだろ?」
「……おはよう」
「お、おはよう」
朝の事をなかったことにしたかったのか、繰り返し挨拶をされた。
同じ机で食べているのに無言だったので、少し…気不味い…
お互い自ら話す方ではない。
今までも2人でいることも良くあったし、無言の時間も慣れている。
だが……昨日は一緒に寝て、今朝はまるで恋人のようなことをしてしまっていた。
そのため、2人で居るのは…気不味く感じてしまう。
誰か来てくれ…と、思ったが今日に限って皆中々起きてこない。
まだまだ出発まで時間はあるが、それでもいつもは皆これくらいの時間には起きている。
疲れが残っているためまだ起きてこないのか…
「皆まだ起きてこないの?」
ミカサも同じ事を思っていたのか、目線を逸らしながら聞いてくる。
「まぁ疲れているだろうからな無理もない。」
そして、また暫く気不味い時間が流れる。
「キヨンは…私はどうすれば良いと思う?」
皆が来ないと思ったのかまた話しかけられた。
「私は…キヨンの傍で少し見ていたい…と思う」
「オレの?エレンの横に居なくても良いのか?」
「……うん。
何を考えているのか、それを自分で感じ取れるようにする」
まだエレンの隣に居たいと思う気持ちはあるようだ。まぁ、エレンに恋心を抱いているのだから、それは仕方のない事だ。
だが、今までのミカサなら何が何でもエレンを優先して、横に居ようとしていた。それを、今、自らエレンの傍を離れて周りを見ようとしている。
「そうか。分かった。
ああ…そうだ。
アニは今回のことで憲兵から調査兵団に来る。アニは多分オレの近くに居ることになる。だから、ミカサも………何だよ…?」
ミカサに睨まれることは良くあるため、気付いていながらも無視することもできる。
だが、ミカサはただオレの目を見て微動だにしなくなった。
睨まれているのではないことは分かるが、物凄く居心地が悪くい…
「別に」
ふぅ…逸らしてくれた。
「おっす!キヨン、ミカサ!はえ~な!」
ようやく来たか…コニー。
「「おはよう」」
「お前ら2人だけでいるのは何か珍しいな!」
「……」
コニーがそう言うとミカサは分かりやすく反応し、俯いた。
「お前らが遅いだけだ。
オレもミカサもいつも通りに起きただけだぞ」
「それもそうだな。
いや~久しぶりのベットでぐっすり眠れたぜ」
コニーの能天気さには呆れるが、今回はそれに助かった。
ヒストリアが居れば勘繰られていただろう。
その後、皆は続々と起きてきた。
「お、おおおおおはよう」
ヒストリアがオレに挨拶をする。
オレの前に来るまでは、いつも通りだったがオレの目を見た瞬間に顔がトマトと化した。
そんなヒストリアに皆は首を傾げている。
ユミルはハッハァーンと意味深な声を出して、1人で納得していた。
ヒストリアはオレの隣を確保するのかと思いきや、少し離れたところで食べ始めた。
昨日の接吻の事を気にしているのか?
まだ、そう言う感情は理解できないな。
皆酷い寝癖で、とても眠たそうだった。
一時間ほどが経ち、皆は朝食を食べ終え談笑している。
突如、ハンジさんが食堂の扉を勢い良く開けた。
「皆!すまないが出発するぞ!大変なことになった!!
ウォール・ローゼが突破されたかもしれない!!」
「「「「えっ……!?」」」」
皆は一様に驚いているが、次々にオレの方を見る。その目は「お前がやったのだろう…?」と言っているのが分かる。
「オレも知らん。
何でもオレがやったと思うな…」
オレはそう言い立ち上がり、外へ向かう。
皆もオレに続いて食堂をあとにする。
「そう…ならこれはベルトルトがローゼの壁を破壊したと言う事…?」
ミカサがオレに聞いてくる。
どうだろうか…
そもそも、ウォール・ローゼのどこかにもよる。
「それは分からないな。
一先ずハンジさんに聞かないとな…」
「分かった」
アニの件もあり、シーナに向かいたかったが仕方ない。
オレたち調査兵団が存在するのは巨人を倒すためだ。
巨人が現れたのならオレたちが出ていかなければならない。
王政のことは住民と駐屯兵団に任せよう。
「来たか!
皆揃ったな!今回巨人が出現したのはウォール・ローゼ南方からだそうだ。
我々はその調査に赴く。」
ハンジさんが今回オレ達がやるべき事を簡単に説明した。
「えっ……」
一瞬で顔が強張るコニーとサシャ。
そう言えば、コニーとサシャの出身はウォール・ローゼの南区でトロスト区ともかなり近かったはずだ。
もう手遅れかもしれないな…
それに、南区か…ベルトルト達の可能性も無くはない。だが、今そこを破壊してもトロスト区には巨人が居ないため破壊する意味がない。
なら、西に位置するクロバル区からか?
それこそ、あり得ないが今ここで証明することは出来ないか…
「コニー…大丈夫か?」
「……」
一先ず、顔面蒼白になっているコニーに声を掛けるも反応しない。
『ペチン!』
「おい…ハゲ、行ってみねぇことには分からねぇだろ?」
ユミルはコニーの頭を叩き、そう言ってコニーの心を落ち着かせた。
エルヴィン団長指揮の下、班を構成し馬に乗り駆け出す。オレには40名程の部隊を与えられた。
南方に行くのには50キロほどある。着くのは夜になりそうだ。
街の中を駆け草原を駆け、暫く移動してから小休憩に入る。
その間、サシャとコニーは落ち着きがなかった。
二人とも自分の村が心配なんだろう…
休憩が終わるとまた走り出す。
日が沈み始めた頃…
「左前方より巨人多数接近!!」
と、先輩兵士の注意喚起とともに赤の煙弾が上に上がった。
エルヴィン団長が右前方へ緑の煙弾を放ち、進路変更する。
ようやくここまで来たか…
とは言ってもまだ、コニーの村はまだ先だ。
「お前達はそのまま進め!ここは我々だけで十分だ!!」
そう言ってミケ分隊長とその部下が巨人を倒す為に向かっていった。
オレたちは更に奥へと進みトロスト区へ入るための門を目指す。
暫く走っていたが…
「妙だな…」
オレがそう言うと、隣に居たアルミン達が食いつく。
「どうしたんだ?」
「いや…さっきの集まっていた巨人以外に巨人を見ていないと思ってな」
「ああ…確かにそうだ。
穴に近付いているのに、あの巨人達以外見ていない…
これは…どう言うことだ…?
そもそも…扉を破壊したのがベルトルトだとして、トロスト区とローゼの扉を破壊する必要があるのか…?
それなら、もっと早く伝令が届いているはず。
なら…
クロバル区方面から…?それなら、もっと巨人は分散されているはずだ。
…
そもそも巨人の正体は人間だ。
敵は巨人になることもできる。
なら…キヨン!これはもしかして!!」
アルミンが1人で呟きながら答えを導いた。
オレもそう思う。
アニからはベルトルトやライナーが人間を巨人に変える能力を持っていることは聞いていない。
勿論…アニがオレに隠していた可能性もゼロではない。
だがアニ自身、オレに信用してもらわなければここで生きていくことはできない。その上、アニの侵食はもう殆ど完了している。
アニがオレを裏切るのは考えられない。
なら、ここでアニが隠していると言う事もあり得ない。
それにジークと言う男…アニ達の隊長だったか…
そいつがそのような能力を持っており、その男の脊髄液を一滴でも飲めば、巨人にさせられると言っていたな。
そいつは今回の作戦で来ていないと聞いていたが、アニ達の帰りが遅い為に見に来たのかもしれない。
なら、ライナーやベルトルトとはまだ合流していない可能性が高いな…
全員が殺られた可能性を考えて壁内の戦力分析の為に今回巨人にさせたのかもしれない。
だとするなら、ジークと言う男はあの巨人の群れと共にいる。
「アルミン。
お前はエルヴィン団長にその事を伝えてこい。
オレの班は付いてきてくれ。
コニー、サシャ。お前達は故郷を確認したければ残っても構わない。
ヒストリアとユミルもそっちに残れ」
オレはそう指示を出し進路変更をする。
オレの予想が正しければ、戦闘になるだろう。
そこへヒストリアを向かわせるわけには行かない。ユミルも戦力になるが、ヒストリアを常に守っておいてもらわなければ困る。
「おいおい…良いのかよ!
俺達だけ別行動してよ!」
皆は付いてきているものの心配な様子だ。
ジャンが代表して聞いてくる。
「ああ…向かうのはさっき巨人が居た場所。
ミケ分隊長達がかなり危ういだろう…
激しい戦闘になる可能性もある。
覚悟しておけ。」
付いてきたオレの班は25名程。
コニーのように故郷が南区の人達は残ることになった。
オレの班には新兵ではない兵士も居る。
その人達はオレのような新兵に指示を受けたためか、かなり嫌な顔をされた。だがそんな人達もオレの言葉を聞くと、瞬く間に気が引き締まり、真剣な顔つきになった。
▽▽▽
キヨン達が戻った後、僕は1人で前方に居るエルヴィン団長の下へ向うため速度を上げる。
エルヴィン団長に追いつき報告をする。
「エルヴィン団長!報告が!」
「どうした?」
僕は壁が壊されていないこと、敵の隊長がさっきの巨人の群れに居た可能性があることを伝えた。
「そうか、分かった。
だが、応援は出せん。」
「そんな…どうしてですか!?」
「ウォール・ローゼ西方から南方にかけて駐屯兵団が壁に沿って穴の位置を確認しに来る。
我々はその逆から穴の位置を確認する。
つまり、我々調査兵団と駐屯兵団はいずれ遭逢することになる。
今は王政のことで壁内は混乱おり、我々の動き方で大きく変わるだろう。
そんな時に調査兵団の主力が居なければ何していたんだと言う事になる。
説明すれば良いだけかも知れないが、どう受け取られるかは判断できない。
今は、我々が仕事をちゃんとこなしている事を駐屯兵団に見せる事が優先される。」
そう言う事か…
だから、キヨンも25名と言う少数で出ていったんだ。そして、キヨンの名は他の兵団や住民に全く知られていない。
この王政の混乱を企てたのが調査兵団内にいると知られたら面倒事になりかねない。
エルヴィン団長はどちらかを捨てどちらかを取りに行く人だ。
今回は王政のことを重要視したのだろう。
でも…キヨンとミカサが…
「アルミン…向こうにはキヨンが居る」
「そ、そうですね。
分かりました。
以上で報告を終了します!」
「ああ…ご苦労だった」
僕は自分の持ち場に戻った。
そうだ…向こうにはキヨンがいる。
そして、ミカサやジャン、マルコ達も…
▽▽▽
暫く馬を走らせると、数軒の家が見えてくる。
その周りには巨人が群がっていた。
そして、死体がそこかしこに散らばっているのが遠くからでも分かった。
見慣れているとはいえ、皆は顔を顰めている。
そして、前方で左から右へ馬が剛速球で飛ばされていった。
馬が飛んでいった逆方向を見ると、毛むくじゃらの手長ザルのような通常よりも大きい巨人が居た。
あいつが馬を投げ飛ばしたのか…そして、あいつがジークか。
あれはヤバイな…
「なんだありゃあ!?」
「馬が投げ飛ばされたぞ!?」
「しかもめちゃくちゃ速ぇ!あんなの…どうやって避けんだよ…」
「あのくそでけぇ巨人が投げたのか…?」
皆も同じ事を思っているようで恐怖が顔に滲み出ていた。
「やだぁぁああ!!やめてぇぇええ!!!」
馬が飛んでいった方から叫び声が聞こえる。
獣の巨人がその叫び声がする方向に向かって行く。
「あれは…ミケ分隊長だぞ!!」
「そんな…調査兵団でリヴァイ兵長に次ぐ実力者なのに…!?」
「全員…あの巨人とミケ分隊長の間に信煙弾を撃て。そして、ミケ分隊長に群がる巨人を倒してくれ。
ミカサ。頼んだぞ?」
「うん…キヨンは?」
オレがミカサに頼ると嬉しかったのか声が弾んでいた。
「オレはあいつを倒す」
「…分かった。死なないで…」
まさかの発言に思わずミカサの方を見てしまった。まさか…ミカサに心配される日が来るとはな。
「ああ…ミカサも油断するなよ」
あの獣の巨人とは遠距離で戦っては駄目だ。
近付くためにもオレを煙で隠さなければならない。皆は一斉に信煙弾を撃つ。
赤、緑、黒、黄色の煙が獣の巨人の前に壁のように視界を塞ぐ。
集団でミケ分隊長に向かった皆の足音に気を散らし、オレにはまだ気付いていない。
一気に馬を全速力で走らせる。
景色が変わり、視界が狭まる。
200メートル程の距離を10秒にも満たない速度で走り抜ける。さすがは調査兵団の馬だ。
獣は煙を構うこと無く通り抜ける。
有り難いな。
煙が霧散し始め奥が薄っすらと見えるようになる。
獣の巨人は近くにあった岩を砕き、野球のピッチャーの構えを取り、調査兵団へ向けて投げようとしていた。
オレは立体機動に切り替え馬と離れる。
そして、投げようとしていた右手を切り刻んでいく。
おっ…何か切りやすいな。
獣の巨人は右腕を千切りにされ、ようやくオレに気付いたようだ。だが、もう遅い。
ここまで近付ければこちらのもの。
目に刃を押し込み、失明させる。これはもう、常套手段だ。
そのまま身体中を切り刻んでいく。
足を切り、腕を切り、腹を切り裂く。
身体の自由を奪っていく。
そして、背後に周りうなじを削ぎ巨人の体内から引き摺り出すために、切り刻んでいく。
「うぅぁぁあああああ!!」
元気な男の子ですよぉお!!
とでも言えば良いのだろうか?
出産の瞬間を、見たことはないが恐らくそうなるだろうと思える光景を見た。
元気に出てきたジークの両手両足を切り落とす。
これもアニから教えてもらったことだ。
巨人になれる人間は大きく損傷していたら巨人になれない。
「ぐうぁぁああああ」
この草原にジークの叫び声が響く。
さて…どうしたものか……こいつを入れておける牢屋などは無い。
エレンのように地下でも問題はないのだが、硬質化が出来るのなら意味がないのかもしれない。
「くぅぅ〜〜くそっ…!?いでぇ!いてぇ〜〜よ」
「大人しくしていられないか?あそこで死んでいる兵士はそれ以上の苦痛を受けたはずだ」
そう言って腹に刃を突き刺し、地面に固定する。
「ぐうぁぁあ!!ぐぎゃぁぁあ!!」
またも叫び声が響いた。
「ここには何人で来た?」
「くきゅーガハッ…言うわけねぇだろうが!
お前等ぁ!こいつをやれ!!」
巨人に指示を出したのか?
オレは振り返り巨人の群れの方を見るが、もう全ての巨人が倒されていた。
ジークに向き直る。
「そうか。なら黙ってろ」
ここには丁度いい物が無いため刃でやるしか無いか…
目と瞼の間に刃を差し込みグリグリする。
すると、途端に大人しくなった。
これをしてもどうせ元通りになるんだろが。
ロボトミー手術。
存在してはならない手術。
決して、人に施してはならない手術だ。
本来…精神的な病を患っている人達のために発見された手術だが…上手く行くかどうか、被検体がどのような状態に陥るのか、分からないそんな手術だ。
精神年齢が2才児に戻ってしまったこともあるらしい。
「あ~あ~あ!あ~あ!」
元気に出てきたジークは元気な2才児になってしまった。
だが、突然ジークは頭を抱えてこう言った。
「あっ!グ…グググ…グリ…グリシャ」
は…?
聴き逃がせない言葉。
グリシャ?
エレンの父。そしてオレのおじさんの名前。
勿論、同じ名前の可能性も大いにある。
「グリシャ・イェーガーか?」
「そう………とう…さん……」
オレがそう聞くと、頭を押さえながらそう言った。
父さんだと…?おじさんは確かにマーレから来た人だ。
マーレで別の人と子供を作っていても何も不思議なことではない。
その時…
「キヨン!避けて!」
「っ…」
オレは急いで飛び退く。
突如後ろから顔の長い四足歩行の巨人が口を大きく開けて突っ込んできた。
ちっ…
ジークを持っていかれたか…
あの巨人もまた厄介だ。
馬よりは少し遅いが持久力のある巨人だと言っていたな。追うのは無理か。
やられたな…
「悪い、キヨン…俺達が取り逃がしたせいで…あいつ建物の中に隠れて嫌がった…」
「ジャン…気付けなかったオレの責任だ。
それより他にはもう居なかったか?」
「ああ」
タイバー家が所有している戦鎚はどうやら来ていないようだ。
何処かに隠れている可能性も否めないが…
鎧の巨人、超大型巨人、女型の巨人、顎の巨人、獣の巨人、車力の巨人。
全部で9種類の巨人のウチ、エレンを含めると7体の巨人を見ることができた。
後は始祖だけだ。それは何処に居るのか…この壁の中に居るとは聞いているが、エレンとはまだ断定出来ない。
今回2体の巨人が確認できただけ良しとしよう。
「普通の巨人は全て倒したのか?」
オレは熟考するのを思い止まり、現状の確認をするためジャンに問いかける。
「ああ、それは全て倒した。殆どミカサが…」
「そうか。」
「だが…ミケ分隊長は……」
ジャンは悲壮な顔になり、言葉を出そうとする。
そうか、間に合わなかったか…
「そうか…
一先ず、もうここには巨人は居ない筈だ。今日はここで一泊することになるだろう」
「分かった」
オレの馬はさっき全力疾走したばかりだ。
まだ走れる状況ではない。
班員が集まり、お茶を出される。
人数は…二人欠けたか…
それでも、まぁあの巨人の群れから2人だけで済んだのは良い方だろう。
「キヨンと言ったか…?すまない。周りの巨人が居なくなり、君があの獣の巨人を倒したのを見て油断してしまった。そのせいで、家の中に潜んでいた巨人を取り逃がしてしまった。
本当に…すまない…」
1人の先輩兵士がオレに謝る。
「いえ、あれはオレが気付けなかったことによるものです。
責任はオレにあります。
ですが、今回は相手の戦力を知れただけ良かったです。」
オレは本音を言って安心させる。
「キヨンなら気付けたんじゃなかったの?」
ミカサがそう聞いてくる。
まぁ…そうだろうな。普段のオレなら気付けたものだ。
「ああ…そうだな。
これはエレンに関係することだ。
帰った後で話す。」
「そう…分かった」
「ここの家から食料がある分、全部貰おう。」
オレがそう提案する。
もう、ここの住民は生きてはいないだろうしな。
「え?良いのかよ…そんな勝手なことしてよ」
「ああ…責任はオレが取るから心配するな。
何も食べなければ、いざという時役に立たない。」
「まぁ…それなら食べるか」
「わ、私も食べる!探してくるね!」
意外にも食い意地が凄いミーナが、真っ先に家の中へ探しに行った。
それを見た兵士は皆で数軒の家に入り、食料を探した。オレも家の中に入り食料を探す。
パンばかりだな…
まぁ食べられるだけ良いが。
集まって食べ始めると先輩兵士が問い掛けてくる。
「戻らなくても良いのか?」
「 はい、今さら戻っても大したことはしないでしょう。扉は破壊されてないようですし…」
「なに…?何故そんな事が分かる?」
1人の兵士がそう聞いてくる。
すると、全員がオレを見てきた。
ミカサはまた何かを隠していたの?と目で訴えてくるが、今回はそう言う訳では無い。
「あの獣の巨人の中の人間が普通の巨人に命令しようとしていましたので、あいつがこの近くの町に住んでいる住民を巨人に変えたのでしょう。」
「え…この壁の中の人類が巨人に変えられたと言うのか…?」
「人間が巨人に…?」
先輩兵士がそう言って驚愕している。
そうか。オレとよく一緒にいる新兵にはオレが話していたが、先輩兵士はこの事をエルヴィン団長からも聞いていないのか。
もう話しても大丈夫だろう。
「ああ…巨人の正体は人間です。
それは最近判明したことです。」
「「「はっ…!?」」」
「どう言う事だ?」
「詳しくはオレも分かりません。
ですが、ある薬を注入されると巨人になるようです。
そして、エレンや鎧の巨人、そして先程の獣の巨人のような巨人になれる人間を食べれば人間に戻れるみたいです。巨人はそのために人間を食べているだけです。」
「まじかよ…」
「ええ。なのであの獣の巨人が今回の騒動の主犯なのでしょう。」
「……ああ…なるほど、人間を巨人に変えられるなら、わざわざ壁を破壊する必要はないか…」
「はい」
「エレンも出来るのか?」
「いえ、出来ないでしょう。出来るなら超大型や鎧もマーレを破壊する必要は無かったはずです」
「そ…そうだな」
今回の騒動を先輩達に簡単に話をした。
ついでに、人類が滅亡していないことも伝えておいた。
ここで一夜を過ごすため、三人一組になり交代で見張りをする。
オレはミカサとミーナだ。
トーマスやジャン、そしてマルコにまでゴミを見る目で見られてしまったが仕方のない事だ。
「ミーナ、ミカサ、オレの順に見張りをするか」
「「分かった」」
そんな訳でオレ達は焚き火をし、その近くの木であまり深い睡眠を取らないために、凭れ掛かり寝ようと思ったのだが…
「おい…ミカサ」
ミカサがオレの肩に顔を乗せ、眠りにつこうとしてきた。
今はミーナも居るのだから止めて欲しい。
だが、ミカサは何も言うことなく目を閉じ、寝てしまった。
さすがミカサだ。本能のままに生きてるな。
「ミカサもう寝ちゃった?」
ミーナが話しかけてきた。
見張りと言っても、巨人はもう居ないためそこまで気を張る必要もない。
「ああ」
「何か珍しいね。ミカサがキヨンにベッタリなんて」
「まあ…またエレンと離れ離れになったからな、もう一人の家族であるオレをエレン代わりにしているのだろう。
……
…
何か…怒ってるのか…?」
「ん?怒ってるように見える?」
「…あーいや…見えない」
「ねぇ…私達、これからどうなっていくのかな…?」
ミーナは話を変え、不安そうに聞いてくる。
これは、今までは巨人を倒すための兵士だったが、これからは人を殺さなければならない事への不安の表れだろう。
オレとしては、巨人を殺すのも人間を殺すのも同じことだ。
だが、普通の考え方ではそれが出来ないのだろう。
「やる事は変わらない。
自由を得るために戦う」
オレはそう淡泊に言う。
それだけで気持ちが変わることは出来ないだろう。だが、ゆっくりとでもその気持ちを持って貰うことが重要である。
「うぅ…心配だなぁ。
私に出来るかな」
「すぐにその気持ちを切り替えろとは言っていない。
苦しいときは仲間と分かち合えば良い。
皆も人を殺すことへの免疫は無いだろうからな」
「そ、そうだね。
その時はキヨンに頼もうかな」
「オレか…」
「だめ?」
「いや、駄目ではないが、オレより適任はいると思うぞ?」
「キヨンは…人を殺すことに躊躇しないし、他人を駒のように扱ったりする」
驚いた。
ミーナにはオレの心情を理解しているようだ。
ミーナの話はまだ続く。
「でも…ん〜だからこそ、かな…キヨンは人の気持ちを的確に理解してくれるでしょ?
それで、ちゃんと話を聞いてくれる。
女の子は基本的に話を聞いてくれるだけで、気持ちが楽になるものだからね。共感して欲しいんだよ共感をさ。
それをキヨンはしてくれる。
そして、その話がどんなであれ、受け止めてくれるだけの器がある。
だから皆、キヨンを頼るんだよ」
そう言ってオレと視線を合わせる。
そして、ミーナはこう続けた。
「だからさ…キヨン。
私はキヨンと居られることに満足している。そして、駒として扱われることに不満は無いよ。
だって、その先に自由があるんでしょ?」
不思議な感覚だな。
ミーナから特別な視線を受けていることには気付いていた。だが…駒として扱われることは、不満を感じると思っていた。しかし、それは逆だったか…
「 ああ。そのつもりだ」
ミーナはミカサの逆側に座り、オレの手を握ってもう一度問うてくる。
「私達を勝たせてくれるんだよね?」
「当然だ」
オレはそう返す。
ミーナの目を見て本心で。
「ふふっ。なら、これからも一杯私達を使うと良いよ」
「分かった」
ミーナと出会ったとき、そして訓練兵を卒業するまでは、普通の女の子だと思っていた。
巨人を見たことがなく、周りの意見に流されやすい。そんな何処にでもいる普通の少女だった。
それが今では、自分の意見を言えるようになっている。
オレが見ていない所でも皆は着実に成長している。
良いことだ。
「そろそろ、ミカサを起こすか」
その後も雑談をし、ミカサの番になったのでミカサを起こす。
オレ寝られなかったな…まぁミカサを起こしたら寝よう。
「そうだね。ミカサー!」
「んぅ〜?」
ミカサは少し寝癖がついていた。
「寝癖がついてるぞ。
顔を洗うついでに直してこい」
オレがミカサにそう言うと、すぐさまオレに背中を向け駆け足で水場まで走っていった。
何だ?
「ミカサ…」
「どうした?」
「ん~ん、私は寝るね!」
そう言ってオレの肩に頭を乗せ寝てしまった。
こいつら…
ミカサが顔を洗って戻ってくると、オレを見て一瞬睨まれた。
そして、オレの横に座る。
「お前、見張りだろ?」
「ミーナもこうしてたじゃない」
「…」
そう言われてしまえば何も言い返せない。
もう寝ようと思ったが、それをミカサは許してくれなかった。
下らない話題で話をして、寝かせまいとお茶を出される。
なるほど…皆が成長している訳では無いようだ。
ミカサはこの我儘なところが完成形なのかもしれない。
オレはそう思いながら、この長い夜を過ごした。
最後は、一人淋しく。眠たい目を擦りながら。
超ショウモナイおまけ
キヨンの初めての感情
その壱『罪悪感』
訓練兵の生活が慣れた頃、オレは分析しきれていないことがあった。
それは、サシャの馬鹿さだ。
こいつの行動、知力はまだ分からない。
それは知っておかなければ後々、重大な事件に繋がりかねない。
だから、今、問題行動をしてでもサシャの馬鹿さを理解しなければならない。
オレは食堂で1人で、黙々と食べているサシャに声を掛ける。
「サシャ…お前に頼みたい事がある」
「あ〜いつものですね。なんですか?
今回はパン何個ですかね〜?デュフフフ」
気味の悪い笑みを浮かべるサシャに真剣な表情でオレは言う。
「今回は重要任務だ。
だから、成功すれば肉を食わせてやる」
オレがそう言うと、サシャはパンを食べる手が止まった。そして、ゆっくりとオレの方を見る。
その目は狂気的ではち切れそうな程、目が開かれている。
「えっ…え、うっ…え…?そ…そんな馬鹿な…」
「本当だ。オレが今までサシャに嘘をついたことは無いだろう?」
「え、ええ!そうですね!!!!そそそそそそれでその任務とはぁああ!?」
オレの手を握って上下に振りながら聞いてくる。
かなり興奮しているようだ。
「一度しか言わないぞ」
「はい!!」
「今から教官室に行って肉を盗んで、オレにそれを届けてくれ。そしたら、お前には肉をくれてやる」
さぁ…どうでる。
「わ、わわわわ分かりました!!」
そう言って、食堂を出て行った。
まじか、あいつ。
そして、その日の夕方。
「キヨン!!お届け物です!!」
まじか、こいつ。
そして、日が完全に沈んでから、サシャと2人で森の中を歩く。
暫く進むと、湖が見えてきた。
そして、焚き火も出来そうな広場があった。
そこで、肉を焼くため石で囲い、薪に火を点ける。
そして、肉を焼き塩をかける。
サシャの方を見ると涎が垂れていた。
「サシャ涎が垂れてるぞ」
オレはそう言って、サシャの涎をタオルで拭く。
「ありぃがとぅござぁいまぁすぅ。はぁはぁ」
お礼を言われてるとは全く思えないな。
焼けた肉を切って、サシャに渡すと直ぐに齧り付いた。
「んんんんっめぇ~!!!!」
サシャの咆哮はこの綺麗な湖には似合わない。
オレも食べる。
おっ…美味い…久しぶりの肉だからか?
「ふふふ。キヨンも食べている時は可愛らしいですね…ふふふ」
と、サシャに揶揄われた。
「ですが…キヨン…うぅ…ごほっ…うぅ〜あなたと言うお人は……」
サシャは急に泣き始めた。
何だ?情緒不安定か?こいつ。
「本当に…いえ…やはり…神様ですか!?
肉を分けてくれるなんて…こんな良い人がいて言い訳がありませんよぉお!!
あなた…そんな良い人なら…今後騙されますよぉ。
お気をつけてくださいね〜」
号泣しながら、オレにそう言う。
や、止めてくれ。
こいつ…馬鹿すぎる。
未だに気付いていないのか…
その肉はお前が盗んできた物だ。何故分からない…
そして、その涙ながらにオレを褒めたたえるな…
何か初めての感情が心の中を埋め尽くしていた。
「あ、ああ。気を付ける」
食べ終わったオレ達は宿に戻り、颯爽と寝ることにした。
翌日
「おい…食料庫から肉が無くなっているが?」
怖い顔をした教官が、ドアの隙間から皆にそう聞いてきた。
「サシャが盗んだからだと思われます」
ミカサが適当にそう言った。
サシャは一気に真っ青になり、声が出ていない。
カクカクとオレの方を見てくる。
オレも裏切るしかない。
「サシャが盗んだからだと思われます」
「 また、お前か…今日もずっと走ってろ。今日は飯抜きだ」
「ひえええぇ〜〜〜!!」
悲壮な顔をするサシャを見て、また良くわからない感情が出てきた。
あーそう言えば、サシャの分析は…不可。