太陽が顔を出すと同時に身体に暖かさが染み渡る。
もうすぐ夏が終わりそうだ。
夜は何か羽織らないと寒くて寝られない。だが、この夜は特に厚着をせずとも、寒いと感じることは無かった。なぜなら、両側から二人の身体が密着しており、常に温かみを感じていたからだ。
そんな、ひっついて離れない2人を起こそうと肩を揺らす。
「「うぎゅ…」」
「もう朝だぞ。起きろ」
「ん…」
「おはよう…キヨン」
「おはよう…ミーナ。
おい、ミカサ。さっさと起きろ」
ミーナはすぐに起きて顔を洗いに行ったが、ミカサはなかなか起きようとしない。
仕方ない…
オレはミカサを抱えて水場まで移動する。
タオルを見ずに濡らし、ミカサの顔を拭くとようやく目が覚めたようだ。
「おはよう。
あ、後は自分でするから」
「そうしてくれ」
恥ずかしがるミカサを置いて、オレも自分の支度をする。
▽▽▽
憲兵団、新兵の宿。
「さむ…」
目が覚める。
もうすぐ冬か…
この寒さはどうにも慣れない。
ベットから出たくない季節になり、一生布団にくるまっていたい…
だけど、王都は混乱し憲兵団である私が出て行かないわけにはいかないので、サッと立つ。
こういうのは直ぐに立たなければ、ずっとベットにいてしまう。
食堂に向かい、一人で朝食を取る。
この一人の時間を求めていた。
私は元々、一人が好きだっし。
だけど…一人になったら一人なったで…さみしい。
はあ…全部あいつらのせいだ。
芋を盗むやつもいれば、馬鹿面と馬鹿のようにケンカしかしないやつらと居たせいで、私はおかしくなった…
「はぁ…」
唯一の食事という至福の時間に自然と溜息がでてしまった。
「どうしたの?」
ヒッチが私のため息を聞いて、近づいてきた。
目を丸くし驚いている。
そんなに私のため息は珍しいのかな…
「いや…なんでもない」
「あんたらしくないじゃん」
「ほっといてよ。疲れが溜まってるだけ」
「俺は逆に清々したがな。
腐った憲兵を正すためには、根源から直さなければならない。その根源的な王政が、今!代わるんだからな!
これからの時代に期待が持てるだろ!」
そんな私の心情を理解せず、自分の気持ちを語ったマルロ。
マルロは王政の悪事を知り、驚きよりも嬉しさが勝っていた。
まあ…マルロらしいね…
「あんたらしいね」
私はそう言い、最後の一口を口に入れ席を立つ。食堂を出て、任務前にブラブラ街の様子を見に行った。
憲兵団の服を着て、念の為、立体機動装置も装着しておく。
30分程歩いていたと思う。
『ザッザッ…』
自分の足音……いや…違う。
3分。5分。やはり、付けられている。
街道を通っており、殆どの住民がシーナの方へ行っているとはいえ、ちらほらと住民はいる。
路地裏へ行けば、必ず襲ってくる。
もし、ここで戦闘になり巨人となれば、 今までの計画が全て無駄となる。だから、当然ここで戦闘は出来ない。
そして付けられている理由は、手紙の件だと理解した。
…あの黒い長身の男も付けている…?
そんな気がしてならない。
一度憲兵の宿に戻るべき…?
いや…駄目。それでは、周りを巻き込むかもしれない。
不安な気持ちが押し寄せてくるのを抑え、何をするべきかを考える。
本来なら、キヨンとは昨日落ち合う筈だった。
だけど、ローゼが破壊されたかもしれないとの情報で、調査兵団はそちらに向かわなければならなくなった。
でも、ここで重要なのは、キヨンは既にこの壁の中には帰ってきていること。
今日このシーナの街に戻ってくるだろうか?
自分で助けを求めるべき…?
ローゼ南方に行ければ良いけたら良いけど、平原の距離がありすぎる。途中で馬を撃たれたら立体機動で移動できる建物や木がない。
もう少し近い場所…
そして、キヨンなら見つけてくれる場所。
焦り、思考が不安定となった脳を懸命に働かせ、思い出す。
あの場所しかない。
路地を曲がると同時に立体機動で逃げる。
馬小屋に移動し、馬を走らせ逃げる。
後ろからはやはり、付いてきてる。
三人。やはり、長身の男もいる。
後ろから、銃声が聞こえる。体勢を低くし、少しでも当たらないようにする。
目的地までが遠く感じる…
調査兵団の馬じゃないため、1時間以上はかかる。
それでも馬を走らせる。
全速力で草原を駆け抜ける。
やがて、馬は疲弊し速度が落ちる。それは相手もだけど、銃弾が当てやすくなってしまった。
『パァン!』
馬に命中し、馬がそのままの勢いで倒れていく。
私も馬から放り出され、地面を転げ回る。
でもこんなの、慣れっこだ。すぐに立て直し走る。
運良く倒れた馬が障害物となり相手の馬も巻き込んでくれた。
走って走って走って走って、ようやく森に入った。
直ぐに立体機動に切り替えて逃げる。
相手も同じように走って追いかけてくる。私が立体機動に切り替えたことで、逃がすまいと銃を発砲してきた。
『パァン!』
元々殺すつもりは無かったのだろう。急所には当たらなかったものの、腕をかすり血が流れる。
「最悪…」
でも、私では巨人化してもあの男には勝てないと分かっている。だから、怪我なんて関係ない…キヨンが来てくれるのを信じて逃げ続ける。
▽▽▽
朝食を取ってから、エルヴィン団長達の帰りを待つために馬に乗って散開する。
上空に上がった緑の煙弾を確認し、その場に集まる。
その場に移動してから暫くすると、エルヴィン団長達が馬を駈歩でこちらに向かってきていた。
オレ達も駈歩で馬を走らせ合流する。
オレだけはエルヴィン団長に報告があるため先頭に居続けた。
「今回もご苦労だった。どうだった?」
「何処かの村の人間を巨人に変えた主犯と戦闘になりました。
行動不能まで追い込みましたが、別の知性巨人に奪われ逃げられました。」
「そうか」
特に驚いた表情を見せない。アルミンに聞いたからだろうが、もう壁が破壊された訳では無いことは理解しているようだ。
「ミケ分隊長は間に合いませんでした。」
「そうか」
オレの報告を淡白に返す。
長い付き合いの人が死んだが、悲しそうな表情は一切見せない。
「報告は以上です」
「分かった。巨人に変えられた村は、ラガコ村の可能性が高い。
そこには身動きの取れない巨人が居た。」
「そうですか。オレはこれで。」
「ああ」
オレは後ろに下がる。
コニーを見かけたが、顔が真っ青で覇気が感じられない。
オレは持ち場に行かず、ヒストリアの所へ移動する。
「ヒストリア」
「キヨン!良かったぁ〜無事だったんだね!」
「ああ。コニーはどうだ?」
「コニーは…その、自分の家に巨人が寝そべっていて…それが…お母さんに見えるんだって……」
まさか、さっき聞いた巨人がコニーの親だったとはな。
「そうか。それがコニーの親だろうな」
「やっぱり、そうだよね…」
「ヒストリア、頼みがある。」
「ん?なに?」
「ユミルとサシャと共にコニーと一緒に居てあげてくれ。
昨日、獣の巨人と戦った。そいつが、ラガコ村の住民を巨人に変えたのだろう。
それが、コニーに知られれば、1人で獣の巨人を殺しに行くかもしれない」
「うん…分かった。要は見張りと慰め役ってことね」
「そうだ。頼んだぞ」
オレはそうヒストリアに伝えて持ち場に戻る。
暫く走り続け、エルミハ区の門に到着した。このまま、王都に向うのだろう。
エルミハ区はシーナに繋がるシガンシナ区やトロスト区のような出っ張った所だ。普段のエルミハ区は、活気が溢れていて賑わっている所だと聞いていたが、人の気配が全く無い。
調査兵団は3列でエルミハ区の中を駆け抜ける。
すると、シーナに繋がる門付近で人が密集していた。
住民はシーナへ入っていく人でごった返している。
住民の手には木の棒や包丁、中には銃を所持している者までいる。
やがて、住民は調査兵団の馬の足音に気付き、後ろを見る。
「調査兵団が帰ってきたぞおおー!」
一人の住民の叫び声で、一斉に後ろを向く。
「エルヴィン団長!ウォール・マリア奪還の進捗はどうですか!?」
「エルヴィン団長!!王政がずっと壁の秘密を隠していたんですよ!」
「私の息子は…あいつら、王政に殺されたも同然です!」
「エルヴィン団長!我々も協力します!!共に王政を打倒しましょう!!」
住民は口々に、エルヴィン団長に向けて言う。
協力してもらえる。そう思っているのだろう。
エルヴィン団長が手を前に出し、住民を静かにさせる。そして、片腕を空へ突き上げ声を高らかに言う。
「ウォール・マリア奪還は目前!
巨大樹の森に拠点を作ることに成功した!
人類はまた一歩前進した!」
「「「うぉおおおおお!!!」」」
エルヴィン団長から朗報を聞き、住民の歓声が更に騒がしくなった。
その住民による歓声はドミノ倒しのように連鎖していく。
恐らく、王都の前で突撃の準備をしている住民達にも聞こえただろう。
「すまない。通してくれるかね」
住民を掻き分けて前に出たのは、ピクシス司令と総統だった。
「エルヴィン。帰って来るのを待っておった。
わしらは王政を打倒する。
協力してくれんかの?」
ピクシス司令がエルヴィン団長に協力を願い出た。
エルヴィン団長とピクシス司令が話し合う中、リヴァイ兵長がオレのところまで歩いてきた。
「おい、多数の死者は出ないんじゃ無かったのか?衝突になるぞ」
「オレは住民の死人が出ないと言っただけですよ」
そう。駐屯兵団、調査兵団、総統が引き連れる兵士、そして憲兵団。これだけの兵団が動けば、王家と中央憲兵だけでは止められない。
つまり、住民はもう不要だ。住民はよくやってくれた。住民が行動を起こしたおかげだ。
このままでは、住民は突撃し死者が多数続出する。
それを防ぐ為には、ピクシス司令は動かなければならない。
この人が動けば、総統も動く。
この2人が動くなら、調査兵団も動かざるを得ない。
そして、それは憲兵団も同じことだ。
「ちっ…」
リヴァイ兵長は舌打ちをして、前に戻って行った。
もう、ここでオレの役目は無いだろう。だが、やるべき事はまだある。
アニを早く回収しないとな。
何か嫌な予感がする。
当初の計画より、巨大樹の森から早く帰還したが、色々あって予定より少し遅くなってしまった。
もし、中央憲兵に手紙の件がバレてしまったなら、捕らえようと動くかもしれない。
巨人になれば勝てる可能性はあるが、そんな事を街中ですれば、今回の事件が白紙になり、最悪の場合、調査兵団が痛手を負う。
だから、追手が迫ってきているのならアニは逃げるだろう。
オレは辺りを見渡し、何か手掛かりとなるものを探す。
壁の上に、憲兵団が立っているのが見えた。
あれは…新兵か…?
顔つきからオレと同じ歳くらいだと分かった。
今、立体機動で移動するのは規則違反だが、仕方ない。
オレは馬を離れ、壁にアンカーを刺し上へ登って行く。
壁の上には2人の憲兵団が居た。驚きながらも、こちらに近づいて来る。
「104騎調査兵団のキヨン・ジェイルーンだ。
アニ・レオンハートを知らないか?」
そう聞くと、2人は顔を見合わせ女の方が教えてくれた。
「あんた、南方訓練兵?
アニは知ってるけど、どうしたの?」
「今、何処にいるか分かるか?」
「それが、今朝までは一緒に居たんだけど…急に居なくなっちゃったんだよね…
全く…何処で何してるんだか…」
「ああ…でもアニが任務を放棄するなんて考えられないんだよな。
無事だと良いんだが…」
女子に続き、おかっぱ頭の男がそう言った。
やはり…嫌な予感がする。
これは、経験則から来るものだ。
危険だ。何かある。それを直感で捉えた。
これで、何もなければないでそれで良い。
だが、何かあった時はもう遅い。
「ありがとう。助かった」
オレは壁を飛び降り、立体機動で地面に着く瞬間だけ、ガスを噴射しオレの馬まで移動する。
「おい、キヨン。何かあっ…おい!」
オレは馬に乗って走らせる。
誰かが、オレに声を掛けてきたが、聞いている暇はない。
エルミハ区をでて、南西へ向う。
あの場所しかない。
アニなら、オレに見つけてもらえるようにあの場所に向うだろう。
そして、そこでならもし巨人化しても、人が離れている今なら大丈夫だ。
襲歩で走らせる。馬には負担をかけるが、仕方ない。
1時間もかからず到着した。
ここは、訓練兵養成所。
馬から離れ、立体機動で湖の付近まで来た。
近くで、立体機動の音が聞こえる。
「お父さんから逃げるタァどう言うことだぁ?」
男の声も聞こえる。
お父さん??よく判らないが取り敢えず立体機動で移動し、跡をつける。
アニは少し怪我をしてるな。追い詰められているように見える。
追いかける側は、三人だった。
先頭の男は、明らかに異質だ。この感じ、リヴァイ兵長と同じだ。ナイフを持っており、先程からアニに対して良くわからないことを発している。
後ろの2人は銃を構えている。
木を蹴ると同時にガスを噴射。
トップスピードで、後ろの2人の首を両断する。
そのまま、男の首を斬ろうとしたが、ナイフで止められた。一度男から離れて木の上に立つ。
「あぁ?何だぁ?てめぇは」
男は少し顔を顰めたが、すぐに戻して聞く。
大方、気配に気付け無かったことに疑問を抱いているのだろう。
「こんなところで、少女が極悪非道の中央憲兵に追いかけ回されていたんだ。助けて当然だろう」
アニとは関わりのない人のように振る舞う。
「俺達が中央憲兵に見えたか?この盗賊みてぇな服を着てるのによお?」
「当然だろう。誰かから逃げなければならない奴は、決まってそう言う服を着るからな」
「はっははは!確かにそうだなぁ!」
そう言って、こちらに立体機動で一気に詰めてくるが…
「やめといた方が良いと思うぞ?」
オレは全力で威圧する。
「っ…はっ…!?まさか、この狭え壁の中にお前見たいなのが居るとはな…
聞くがお前…アッカーマンか?」
男は近くの木に止まり、そう聞いてくる。
アッカーマン…?ミカサの姓がそうだ。
「いや、違う」
「なんだ、違えのか!
俺はてっきり、あのチビに息子でも出来たのかと思ったんだがな…
あいつも、もう30は超えているだろうしな」
リヴァイ兵長のことか?
「アッカーマンってのは何だ?」
「それをアッカーマン家じゃねえやつに教えるこたぁねえだろ?なぁ!!」
そう言って、今度こそオレに向かってくる。
オレの刃と男のナイフが衝突する。
男は隠していたナイフを左手で出しオレに突刺そうと腕を伸ばす。オレもそれは読んでいたため、男の左腕の肘裏を押さえ、右手で男の左手の甲を押す。
伸ばされた腕が、そのまま相手の顔を目掛けて返っていく。
「うぉっ!?あぶねぇ」
男は避けながら、回し蹴りをしてくる。
「あぶねっ」
今度はオレがそれを避ける。
そして、相手の胸辺りに腕から手の先までをピンと伸ばし、脱力した身体を硬化させるように手を拳に変え、男の胸を押す。
『ドンッ』
と言う音ともに少し吹っ飛ぶ。
ちっ…心臓はそれたか。
だが、ここまではただの探り合い。
「ゲホッ…ゲホゲホ…何だ…その武術は?知らねぇ武術だな…」
当然、それを答えたりしない。
殺す相手に情報を与える必要はない。
ここからは本気だ。
オレも男も立体機動でこの森を飛び回る。
何度も刃とナイフが衝突する。
「あぶねっ」
男のナイフが飛んできた。それを躱し、向き直ると突っ込んでくる。それも躱し一度距離を取る。
だが、男の追撃は終わらなかった。
ナイフや石が次々に飛んでくる。それもかなりの速さで。
それを避けつつ、余裕が出来ればターンし男に向き直る。
ゼロからMAXへ。
刃を受け止められるも、再び木を蹴りトップスピードで空中を移動する。
だが、相手は相当な手練れだった。
オレのトップスピードに付いてくる。
もし、アニが巨人化しても勝てるか分からないだろう。
エレンなら硬質化出来ない以上勝てないな。
「ヒャッホー!!まだまだこれからだろ!?」
そんな陽気な声で迫ってきた。
こいつを倒すには、これだけでは駄目らしい。
立体機動で空中を駆けたり、時に木の上や地上で四方山な武術で攻めても、どれも決定打とはならい。
こいつを倒すには、技術、知略、身体能力、全てを出さなければ勝てない。
面白い。
空中を移動していたが、ガスを逆噴射し、一時的に空中に留まる。
その一瞬で男は一気に詰めてくる。
だが、目の前の木を蹴ってトップスピードでこの場を離れる。
そして、今度は男の元にトップスピードで詰める。だが、また空中で留まる。それに合わせてナイフを投げてきた。
もう一度、近くにある木を蹴って移動しナイフを躱す。
トップスピードで移動し、一瞬何処かで留まる。
それを繰り返す。
やっていることは単純。
速度の緩急。
だが、この緩急が相手からすると、意外にタイミングを合わすことが難しい。
だが、人は適応力が高い。
そして、強い奴は皆、適応力が異常に高い。
それは、戦闘時に発揮される。
だから、今回もこの緩急に直ぐ慣れるのだろう。
慣れなければ、死ぬ。適応しようと神経を尖らせる。
そう。それは本能だ。極限の中で適応力は本領を発揮する。
適応することへ、全神経を全て使う。
なら。それを利用すれば良いだけだ。
オレが止まる瞬間を狙って男は突っ込んで、ナイフを突き刺すように腕をのばす。
そこで、止まる筈のオレはそのまま通り抜ける。
男は少し、驚きオレを目で追った。ほんの一瞬に過ぎない。だが…それで十分だ。
男はすぐに目線を戻す。
オレが止まるはずだった場所を。
「っ…!?」
そこに置いてきたのはナイフだ。
男が散々投げていたナイフを逃げ回るときに回収していた。
そのナイフを空中に置くように捨てた。
当たっても、少しかすり傷が出来るだけだろう。
だが、この戦闘中にナイフがいきなり目の前に来れば、誰だって驚く。
男は躱そうと身を捩る。
今だ。
男を串刺しにするために、木を蹴り、トップスピードへ。
だが、態勢を崩しながらもナイフをこちらに向けて突く。
「あぁ!?」
オレは空中で少し止まり、刃を投げた。
その刃を弾いたため、完全に態勢が後ろを向いた瞬間を狙って、男に接近する。
だが、それでもまだ警戒は解かない。
先ずは脚を斬る。
「がぁっ!?」
それでも男はナイフを振りかざしてくる。向けられたナイフを弾き腕を斬ると、男は地面に落ちて行った。
「ゴフッッ…」
「リヴァイ兵長に何か伝えておこうか?」
オレは死にかけの男に問いかける。
「ねぇよ………なぁ…俺が悪かった!勘弁してくれよぉ…俺はもうこんなんだから何も出来ねぇだろ?だから、許してくれよお」
「悪いな、感情を剥き出しにしたあんたをもっと見ていたいとは思うが、そんな時間も無いんだ」
「ごふっ」
胸辺りに刃を突き刺す。
男の命を刈り取った。その時、何か硬いものに触れた気がした。
男の胸ポケットを見ると、何やら注射器が入った箱が出てきた。
何だ?これは…
一先ず、ここにまだ敵が居ないかを確認する。見渡して気配を探りながら。
居ないな。
ふぅ…と一息つく。
オレはアニの元へ向う。
「遅くなって悪かったな」
「い、いや…大丈夫」
顔を背けて、アニは言う。手が少し震えてるな。
あんな男に追いかけ回されたんだ。無理もない。
そんなアニに、オレは静かに抱き寄せる。
「えっ…ん…っ!?」
「怪我は?」
「も、もう修復したから」
「そうか」
そう言って暫く抱き寄せていた。
アニの震えが無くなったのを感じ取り、離れる。
若干頬を赤らめたアニに話しかける。
「 この男をミカサかリヴァイ兵長に確認したい。今日はもう、ここを離れよう」
「うん…分かった」
「アニ、これは何か知ってるか?」
先程見つけた箱をアニに見せると、目を見開き、驚愕していた。
「こ、これ…巨人になる…薬」
なるほど。これがそうなのか。
「そうか。教えてくれてありがとう」
固まっていたアニの背中をポンと叩き、馬の方へ向う。やはり…四肢を切断しても死体ってのは重いな。
「そう言えば、アニの馬は?」
「馬を撃たれちゃって…」
「そうか。なら…………オレの馬で帰るしかないか」
「う…うん」
そんな訳で、オレの馬にアニ、オレ、ケニーの順で乗る。
また、馬には負担を掛けてしまうな。
常歩で移動するため、偶にオレかアニが歩いて少しでも馬の負担を減らす。
途中何度も休憩をいれながら歩く。
着くのは、朝になるだろう。仕方ないか…
「アニ。前に聞いたジークと言う男がこの島に来ている。」
「えっ…!?」
驚嘆の声を漏らし、振り向く。
やはり、アニも知らなかったか。
「獣の巨人を戦闘不能に追い込んだが、車力の巨人によって奪われてしまった。
戦槌の巨人は来ていると思うか?」
「え…倒したの?ジーク隊長を?」
「ああ…この男の方が手強かった」
「そう…あ、ピークさんも来ていたんだ。
戦槌の巨人は来ていないと思う。マーレの物じゃないし、前線に出たことはないから」
「そうか」
「まだ…戦わないといけないんだね…」
アニは自分の得意の武術を使っているときは楽しそうなんだがな。
格闘技が好きでも殺し合いは嫌いということだろう。
「戦争がそんな直ぐに終わったら、今頃全世界は戦争のない平和な暮らしをしているだろう。
辛いのは分かる。
だが、やらなければ戦争を終えることは出来ない」
それはアニも分かっているのだろう。
だが、分かっていても少しずつ不満は積もっていく。
「なあ、アニ。見に行こう。
あの湖だけじゃない。この壁の中にも、パラディ島にも綺麗な景色は数多にあるはずだ。
そして、戦争が終われば世界の色んな景色を見に行こう」
「ふっ…景色ばかり」
アニは小さく笑った。
「それも自由だろ?」
「はははっ。そうだね」
今度は普通に笑った。
そして、夜に差し掛かり、長い夜を前からは温もりを貰い、後ろからは徐々に冷たさを与えられ、移動することとなった。
朝日が昇ると同時に宿へ着いた。
皆も丁度帰ってきたようで、宿の前でばったりと出くわした。
「キヨン!!それからアニも!」
ヒストリアが駆け寄ってくる。
「もうホントに心配したんですよ。どこかへ行ってしまいますし、朝まで帰ってこないですしで」
「うん、ホントに無事で良かった……無事なの?
血が…」
ヒストリアはオレの身体に付着している血を見て心配そうな顔になった。
ヒストリアの頭に手を乗せ安心させる。
「大丈夫だ。これは返り血で怪我はしていない」
「そっかぁ良かった。アニも無事?」
「うん。大丈夫」
アニは修復したからな。
「それよりも、ミカサに聞きたいことがある」
「なに?」
「この男を知っているか?」
オレは胴体と頭、首だけの男を見せる。
ミカサは特に嫌な顔せずに答えた。
「知らない」
「そうか、分かった」
「おい…ケニーじゃねえか」
ここで、リヴァイ兵長が割って入ってきた。
「知っている人ですか?」
「ああ。こいつは 憲兵 を100人以上殺した切り裂きケニーだ。」
「ですが、こいつは中央憲兵にいましたが…」
「…こいつが何故、中央憲兵にいたのかは知らん。だが、よくこいつを倒したな」
「ええ。ギリギリでした。
こいつが老体でなければ負けていたかもしれません。」
「そうか。王政の方はもう殆ど終わっている。
死人もこちら側は出ていない。
あとは、本物の王家が何処にいるのか…まだ生きているのかを吐かせるだけだ」
リヴァイ兵長が簡単にそちらの状況を教えてくれた。
「そうですか」
「それまでは、俺達は休みだ」
「分かりました。
リヴァイ兵長。これを内密にエルヴィン団長に届けてくれませんか?」
「何だ…これは?」
「巨人になる薬をこの男が持っていました。一本しかないので気をつけてください」
「これが…?了解した」
そう言って、リヴァイ兵長は去っていく。
「アニ、一先ず宿へ入ろう。
疲れただろ。少し寝よう。」
「うん、分かった」
皆を連れ宿に入り少しだけアニの事で付き合った後、食事も取らぬまま寝床に向かった。
身体を清めた後、布団に入り目を閉じる。
ふぅ…疲れたな。
2日間寝ていないからな…
この壁の中の件は殆ど終わったが、まだ重要な事が残っている。
本物の王家。始祖の巨人の行方。
それが終われば、ライナー達のことだ。
それで、ようやく一段落が着く。
そのまま眠りについた。
だから知らなかった。
食堂では、今、正に戦争が起きていたことに。
オレは起きてからそれを知ることになる。
中央憲兵団がいつから新型立体機動を使用していたのか、分からなかったので今回は旧型にしました。