天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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田本さんの職場にも瀬戸様の魔の手が(^^;;;・・・。



※ボーイズラブ(いや中年か?)表現あります。嫌いな人は読まないでね。


広がる樹雷6

「おうおう、この子は・・・腰の痛みがひいていくなぁ。嗚呼、ありがとう、ありがとう。もう良いよ。」

樹に腰があるのかどうか知らないが、そう言う感じで答えてくれる。こっちはお婆ちゃんの肩叩きしている感覚だけど。

 「すまないね、うちの子も治してやっておくれな。わたしは、柚樹とここで話しているからさ。」

なんだか、樹がウインクしたように見える。

 「ああ、まあ、その・・・。失礼します。」

阿羅々樹での夜は、少しだけ長かった。籐吾さんの傷も無いことを確認したりする。あのときの声が「日亜様」だったりするのは、ちょっと悔しいけれど。節操が無いと言われるけど、無駄の無い筋肉質の身体というのもまた、美しい。

 「・・・あの、うちのお風呂も入っていってください。」

阿羅々樹のお風呂を籐吾さんに案内されて行くと、樹雷らしい樹の造作が美しい風呂である。例によって大きい。天地君ちのお風呂とまた違って、ちょっと直線的なデザインが日本の老舗旅館風だなぁと思う。風呂に浸かってホッとしながら、聞いてみた。

 「あの、さ。天木日亜さんのアストラルと融合しているとは言え、僕は僕だったりするけど、それでもいいの?」

また顔を赤らめて、それでも僕の目を見て言う籐吾さん。

 「さっき抱いて頂いて、逆に思いは晴れました。だって、天木日亜様は、初代樹雷総帥一途な人でしたから・・・。それに水穂様や瀬戸様がうらやましい。あなたの胸は・・・。」

そう言って、また胸に頭を預けてくる。この人、それなりのカッコして原宿歩けば一発スカウトっしょ。不思議なオーラもあるし、目力も強い。立木謙吾さんも、そうだけど、ちょっと昏い雰囲気が見え隠れするところなんか、たまらないと言う女性が、たくさんいそうである。

 「今回のように、籐吾さんの命を危険にさらすことが、たぶんこれからは多いと思います。それでも、僕のような者で良いのですか?」

 「そう言うことは、樹雷の闘士ならば覚悟の上。なにも問題はありません。さらに僕とあなたは・・・。」

言葉を切って、身体を預けてくる。人と深くつながりあうということは、かなり強い力になるものだと天木日亜の記憶は言う。

 「ごめんね、水穂さんが待ってるから・・・。」

立ち上がろうとする僕の手を籐吾さんがにぎる。

 「僕も一言言わせてください。樹になるなんて言わないで、人のままでいてください。」

美しい瞳からはらりと涙がこぼれる。また愛おしくなって唇を奪う。二人してお風呂を出て、柚樹さんを伴い、僕は水穂さんの待つ一樹の邸宅へ帰った。ベッドに水穂さんが寝ていた、と思ったらがばって起きて、しっかり抱きつかれる。

 「・・・抱いて、今すぐ。」

節操が無い一因その2だな。と自戒しながら、だけども身体は元気。激変という言葉が陳腐に思えた水曜日が暮れていった。

 

 明けて、木曜日。いつものように起きていき、いまだ慣れない朝ご飯を食べて(だって水穂さんが隣にいるし)、西美那魅町役場職員として出勤した。おはようございます。と声をかけながら自分の席に座る。もちろん田本一樹(かずき)さんの格好である。何となく朝から、今日は平穏に終わって欲しいなぁとか思う自分がいた。県からのメールチェックしていると、水穂さんはすでにいろいろ書類を作っていた。子ども系の仕事も昨今多く、さっそくいろいろな会合に呼ばれているようだった。そうこうしていると、町長室から内線がかかる。

 「かずきさん、町長が来週の100歳慶祝訪問について打ち合わせしたいって。」

はいはいと、すぐに席を立つ。うちの町長もほとんど分刻みで動く人だったりする。時間は無駄にできない。総務課の奥に町長室があり、そこに行くと先週提出済みの書類を見ながら町長が座っていた。

 「田本君、この人は神主さんだそうだね、わたしもあまり記憶に無いのだが・・・。」

 「そうかもしれません。小さな神社ですからねぇ。この柾木勝仁さんはお元気のようで、当日は10時に神社の下にある柾木家に行くことになっています。県の人も一緒に行く予定です。少しわかりにくい場所ですから・・・。」

微妙に口の端を引きつらせながら答えた。樹雷の皇子なんて口が裂けても言えない。しかも900歳越えてるなんてことも言えない。

 「そうか。わたしの選挙の時にも見かけなかったしなぁ。相手方でも姿は見るもんだが・・・。」

前回の町長選挙は無投票だったが、その前は激戦だった。その折に敵だろうが味方だろうが、顔は見るものらしい。ちょっとどっきりして、いちおう申し開き。

 「割と閉鎖的な地域のようで、あまり外に出ることが無いとも聞いています。当日は、10時に現場ですから、そうですね、9時半には来て頂けるとありがたいです。」

大きく頷く西美那魅町町長だった。この人は実はかなりというか、とてもやり手の町長である。下手なこと言うと、イヤな笑みを浮かべて綺麗に喝破されるのだ。わりと職員に対してもフランクな人で、僕の場合は山間部の敬老会で、酔いつぶれた町長に肩を貸して公用車に乗せ、自宅に送ったこともあった。

 「わかった。・・・それと職員組合とも話さなければならんのだが、お前宛にこんな文書が届いておってな・・・。実際前例が無いのだが、ある意味トップダウンの指令だからどうしようも無いのだ。」

スッと、その文書は、なんと内閣総理大臣名で職印も綺麗に押印された公文書であり、しかも西美那魅町長と僕の名前が連名で書かれていた。いつも目にする普通の補助金決定通知みたいなものと紙質まで違う。びっくりして書類を手に取る。それには、まれな特例だが、総務省付けの職員として雇用し直し、樹雷国への出向を命ずる旨が書かれている。ご丁寧にも臨時職員、柾木水穂、との名前まである。期間は来月1日付から、いちおう60歳定年までの日付が記載されている。ちなみに、樹雷国というのは中国奥地にある国だそうである(笑)。

 「わたし宛には、こうだ。」

次の職員について、総務省出向を命ず・・・。見事に命令文書だった。普通は、依頼文だろうに・・・。しかも名指しはあり得ない。給与等については充分な配慮をすると明記されており、様々な手当が付く旨が続く文書に書かれていた。別に給与はいらなかったりもするけれど・・・。

 「ええっと、これは、確実な書類なのでしょうか?」

内心、思い当たることは多々あれど、まさかそこまで強攻策には出ないだろうと、瀬戸様や阿主沙様の顔を思い浮かべる。つ~っと冷や汗が額から落ち、背中は嫌な汗がどっと噴き出している。

 「お前にとっては、残念でも何でも無いかもしれないが、人事担当の森元が問い合わせたが、確かなところから出ている文書だそうだ。向こうの担当者も不思議がっていたがな・・・。」

口の端をつり上げ、にやり、と笑う町長。

 「で、なにをしたんだ?」

う~う~、そう思うわなぁ。ちょっとちょっと、瀬戸様~、打ち合わせしとかないと~。返答出来ないじゃん~。

 「え~っと、こないだの金曜日、慶祝訪問の打ち合わせで柾木家に行った帰りに、変わった服の人に会いまして、何か困っている様子だったので、相談を聞いて上げたんですよ。そしたら大事なものをなくしたって言うから一緒に探しまして、何とか見つかって。そしたらそれが、その樹雷国にとっては命の次に大事なものだったようで、是非我が国に来て欲しい、なんて言われていたんですが・・・。いやぁ、一度は断ったんですが・・・。まさか本気だったとは、ねえ。」

あ~は~は~、と下手な嘘をついた。もの凄くおおざっぱには間違っていない、と思う。瀬戸様~、恨みますよぉ~。

 「わかった、まあ、そういうことにしておこう。しかし、この樹雷国というのは危険な国ではないんだろうな?」

あれ?結構素直に引き下がるなぁ・・・。

 「紛争が相次ぐような国ではないと聞いています。」

危険と言えば危険だろうな、銀河では世仁我と勢力を二分する軍事国家だと聞いている。と言うか、自分自身とその率いる艦隊が危険だったりする。銀河三個消せるらしいし。

 「さらに、国負担で、明日10時に、総務省の総務課に来て欲しいという文書も来ている。」

スッとまた、目の前に書類を渡される。田本一樹、柾木水穂の2名の派遣について配慮願いたいという文書だった。旅費については総務課で費用弁済すると書いている。

 「また急な話ですねぇ・・・。」

いちおうびっくりしてみる。あの瀬戸様ならやりかねないけど・・・。

 「実は、一昨日の町村会の会合で、県知事自らこの文書をわたしに渡して、くれぐれも、と頼まれたのだ。知事もよくわからなかったらしいがな・・・。」

また無茶な手を使う・・・。誰かさんの爬虫類顔が、に~っひっひっひと笑うあの顔が目に浮かぶ。

 「・・・わかりました謹んで拝命致します。」

だって、そう言うほか無いじゃん。ここまで切羽詰まった手を使ってくるなんて、思いも寄らないし。

 「もう一度聞くが、本当に良いんだな?」

 「ええ、どうしようも無いでしょうね。まあ何とかなるでしょう。」

町長は若干あきれた顔をしていた。来週水曜日はよろしくお願いします、と言い、失礼しますと町長室を出た。出たところで、森元女史につかまる。

 「ねえねえ、ホントなにやったのよ。あんな文書見たことないわ。」

だから、瀬戸様~。

 「まあ、町長に説明したとおりですよ。とにかく、明日総務省に行ってきます。」

と言うことで急遽、東京出張決定。一樹で行ったら数十秒かな。

 朝一発目に、ある意味どかんと爆撃されて結構動揺したけれど、とにかく課長には、書類見せて、町長から話があった件を伝えると、すでに話が行っていたようで気をつけて行ってこいと言われる。それでも、いろいろ待ってくれない仕事は山積している。またあっという間にお昼である。今後のこともあるので、一樹の食堂で、天地君呼んで、作戦会議である。さすがに水穂さんのお弁当は、今日は一人分だろうと思ったら、どっさり作ってきていた。もしかして、エスパー?

 「天地君にはお世話になっているでしょう?それに、みんなで食べれば美味しいじゃない。」

と、にっこりと笑顔で言われた。本当に僕にはもったいない女性であるとしみじみ思う。

 「今日の朝、町長に呼ばれてね、こんな書類もらったんだ。樹雷って、この国のトップとつながってるの?」

と、一連の書類を二人に見せた。天地君は、ひたすら気の毒そうな顔をしている。

 「いちおう、瀬戸様に問い合わせてみますわ。」

時間も無いので、3人でお昼ご飯を口に運びながら、水穂さんは瀬戸様に通信を入れている。結構長くコールしてようやくつながる。忙しいのだろうか。

 「あら、ごめんなさいね。お待たせ。単刀直入に言うわ。樹雷としても、田本殿をいつまでも地球で仕事させておくわけには行かなくなったの。それほど、あなたの存在は巨大になっているわ。そこで、初期文明の惑星に干渉することになって、本当はまずいのだけれど、遥照殿のルートを使わせてもらって圧力をかけたのよ。遥照殿は、遙か昔からその国のトップには顔が利くからね。ちなみに阿主沙ちゃんも了承済みよ。」

よほど慌てているのか、樹雷王も阿主沙ちゃんだったりする。樹雷側として、もう僕の存在を隠すというか、そう言うことが出来なくなった、と言うことなんだろう。

 「皇家の樹を救った強き皇族が、なぜ樹雷にいないのか?その樹雷の国民の問いかけに答えなければならないときが来た、そうとも言えるわね。」

真面目な表情の瀬戸様は、さすがに迫力がすごい。

 


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