進撃する綾小路   作:もと将軍

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大変長らくお待たせしました。

この1話書くだけで、一ヶ月以上も掛かりました。 
何故か執筆が進まなかったんですよね…
これは多分……イップスってやつか!?(烏滸がましい!!)

一ヶ月以上も掛かって書いた作品になりますが、内容は薄いです。原作からあまり変化させられませんでした。
すいません…
次回からは大丈夫なはずです。

話し変わりまして…
最近…伊吹可愛いですよね。
 


ヒストリア・レイス

 

「やあ、待っていたよ。久しぶりだね。キヨン」

 

 三日間の牢屋生活を終え、外に出ると意外な人物が待ち構えていた。

 ザックレー総統。

 全兵士を纏める人物。王家が失墜した今、最も地位が高い人物だろう。

 

「ああ、はい。お久しぶりです」

 

 総統と最後に会ったのは、審議所だったか。

 まだ最近なのに、随分と前に感じるな。

 

「いや、なに。私はただお礼を言いに来たのだよ」

 

「お礼ですか?」

 

「ああ。君が王家の悪事を民衆にばらしてくれたのだってね?」

 

「……まあ、そうですね。ですが…それでお礼を言いに来ることですか?」

 

「ああ、当然だろう」

 

「分かりませんね。王家の悪事がばれた今、この壁の中の秩序は無いに等しいでしょう。民衆が喚いたとはいえ、何故王家につかなかったのですか?」

 

 壁の秩序を守ることを考えるのであれば、王家を見捨てるのは愚策だ。

 とはいえ、総統が王家についていたとしても、時すでに遅かった。

 あれだけ民衆が喚いていては、抑えたとしても、秩序を維持するのは不可能だったはずだ。

 だが、もし『始祖の巨人』の存在を総統が把握していたなら、話は変わってくる。

 王家につき、反乱を鎮静させた後、記憶を改竄させ壁内の秩序を維持することも可能であっただろう。

 この人にはそれだけの兵士を動かせる力がある。

 そして、この人は自分の立場も更に上へ就けただろう。

 

「なぜ、私が王に銃を向けたのか?」

 

 総統は一呼吸置き、本心を話す準備をする。

 

「……それは、昔っから王政が気に食わなかったからだ」

 

「え…」

 

 まさかの私情かよ。まぁ…それが人の原動力であることは否定しない。

 オレもそうだからな。

 

「むかつくのだよ。偉そうな奴と偉くないのに偉い奴が…いや…もう寧ろ好きだな」

 

 ご自慢のひげを撫でながら、若干笑みを見せながら話す。いや、若干ではないな…

 この世のすべての快楽を表した顔をしている。

 相当、嬉しいのだろう。

 

「思えばずっとこの日を夢見ていたのだ。人生を捧げて奴らの忠実な犬に徹し、この地位に登りつめた。

 クーデターの準備こそが障害の趣味だと言えるだろう。

 君にも見せたかったよ。奴らのほえ面を!

 あれは期待以上だった」

 

 気分が高揚したのか、声が大きくなっていく。

 それに自分も気付いたのか、一度深呼吸をし、腕を組み冷静になる。

 

「つまり、誰かがクーデターをしなくとも、私がくたばる前にいっちょかましてやるつもりだったのだ。

 私は、この革命が人類にとって、良いか悪いかなどには興味が無い。私も大した悪党だろう?」

 

「そうかもしれませんね。しかし、オレは自分が悪党になったつもりはありませんよ」

 

「ふははは。

 そうだったな。君は人類の為に行動したまでだったな!」

 

「はい。これからも人類の為にオレは進み続けます」

 

「ふはは。それでは私は、奴らを恥辱にまみれた姿に出来るように頑張りながら、君の、君たちの頑張りを見ているとしよう」

 

 そこは頑張らなくても良いと思ったが、それがこの人の趣味ならオレは何も言うことは無い。

 オレと総統はそこで別れ、それぞれの道に進んだ。

 

 

 

 調査兵団の拠点に向かうと、ハンジさん達が待機していた。

 同期も一緒にいるな。

 ヒストリアは小さくオレに手を振る。

 

「おっ!来たね!牢屋生活は楽しかったかい?」

 

「楽しくはありませんでしたよ」

 

「そうか、それは残念だ。

早速だが、今すぐにここを出発したい」

 

「それは、どこへ?」

 

「レイス家さ。一通り説明するよ」

 

「はい。お願いします」

 

 オレとハンジさんは馬車に乗り、説明を受けながらレイス家に向かう。

 ハンジさんは紙を皆に見せながら話す。

 

「これはレイス卿領地の調査報告書。その中身は、5年前にレイス家を襲ったある事件の詳細が大半を占めていた。

 これはヒストリアも知らないことだ。レイス家にはね。5人もの子宝に恵まれていた。ヒストリアは隠し子だね。

 まあそれはさておき、長女のフリーダは飾らない性格で誰からも好かれ、よく農地に赴いては、領地の労をねぎらっていた。だから、領民は皆、彼女に好感を持っていた」

 

 これはオレも知らないことだ。

 なら何故、その人たちが王家にならないのか…

 

「しかし、マリアが破壊された日の夜、悲劇は起きた。世間の混乱に乗じた盗賊の襲撃によって、村にある唯一の礼拝堂が襲撃を受け、焼かれた挙句全壊したのだと。

 いつの間に忍び寄られていたのか、村の誰も気付かなかった。

 そしてその夜、礼拝堂では悪いことに、ウォール・マリアの賛辞を受けたレイス家が一家全員で祈りを捧げていた。

 一家の主であるロッド・レイスを除く一族全員が盗賊に惨殺されてしまった」

 

 全てが繋がっていく。

 マリアが破壊される前、おじさんが何処へ行っていたのか。

 訓練兵時代、ヒストリアを嗅ぎまわっていた理由。

 アニやライナー達が王家を探していた件。

 そして、レイス家が本物の王家。

 

 始祖の巨人はやはり…

 

「私が気になったのは、礼拝堂が全壊したところにある。

 礼拝堂は石造りの頑丈なものだった。たまたま盗賊が攻城兵器を持ち合わせていたとしてだ…何故建物なんか破壊する?

 本当に盗賊の仕業で、あれば取るもん取ってさっさと逃げるべきだ。

 そして、その盗賊を見たのは、ロッド・レイスただ一人。

 彼は自らの資産で礼拝堂を立て直したんだって…何故だろう?」

 

「巨人に関することがあるという事か」

 

 リヴァイ兵長が言った。

 

「ああ。それ以外に考えられない...」

 

「その盗賊の正体なら、ある程度の確信を得ました」

 

「「「「え?誰?」」」」

 

「オレとミカサのおじさんであり、エレンの父親です」

 

「はあ⁉親父が⁉なんで!」

 

 エレンがオレに突っかかってくるがオレは無視し、話を続ける。

 

「おじさんは巨人だった。そして、その巨人はエレンに引き継がれた。

そう仮定して聞いてください」

 

「と言うか、それは最早確定的何だろう?」

 

「はい。もう一度それを頭に入れておいて欲しいだけです」

 

「そうか」

 

「まず、レイス家が本物の王家でした。アニ、これで分かるだろう」

 

「……始祖の巨人…?」

 

「そうだ。ライナー達が必死こいて探していた始祖の巨人はレイス家が保有していた。

始祖の巨人はもう知っていると思いますが、全ての巨人を操る。言わば、巨人の王です。

そんな、巨人を保有するレイス家がマリアを破壊されたとき、出てこなかったのは『不戦の契り』があるからみたいですが、そもそも既にレイス家が所有していなかった可能性もあるでしょう」

 

「……確かに…その強盗に襲われたときに、食われていたのかもしれない」

 

「はい。マリアが破壊されたときに出てこなかった理由は、もう今となっては分かりませんが、そう考えれば辻褄は合います」

 

 ついでにオレはもう一つの情報を提供しておく。

 

「それと、獣の巨人と戦闘になり、戦闘不能にまで追い込んだ時、奴はグリシャと呻いていました」

 

「獣が⁉え…グリシャ!?た、偶々じゃないのか?」

 

「いや、名前と獣との関係を聞いた」

 

「そ、そしたら…?」

 

「イェーガーで、獣との関係は父だった」

 

「は、はあ⁉どういうことだよ」

 

「おじさんは外から来た。腹違いの兄なんじゃないか?」

 

「獣が…?」

 

「キヨンが前に言ってたことはこれ?」

 

 ミカサがそう聞いてくる。

 

「ああ。だが今はそれはいい。重要なのは、おじさんが外から来た目的は何だったのかだ。

記憶を無くしていたと、キース教官から聞いたが、おじさんの行動から何か目的があって行動しているのは確かだ」

 

「なるほど…そして、エレンの父がエレンに託したことに意味があるのか…」

 

「はい。おじさんは明らかに巨人に関して詳しい。オレ達の…アニですら知らないことを知っている。何の目的もなく、人を殺すわけが無いし、大人しくエレンに食われたわけではない。」

 

「ああ…その通りだよ」

 

「うん…おじさんが目的なく人を殺したりしない…」

 

 アルミンとミカサが頷く。

 

「始祖の巨人を所持しているレイス家が、ただの盗賊に殺されたというのも納得がいかない。

 しかし、同じ巨人なら可能性はある。能力を使う前に食べてしまったとか…それは分からないが。とにかく、おじさんが始祖を食べ、エレンに託したと考える方が、まだ納得はできる」

 

「つまり、レイス家からエレンの父へ、エレンの父からエレンへと『始祖の巨人』は渡ったと言うことか…」

 

 エルヴィン団長が確認のため簡潔に纏める。そして、こう続ける。

 

「しかしだ…エレンの父が何故、レイス家が所持していると知っていたのか、そして、その日も偶然ではないだろうな……それを知るためには」

 

 その通りだ。

 まだ謎は多い。

 なぜ、おじさんはその協会に始祖がいることを知っていたのか。

 なぜ、ロッド・レイスを除いたのか。

 

 いや…ロッド・レイスが生き残っているから、今、オレ達は壁内の巨人の謎に迫れたのかもしれない。

 もし、そうなら、始祖が記憶を操れたようにエレンの能力は未来を見ているのかもしれない。

 今のところ、エレンは全く見れていないが…

 だが、未来が見えているとすると、色々と辻褄は合う。

 まず、オレはこの世界では異物だ。おじさんとの初対面の時に訝し気な目で見られたことも、未来にオレという存在が見えていなかったから、かもしれない。

 おじさんが「いずれ分かる日が来る」と意味深なことを言っていたこと。

 教会の場所を知っていたこと。

 ロッド・レイスを除いたこと。

 

 だが、まだ確定は出来ないな。

 

「はい。結局行くしかありません」

 

「そうだな…地下室に行かなくてはな…」

 

 そう、結局はウォール・マリアには行かなくてはならない。だが、ロッド・レイスが何かしらの情報を持っていれば、その限りではなくなる。

 

「まあ地下室…ウォール・マリアの方は後で考えよう」

 

 ハンジさんが言った。

 

「それよりも、引き籠もっているロッド・レイスさ」

 

 そう…今は眼の前のことが重要だ。

 

「調査によれば、協会は地下があるらしい。

 そこはなんでも大空洞になっているようだ」

 

「まだ中央憲兵が残ってるってことか…」

 

「そうだろうね…帰ってきたのは一人だけだから」

 

「中に入るのは、リヴァイとキヨン達に任せる。

 私は外で逃げ出さないように見張っておこう」

 

 エルヴィン団長が言った。

 

「エレンとヒストリアもか…?いいのか、エルヴィン?」

 

「ああ、ヒストリアのことを狙っている父親なら、エレンもヒストリアも殺しはしない。必ず、交渉にくる」

 

 リヴァイ兵長の問に答える。

 

「ああ、どうする。推測ではあるけど、エレンをヒストリアに食べさせることだったよね?」

 

 今度はハンジさんが問う。

 

「はい」オレが応える。

 

「それは、勿論拒否する」

 

「はい。ですが、情報が欲しいのですぐに殺してしまうは良くないですね」

 

「わ…私が…その交渉に乗る振りをします」

 

「ヒストリアが…!?おまえ…父ちゃんに見放されてきたんだろ?会いたくねえんじゃ…「コニー。私は大丈夫。いつまでも守られてばかりは駄目だから」」

 

 コニーの言葉を遮り、ヒストリアは力強く言った。

 ヒストリアが自ら囮になると言った。

 確かに父親からすれば、最後の跡取りだ。

 ヒストリアが死ぬことはないだろう。

 だが、エレンがヒストリアに無理矢理、食わされる場合もある。そして、始祖を奪われ、付箋の契りを発動する最悪の可能性もある。しかし…ここで守っていては進めないのも事実。余計なことをすれば、他の誰かが死ぬ可能性だってある。

 なら、ヒストリアに頼むべきか。まあ…最もヒストリアが無理矢理、巨人にさせられる可能性は先ずあり得ない。

 

「ヒストリア。父に無理やり巨人にさせられるかもしれないが、分かってるのか…?」

 

「…わ、わかってるよ…、でもこれが一番手っ取り早くて安全だよ」

 

「そうか…」

 

 確かに、情報を引き出すにはもっとも、効果的だろう。

 団長も頷き、ヒストリアの意見を採用することになった。

 

「なら、こうしよう。

 エレン、ヒストリア、アニ、ユミルの4人で正面から向かう。

 敵は恐らく、麻酔銃を使用する。

 もし、銃だとしてもエレンやヒストリアには当てない。ユミルかアニになるだろう。悪いが2人には囮になってもらうが…」

 

「「構いません」」

 

「麻酔銃で眠らされるのは、エレン、ヒストリア。アニかユミルはどちらかが囮になり、2人は協会から逃げ出す。

 裏からはリヴァイ達に侵入してもらう」

 

 エルヴィン団長から指示を貰った。

 

「エレン、お前が一番近くにいるからな。落ち着いて行動しろ」

 

「ああ。分かってる」

 

 オレ達は教会の前に着いた。オレとリヴァイ兵長、ミカサを含めた10人は裏に回り、エレン、ユミル、ヒストリア、アニの四人は正面から入っていく。

 他の調査兵団は、この町をグルっと囲むように待機している。

 

「上手くいく?」

 

「さあな」

 

「らしくないな、キヨポン。いつもの自信はどこいったんだ?」

 

「相手は記憶を操ってくる。何が起こるのか推測することは難しい。」

 

 オレは話を続ける。

 

「今回の目的は、始祖の巨人について情報を引き出すことと、壁の中の敵対組織を完全に潰すことです」

 

「情報を吐かなければどうするつもりだ」

 

 リヴァイ兵長にそう問われる。

 

「場合によります。記憶で情報を見れるかもしれません。その時は殺してしまっても問題はありません」

 

「情報を…?記憶で?」

 

「始祖は記憶を操れるのなら、記憶を伝達することも可能かもしれません。どういう状況に陥るのかは分かりません。臨機応変に行きましょう」

 

「分かった。エルヴィンからの指示だ。」

 

 リヴァイ兵長は皆に向けてエルヴィン団長の言伝を言う。

 

「ここで死ぬ必要はない。

 まだ獣も残っているからな…死にそうになったら殺せ。

 そして、全員生きて帰って来いとのことだ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 サシャに斥候を任し、中の状況を探らせる。

 中は、アニの硬質化のようなもので出来ており、硬質化の柱が何本も建っているとのことだった。

 その柱に、数十人の敵が立っている。

 

「入り口は一つしかないのか…」

 

「煙を使おう」

 

 アルミンがそう提案する。

 

「火薬入りの樽を転がし、サシャが火矢で樽を打った瞬間にリヴァイ兵長とキヨン、ミカサが先に突入する。

 その後に僕たちも入って行こう。僕とサシャで信煙弾で煙を作る」

 

「分かった」

 

 アルミンの作戦で進めることになった。

 リヴァイ兵長が扉を蹴り破り、アルミンが樽を投げ入れる。サシャの火矢で樽を打ち、爆発させ煙を出させる。

 オレとミカサ、リヴァイ兵長で敵の中に飛び込む。

 

「敵数35!!手前の天井あたりに固まっている!!作戦続行!!」

 

 リヴァイ兵長が声を張り上げる。

 …っと、なんだこの銃は…一度、距離を取り銃を分析する。

 周りを見渡す。

 リヴァイ兵長はなんなく倒しているな…なるほど、後ろに回れば相手は何も出来ないのか。そして、二発撃てばこちらのものだ。

 

 オレは後ろに回りながら、敵を一人二人と殺していく。

 幸い、あのケニーのようなやつが居なくて良かったな。

 あいつがこの武器を持つと厄介極まりないだろう。

 

 順調に敵を葬っていく。だが、人を殺すのをジャンが一瞬躊躇ったのが見えた。

 

『パァン!!』

 

「キヨン⁉お前っ」

 

 ジャンを手で押す。オレの肩を銃弾が翳めた。体勢を崩したジャンを掴みアルミン達の元へ投げる。

 この程度なら、問題ない。

 

「ジャン…お前死にたいのか?」

 

「わ、悪い」

 

 だが、ジャンだけじゃなく、皆、人を殺すのは初めてだろう。

 これが普通なんだろうな。

 

「キヨン!大丈夫なの…?」

 

「この程度で、何を慌ててるんだ。集中しろ」

 

 心配して来たミカサを咎める。

 

「っ…ごめん…」

 

「え⁉二発共大ハズレだが⁉」

 

 ハンジさんがはしゃぎながら敵に向かっていく。

 

「ミカサ。ハンジさんが危ない。お前が護れ」

 

「っ…」

 

 ミカサは瞬時に察したのか、ハンジさんよりも早く敵に辿り着き首を斬った。

 新しい武器には驚いたが、案外あっさり終わった。

 オレ達はここを去り、中へ進む。

 

「っ…エレッ…」

 

 飛び出しそうになったミカサをオレが抑える。

 すぐにミカサは落ち着き「ごめん」と謝る。

 エレンは手をぐるぐる巻きにされ、上半身裸で拘束されていた。

 ヒストリアは気絶しているようで、男の近くで横になっている。

 あの男がヒストリの父親、ロッド・レイスか。

 

「待たせたな」

 

 後ろから、ユミルが現れた。

 

「ユミル…どうだった?」

 

「計画通りだ。 

 アニが私を庇って麻酔針を喰らってな。

 私がアニを担いで逃げて、団長のとこに預けて来た。

 ヒストリアとエレンは…見たまんまだ」

 

 アニは二本の麻酔針により、復帰に時間がかかるようだ。

 

「そうか」

 

「キヨン…大丈夫なんだろな…?ヒストリアに何かあるのは…ごめんだぜ?」

 

「それは分からない」

 

 オレは正直に言った。

 

「おい…それは「だが…ヒストリアも、もう前とは違う」…そうだな」

 

 ユミルも納得したようで黙る。

 

「うっ…」

 

 暫くして、ヒストリアが目を覚まし、ムクッと起き上がる。

 ロッド・レイスも気付いたようで、近付いて行きヒストリアを抱きしめる。

 突然の出来事にヒストリアは、驚きを隠せていない。

 

「今までのことを許してくれ…お前を守るために、ああするしか無かったんだ。いつだってお前のことを思っていた。こうやって抱きしめることをずっと夢見ていたんだ」

 

 男はそう言い、涙を流していた。

 ヒストリアからも涙が零れていた。

 

「よく言うぜ…聞いてるだけで腹立って来やがった…私がいっちょ…」

 

「おい、ブス!寄せ…」

 

「どけ…ヒストリアも、涙なんか流しやがって…騙されてるんじゃないのか…?」

 

「おいおい、キヨンも何とか言ってやれよ」

 

 コニーがユミルを止め、ジャンがオレに助けを求める。

 

「親の温もりを知ったヒストリアが、感情的になるのは仕方のないことだ。ユミルが止めに行きたいなら行けばいい」

 

「おい…良いのかよ」

 

「ああ」

 

 オレが真っすぐヒストリアを見続けることで、ヒストリアを信頼していると思ったのだろう。

 

「…ったく…危なくなったら、ぜってぇ行くからな」

 

 ユミルはドサッと座り、心を落ち着かせた。

 

 エレンも目を覚まし、「ンヴーッ」と呻いた。

 あいつの迫真の演技なのか、素でやっているのかは分からないが、その必死さにロッド・レイスもこれが作戦かも知れないという考えは消えただろう。

 

「どうした?君はここに来るのは初めてだぞ。だが、見覚えがあっても不思議ではない」

 

 ロッド・レイスはヒストリアを連れ、エレンが拘束されているところまで近付いて行く。

 

「お、お父さん、何をするの?」

 

「あぁ…一つ試したいことがあるんだ。私たちが彼に触れるだけでいい。説明と言っても、彼はここで起きたことの記憶がどこかにある。こうすれば彼は思い出すかもしれない。この場所なら少しのきっかけを与えるだけでもしくは…」

 

 ロッド・レイスとヒストリアは、二人で手をエレンの背中に置く。

 オレ達には何が起こったのか分からなかった。

 だが、何かが起こったのだろう。その証拠に三人の顔が先ほどまでとまるで違う。エレン、ヒストリアは混乱し、ロッド・レイスは平常であった。そしてエレンに言う。

 

「どうだ?思い出したか?父親の罪を」

 

 なるほど、オレの推測は当たっていたようだ。

 なら、なぜおじさんはあの日、ここへ来たのか…

 オレが考えに浸る前に、ヒストリアとロッド・レイスは会話を始めた。

 

「何で…何で今まで忘れてたんだろう…あのお姉さんのことを…私に本を…読み書きを教えてくれた。

 優しくしてくれた…あの人のことを忘れるなんて…」

 

「フリーダと会っていたのか?」

 

 ロッド・レイスは驚き、問う。

 

「?…フリーダ?」

 

 ヒストリアはここに来る前、フリーダの話は聞いたはず…

 これが演技だとしたら良いのだが、もし記憶を失っていたら…不味いな。

 

「その子が長い黒髪の女性であれば…おそらく、彼女はフリーダ・レイス。お前の腹違いの姉だ。

 フリーダはお前を気にかけ時折面倒をみていたようだな。お前の記憶から自分の存在を消していたのは…おそらく、お前を守るためだ。」

 

「…え?」

 

「ここで彼に触れたことをきっかけに、お前の記憶の蓋も開いたらしい」

 

「ねえ…お父さん…フリーダお姉さんは今どこにいるの…?会ってお礼がしたい。お姉さんが居なかったら私…あの時の事、ありがとうって伝えなきゃ」

 

「フリーダはもう…この世にいない…」

 

「え…」

 

「私には五人の子供がいた…しかし、妻もフリーダを含む子供たち全員、五年前ここで彼の父親…グリシャ・イェーガーに殺されたのだ。

 グリシャは巨人の力をも持つ者だった。彼が何者かは分からないが…ここに来た目的は、レイス家が持つある力を奪うこと。

 グリシャが求めるその力とは、フリーダの中に宿る巨人の力だった。

 フリーダの巨人はすべての巨人の頂点に立つ存在…いわば、無敵の力を持つ巨人だった…だが、しかし…それを使いこなすには…まだ経験が足りなかったようだ。

 フリーダはその真価を発揮することなく、グリシャに食われ、力は奪われてしまった…

 その上、彼は…我々一家に襲いかかったレイス家を根絶やしにするためだ。

 子供たちを壁に叩きつけ、踏み潰した。奇しくもその場から生き残ったのは私だけだった」

 

 ヒストリアとロッド・レイスは、話が終わると下に降りていく。

 だが、肝心の事は分からなかったな。

 ロッド・レイスもおじさんが、何故この場を知っているのか、奪った理由は知らないのかもしれない。

 

「おじさんが…」

 

「ミカサ。考えるのは後だ」

 

「分かった…」

 

 ロッド・レイスはカバンから箱を取り出す。あの箱は…

 

「お父さん…それはっ」

 

「いいか?ヒストリア。おかしな話に聞こえるだろうが、フリーダはまだ死んでいないんだ」

 

「え?」

 

「フリーダの記憶はまだ生きている。姉さんに会いたいか?」

 

「うん…会いたい」

 

 叫ぶエレンを見て、ロッド・レイスはまた長々と話す。

 この洞窟が100年前にある巨人によって作られたこと。

 三重の壁もその巨人によってつくられたこと。

 そして、人々の記憶を改竄したこと。

 だが、いくつかの血族は除くようだ。

 100年前の人類の歴史を誰も覚えていない。だが、そのフリーダはその記憶があるようだ。

 

 記憶を受け継いでいるのか…

 

「用は、この状況だ。壁が破壊され人類の多くの命が奪われ、人同士で言い争うこの愚かな状況…それらもフリーダが巨人の力を使えば、何も問題はなかったのだ。この世の巨人を駆逐することもできたであろうな…」

 

「そんなことができるなら…なぜ今こんなことを?」

 

「それは、フリーダから奪われた巨人の力がエレンの中にあるからだ。この力はレイス王家の血を引く者でないと、真の力が発揮されない。彼がその器であり続ける限り、この地獄は続くのだ。

さあ。ヒストリア。この注射を打ちなさい」

 

 ロッド・レイスは優しく言った。

 

「ねえ…お父さん、まって、どうして…姉さんは戦わなかったの?」

 

 刃を抜きそうになったが、思い留まる。

 どうやら、ヒストリアは演技をしていたようだ。

 演技上手いな…

 ヒストリアは問う。

 

 

▽▽▽

 

 

 私は初めてお父さんに抱き着かれ、安心してしまっていた。

 だけど、すぐに我に返った。

 キヨンの温もりの方が暖かいし、お姉さんのことはショックだったけど、私には皆がいる。

 

 情報を吐かせるんだ…

 キヨンたちは何処かで聞いているだろう。

 打ちなさいと促されたけど、まだ聞かなければならないことを聞くことにした。

 

「ねえ…お父さん、まって、どうして…姉さんは戦わなかったの?」

 

 お父さんの顔が一瞬、引き攣る。

 

「お姉さんだけじゃなくてレイス家は人類が巨人に追い詰められてから100年もの間…どうして巨人の脅威を排除して、解放してあげなかったの?すべての巨人を支配する力を持っておきながら…」

 

 私は思い出した。

 昔、私が柵を超えようとしたとき、【柵の外に出るなっていったでしょ!!】姉さんが私を叱った。

 別に怒られたことがどうとかじゃない。だけど、あの時の姉さんは異常だった。人が変わったみたいに…別人で怖かった。

 何かに悩まされている。そんな感じだった…

 

「そうだ。この壁の世界を創った初代レイスの王は全類が巨人に支配される世界を望んだのだ」

 

 お父さんが言った。

 だけど、それは知ってる。知りたいのはその先…

 

「初代王はそれこそが真の平和だと信じている。…なぜかは分からない。世界の記憶を見た者にしか。私も知っている…王の思想を継承した父がどうであったか…

 弟共に人類を巨人から解放することを願い…何度も父に訴えた…何度も。しかし、叶わなかった。理由も決して明かさない。やがて父がその役目を子へと託す時が来た。

 弟は軽傷を買って出る代わりに私にあることを託した。

 どうか祈ってくれと…私は巨人の力を受け継いだ弟の目を見て、その意味を理解した」

 

 お父さんは目を見開き、こう言う。

 

「この世界を創りこの世の理を司る。全知全能にして唯一の存在へと弟はなったのだ。それを何と呼ぶか分かるか?神だ。我々はそれを神と呼ぶ」

 

 くだらない。

 私はそう思ってしまった。

 その後も何か言っていたけど、聞く気には慣れなかった。

 話が終わったのか、無理やり注射を刺そうとしてきた。

 

 私は背負い投げをしてお父さんを叩きつける。

 注射もろとも地面に叩きつけたため割れてしまった。

 

「何が神だ!!都合の言い逃げ道作って、都合よく人を扇動して!!」

 

 私はそう吐き捨てエレンの所へ駆ける。

 すると、皆も来てくれた。

 

▽▽▽

 

 ヒストリアが父親を投げ飛ばした瞬間を見て、皆がおおっと歓声を上げる。

 

「おおっ…やりやがったぞ…」

 

「ユミル、ヒストリアはちゃんと成長していたな」

 

「…っふん、うっせぇよ…」

 

 ぺっと唾を吐くが、その顔は嬉しそうだった。

 オレ達はヒストリアのところまで近付いていく。

 

 エレンはまだ顔色が悪い。余程、嫌な記憶を見たのだろう。

 だが、オレ達はそんなこと関係なしに、拘束を解く。

 

「ケガはないか?」

 

「うん…」

 

 ヒストリアは視線を逸らす。

 

「どうした?」

 

「いや…ちょっと…演技してるの見られてたから…恥ずかしくて…」

 

「なんだ、そんなことか」

 

『ゴォォォォオオオン!!!!!』

 

 雷の音がこの空間に響き渡る。

 突如、目の前にとてつもなく巨大な巨人が形成されてた。

 超大型よりもでかいな…

 注射は地面に落ちて割れたはずだが…舐めたのか?

 

「うっ…」

 

 飛ばされそうになったヒストリアを庇う。

 皆も壁際まで下がり、脱出経路を探るが…見つからない。

 幸い、巨人はオレ達に興味を示していない。

 ただ、巨人が天井を突き破ったため、オレ達に被害が被りそうだ。

 

「ごめん、みんな…オレは役立たずだったんだ…そもそもずっと…最初から、人類の希望なんかじゃなかった。オレの巨人だってキヨンが…」

 

 エレンが一人全てを諦め嘆いている。オレは、気にせずエレンにある液体の入った瓶を渡す。

 

「なんだ…これ、鎧?」

 

 瓶に書かれた文字は鎧と書かれてあった。

 これで、アニと同じようなことが出来るはずだ。

 

「オレはそんな力を欲しいと思ったことはない」

 

「なんだ?悲劇の英雄気取りか…?てめぇ一回だって自分の力一つで何とかできたことあったかよ?」

 

 口々にオレを含め皆が言う。

 

「エレン。何を見たのかは知らないが、どんな後悔があろうと進み続けるだけだろう。死ぬまで」

 

「行ってこいやあああ!」

 

 サシャが叫ぶ。

 

「エレン!」

 

 ミカサもお願いと気持ちを込めて言う。

 ここで何かできるやつはエレンだけだ。

 リヴァイ兵長も何も言わないが、エレンに託すと覚悟を決めている。

 エレンは瓶を口に咥え、泣きながら駆け出す。

 

 これは無理かもしれない…ユミルに渡しておけば良かったと。

 オレはそう思ったが…

 

『パッゴォオオン!!』

 

 エレンが巨人になった。その瞬間から結晶化していく。

 硬質化によって生み出された鉱石のようなもので、天井を支え崩落を防いだ。

 

「と、止まった…?」

 

「ああ、全員無事か?」

 

「はい」

 

 皆の無事を確認した後、脱出班とエレンを救出する班に分かれて行動する。

 

「この世の終わりみたいだね」

 

 辺りを見渡しアルミンがそう言った。

 脱出経路を確保し、オレ達は一度外に出ていた。

 

「この方角は…」

 

「ああ。これは不味いな」

 

 オレとアルミンは、状況を把握しアルミンにエルヴィン団長への報告を頼んだ。

 

「リヴァイ兵長、出口は確保しました。アルミンにはエルヴィン団長への報告を任せました」

 

「分かった」

 

「エレン、お前に助けられたな」

 

「あ、ああ」

 

 寄生虫のように巨人に貼り付いていたエレンを巨人から引き剥がした。

 まだ起きたばかりのエレンに声を掛ける。

 

「あ…エレン、おかげでみんな助かりました!

でも正直言うとあなたが泣き喚きながら気持ち悪い走り方で飛び出したあの瞬間は…もうこれはダメだ。終わりだ終わりだこのおばんげねぇ奴はしゃんとしないや…本当メソメソしてからこんなはハナタレが…と思いましたよ」

 

「サシャ…少し黙ってろ」

 

 確かにそれはオレも思ったが、口には出さない。

 

「ところで…あの巨人は」

 

 サシャに静かにしろと言ったが、黙らず自分の思っていることを口にした。

 

「兵長大変です!早く来てください!!」

 

「そうだな…まずはここを出てからだ」

 

 外に出る。

 1㎞先に匍匐前進している巨人と巨人から吹き出ている蒸気が見える。

 

「あれが…巨人?」

 

「色々変だ。超大型巨人の倍くらいあるし、余程高温なのか…奴が近付いた木々は発火している。何より近くの人間…僕らには興味を示さない…」

 

 エルヴィン団長へ報告に言っていたアルミンが、巨人の生態について説明する。

 

「あの巨人を追うぞ。周囲にはまだ中央憲兵の生き残りがいるかもしれん。警戒しろ」

 

 馬に乗り移動する。

 エレンとハンジさん、それからまだ朦朧としているアニは荷台に乗っている。

 アニは2本の麻酔銃を食らったため、まだ動けないようだ。

 

「なるほど、推測通りのことだね。そして、今、エレンの中に『始祖の巨人』の力がある。だけどレイス家でないと『始祖の巨人』の力は使用できないし、レイス家では『初代王の思想』に支配される…

 初代王いわく真の平和だって?面白いことを考えてるじゃないか」

 

 地下でロッド・レイスが言っていたことをハンジさんが整理する。

 

「オレをあの巨人に食わせれば、ロッド・レイスは人間に戻ります。完全な『始祖の巨人』に戻すことはまだ可能なんです」

 

「そうみてぇだな。人間に戻ったロッド・レイスをロッド・レイスを拘束し、初代王の洗脳を解く。これに成功すりゃ人類が助かる道は見えてくると…そして、お前はそうなる覚悟がは出来ていると言いたいんだな」

 

「…はい」

 

「おい…キヨン。お前はどう考えてるんだ」

 

 何気にリヴァイ兵長から名前で呼ばれたのは初めてだな…

 やっと認めてくれたようだなチビ。

 オレは考えていたことを悟られないように言う。

 

「結論から言いますと、絶対にエレンをロッド・レイスに食わせるのはやめるべきですね。例え、ロッド・レイスに壁の中を蹂躙されても」

 

「ほぅ…」

 

「人間に戻したとして、洗脳を解けるかどうかは賭けでしかありません。解く前に記憶を改竄されて終わりでしょう」

 

「……また、元通りになるだけか」

 

「はい、今度は獣や超大型が同時に攻めてきて、何も知らないオレ達はなすすべなく殺されるだけですね」

 

「そうだよ…破滅的な平和思想の持ち主から『始祖の巨人』を取り上げている今の状態こそが人類にとって千載一隅のチャンスだよ」

 

 ヒストリアが言う。そして、エレンのほうを向く。

 

「あなたのお父さんは初代王から私達人類を救おうとした。それだけの選択を課せられていたから」

 

「父さん…」

 

「エレンをロッド・レイスに食わせない以上…お前の父親を殺すことになる」

 

「分かってる。お別れをしないと…私がとどめを刺す」

 

 ヒストリアの覚悟は本物のようだ。

 

 調査兵団はオルブド区に集まる。

 ロッド・レイスが向かっている場所だからだ。

 住民を避難させないため、駐屯兵団と少々衝突になりかねたが、ハンジさんが状況を説明をすると納得してくれた。

 

「作戦内容を話す」エルヴィン団長が言った。

 皆は何も言わず視線だけを送る。

 

「壁を掴み、起き上がったロッド・レイスの口の中に大量の火薬を投げ入れる」

 

「口の中に火薬をぶち込んであわよくば、うなじ事吹っ飛ばそうってことか?」

 

「そうだ」

 

「確かにあの高熱なら起爆装置がなくても勝手に燃えて爆発するだろう…巨人が都合よく口をアホみてぇに開けといてくれればな」

 

「そうだ…うなじの表面で爆発しても効果は望めない。

 必ず内側から爆発させなければならない。

 そして対象は自重故か顔を引き摺りながら進んでいる。開ける口などないのかもしれない」

 

 シンプルな作戦だが悪くない。

 実行するべく、皆が持ち場に着く。

 まずは全ての大砲を使って駐屯兵団が、ロッド・レイスに向かって発射する。

 だが、命中はしているものの全く効き目がないようだ。

 

「ねえ、キヨン」ヒストリアが話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「私は自由でいたい」

 

「それは調査兵団の誰しもがそう思っている」

 

 オレはそう言ったが、ヒストリアはただ自分の考えを言う。

 

「だから、レイス家として人類の神になんかなりたくない。

 でも…自分なんかいらないなんて言って泣いている人がいたら…そんなことないよって伝えに行きたい。

 それが誰だって!どこにいたって!私は必ず助けに行く!」

 

「良いことなんじゃないか?だが、それをなぜオレに言ったんだ?」

 

「うん?キヨンにも手伝わせてあげようと思って」

 

 良い笑顔でこちらを向いて言った。

 もう誰もヒストリアを縛るやつはいないだろう。代わりにオレが縛られることになりそうだ。

 この不自由な世で、これ以上縛られると、さすがのオレもそろそろ発狂しそうだな…

 

「勘弁してくれ…オレは良い人ではない」

 

「私も良い子にはなれないよ」

 

 笑いながら歩いていった。

 最後まで冗談だよ、とか言ってくれなかったな…オレに拒否権は無いらしい。

 発狂するぞ…??

 

 

 オレとアルミン、ミカサで火薬入りの樽を縛っていると、エレンが壁内にいる小さな子供を見ながら話しだした。

 相変わらずこいつは、仕事をしない奴だな…

 

「この街の子供達は…まるで…あの日のオレ達みたいだな…」

 

「ああ、まさか今日あの壁よりでかい巨人が襲ってくるとは思っていないなら、まさしくあの日の僕達と同じ光景を見ることになるだろうね」

 

「あの頃のお前は無鉄砲な馬鹿だったな。今も馬鹿ではあるが…今は現実を知ってビビっている馬鹿だ」

 

「そんな馬鹿馬鹿言うなよな…」

 

「進むんだろ?お前が敵を駆逐しないと言うなら、今すぐに兵士は辞めるべきだぞ」

 

「……ああ、進む。それしかねぇ…………オレは進み続ける。死んでも死んだ後も……あれ?なんだこの記憶」

 

 首を傾げながらエレンは言った。

 死んだ後も…記憶を受け継ぐからだろうか…?

 

「あっつ…!」

 

 急な風向きの変化に巨人の蒸気が壁の上に当たった。かなりの高温だな…

 そして巨人は、壁の上を掴み立ち上がる。超大型巨人は顔が出るだけだったが、ロッド・レイスは身体の半分が出ている。

 団長の想定通り、口は削られているな…これで作戦を進められる。

 

 オレ達は水を被り、団長の合図を待つ。

 

「エレン!」

 

『パッゴォォオオン!!』

 

「ウォオオオオ!!!」

 

 エレンが巨人となり、「今だ!!攻撃開始!!」と団長が信煙弾を上空に放つ。

 荷台に立体起動をつけ、大量の火薬が入った樽を巨人の手を目掛けて発車させる。

 

 手に当たり爆発した。巨人は体勢を崩し、顔を壁の上にぶつける。

 

「エレン!!」

 

 エレンが走り口の中に火薬入りの樽を放り込む。団長の予想通り口の中で爆発し、肉片が散って行った。

 

「総員!!立体起動でとどめを刺せ!!!」

 

 エルヴィン団長が指示を出し、リヴァイ兵長が真っ先に飛び出す。皆も続いた。

 オレも立体起動で移動したが、皆をただ眺めていた。

 この短期間で本当に成長したな…こいつらは。

 

 ヒストリは四方八方に飛び散っている肉片に見向きもせず、一直線に飛んでいく。

 そして、人ひとり分くらいの肉片を斬りさいた。

 その瞬間爆発して霧散した。

 オレは落ちていくヒストリアをお姫様抱っこの形で救出する。

 

「まさか、本当に倒すとはな」

 

「直感だよ。親子の別れなんだから私がしないと」

 

 地面に着地すると、民衆に囲まれた。

 

「ありがと、キヨン」

 

 そう言って、ヒストリアはオレから離れる。そして、民衆に向かって歩いていく。

 何をするつもりなんだろうか…

 

「私はヒストリア・レイス。この壁の真の王です」

 

 そう言い放った。

 これにはオレも驚いた。

 女王にはなりたくないと言っていたヒストリアがどうしてだろうか……

 その後、オレはヒストリアを回収し調査兵団のもとに戻る。

 

「それで…ヒストリア。本当にやってくれるのか?」

 

「はい。私はこの壁の王として、この国を統治します」

 

「そうか…」

 

 ヒストリアとエルヴィン団長の会話を聞き、皆も驚いていた。

 

「まぁたお前がそうなるように誘導したのか?」

 

「ユミル…お前はオレを何だと思ってるんだ?何もしてないぞ、現にオレも驚いている」

 

「それはそれは、さすがは私のヒストリアだ。あのキヨンを驚かせるとはな!」

 

「あんたでも、驚くことはあるんだね」

 

「アニか…もう大丈夫なのか?」

 

「まあね。十分に寝たから」

 

 

 

 オレ達はヒストリアの戴冠式に出ていた。

 民衆は「ヒストリア女王!!!」や「真の壁の王!!!」だとか騒いでいた。

 ヒストリアとはこれから別行動をとることになるのか。

 まあ、死地に飛び込むことになるから別行動はありがたい。

 

 これが終われば、ライナー達との戦争だ。それが終われば一段落つくだろう。

 ここまで手を出してこないとなると、ライナー達はウォール・マリアで待ち構えているのだろう。

 若しくは帰っているだろうが、それはあまり考えられないな。

 巨人の全戦力を持って手ぶらで帰れば、ライナー達エルディア人は更に迫害を受けることになるかも知れない。

 エルディアのために戦っているあの二人がその選択をするとは考えられない。

 

「ヒストリア…本当に女神になっちまったな」

 

「遠い存在になっちゃったね」

 

「おいおい~キヨン~お前から離れて行っちゃったぞぉ~」

 

「そうだな。あいつは立派になった」

 

 戴冠式を終え、再び皆が集まる。

 

「お疲れ」

 

 ヒストリアにオレは水を渡す。

 

「ありがとう」

 

「頑張れよ」

 

「偶には会いに来てやるからな!」

 

「うん。僕たちはまずウォール・マリア奪還だね」

 

「また争いになるね」

 

「仕方ねえだろ」

 

「俺達は兵士、ヒストリアは王として人々を助けるんだからよ」

 

「主に地下街の子供達だっけ?」

 

「俺達も手伝ってやるよ」

 

「全てが終わりましたら、皆で外の世界を旅行しましょう!」

 

「え?皆、何を言ってるの?」

 

「「「「ん?」」」」

 

 ヒストリアが首を傾げながら言う。それに対し、オレ達も首を傾げる。

 

「私は女王になったけど、自由に行動するよ?」

 

「は?」オレは思わず零す。

 

「名ばかりの王なんて誰もついてこないし。皆を扇動する王の方がついてくるでしょ?」

 

「いや…だが王が危険なところに行くのは…」

 

「でも、キヨンは約束してくれたでしょ?」

 

「んん?」

 

「何とかしてって…女王としての命令したとき分かったって言ったよね?私も皆と居られるように何とかしなさい」

 

「は?いや、戴冠式で王として任命されたお前を危険な場所に連れ出すのはいくら何でも不可能だ」

 

「女王の命令を無視するの?これは死刑ね。うん死刑よ」

 

「おい…」

 

「それに…お父さんを殺すとき、私の我儘を手伝うって言ったじゃない」

 

「あれはお前が勝手に…それに内容はただ人々を助けるためって…」

 

「全てはこの壁の中の民を助けるためよ。戦争で勝たなければ、私たちの国は滅ぶでしよ?

 戦争に行くことはみんなを助けるんだよ!

 私が率先して動くの!

 扇動するの…!」

 

「ぷっひゃっひゃっひゃ!良いじゃねぇか!ヒストリアが行きたいと言うならそれで!私もそれに賛成だ!」

 

「ユミルは以前、ヒストリアを戦地に飛び込ませないようにしていなかったか?」

 

「お前の近くにいる方が安全だろ?」

 

「お前が言ったんだろ?ならやるしかねーわな⁉」

 

「有言実行しなきゃモテね~ぞ~キヨポン!」

 

「キヨポン~嘘つきにはお肉一枚ですね~~」

 

 コニーやサシャ、ジャンがニヤニヤしながらオレに突っかかってくる。

 こいつらはオレの不幸が余程嬉しいようだ。

 この馬鹿達のふてぶてしい顔…なるほど、ザックレー総統が言っていたことが理解できた。

 こいつらの顔を見ていると、殴りたくて仕方ない。改造して民衆に晒してやりたいと思う。

 腹立たしく、脳内でフルボッコにする。

 これはもう…好きだな。

 

「良いでしょ?」

 

 オレはエルヴィン団長の方を向く。「まぁ…………………キヨンが護ると言うなら…………良いだろう」さすがのエルヴィン団長もすぐには了承しなかったが、しぶしぶ了承した。

 はあ…ため息をつきたくなる。

 

 だが……

 

 この無茶苦茶な奴らと居る日常が楽しいと思った。

 

「分かった」

 

 ヒストリアの頭に手を置き了承した。

 

「どうした…?」

 

 固まった皆に聞く。

 再起動した皆の行動はそれぞれだった。

 ヒストリアはオレに抱き着き、ヒストリアに覆いかぶさるように飛びついて来たのはサシャだった。

 ミカサやアニは顔を逸らしていた。

 対して、リヴァイ兵長はオレを見てドン引きしていた。これほど顔を歪ませた兵長を見たことはない。

 

「お、おおお前…笑えるんだな…」

 

「キヨポンが無から変化するのを始めてみたぞ…」

 

「これは…ウォール・マリア奪還以上に価値がある瞬間だな」

 

 そんなにもオレが笑ったことが驚くことだろうか…

 

「キヨンが笑う瞬間を見れて本当に良かった…!!」

 

 ヒストリアにそう言われた。

 なんと言えばいいか分からなかったので、取り合えず頭を撫でておいた。

 

 

▽▽▽

 

 

「あぁ~~やだなぁ」

 

 俺達の戦士長はどうやら酷く心をやられたようだ。

 戦士長が起きたのはここ最近だ。

 ここに来ていたことにもかなりの衝撃だったが、それ以上に幼児化していたことに驚愕した。

 幸い巨人の力で治ったが…幼児化した戦士長の傷を治すのはかなり時間がかかった。

 こんなこと…ここより発展しているマーレでも聞いたことがない症状だ。

 

「すいません…一度帰った方が良かったですか?」

 

「いや…帰ったら俺達は次の戦士たちに継承させられるかもしれない…それにエルディア人への迫害は更に強くなる可能性だってある。帰らずにいてくれて助かったよ」

 

 そんなことはないと思いたいが…マーレだからな…

 

「そ、そうですか…」

 

「だが、次が最後にしよう。

 次で始祖を奪還できなければ…帰ろう」

 

「はい…」

 

 ベルトルトも頷く。

 

「あのもうすぐ調査兵団が来ますが、一人危険なやつが…」

 

「今はまだそのことを言わないでくれ。思い出したくないんだ…」

 

「そ…そうですか」

 

 恐らくキヨンだろう…人類最強と名高いリヴァイ兵長もいるが、実際に戦闘しているところは見たことがない。

 それに…あいつは強さだけじゃねぇ…あいつの恐ろしさは…………はぁ……悪魔が…

 

「それにしても…アニちゃんが裏切ったなんてねえ…予想できなかった」

 

 戦士長の言葉に強く反応したのはベルトルトだった。まだ、諦めがついていないようだ。

 

「すみません…アニは…………殺し合いをしたくないと…言って敵の手に落ちました」

 

「はあ…またあいつが関わってるんだろうな…」

 

「……はい」

 

「可哀そうなアニちゃんだ…まさしくエルディアの悪魔だ」

 

「あいつは危険です。すぐに殺さないと」

 

「分かってるさ…分かってる分かってるんだけどよ~」

 

 握り締める拳を更に強め『グリィィ』と音がする…相当怖いんだろな。

 貧乏ゆすりが止まらない戦士長から目を離し、お茶を堪能する。

 

 俺達の最後の戦いだ。

 必ず勝って始祖を奪還する!!

 あわよくば…クリスタを…

 

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