天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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一樹で行けばすぐだけど、変に費用弁償がどうこう言われると、いちおう偽装しないと・・・。

東京から無事帰ってこられるのでしょうか?




広がる樹雷7

「皇家の樹を救った強き皇族が、なぜ樹雷にいないのか?その樹雷の国民の問いかけに答えなければならないときが来た、そうとも言えるわね。」

真面目な表情の瀬戸様は、さすがに迫力がすごい。

 「その猶予は、8月1日までの約2週間程度ということなんですね。」

 「そういうことね。ま、そんなわけだから、何とか後始末してこっちに来てちょうだい。あ、もちろん今週末は絶対に来てもらうわよ。いろいろ準備してあるから。逃げようとか思っちゃ駄目よ。籐吾ちゃんや謙吾ちゃんを泣かせたくないのよね?。」

ぐええ、見事に外堀を埋められている。にたりと笑った瀬戸様はそのまま通信を切った。

 「しかし、ここまで切羽詰まっているとは・・・。」

 「どのような状態か、今週末に分かるでしょうね。」

謎の微笑みの水穂さんである。

 「天地君も行かない?」

 「僕はニンジン畑の手入れと収穫が忙しいので行けません。」

すっぱりと即答であった。もちろん人の悪い笑顔付き。水穂さんの弁当を食べ終えて、ホッと一息。またちょっと珍しいお茶をいただく。

 「あ、でもどうやって行くんですか?明日朝10時に、霞ヶ関なんでしょう?」

 「ええっと、とりあえず、一樹に送ってもらって、人の目が無いところに転送してもらって・・・。」

そこまで言って、ハッと気付く。ここは岡山県。いちおうまだ役場職員である。皇家の船使って行っても良いだろうが、時間は気をつけないと。一樹に乗っていけば、15分もあれば着くだろうが、普通の職員が行くことを想定しないとモロバレである。と言うわけで、腕時計をタブレットモードにして、地球のネットにつないで経路検索すると、3時間半程度かかると。しかも倉敷駅に午後3時に行き空路を利用するか、明日朝早くに・・・、うわ朝10時にはちょっと厳しい。普通に迷ったりすることを考えると(まず大丈夫だろうと思うが)、1時間前くらいには霞ヶ関に着いておきたい。となると、今日の午後3時には出発したことにしないと・・・。二人で行くこともあるので、準備そのほかと思うと、昼から仕事してらんないじゃん・・・。

 「水穂さん、とりあえず、昼から年休(年次有給休暇)とりましょう。鷲羽ちゃんと作戦会議した方が良いような気がしてきました。いちおう普通の地球の交通機関を使うと、今日の午後3時には倉敷駅に行っておかないと。しかも前泊で無いと霞ヶ関に朝10時と言うのが厳しいです。」

 「あ、それに、旅費向こう持ちってことは、領収書の提出を求められると思った方が良いですよ。」

お~まいがっってなもんで、慌ててお昼ご飯を食べたあとの食器をみんなで片付けて、一樹から役場のトイレに転送、自分の席に戻る。とりあえず問い合わせ先と書いてある総務省総務課の担当者に電話する。田舎から行くので、どこの窓口に行けば良いか、どのようなものを用意すれば良いか聞く。とりあえず、必要なものは印鑑と本人確認書類それと総務省発の書類(今持っている物である)。天地君と水穂さんも背後で聞いてくれている。

 「え、町長名の、推薦状があった方が良い?ええっと、決済もらわないといけないので明日には間に合わないんですが・・・、はい、はい。わかりました後日郵送と言うことで。それでは、どうぞよろしくお願いします。」

今から文章を作って、町長決済もらっているとさすがに間に合わない。そんな文章のひな形なんか無いだろうし。

 「推薦状は、僕から森元さんに頼んでおきますよ。」

それならば、と言うことで町長に話した内容を天地君に言っておく。

 「苦しい言い訳ですね~。まあ、でも妥当なところでしょうね。下手すると銀河系消せるんですけど、とは言えないよな~。」

あんたもいっしょじゃぁ、と心の中で突っ込む。漫才やってる余裕も無い。今もらっている書類を書類カバーに入れて、愛妻弁当食べ終えたところの課長に、訳を話して年休もらって、ごめんなさいよろしくお願いします、と二人で役場を出た。

 「水穂さん、何か服とか買いますか?僕はスーツがありますが・・・。」

何となく嬉しそうな水穂さんである。

 「樹雷の服ではまずいでしょうね~。うふふ、持ってきていますわ。」

クルマに飛び乗って、とりあえず僕の家へ。水穂さんはそのまま二点間転送ゲートで柾木家へ行く。先週持って出たボストンバッグに着替えとパソコンを詰めて、スーツはスーツカバーに入れて持って行くことにする。うわ、お金。二人分の旅費と宿泊代と・・・。15万円くらい持っておかないと。柚樹さんと一樹にも付いてきてもらう。姿は消して。ペットですか?とか言われると面倒だし。下の階に降りていき、昼食を食べていた父母に訳を話した。

 「まあ、樹雷も結構無茶をするわね。船とか使わずに普通に公共交通機関で行くのね?そりゃそうだわ、領収書がいるとか言われるとまずいわね~。」

あっはっは~と気楽なもんである。また二階の自室に戻って、忘れ物は無いかともう一回バッグを見ていると、鷲羽ちゃんと水穂さんが転送されてきた。水穂さんは、すでにレディース・スーツ姿である。靴というか、ヒールもしっかり持っている。社員証とか胸に付けて、歩くといっぱしのIT企業のやり手職員に見える。

 「瀬戸殿も結構無茶するね~。まあ、わからんでも無いけどさ。」

 「いちおう、一樹と柚樹を連れて行こうと思うのですが・・・。」

鷲羽ちゃんが、う~んと考える仕草をしている。

 「そうさねぇ、籐吾殿と謙吾殿も転送範囲内にいてもらうことをお勧めするね。まあ、荒事は無いだろうけど。」

なるほど。まあ、備えあれば憂い無しと。

 「お呼びになりましたか?」

ヴン、と言う転送音と共に二人が部屋に転送されてくる。例によってカッコいい。やっぱり、こう、自分にはもったいないなぁと・・・。ちょっと気持ちが萎えていると、隣の水穂さんに肘鉄食らう。痛い・・・。

 「籐吾さん、謙吾さん、瀬戸様から圧力がかかったので、いまから出て、明日10時霞ヶ関で、東京の総務省に行きます。水穂さんと行くのですが、不可視フィールド張って、転送可能範囲内にいてもらえますか。」

大きな男が3人と、女性2人が入るとさすがに狭い。

 「お二人のご様子は常時モニターします。何かあればすぐに参上しますよ。神木あやめ、茉莉、阿知花の三人には衛星軌道上で待機してもらいます。」

そのままスッと転送されて消えていく。各自の船に戻ったのだろう。ちょっと思いついて、水穂さんに相談する。

 「今夜、東京でホテル取っても良いんですけど、どうします?みんないるし、一樹でプチパーティも良いですよね。」

 「みんな喜ぶと思いますわ。今日東京に着いたらお買い物して、一度ホテルに入ってからそうしましょう。」

おお、偽装しないと。ということは、あまり目立たないホテルが良いけど・・・。ホテルオークラ、帝国ホテルあたりが近いのか・・・。うんまあいいや。とにかく出発しよう。

 「それじゃ、鷲羽ちゃん、行ってきます。」

 「ああ、気をつけていっといで。」

ひらひらと手を振って転送されていく鷲羽ちゃんだった。

 そんなこんなで、ATM行って、お金下ろして倉敷駅で岡山空港行きを聞くとジャンボタクシーがあるらしい。それ乗って、岡山空港から羽田空港行きチケットを買った。宿泊券着き格安航空券なんかもあるけれど、今回は急ぎなので予約していないし・・・。と思いながら正規の航空券を購入して、しばらく時間が空いた。空港搭乗口まで行って、だいたい40分くらい待つことになった。

 「今夜の準備をしようかしらね。一樹ちゃん、今夜みんなでパーティしようかと思うの。入れてくれる?」

水穂さんがそう言ってトイレに行く。こっちも、と。とりあえず、携帯端末の番号知っているのは謙吾さんだけだけれど・・・。そっか樹のネットワーク・・・。

 「一樹、上空にいる、阿羅々樹と樹沙羅儀、緑炎、赤炎、白炎に連絡して、今夜みんなでプチパーティしようって言ってくれる?」

 「水穂さんが今通信してみてくれているよ。心配しなくても。」

そうっすか、ホントそつがないや。あの人。しかし、いろいろやったけど、こんなおっさんにみんな付いてきてくれて本当に申し訳ないなぁとか思う。う、スマホ形状にしておいた腕時計が鳴動している。職場からだ。

 「はい、田本です。」

 「今大丈夫か?生活保護の○○さんが、来ているんだが、保護費の支給日は終わっているよな?」

課長からだった。このお婆ちゃんも、認知症か精神症状がひどくて、もの忘れから不安になるようで何度も役場に足を運んできたりする。

 「ええ、僕の後ろに貼っているように、7月3日に終わっています。確か来られていましたよ。」

うちの役場はちょっと珍しく、県のケースワーカーと共に現金支給である。しかし、これも昨今振り込みに変わりつつある。

 「そうだよな、わかったそう伝えるよ。来月は・・・、8月4日だな。」

 「はい。そう言えば最近、何度も役場に電話がかかってくるようになっているので、ちょっと包括支援センターにも聞いてみます。」

 「よろしく頼むよ。」

包括支援センターに連絡を取って、家族に連絡取ってもらうことにする。デイサービスやら介護ヘルパーさんの来訪回数を増やすかどうかも聞いてもらうことにした。僕がどうこう言えるのはここら辺までである。さらに、もっとひどくなって一人でいられなくなると、認知症対応型グループホームの入所なども視野に入れるべきだろう・・・。その前にショートステイも、かな、と、考えていると、こういう仕事もしなくて良くなったんだなぁとか感慨深い。じいちゃんの記録をよく見ておこうと思う。まさにそう言う仕事だろう、これからは。ほどなく水穂さんがトイレから帰ってきた。

 「あなた、みんな喜んでくれましたよ。食材は各自持ってきてくれるし、お酒もあるんですって。籐吾さんなんか秘蔵のお酒があるそうですよ。」

おお、樹雷草創期のお酒。むっちゃ楽しみ。

 搭乗アナウンスに従って、旅客機に乗りこむ。手荷物を棚に入れ、待っていると、機内アナウンスのあと、ジェット旅客機特有の息の長い加速のあと機首を上げ離陸する。どう控えめに言っても、やっぱり、皇家の船なんかと比べる方がおかしいと言われるだろうな。

1時間少々のフライトで羽田空港に到着する。ネットで調べた在来線に乗って、嗚呼悲しいかな田舎のおっさん。迷ったり人に聞いたりしながら、何とか東京メトロとかに乗って霞ヶ関駅にようやく到着。午後7時を大きく越えた時間だった。明日行く庁舎を確認して、近くのホテルに向かう。予約は、いちおうネットから。間に合っていると良いけど。ちょっと見栄張って1泊ふたりで3万円程度だった。ホテルオークラとか、帝国ホテルとかは高すぎて無理っす。あー、でも高い。さすが東京。ホテルに着いて、チェックインしていちおう部屋に入る。うん、どうと言うことの無いダブルのルームである。ちょっとシーツとか掛け布団とかを適当にはぐっておく。まあ、まっさらな状態だとさすがにまずいだろう。ホッとしてベッド脇のイスに座る。

 「さあさ、あなた、準備は出来ていますわ。一樹に行きましょう。」

はいはいと肩にいる一樹に頼む、足下には柚樹さんの気配もあった。ちょっと一計を案じて、一樹を一度、窓の隙間から外に出し、地上2万5千メートル程度で待機させる。水穂さんが不思議そうに見ていた。

 「使うことが無ければ良いけどさ、まあ、時の権力者だったら何か考えていると思った方が良いしね。」

瀬戸様並みの人がそういるとは思えないが、もしかすると樹雷という単語を知っていて何か仕掛けてくるかも知れない・・・。実際遥照様のルート使ったと言うし。

 「あ、そうだ。水穂さん、一樹に荷物は持っていこう。」

入り口の扉を玄関先の空間と接続しておこう。右人差し指で入り口をなぞる。入ってきたって何もおいてないけど。そう言うことをやりながら、もう本当に役場職員ではないんだなぁとしみじみ思ったりする。

 「じゃあ、一樹頼むよ。」

ホテルの一室から、一樹に向けて転送された。目の前には、贅沢すぎるおうち・・・。ちょっとため息付きながら、一歩進むと扉はスッと開かれ、お帰りなさいませ、ご準備は済んでおります。と執事とメイドが数人、出迎えてくれる。

 「ありがとう。」

そう言った自分にかすかな自己嫌悪を感じる。バイオロイドだそうだが、もちろん、こういう役目で行動しているだろうが、人の姿にあまりにも似ていて、人そのものに見えてしまう。

 いつもの食堂に入ると、みんな立って拍手で迎えてくれた。服装は樹雷の闘士の服装だった。

 「みんなありがとう。急に思いついてごめんね。何となく今週末、こんなにゆっくり出来なさそうだから。」


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