進撃する綾小路   作:もと将軍

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すいません…投稿したと思いこんでました。

原作とまんまやんという箇所もあると思いますが、頑張って書きましたので宜しくです。


ウォール・マリア奪還

【ピークの独白】

 

 

『毎日のように繰り返す戦争。

 

 巨人となり多くの人を殺してきた。

 

 私達を道具として使うマーレは嫌いだけど、共に戦った仲間を見捨てるわけにもいかない。

 

 最初は怖くて恐怖した戦争も仲間達のおかげで乗り越えることができた。

 

 そんな仲間達のおかげで次第に戦争に出ることに恐怖をすることは無くなっていった。

 

 だけど、恐怖することがなくなったわけではない。

 

 一つのことに慣れれば、また一つの恐怖が出てくる。

 

 恐怖の種類は様々だから、なくらならいのは仕方ない。

 

 だけど…恐怖とは何も恐怖して終わりじゃない。

 

 恐怖してからが本番なのだ。

 

 恐怖の先には一体、何があるのか…。

 

 それも様々。

 

 死か。

 

 迫害されることか。

 

 仲間を失うことか。

 

 それとも…。

 

 恋をすることもあるかも知れない。

 

 もし、今、それが起きたなら…。

 

 それはこの世で最も最悪な、吊り橋効果だろうね…』

 

 

【作戦開始】

 

 

 

 出発の日。

 調査兵団200名は壁の上に集まっていた。

 

「「「「「うおおおおおおお」」」」」」

「ウォール・マリアを取り返してくれ!!!!」

「全員無事に帰って来てくれよ!!!!」

「ヒストリア女王!!生きて帰ってきてください!!」

「女神ィィィィィイイ!!」

 

 下で住民たちが騒いでいる。この熱量、調査兵団がここまで応援されることは初めてではないだろうか。

 

「うおおおおおおおおお」

 

 エルヴィン団長が住民に応えるように叫ぶ。

 

「ウォール・マリア最終奪還作戦!!開始!!進めぇえええ!!」

「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」」

 

 兵士の士気は上場。

 今日の目的地は巨大樹の森で、明日もこの士気が続けばいいのだが…。

 

 

 

 

 巨大樹の森で一夜を過ごし、夜明け前からウォール・マリア…シガンシナ区に向かう。

 

「エレン震えてるぞ」

 

 目の前で生まれたての小鹿のように腕をプルプルさせ震えているエレンに言う。

 

「はぁ……⁉怖くねぇし!」

「怖いかとは聞いてないが?」

「っ…」

「大丈夫だよ、僕なんかずっと震えが止まんないんだけど、ほら」

 

 アルミンがそう言い、自分の手の震え具合を見せる。

 

「エレンは巨人が怖いと思ったことはある?ふつうは皆怖いんだよ。トロスト区襲撃時、少女を巨人の口の中から救っていたよね?どうしてあんなことができたの?」

「オレは思い出したんだよ。お前の話を聞いて、オレは初めて知ったんだ。オレは不自由なんだって。広い世界の小さなカゴで訳の分かんねえやつらから自由を奪われている。それが分かった時、許せないと思った。

 なんでか知らねえけど、オレは自由を取り戻すためなら力が湧いてくるんだ。

 ありがとな。もう大丈夫だ。多分、来年の今頃、オレ達は海を見ている」

 

 エレンの震えは止まった。

 もう大丈夫だ。と力強く歩みだす。

 

「キヨンは、巨人を怖いとか思ったことないの?」

 

 今度はオレに聞いてくる。

 

「オレに聞く意味あるのか?」

「ただの雑談だよ。今、緊張してても仕方ないしね」

「…怖いと思ったことはないな」

「…どうして⁇」

「利点よりも弱点が多いからな。不便なやつらには同情する」

 

 オレはエレンを見ながら言う。

 

「お前…オレが横にいるのによく言えたな…」

「お前に言ったんだ。力を持ったからと自惚れるな」

「それは…分かってるよ…」

「今回は、お前が鍵だ。前みたいにテンパるなよ?」

「分かってる…よ」

 

 エレンが素晴らしい功績を挙げるのではなく、回収されないことが大切だ。

 

「あっこの辺り見覚えがある」ミカサが言った。「確か、薪を拾いに来たことが」

 

「ふもとが見えたぞ!街道跡がある」

 

 前から兵士の大きな声が聞こえてくる。一度歩みを止め耳を澄ます。

 サーっと川の音が聞こえる。

 

「川の音が聞こえる」

 

「帰ってきたようだな」

 

「ああ、故郷に帰って来たんだ」

 

 夜明けと同時に馬に乗り全速力で移動する。

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 ウォール・マリア奪還作戦の会議が開かれていた。

 

「今作戦を成功させるに当たり、シガンシナ区の扉、内門と外門を封鎖する必要がある」

 

 エルヴィン団長が作戦内容を話しだす。

 外門がシガンシナ区と壁外を繋ぐ門。内門がシガンシナ区とウォール・マリア内を繋ぐ門だ。

 

「まず、外門を封鎖し続いて内門を封鎖する。問題は奴らが何処で待ち構えているかだが…」

 

 オレを見て一度止めるが、それは分からない。全知全能の神ではないからな。

 

「…可能性ですけど…」

 

 口を開いたのはアニだった。

 

「多分…壁の中に居るかも知れません…」

「壁の中?」

「そう…もしかしたらだけどね。壁は巨人でできているし。人が入れるサイズの穴があってもおかしくない」

 

「壁の中にか…」ジャンが言った。

 

「いや、ありえないことじゃないよ」アルミンがジャンやサシャ、コニーに向けて説明する。

 

 ライナー達が何処に潜んでいるのかも重要だが、最も気にするべきことをアニに問う。

 

「アニ、もう一つ教えて欲しい。ライナー達は殺すべきか?幽閉すべきか?」

「……それは、殺すのはお勧めできない」

「なぜだ?」

「巨人になれる人間が死んだ場合、ランダムにエルディア人へと継承されるから…この島で選ばれるかもしれないけどマーレで生まれるかもしれない」

「なるほど…分かった。だが、捕まえて幽閉するとなると難易度が跳ね上がる。死ぬくらいなら殺すべきだな」

「そう…だね」

 

 ライナーや獣なら幽閉することもできるかも知れないが、ベルトルトは不可能だろう。

 一先ず、オレは話を戻すことにした。

 

「壁の中に潜むなら、まずベルトルトはありえませんね」

 

 壁の傍で巨人化してもメリットは殆どない。

 全方位無差別な爆発が超大型の強みだろう。

 

「あと警戒するのは獣の巨人の投擲です。あれは危険です。石ころを手に納まるほど持ちそれを投げただけで、一気に数十人は死にます。それに人一人を上空に投げ飛ばすことも可能でしょう」

「なるほど…ベルトルトを上空に飛ばし上空から超大型か。危険だな」

「まず狙うはベルトルトだ。あいつは殺さなければならない」

「「「「……」」」」

 

 オレがそう言うと同期は顔を引き攣る。

 

「殺さなければ、オレ達の誰かが死ぬぞ?」

「分かってる…」

「ああ…やってやるさ」

「ライナーやベルトルト、獣に車力がいる。馬は下に繋ぐ必要があるが、なるべく地面には下りず、壁の上で敵を探す」

 

 纏めると、外門から内門をエレン、若しくはアニの力で封鎖すると同時に壁の中を探るということになった。

 そして、壁の上から奴らが現れるのを待つことになった。

 大方の流れが決まり昼食を取ることに。午後からも会議は続くが。

 

 

 

 そして現在。

 

 

 

「これより作戦を開始する!!総員立体軌道に移れ!!」

 

 エルヴィン団長の合図とともに一斉に立体起動で移動し、壁の上に上がった。

 全員がフードを被っており、誰がエレンかは分からない。

 また、相手はヒストリも回収するつもりだろう。誰が誰だか判断できない内は、ベルトルトの奇襲は無いと見て良いだろう。

 塞ぐべき門は二つ。その外門をエレンが塞ぐ。

 

 オレ達は立体起動で壁を伝って移動する。ここからは時間との勝負だからだ。

 

「アルミン」

「ああ」

 

 アルミンを置いて、オレはここを離れる。

 壁の上に焦げた跡がある。近くに居るのだろう。

 その件をアルミンに託し、オレ達は進む。そして、門の上に着いた。

 

「行け、エレン」

「おう」

 

 エレンを送り出し、オレは壁の上で待機する。

 

『パッドォン!』

 

 巨人化し、一気に硬質化により壁の穴を塞ぐ。

 ミカサがエレンを回収に行く。エレンを巨人から引きはがし、壁の上に上がって来た。

 今からアルミン達が壁の中を探すことになる。

 

 その間に、オレ達は内門に向かう。

 

「おい、ライナー達は本当にいるのか」リヴァイ兵長が俺に問う。

 

「はい」オレはそう返す。

 

「そうか」リヴァイ兵長は前を向いて走りながらオレ達に言う。

 

「お前ら…戦う覚悟はできてんだろうな…?」

 

「「「はい」」」オレとミカサ、そしてアニが即座に返事をする。

 

「はい」遅れてヒストリア。「はい」「はい…」と更に遅れてジャンやコニー達が続く。

 

「殺せねえなら、今すぐに降りろ」

「「「大丈夫です!!」」」

 

 今度はジャン達が声を大にして言った。

 

「そうか」

「ここだぁああ!!ここに空洞があるぞおお!!」

 

 アルミンの横にいる兵士が叫ぶ。

 ガコッと壁が開き、中にいたライナーが出て来た。そして、その兵士に刃を一突きする。

 

「ちっ」

 

 リヴァイ兵長が真っ先に動いた。

 出て来たライナーを首に一突き、そして胸に刃を突き刺した。

 だが…。

 

「くそっ…これも巨人の力か…あと一歩命を絶てなかった…!!」

 

 殺せなかったのか…アニから聞いていた以上に厄介だな。

 

『パゴォォォン!!』ライナーが巨人化した。

 

「多分神経を身体に集中したんだと思う。最後の手段だよ」

「そうか」

「周囲を見渡せ!他の敵を捕捉し…『『『パゴォォォン!!』』』はっ」

 

 内門を巨人が半円を描くように並び囲んでいた。

 その真ん中には獣の巨人がいる。

 だが、ベルトルトがいない…。

 いや…車力の巨人がいる。

 その背中にはランドセルを背負うかのように荷物を乗せている。あの中にいてもおかしくはない。

 

 獣は野球のピッチャーのような構えを取る。

 その手には大岩。

 

「投石くるぞぉ!伏せろぉお!」

 

 エルヴィン団長が声を張り注意を促す。

 投石は、壁の上に居る調査兵団には当たらず、下の内門を封鎖した。

 馬を移動させられなくなったな。だが手間が省けた。

 

『うおおおおお』

 

 後ろでライナーは動き出した。続いて…。

 

『ダァン!』

 

『『『うぉおおお』』』

 

 獣は地面を叩き、周りにいる巨人を突撃させた。

 

 エルヴィン団長は少し考えたのち、指示を出した。

 半々になって行動する。

 ペトラさんやリヴァイ兵長達、既存の調査兵団100名は馬を護る。その他の兵士やハンジさん達と104期の調査兵団100名は、ライナーと後から来るであろうベルトルトを相手にする。

 

 ライナーは硬質化を手に使用し壁をよじ登ってくる。ここに来るまで時間はあるな。

 

「エルヴィン団長、リヴァイ兵長とアニ」オレは三人を呼ぶ。

 

「どうした?」

「リヴァイ兵長は東へ向かってくれませんか?」

「なぜだ」

「相手は兵站勝負に出てきました。なら、こちらは短期決戦です。

 後ろから予備の兵を突撃させ、オレが西から奇襲を仕掛けます」

 

「なるほど」エルヴィン団長が頷く。

 

「獣は石を投げて兵を殲滅するでしょう。その隙にオレとアニはギリギリまで近付く。そして気付いたところをアニは巨人になってオレを護る」

 

 前回も似たような誘導をした。間違いなくオレを気にしているだろう。

 

「獣はオレを強く警戒するはず。

 前回も兵士を囮に裏をかき倒しました。

 なら、必ず裏を警戒する。オレが近付きオレに注意を削がれたところ、リヴァイ兵長がとどめを刺してください」

「お前が標的になるってか…石を避けられる遮蔽物はアニで良いが、まずそこまで近づけるか?」

 

「問題無い」エルヴィン団長が言う。

 

「そもそも敵は裏から兵士が現れるとは思っていないはずだ。これが第一の奇襲。

 そして、キヨンは周りにいる巨人を殺して近づく。

 これも奇襲となるだろう。

 その後にリヴァイが予備として反対側から近付く」

 

 エルヴィン団長が代わりに説明してくれた。

 

「はい」

「了解した」

「分かりました」

 

 リヴァイ兵長は東へ駆け出す。

 オレとアニは皆の元に戻る途中、壁の下で巨人と戦っている精鋭を見る。

 精鋭なだけあって動きは良いが、全ての巨人が奇行種のようで苦戦を強いられている。かなり犠牲は出そうだ。

 

 ここで壁をよじ登っていたライナーは壁の上に辿り着いた。

 周りを見渡し、状況を確認しているようだ。

 

 オレは急ぎ皆に指示を出す。

 

「オレはアニとリヴァイ兵長と獣を狩る。皆はライナーとベルトルトを頼む。頼んだぞアルミン」

 

 ベルトルトの位置がまだ確認は出来ていないため、何も指示を出せていない。だが、今のアルミンならやれるはずだ。

 

「分かった」

「ヒストリアは無理するなよ?」

「うん」

「まあ、そのために私がいるしな」

 

 ユミルが任せろ、と胸を叩く。らしくないユミルに多少驚きながらも頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 居た…一か所に固まっている。

 俺は戦士長の指示の下、馬を殺すことを任されていた。

 しかし…キヨン、あいつは何処に居やがる。

 あわよくば、キヨンのところにベルトルトを投げつけて、殺す計画だったが…さすがにそう簡単には行かねえか。

 今はフードを被った奴らばかりで分からねえな。

 

 それにしても危なかった…。

 俺は首に刺さっていた刃を抜く。

 これがリヴァイ兵長の実力か…戦闘だけならキヨンよりも厄介かも知れねえな。

 あの時、意識を全身に移すのが一瞬でも遅れていれば、あのまま即死だった。

 しかし、やはりアニは裏切っているのか。

 急に壁の中を探し出したし…いや、若しくはアルミンか…?発想力はあったからな。

 まだアニだと決めつけるのは、違うか。

 

 だが、今はまあ良い。

 長かった俺達の旅もようやくこれで終わる。

 

 はっ…。

 俺は一人の男に目が行く。

 エルヴィン・スミス。調査兵団の団長だ。殺しておくべきか…。

 いや、待て。迷うな、先に殺すのは馬だ。

 

『パァゴォォオン!!』

 

 なっ…!?シガンシナ区内の街中でエレンが巨人に変身した。

 なぜ自分から姿を現した?

 というか、あいつが本当に始祖を持っているのか…?

 

 エレンは俺に背を向けて走り出した。

 まさか南から壁を越えて逃げる気か!?

 奴一人なら馬が無くとも、巨人の力でトロスト区まで逃げられる。

 そうなっては、俺達がここに留まって戦う必要は無くなる。

 ここで調査兵団を壊滅することは出来ても、二か月で硬質化を身に着けて来た奴を再び、壁内に戻すのは不味い。

 

 いや、待て。おかしい。

 本当に逃げるなら、立体起動で東か西の壁をつたった後に巨人化するべきだ。

 なぜ、壁内で巨人化する…。

 

 そうか…奴らの目的は、俺の目標を馬からエレンに移すことか…!?

 

 エルヴィン・スミスはどうした?と言わんばかりに、フードを取った。

 ちっ…考える時間もくれねえってことか。あぁ、イラつくぜ、またキヨンが関わってるんだろうな。

 

 あいつの笑顔を見たことはねえが、あいつの不気味な笑った顔が、脳内で思い浮かんでしまった。

 

 俺は下へ降りる。

 仕方ない。あいつを逃がすよりかはマシだ。

 

 俺がエレンを追いかけると、中央付近で俺を迎え撃つ作戦に出た。

 構えて、対面する。

 巨人の相性的に俺がかなり有利。

 だが、こいつの格闘術は強い。油断ならねえ。

 

 周りにアニかユミルが居るのかも知れねえが、こっちにはベルトルトが居る。強さなど関係ない。

 大丈夫だ。俺は心を落ち着かせ、目の前のエレンだけに集中する。

 

『パキパキパキ』

 

 エレンの拳が硬質化する。より凝縮された硬質化か…これは不味いな。巨人の相性が全く関係ねえぞ。

 

 なら、全力のタックルだ。

 

 エレンは俺を躱す。避けた場所に右ストレートを放つ。だが、それも避けられる。

 構わず突進し、右ストレート。

 やべっ…エレンの右フックが俺の顔に直撃する。

 回転しながら地面を転がる。

 ちっ…いてぇな。

 追い打ちと言わんばかりに、エレンは俺を殴り続ける。俺は腕でガードするが。鎧が剝がれていく。

 

 少しの隙を待つ。そして、手が止まった瞬間を狙って、俺はタックル。エレンは当然躱すが、足を掴む。

 よし。

 力任せに持ち上げる。

 何度も地面に叩きつけ、寝転がったエレンに下段付きを食らわせる。

  

 どうだ…。

 

 ちっ…躱したか。

 もう一度ッ…!?『パァゴォォオン!!』直後、後ろで誰かが巨人化する。アニ…いや、ユミルか!

 だが、ユミルは硬質化は出来ないようだ。

 俺に纏わりついて殴ってくるが、効かねえ。

 だが、エレンが厄介だ。腕を掴み合い、力の勝負。

 っ…ユミルは俺の顔面に張り付いて離れねえ。

 こいつ…!鬱陶しい…!

 

『シュルルルル、シャッ』

 

 この音…立体起動か?兵士が動いたのか。だが、兵士の刃がなんだと言うのだ。

 ユミルの攻撃以上に役に立たねえはずだが…。

 いや、まさかキヨンか!あいつは俺の弱点を悉く突いてくる。

 いや落ち着け。大丈夫だ。音的にあいつの速さじゃねえ。

 俺はもう一度、エレンに向き合おうとしたが、刹那、俺の首に何かが刺さる。

 

 えっ…なにこれ。

 

『ボォォーーン』

 

 爆破ッ。

 はあ?というかこの威力…俺は朦朧とする意識の中、目を開け、微かに見える視野でユミルを見る。

 軽いユミルは吹き飛んでいる。

 あいつら…巻き込んだのか?仲間じゃねえのかよ!

 

 このぉ…悪魔どもが。

 

 だが、また俺の首に鉄の槍が刺さった。

 えっ…待って。

 

『ボォォーーン』

 

 飛びかけた意識。いや…多分数秒は飛んでいただろう。

 

『ブゥオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 俺は叫ぶ。最後の手段。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

「なんだ、何で叫んだ?何を呼んだ?」

 

「ベルトルト以外にないだろ!逃げるぞ!!!」

 

 キヨンが言っていた通りだ。

 獣がベルトルトを投げたんだろう。

 

「ああ、総員退避!!!」

 

 僕は上を見る。

 樽が上空高くを飛んでいる。あれか!!間に合うか…。

 

 皆は全速力で、ちりちりになって壁まで移動する。

 それは僕もだ。

 ヒストリアは……よし、一番安全なところに居る。

 

 それにしても、遂にベルトルトが出て来た。

 まだ、完全な攻略方法は見つかっていない。でも、アニのヒントから体力が無いとは聞いている。

 それに懸けるしかない。

 

 だが、なんか様子が変だ。

 

 もう真上まで来ているのに、何で巨人化しないんだろう。

 えっ?上空でベルトルトが出て来た。

 なんでそんなことをする必要がある……?

 

 ベルトルトは樽から出てライナーの元へ近付いて行った。

 ライナーを救いに行ったんだ。この状況でベルトルトは優しいんだね。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

『ブゥオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 来た!!

 合図だ!!

 僕が入った樽が軽々と持ち上げられる。

 戦士長は高く高く僕を投げる。

 もの凄い圧力だ。

 どこだ…どこだ?今行く!!ライナーー!!

 

 地面との距離。ここだ、先ずはここらを吹き飛ばす!!

 

 はっ…。

 

 ライナーが跪いているのが見えた。

 僕は思わず、飛び出る。

 立体起動で移動し、ライナーの元へ向かう。

 

「ライナー!ライナー」

 

 生きているのか?

 

「ライナー、はっ…生きてる。これは全身の神経網に意識を移すことに成功したのか?

 でもこれは最後の手段だ。

 まさか、本当にやるなんて。まさか君がここまッ!?」

 

 瞬間、僕は仰け反るが右手が吹き飛ぶ。

 巨人化…!

 待て、ここではライナーが…それにユミルが居るということは直ぐ近くにクリスタがいる可能性が大いにあり得る。

 ダメだ。ここでの巨人化は…。

 

「ちっ…ハズしたか!」

 

 ライナーの下から突如ユミルが出て来た。

 

「ユミルッ…なぜ、どうやって近付いた」

 

「あいつ…本当に容赦ねえことさせんのな。私が半分不死みたいだからって、爆発に巻き込まれても死なねえから、ライナーを盾にして我慢しろってな」

 

 あいつ…キヨンか。またキヨン。一体どれだけ僕らの邪魔をするんだ。

 僕が巨人化しないと読んでいたのではなく、巨人化して吹き飛ばしたあとで、近付いてくることを待っていた…!?

 

「まさしく悪魔の所業だね」

 

 僕は時間を稼ぐ。気付かれない程度にライナーを引きはがす。

 

「あいつはあんなもんだろ。なあベルトルトさんよ」

 

 ユミルも一定の距離を詰めてこようとしない。様子を伺っているようだ。

 

「私に人間だって言っておきながら、前線に持ってきやがって…あとで締めとかねえとな」

 

 笑うユミルだが、目は全く笑っていない。こちらを分析しているのだろう。

 ライナーが生きているのか。僕は巨人化できるのかを。

 なら、今だ…!

 僕はある程度、引きはがしていたライナーを、一気に巨人から引きはがし、この場を去る。

 

「逃げたぞ!!」

 

 ユミルが声を張り上げる。まさか君がここまで皆に協力的になっているとは思わなかったよ。

 たった数か月なのに。

 

 兵士が次々に出てくる。でも、この人たち…主力部隊じゃない…ハンジ分隊長やミカサ達がいない。

 そうか、僕がいつ巨人化してもいいように、主力部隊は離れているのか…。

 

 この雑兵なら死んでも構わないという事か…。

 

 マーレみたいだ。でもこれは仲間にやるべきことじゃないだろ。

 人間の所業じゃない。

 

『ボォーーン!』

 

 な…なんだ、これは。

 この鉄の槍から放たれる爆発はやばい。

 僕は立体起動で逃げる。この指の短さじゃ上手く扱えない…のに!

 

 ごめんね、ライナー。本当に悪いけど、もう少し我慢してくれ。僕がこの一帯を消し去るから。そのために今、深い傷を負う事はできない。

 ライナーを盾にして爆破を回避し、低空飛行で家の隙間を飛び回る。

 途中、家の隙間に調査兵団の目を掻い潜ってライナーを置いて行く。

 取り合えず、ライナーから離れた位置かつ、クリスタとも離れた位置。

 周りを見渡すと、ハンジ分隊長が見えた。

 僕は近付いて行く、ハンジ分隊長は僕から離れるように移動する。

 その間も、鉄の爆発する槍が飛んで来る。

 

 もう…ここが限界か。

 

 僕は巨人になるべく空に高く上がる。

 

 

【吊り橋効果1】

 

 

 

 二日前。

 

 調査兵団がウォール・マリア奪還作戦の前祝にて騒いでいるなか、一人の女兵士はトボトボと歩いていた。

 その顔は悲壮に満ちている。

 泣きそうな顔…というか泣いている。

 前へ進もうとしない足を無理やり進ませる。

 しかし、限界が来たようで膝から崩れ落ちた。

 

「ああ~~~!!!いやだぁああああああ!!!」

 

 突然女兵士は発狂した。遂に精神まで限界が来たようだ。

 この女兵士の名前は、サシャ・ブラウス。

 彼女は今、神よりし授かった使命を全うするべく動いていた。

 

 その神の名は、キヨン・ジェイルーン。

 

 サシャが慕っている同期だ。

 サシャの思考は単純明快。ご飯をくれる人は、皆等しく神なのだ。

 キヨンは訓練兵の時からご飯を分けてくれていた。故にサシャがご飯を分けてくれるキヨンを神と崇めるのは至極当然のことだ。

 そして神の使命を断る事は誰にも出来ない。というか断るという概念がない。

 そのためサシャはどんな使命も熟してきた。

 だがしかし…今回の使命はサシャにとっては困難だった。

 

 キース・シャーディス教官を呼びに行かなければならない。

 キースには先日、肉を盗みこってりと怒られたばかりだった。

 それでもサシャは神の使命を全うするため、歩みを再開する。

 

 そして教官のいる訓練兵養成所につき、教官室に入っていく。その部屋も彼女のトラウマ部屋だろう。

 

「よ…よるおそくに…もうしわけ、ございま、せん」

 

 弱々しいサシャの言葉が小さな部屋に響いた。

 

「なんだ?ん…?サシャか、どうした」

 

「えっと…そのあのそのあのキヨンが読んで来いって…言って…そのあのそのあの」

 

「そうか…分かった」

 

 キースはそれだけで何をさせられるのか理解したのだろう。

 天井を見て、息を吐きサシャを見る。

 

「これで最後だな」

 

 キースは立ち上がる。

 

「サシャ…明日の朝向かうと伝えてくれ」

 

「わ、分かりました!!!」

 

 急いで立ち去ろうとするサシャだが…。

 

「待て」

 

「は、はいぃ!?」

 

「これを…」

 

 キースがサシャに渡したのは紙で包まれた細長い物だった。

 だが、サシャには分かる。

 

「え、これ…を?キヨンにですか?」

 

 サシャは恐る恐る聞く。だが鼻の穴はヒクヒクと動いている。

 それを見たキースはふッと小さく笑う。

 

「お前にだ。ご苦労だったな」

 

「え、あ、ありがとうございます!!!」

 

 サシャはその夜、一人で歩きながら肉を頬張っていた。

 

 翌朝、調査兵団が出発する前、キースはキヨンの元を訪れていた。

 

「教官、特別になるときが来ましたね。やってくれますよね」

 

 キヨンから発された言葉はそれだけだった。

 だが、キースにはそれだけで十分。

 

「ああ」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 俺達、予備軍はトロスト区の壁を馬ごとリフトで壁を乗り越えた。(※トロスト区の扉は大岩で完全に封鎖されているため)

 長距離索敵陣形を使用し、ウォール・マリア内のど真ん中を突っ切って来た。

 巨人も見た。その巨人は殆ど先輩が倒してくれたが…うっ…。

 そして俺らは持ち場までたどり着き、現在待機中。突撃の合図を今か今かと待つ。

 

「「「「ふぅ~ふぅ~ッ」」」」」

 

 俺らはやる気に満ち溢れていた。死ぬ覚悟もできていた。突撃し、敵を討ち、ウォール・マリアを奪還する。そのためなら笑って死んでやると語り合っていた。

 だが、今はどうだ。

 遠くだが、初めて見る巨人。そして人間を食べる瞬間も見た。

 あんな大岩を投げる獣。

 そして、巨人の叫び、突撃する巨人の足音がここまで響いてくる。

 

 こんな…こんなにも……怖いものなのか。

 

 こう思っているのは俺だけではない。寧ろ俺はまだ落ち着いている方だろう。

 その証拠に、皆の息が荒く、狂気的な顔をしている。顔に止まる虫も気付かないほど怯えている。

 この静かな場に荒々しい息遣いが響く。それが余計に恐怖心を掻き立て伝染していく。

 まさに負の連鎖だ。

 だが、それでも、皆が逃げ出さないのは先輩兵士も少なくないからだ。

 

 それとこの隊の隊長がキース・シャーディスだからだろう。

 

 俺はこの人を知らない。だが、南方訓練兵の奴らがこの人の話をするときは、常に怯えている。

 逃げ出せないし、逃げ出せたとしても、そんな俺らを迎えてくれる場所は存在しないだろう。

 もう……大人しく、突撃するほか無い。

 それを皆も分かっているからこそ、この雰囲気になっている。

 

 これで戦えるのか?

 

 前線で戦う調査兵団は、一体……どんな気持ちで戦えているんだ。

 

「良いか、お前達」

 

 キースが口を開き、俺達に向けて言葉を送る。

 皆は怯えながらも顔を上げる。

 

「私達は兵士だ。ウォール・マリア奪還のために戦う。ただそれだけの為にある」

 

 つまり、その為に死ねと言うのか。いや、分かってる。そんなことは分かってる。

 

「死ぬのは怖いか?」

 

 キースは皆を見渡す、怯えながらも何名かが首を縦に振る。

 

「そうだろうな。当然だ。怖くないと思っているのは、私だけだろう。

 私のように後悔ばかりの人間は怖くない。

 だが、お前らはこれからの若者たちだ。未来がある。希望がある」

 

 確かにこの人からは後悔の色が滲み出ている。だが、その声には力があった。皆もその言葉に耳を傾けたからか震えが少しずつ治まってきた。

 

「お前達は、自分なら出来ると思ってここに来たんだろう。自分が特別だと思ってな」

 

 図星だった。心臓がドキッとして、今、その事に気付いた。

 

「残念だが、お前達は特別でもなんでもない。だが…それがどうした。後世へ繋げ、その意志を。心臓を捧げるのだ」

 

 更に力強くなっていく。

 

「もう一度問う。死ぬのが怖いか?

 なら、帰れば良い。私が話を通してある。疎まないでやってくれとな。

 だが私は帰らない。怖くないからではない。何も出来ない自分をあれほど恨んだことは無い。あの虚無感は…あれこそが死だ。

 私は兵士だ。兵士として特別でありたい。

 死んでも誰かが、その意志を繋いでくれる。進み続ける限り、意志は受け継がれていく。

 私はその意志の元、特別な存在であり続けられる。

 死んでも死んだ後も、私は特別であり続ける」

 

 意志を繋ぐ…。

 

「戦え戦え。進むだけだ。と私の教え子は口癖のように言っていた。

 その言葉は私の心の中で、今も、響き続けている」

 

 ああ、それは聞いた事のあるセリフ。 

 皆も覚えているだろう。

 唇を固く結び、震えを堪えている。

 

「さあ立ち上がれ!戦え!!進め!!意志を繋いでいけ!!」

 

『パッッッドォォォォォオオオオン!!!』

 

 ベルトルト・フーバーが巨人化した音。

 

「緑の信煙弾を確認!!」

 

 緑の信煙弾。合図だ。

 

「進めええええ!!」

 

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」

 

 一斉に馬を走らせ、叫ぶ。

 怖くなんてない。

 俺が死んでもあいつらが、ヒッチが受け継いでくれるから。

 

 戦え!戦え!!と自身を奮い立たせる。

 

 進む限り、俺達は皆生き続ける。

 

 戦え!!

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 お前達は戦わなくていい。

 

 突撃して死んでくれれば、それで良い。

 

 特攻隊の存在は獣を狩るのに必須。

 

 そして、その勇気は受け継がれる。

 

 だが、一番の目的は数の調整にある。

 死ぬことも兵士としての立派な役目。

 

 ダンバー数。

 今は調査兵団だけでなく、壁の中が一つになり、ウォール・マリア奪還という名目があるため、力を合わせていられる。

 だが、それが終われば、勝手に動く連中も出てくるだろう。派閥が幾つも出てくるかも知れない。

 統率の取れない兵団なんて、なんの意味もない。

 この作戦が終了すれば必要のない兵士だ。

 

 今回のこの戦いは数を調整するのに適している。

 手駒はしっかりと管理しておかなければならない。

 100名。調査兵団は100名前後が丁度良い。

 

 調査兵団に編入してきた兵士…所謂新兵を二つの班に分けた。

 一つはオレ達精鋭と共に真っ向から戦う班。

 そして、もう一つが突撃する予備軍。こちらには兵士としての経験数が少ない者達で構成されている。

 流石に新兵のみで固めるのは良くないので、熟練の兵士も数十名を組み込んだ。

 

 ベルトルトが壁を越えてシガンシナ区内に入って行ったのを確認し、数分。

 さて、オレも行くとするか。

 

「アニ行くぞ」

「うん」

 

『パッッッドォォォォォオオオオン!!!』

 

 壁の向こう側で、ベルトルトが巨人化した。

 

「ベルトルトか」

「皆は大丈夫かな…」

「分からない。だが、向こうはあいつらに任せてある。オレ達はこちらに集中するしかないだろう」

「うん」

 

『『『パァン』』』

 

 合図も聞こえ、オレとアニは壁を飛び降り、巨人のうなじを削ぎながら伝って行く。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

『『『パァン』』』

 

 後ろから聞こえる。あれは信煙弾!?

 まだ増援がいたの?

 やられた。向こうもやられてばかりじゃないと言う事ね。

 

 私は少し離れた岩陰に潜み、様子を伺っている。

 あのキヨンとかいう男は見つからなかった。

 まあ、皆フード被ってて先頭のエルヴィン・スミスしか分からなかったけど。

 

 はあ…と私はため息を吐く。

 

 アニが裏切るし、戦士長は幼児化するし…ホントにこの島には本物の悪魔が住んでるのね。

 気を付けないと…。

 

 後ろからの信煙弾に気付き、戦士長は岩を砕き、投げつける。

 それだけで、数十人は吹き飛んで死んでいった。

 

 可哀想だけど、これが戦争。誰も躊躇なんかしたりしない。

 生き延びた兵士たちは、叫びながら信煙弾を放ち、突撃していく。それを目掛けて戦士長は投げる。

 

 って…あれ…!?不味い…また、あの時みたいに、後ろから…しかもあれはキヨン!!

 

 殺すべき…いや、私は隠れておくべきだ。落ち着け…戦士長は気付くはず。

 

 ほら、気付いた。大丈夫。

 戦士長はキヨン目掛けて石を投げる。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 知っているさ。このパターン。

 後ろだろ?

 凄まじい速さで近付いて来ている。

 俺の巨人を伝って移動してきやがった。

 っ…前回の戦いがフラッシュバックする。強烈にこいつから離れようと体が拒否反応を起こす。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 俺は石を投げる。

 

『パァゴォォオン!!』

 

 あっ、アニ…ちゃん。

 そっか、本当にそっちにつくんだね。

 キヨンを護るようにアニちゃんが前に立った。

 腕だけ硬質化し、うなじを護ったか。

 だが、他はボロボロ。顔面はえぐれ、右肩を損傷し、右腕はダランと下がった。

 それでは前に進められないよね?

 その後ろにキヨンがいるんだろう?

 

 俺はもう一発投げる。

 

 それでも、うなじの箇所だけは護ったか。

 だが、もう立ってはいられないようだ。アニちゃんは膝から崩れ、横向きにダンッと倒れる。

 

『パァン!』

 

「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

 

 ちっ…まだ生き延びてる奴がいるのか…。

 しかも、もう…すぐそこまで…俺は慌てて石を投げつける。少し上だったか…あまり当たらず、抜けて来やがった。

 

 っ…!?

 

 き、来た!

 

 キヨン・ジェイルーン!!

 

 低空飛行でアニちゃんから飛び出してくる。

 だが…俺には近づこうとしない。

 ど、どこへ行くつもりだ!

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 戦士長が気付いたのは良いけど…アニが防ぐなんて。

 何で…邪魔をするのよ、そいつは悪魔…。

 

 アニが崩れ倒れる。

 

 後ろに近付いて来ている特攻隊に石を投げるけど…キヨンを気にしているのか、少し上に逸れた。

 キヨンが飛び出る。

 

 でも、戦士長には近づかない。

 

 キヨンが向かう先は、特攻隊。馬が走る隙間を縫って飛んでいる。何を…?

 

 戦士長は一歩、二歩後ろに大きく下がって、石を投げつける。今度は的確に捕らえ、当たった馬は埃の様に舞う。

 凄い速度で移動する兵士が、馬の隙間から見えた。キヨンまだ生きているの…。

 キヨンは舞い上がる馬たちの間隙を縫って、戦士長へ一気に詰め寄る。

 

 そこへ、戦士長が苦し紛れに左で一発、石を投げる。遅いけど、人間に当たれば、大ダメージ。

 

 キヨンに直撃はしなかった…でも掠めた?キヨンは回転し『ドサッ』と落ちて地面を転がる。

 ホッと一息つく。一番の問題点を無力化出来た。

 

 戦士長はとどめを刺すのか、一歩踏み出そうとして、後ろに気付く。

 ギリギリでうなじを手でガードする。

 だけど、それが目的じゃない…目を斬られ視野を閉ざされた。

 あの動き…尋常じゃない。まだあんなのが居るの!?キヨンと同格…それ以上かも知れない。

 何でよ…誰なのよお、もおお。

 切れそうになった緊張の糸をまた強く張る。

 男は直ぐに足に移動し、アキレス腱を削ぎ、戦士長を地面に倒した。

 これはダメ、出て行かないと…

 そして、うなじを削いでいき「うおおおおおおおお」戦士長は外に産まれた。

 戦士長の口から剣を刺し入れ、目を貫いた。どいつもこいつも悪魔ばっかり。

 

「巨人化直後、身体を激しく損傷し、回復に低一杯のウチは巨人化できない。そうだったよな?おい返事しろよ」

 

 戦士長はまだ生かされている!

 今だっ。

 

 私は飛び出す。

 

 兵士を纏めてでも良い。戦士長を助け出すため、大口を開き突っ込む。

 砂埃が舞う中なら、あの男も一瞬、気付くのは遅れる。今しかない。

 砂埃を抜け、大口を開け突進する。

 

「はっ!?」

 

 男はこちらに気付き後ろへ飛ぶ。なんて、反応の速さ…まあ助け出すこと優先!

 

 刹那、外の世界が綺麗に見えた。

 

 身体が動かない。軽い。謎の浮遊感。

 

 目の前は赤い液体が舞っている。

 

 なにこれ、血?

 

 私は視線だけ動かす。

 右を見て、左を見る。肩から先が無い。血が噴き出している。前には巨人?あれ、私の巨人…私の腕がまだくっついたままだ…というか足も。

 

 巨人から出された。そうか…初めから、目的は……私か。

 

 理解したと同時に痛みが襲う。

 

「あっ…うっ…いっっっったぁぁああああい!!いたぁいぃいたいいふぁい」

「目の前に転がっている死体は…もっと痛かっただろうな」

 

 痛くて苦しい。熱い。心臓の音がうるさくて、ジンジンとした痛みもうるさいのに、聞きたくもない声が、はっきりと耳に届いた。

 

「ふぅぅ……はあ゛はあ゛はあ゛はあ゛」

 

 息をするのが苦しい。振り向きたくない。私を持ち上げているのが誰かもう分かっている。なんで生きてる…なんで動ける。

 でも、それでも、自然と首は動き、目線は声のする方に吸い寄せられる。

 

 ゆっくりと視野に入ってくる男。

 お腹辺りがまず見え、胸、顎、鼻へと移動し、最後に目で止まり、双眸を見てしまった。

 

 なに…その……。

 

 怖い。怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。

 

 無い四肢を必死に動かそうとし、逃げようとする。

 そんな私を軽く前へ放り投げる。

 

 いったあ。

 

「リヴァイ兵長。無事ですか?」

 

 こ、こいつがリヴァイ…人類最強の名は伊達じゃなかった…。

 

「すまねえな、キヨン。こっちは無傷だ。お前、腕が…」

「大したことはありません。折れただけです。それよりもアニを回収しましょう」

 

 キヨンは右腕が変な方向に折れ曲がっていた。一応かすり傷は付けていたんだ。

 

「ああ」

 

 リヴァイが私と戦士長を持ち上げ、アニのところへ移動する。

 戦士長は気絶させられている。私もそうして欲しい。でないと…双眸に吸い寄せられてしまう。

 

「アニ、無事か?」

「うっ…だ、大丈夫…」

 

 キヨンは巨人から剥がし、アニを起こした。

 

「って…腕が…と思ったけど、何となく読めた。またわざと食らった?」

「死体をクッションにしたが、今回は防ぎきれなかった」

「そう…」

 

 キヨンはそう言って『グギッ』と腕を元の位置に戻した。何も表情の変化がない。

 

「心配の言葉は貰えないんだな」

「あんたに必要?」

「必要なときもあるんじゃないか?」

「はいはい」

「アニ!!そいつと関わっちゃ駄目よ!!目を覚まして!」

「あ…ピークさん…そ、その…私はもうこいつらと一緒に居ると決めてるんです」

「そんな危険な奴と居ちゃ駄目!!」

 

 私は醜く足掻く。もうそれしかない。

 

「ピークさん。キヨンは正にエルディアの悪魔だと思います「おい…」が、それでも、私達を受け入れてくれる器があるんです」

 

 嫌だ、聞きたくない。

 

「私は戦争とか争いが好きじゃない。でも、誰かがやらなければ終わらない。私は戦争を終わらしてくれそうな方を選びました」

 

 私は今、どんな顔をしているのだろう。

 マーレの巨人部隊。これだけこちらに有利な状況だったのに、負けた。

 駄目だ。何も道筋が無い。

 

「アニ…あと一仕事頼みたいんだが、動けるか?」

「あんた…人使い荒すぎ」

「悪い」

 

 その後、私は呆然と見ていた。アニが巨人になり、硬質化で牢屋を作った。

 そこへ、私と戦士長は入れられる。

 拘束部屋か…これはすぐには壊せない。

 それにこのケガを修復するのにはかなりの時間が掛かる。

 逃げるのは無理だ。

 

 私は去って行く1人の背中を無気力に眺めていた。

 

 

【決着】

 

 

 

 ベルトルトが巨人化し、街を破壊した。

 そこまで被害は出ていないはずだ。それでも、死人は出た。

 仕方ない。そこは割り切るところだ。と自分に言い聞かせる。

 僕はベルトルトの弱点を探していた。

 ベルトルトを倒すのは至難の業。そんな事は分かり切っている。キヨンもいない。リヴァイ兵長もいないけど、やるしかない。

 僕の指示で、絶え間なく攻撃をしかけるが、突風を出され皆は吹き飛ばされる。それで死人も出る。

 また、ベルトルトは地面に手を伸ばし、家を搔き集める。そして、軽くゴミを投げるかのように撒き散らした。

 前回のように足を攻撃することも不可能だ。

 そして、ベルトルトが向かう先は門の方だろう。

 向こう側へ行き、エルヴィン団長を殺すことが目的か。もう直ぐで壁に到達する。

 落ち着け…と自分に言い聞かせる。

 深呼吸し、相手を分析する。

 

 でも、この圧倒的な風圧に士気が下がっていく。ここには新兵も少なからずいる。

 初めての実践がこの超大型巨人との戦闘だ。

 士気が下がることなんて分かっていたじゃないか。

 

「総員!!突撃せよ!!」

 

 ばっ…。

 壁の上からベルトルトに向かって、声を張り上げながら向かって行ったのは、ヒストリアだった。

 不味い…ヒストリアが死んだら、この壁は終わりだ!何をやってるんだ!

 

 ベルトルトが腕を振り、ヒストリアを攻撃しようとした。だが、停止した。

 何故だ…おかしい。

 熱風も出さない。

 

 そうか…!

 

 ヒストリアが本物の王家と言う事を考慮しているんだ。

 エレンが始祖を持っていたとしても、ヒストリアの血は役に立つ。

 持って帰ることには意味がある。

 始祖という器を殺してしまったら、意味を無くす。

 

「心臓を捧げよ!!」

 

 遠くからでも良く響く声だ。

 

「行くよ!!」

 

 ヒストリアにミーナが続く。ミーナが動けば、同期の女子が動く。女子が動けば、同期の男子は負けてられるか!と続く。

 これだけ動けば、兵全体が動く。

 

「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」

 

 ヒストリアは本物の王家。

 町の人達にも好かれ、オルブド区を実際に救って見せたため、皆からの支持も高い。

 ヒストリアが自ら前に立ち進むため、新兵だけでなく皆の士気が最高潮になった。

 

「アルミン!どうするの!」

「ミカサ達はライナーだ。まだどこかに潜んでるはず」

「「「「「分かった」」」」」」」

 

 ライナーはミカサ達に任せ、僕とエレン、ユミルで超大型巨人を止める。

 僕たちは、一度壁の上に上がり、走って移動する。

 ベルトルトは身体を捻り、調査兵団を振り払おうとしている。

 新兵から次々に振り払われ、落ちていく。

 どうする。今がチャンスだ。

 熱風を出さないと言っても、危険だと判断したら出すだろう…。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 クリスタ……鬱陶しい…!

 

 まさか女王になっていたとは…この数か月でいったい何があったんだ…。

 人間に群がるコバエのような鬱陶しさに苛立ちを隠せなかった。

 それにこのコバエはうなじを狙ってくる。それだけは防がないと。

 

 どうすれば…。

 

 クリスタを殺すわけにはいかない。

 

 でも……このままでは僕が死ぬ。

 

 なら、賭けだ。

 

 頼む、死なないでくれよ。

 

 筋肉を燃焼し、熱風を出す。

 一斉に鬱陶しいコバエは吹き飛んでいく。

 

 クリスタは…?良かった。ユミルが救出していた。

 ふぅ…。

 いや、安心している場合じゃない。

 くっ…次から次へと、またも一斉に群がってくるコバエを一掃する。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「あれは…」

 

 僕はベルトルトの分析を続けていた。

 ベルトルトは熱風で兵士を吹き飛ばしている。でも、一人の兵士がベルトルトの背中にアンカーを固定したまま、ダランッと垂れている。兵士はもう死んでいる。 

 熱風で飛ばされているけど、それでもアンカーは固定されたまま。

 そうか…!

 骨だ。

 骨に刺さっているんだ。

 

 「何でか知らねえけどオレは自由を取り戻すためなら、力が湧いてくるんだ」

 そうだね、エレン。それは僕もだよ。

 この作戦が上手くいけば、僕はもう海を見には行けないな…。

 

 やるしかない。

 

「作戦を思いついた」

「アルミン、本当か!?」

「ああ、上手くいけば、ベルトルトを無力化できる」

 

 僕はエレンに作戦内容を伝える。

 

「分かった」

「おい…それじゃあ、お前が海を見には行けねえな」

 

 ヒストリアを助けに言っていたユミルが、いつの間にか僕の後ろに立っていた。

 

「ユミル…」

「どういう事だ、ユミル!」

「こいつがギリギリで逃げるわけねえだろ。そんくらいお前にも分かってんだろ?」

「アルミン…ここでアルミンが死ぬことだけは間違っている。あなたはキヨンも思いつかない発想をしたりするんだから」

 

 今度はヒストリアまでもがそう言った。

 

「私が兵を突撃させる。これは私の役目だよ」

「それまでの時間稼ぎは私がやる」

「オレもやる。アルミンを死なせるわけはねえだろ。足止めくらいは出来るはずだ」

 

 まずはエレンが立体起動で移動し、ベルトルトの顔まで飛んでいく。

 僕がやろうとしていた役目を代わってくれたのだろう。

 エレンを捕まえようと腕を伸ばすベルトルト。そこへ、うなじを削ぎにユミルが背後に回る。

 ベルトルトは勘づいたのか、二人を吹き飛ばすため熱風を出すが、二人は離れない。

 中々離れない二人にベルトルトは熱風を更に強くする。

 蒸気で二人が見えないけど、あんなとこに居続けたら…二人とも死んでもおかしくない。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ちゅーーもーーっく!!」

 

 私は壁の上に避難した兵士に声を大にする。

 兵士を突撃させるために何と言えば良いのだろう。

 兵士に喜んで死んで貰うために、私は皆を騙す。

 私には出来る。私は良い子ではないから。

 でも、何て言えば騙せるのか。

 キヨンのようにロジックを組み立てて会話を誘導するのは私には出来ない。

 そもそも、騙す必要はあるのか。

 

 私は私らしく皆を引っ張るのだ。

 

「超大型巨人を仕留める!!

 あいつは消耗戦に弱い、なら連続して突撃するのみ!!

 ここで仕留めなければ、いつ壁の中で巨人化するか分からない!!

 死んでもここで奴を仕留める。

 突撃せよ!!」

 

 私の言葉に全員が立ち上がったわけじゃなかった。

 でも、一人二人と立ち上がり、突撃しに行く。

 それが何度か繰り返された時、ベルトルトは目で見て分かるくらい萎んでいた。

 

「見ろ!超大型が萎んでるぞ!!」

「今だ、かかれーーーっ!!」

「心臓を捧げよ!!」

「「「「おおおおおおお」」」」」」

 

 と次々に向かって行く。

 皆、蒸気の弱いところから突撃しては、その蒸気に耐え切れず、吹き飛ばされ死んでいる。

 エレンとユミルはまだあの中に居るの…?

 

「ヒストリア!やったんだね、ありがとう」

「あんまり乗せられなかったけどね…皆が自分で立ち上がって向かって行ったんだよ」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 くっそあちぃ…。

 いや、もう…分からなくなってきた…。

 まだか。

 ったく、私らしくないな。

 こんな誰かのために体張って…同じことを繰り返してんじゃねえか…。

 でも、まあ今回は自分を偽ってない。

 後悔はない。

 目も見えず、音も聞こえず、薄れゆく意識の中…急に優しい風がないだ気がした。

 

「よく耐えたなユミル」

 

 懐かしい声が聞こえる。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ベルトルトの熱風がどんどん弱くなってきている!」

「うん、でも最後誰があれに近付くの?」

「相当な技術がいる。新兵じゃまず無理。僕がいくしか…」

「アルミンは駄目だよ!熱風も弱いとはいえ、まだ強い。間違えて落っこちたら、死んじゃうよ」

「……うん…でも、君も同じだからね?」

「うん」

 

 あと一歩のとこなのに、踏み出せないのがツライ…。

 精鋭班は馬を死守するために駆り出されいるし、ベルトルトの出現被害で死んだ人も少なくはない。

 

「待たせたな」

 

 そんな時に後ろから神の声が聞こえた。

 

「リヴァイ兵長!!」

「キヨンとアニも!」

 

 よし、この二人が居れば勝てる。僕たちの粘り勝ちだ。

 

「俺がやる。お前らはユミルとエレンを救助しろ」

「「「了解!!」」」

 

 突撃していく兵士が少なくなり、途絶えた瞬間ベルトルトが熱風を弱めた。

 その一瞬で閃光のようにリヴァイ兵長が飛んでいく。そして、一撃でベルトルトを外に引き摺り出した。

 僕とキヨンで二人を救助する。

 

 

【エレン・イェーガー】

 

 

 

 

 ベルトルトを引きずり出してから、一度オレ達は壁の上に上った。

 エルヴィン団長達がここに来るまで、壁の上で待機していろと指示が出ているからだ。

 かなり兵が死んだな。

 新兵の殆どが爆風に飛ばされ、上手く立体起動で回避できず、壁や家に衝突し死亡したか。

 生き残った兵士も負傷している人達は少なくない。

 それでもベルトルトを倒すためには仕方がなかった。

 

 聞けば、ライナーはミカサ達104期に任せたという。

 壁の上から下を眺めていると、『ボーーーン』という音と共に砂埃が舞った。

 その砂埃からライナーらしき人物が飛び出て来たため、この奪還作戦は終了したと言っても良いだろう。

 

 暫くして、ミカサ達は壁の上に来た。

 

「ミカサ!ライナーは?」

 

 アルミンは駆け寄る。ミカサは何も言わずライナーを見せた。

 四肢は欠損し、髪が無く、ライナーだと一目で判別は出来なかった。

 

「それは良かった…あっ、ハンジさんだけなんだね…」

 

 少し安堵したが、ミカサ達と共に現れたハンジさんを見てそう言った。

 

「モーブリッドが…私を井戸に押し込んだんだ」

 

 なんと…モーブリッドさんが。それは残念だ。

 だが、超大型の出現で犠牲が出ることは端から分かっていたことだ。

 仕方ないと割り切るしかないな。

 

「あっ…エレン!それに、こっちはユミルも…」

「お、おい…大丈夫なのか?」

 

 コゲミルとコゲレンとなった二人を見て、二人の元に近付く。

 

「問題ない。蒸気が発生しているし、最初より色が薄くなっている」

「そ、そう…」

 

 ふぅと一息つき、皆は腰を下ろす。

 ヒストリアはオレの横にちょこんと座った。

 

「………私が突撃させたことは必要なかったのかも…」

 

 ヒストリアは不安な表情を露わにし口に出す。

 

「いや、兵を常に突撃させたことで、ベルトルトは熱風を出し続けたんだ。

 出なければ、熱風を止めて手を伸ばすだけでエレンは回収されていたさ」

 

 他にも戦い方はあった。兵士を死なせない方法もあったが、そんな反省は今じゃなくていい。

 

「そう…」

「ああ、そう思い詰める必要は無い。突撃させた者として堂々としていればいい」

「うん…でも」

「あの時、こうしておけば良かった、と後悔する事はよくあることだ。次に活かせ。まだ戦争は終わっていないからな」

 

 常に最善だと思う未来を選択しても、それが正解なのかは終わってみるまで分からないものだ。

 だがヒストリアは行動に移した。自分の選択で多くの命を奪ったのは事実。それでも移さなければベルトルトは倒せなかったし、何よりもここ経験を積めたことは大きい。

 

「うん」

「そう言えば、キヨン…お前達が戦ったのは獣だよな?どうだったんだよ」

 

 ジャンがオレに問う。

 

「ああ、それならアニが作った硬質化の牢屋に閉じ込めてあるぞ。エルヴィン団長に引き継いできた」

「そうか…良かった、逃げられねえよな?」

「四肢は斬り落としたからな」

「車力も?」

「ああ」

「そう」

 

 ミカサ達はそれを聞き安心したようで肩の力を抜いた。

 オレはサシャのケガの具合を見に近付く。特に後遺症が残る程の傷ではないため安心した。

 

 それから暫くして、エルヴィン団長達50名ほどがこちらに近付いて来た。

 

 って…まじかよ……。オレは内心で驚愕していた。

 

「教官……」

「…あぁ……生きてしまってな…」

「それは、あなたが前に進んだ結果でしょう。あなたは特別な人ですね」

 

 戦争では立ち止まった者から死んでいくと聞く。前に進んだ教官が生き伸びたのは、当然のことなのかも知れない。

 

「ふっ……大人相手に上から言うもんじゃないぞ」

「そうですね、すいません」

 

 まあ生きていたのなら何よりだ。

 続いてエルヴィン団長が口を開く。

 

「ご苦労だった」

「ああ、大分…少なくなってしなったな…」

 

 ハンジさんが言った。80名ほどと予想よりも兵が死んでしまった。だが十分だ。再来年入ってくる新兵も合わせれば丁度良いと言えるだろう。

 

「まあ仕方ない。死んだ兵士のおかげでウォール・マリア奪還が出来たんだからな」

 

 フッと笑い、声を高らかにする。

 

「ウォール・マリア奪還作戦、これにて終了とする!!我々の勝ちだ!!」

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」

 

 調査兵団の雄叫びがこのウォール・マリア内に響き渡る。

 この声がローゼまで聞こえてそうだ。

 

 その後、いくつかの班に分かれた。

 

 ライナーを地下深くの牢に入れ、見張る班。

 これにはアニ、マルコやペトラさんが付いて行った。アニの硬質化で更に強化するのだろう。

 

 ウォール・マリア奪還成功を住民に伝える事と負傷者を運ぶ班。

 

 エレンの地下室に向かうのと…ベルトルトの巨人を引き継ぐ班。

 それに真っ先に名乗り出たのはアルミンだった。

 

「僕が継承します。数多くの兵を死なせた責任がありますので」

「アルミン、それを言ったら私が…」

「いや、ヒストリアは駄目だ」

 

 エルヴィン団長はアルミンが食べることについては何も言わなかった。

 まあそれが一番最善の選択だと思っていただろう。

 ベルトルトは放置しておけないため、誰かが引き継ぐほかない。

 半分不死身になるため、死なれたくない者が食べるべきだろう。

 そうなるとオレかリヴァイ兵長、ミカサ、アルミン、エルヴィン団長になる。

 その中のアルミンが自ら名乗り出てくれた。誰も止めはしない。

 

「い、いいかな…キヨン、僕が食べて、君の方が人類にとって有益だと思うけど…」

「朝、言った通りだ。そんな力は欲しくない。寧ろ食べてくれて助かる」

 

 アニの情報だと、エルディア人のみが巨人になれると言う。

 オレは確かにこの地の生まれで血はエルディア人だろう。

 だが、オレはこの世界では異物だ。

 エルディア人なのかどうか確証は得られない。 

 なら、巨人になれるかどうかは分からない。オレが食うべきではないだろう。

 

「そっか、分かった」

 

 アルミンは壁を降り屋根の上に着地した。

 目の前のベルトルトを見て、何か言っているように見えた。

 そして、注射器を取り出し自分の腕に刺した。

 

『パァァドォォオン!!』

 

 アルミンが巨人になりベルトルトを掴む。

 

「いやぁーやめてぇ~!!」

 

 ベルトルトは叫び身体を捩じるが、抵抗は虚しくアルミンの手で口元に運ばれていく。

 ベルトルトは壁の上に居るオレ達に気付いたのか、助けを求める。

 

「みんなーーーったすけてーーーー!!」

 

 104期は皆辛そうだった。

 その声に反応し身体が、ピクッと動いた者も居た。

 オレはただ見ていた。

 

 オレは常に敵として見ていた。

 だが、敵とはいえ3年間、訓練兵として一緒に育ったからか…オレはほんの少し悲しいと思っていたのかも知れない。

 必要のない感情だろうと分かってはいる。嫌な感情だ。

 まあそれでも助けたいとは思わないが。

 

 アルミンがベルトルトを食べ、煙を出し人間の姿に戻ったため、皆はアルミンのもとに向かった。

 オレはこの場でまだ寝ているエレン達を見守る事にした。もうそろそろ治るころだろう。

 

「今回も生き延びれたね、私達」

 

 皆が下に行っている間に話しかけて来てのはミーナ。

 

「そうだな」

「キヨン的には今どれくらい?」

 

 戦争の進捗を聞いて来ているのだろう。

 

「そうだな…ようやく一歩を踏み出せそうだな」

「ええ…一歩…」

「そう落ち込む必要は無い。期間だけで言えば、あと半分だろう」

「一歩を踏み出すことが難しかったってこと?」

「そうだ。何も知らない状況だったしな。アニが居ても分からないことは多かった。まあ、まだ分からないことは多いんだが…」

「そっか…まあ、頑張らないとね」

「そうだな」

 

 アルミンを回収し、皆は上に戻ってくる。

 ヒストリアが異様な圧を出して、オレとミーナの間に座ったのは言うまでもないことか…。

 暫くして、

 

「んぅ~くっ」

 

 エレンが起きた。まだ傷は癒えておらず、蒸気は出ている。

 

「エレン、状況は理解できてるか?」

「あ、あぁキヨンか、えっと状況…ハッベルトルトは!?」

「もう戦争は終わった。ベルトルトはアルミンが継承した。完全勝利だ」

「そ、そうか…ふぅ良かった」

 

 エレンは再びばたっと寝転んだ。空を見て目を閉じゆっくり開けて、何かを言おうとする。

 だが…。

 

「感傷的になってるところ悪いが…さっさと地下室に行ってきてくれ」

 

 オレはそれを制す。

 

「お前な…オレはまだ起きたばかりなんだが…」

「なら、お前を置いて行くから鍵だけ貸せ」

「…分かったよ…行くよ」

 

 エレンはエルヴィン団長達を引き連れて地下室に向かって行った。

 

「キヨンは行かないの?」

 

 残っていたヒストリアが声を掛けてくる。

 

「ああ」

「どうして?」

「まあ腕が折れているからな。立体起動はなるべく使用したくない」

「あ、気付かなかった…大丈夫なの?」

「ああ、手当はもう済んでいる」

「そっか…え、どこ行くの?」

 

 オレは立ち上がり歩き出す。

 地下室に行かなかったのは、腕が折れていたからという理由でもなく、何か理由があったわけでもない。

 歩き出したのも理由は無い。

 ただ自分が生まれ育った街を見下ろして、何かを感じ取りたかったのかも知れない。

 

「はぁ…」

「どうしたの?らしくない」

 

 隣で歩くヒストリアがそう尋ねる。

 

「いや…なんでもない」

 

 うっかりしていたのか、気が抜けていたのか…。

 いや…そうじゃない。

 

 オレは今、自身の考え方が矛盾していることに悩んでいるのだろう。

 そして中途半端な人間になってしまったものだなと嘆いていたのだ。

 

 機械的で相手を道具と見ている割には、若干人の心を取り入れたためか、皆の事を気遣ってしまっている。

 道具として見れなくなっている。

 それは喜ばしいことだが、この戦争中にそんな人の心が居るだろうか…。

 

「キ・ヨ・ン!!見てよ!!」

 

 ヒストリアは夕日を指差す。

 

「キレイ!!それでいいじゃない。何考えてるのか知らないけど、今はそんな難しいことを考える必要なんてないじゃない!」

 

 オレも一度夕日を見る。確かに綺麗だ。いつも見ているが今日は一段と。

 皆で成し遂げたからか…。

 いや…。

 

「そうだな。その通りだな…」

 

 ぶらぶらと散歩してから戻ると、丁度エルヴィン団長達が戻って来ていた。その手には本を3冊所持している。

 ミカサはオレとヒストリアを見るや否や、ふんっとそっぽを向いた。

 

「これより私達も帰還する」

 

 それだけを伝え、オレ達は馬に乗り移動することになった。

 腕を骨折しているため、サシャを運んでいる馬車に一緒に乗せてもらった。

 そこで地下室にあった本を詳しく聞いた。

 

 正直、あまり目新しい情報は無かった。

 殆どアニから聞いていたことだった。

 だが、おじさんが壁の外から来たことは確定した。

 それだけでもかなりの進歩だろう。

 やはり、エレンの能力は…。

 

 

 ウォール・ローゼに帰還した調査兵団は民衆によって造られた凱旋門を通る。

 

「おいおい…なんだよ、この派手な迎え入れ方は」

 

 鬱陶しそうに言うジャンだったが…その顔は嬉しさを隠しきれていなかった。

 慶賀に堪えないのだろう。

 

「っはっはっは!俺も遂には英雄になっちまったか」

 

 コニーも嬉しそうだ。コニーは故郷を巨人に帰られ精神を弱めていたが、順調に回復している。

 というか、もう全く落ち込んでいないように思える。

 

「これで肉が食べ放題!!いぃぃ~やっほぉ~~!!」

 

 起きたサシャはいつも通りだ。

 華々しい門を抜けた調査兵団は一度解散することとなった。

 

 

 次の日の朝。オレはハンジさんとリヴァイ兵長に連れられ歩いていた。

 オレ達は芝生を一層綺麗に引き立てている太陽の光を浴びながら街中を歩いていたが、人通りが少ない路地裏で奇妙な奴を目にした。

 

「名は進撃の巨人」

 

 何やってんだ、こいつは。

 

「何してるの?」

 

 エレンの奇行に同じ奇行種が問う。そしてエレンの真似をしながら続ける。

 

「進撃の巨人…ってやってたよね、今?」

「いえ…」

「えっ!?やってたよね?三人とも今の見たでしょ?」

「えぇ…まあ」

 

 オレの横に居たアルミンは顔を背けながら言う。可哀想なエレン…と顔に書いている。

 

「でも、まあそれは…その」

「ほらぁ!今のは何だったの、エレン」

 

 奇行種の追撃は止まらない。やはり、モーブリットさんが亡くなったのは痛いな。

 

「いえ、別に」

「君の巨人の名前でしょ!?なんで誰もいないのに一人で喋ってたの??」

「もう良いだろ、ハンジ。こいつは15のガキだぞ。誰だってそういう時期はある」

「はあ?何だよ、そう言う時期って?」

「ハンジさん、後で僕が説明しますから」

「ええ?なんでよ、キヨンは何か知ってるかい?」

「さあ…しかし、ハンジさんも同じ奇行種ですから、こいつの奇行くらいは何となく分かるのでは?」

「やだな~奇行種だなんて、照れるじゃないか!!」

 

 助けてモーブリッドさん。

 

「ふぅ…も、何しに来たんですか!?」

「いくぞ、身支度を急げ」

「何をするんです?」

「謁見だ。女王陛下がトロスト区にお越しだ」

 

 ヒストリアは普段、別々に過ごしている。まあ偶に抜け出してくるんだが…。

 ヒストリアや総統、憲兵団を交えて謁見が始まった。

 

 話の内容は、壁内人類がまだ戦争の途中にあることが主な話題だった。

 今までは曖昧な情報が飛び交っていたが、それが確定したということを世間に周知させた。

 多少、混乱はあったものの民衆も少なからず気付いていたため、騒動には発展しなかった。

 

 

 

 ウォール・マリア奪還成功のよる勲章を授与する式典が行われる日。

 調査兵団の精鋭たちが、勲章授与式に並ばされた。

 エルヴィン団長から順に、ヒストリアの差し伸ばされた手の甲に唇を添えていく。

 

 続いてエレンの番。ヒストリアから勲章を授与され、手の甲に唇を添える。

 エレンは微動だにしなくなった。ヒストリアの手を握るその顔は悲壮さを露わしていた。

 

 暫くしてハッとし、ヒストリアの手を放す。ヒストリアは次へ次へと勲章を授与していく。

 式が終わり、解散となるもエレンの表情が浮かない。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 エレンの様子がおかしい。

 それは私だけが思っていることではないはず。

 目の前に立っていたヒストリアも違和感には気付いていた。

 当然、キヨンもエレンを見ていた。

 

「エレン…大丈夫?顔色が悪い」

 

 私はそう聞かずには居られなかった。

 多分、皆も気にしていることだと思う。

 

「あ、ああ…大丈夫だ」

 

 エレンはそう言って歩いていくけど…足取りが不安定で覚束ないようだ。

 とても大丈夫そうには見えない。

 

「一度、水を飲むと良い」

 

 エレンの顔色の悪さを見かねたのか、エルヴィン団長が言った。

 エレンはエルヴィン団長を見て固まった。

 驚愕している…?なぜ…?

 私はキヨンを見る。

 キヨンも目を合わせてくれたけど、首を振り分からないようだ。

 エレンはこの式場を見渡し、唖然としている。

 何に驚いているのか、私には分からなかった。

 

「エレン…?はい、水。まずは飲みなよ」

 

 ペトラさんがそう言ってエレンに水を渡す。

 じっとペトラさんを見て、コップを受け取った。そして一気に飲み干す。

 コップをペトラさんが預かり、エレンは再び歩いて行った。

 外の空気を吸いに行くんだろうか…私も…と思ったところで、エレンを制止させるべく、キヨンがエレンの肩に手を置いた。

 

「エレン」

 

 エレンは振り向くと、懐疑的な表情をする。

 

「え……………だ、だれ…………?」

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