天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さて、おっさん公務員を甘く見た地球の各国政府、ちょっと大変なことになってますが・・・。

今回長い文章です(^^;;。


広がる樹雷10

そのお茶を飲んだのを見ていたかのように、ノックの音がして、扉が開き、水穂さんに勝るとも劣らない美人女性が部屋に入ってくる。手に書類ケースを持っていた。ふうん、歩き方が普通の人と違う。しかも前後左右に視線をやり、間断なく周囲の状況を把握している。ノイケさんの歩き方と似ているな。と言うことは、自衛隊関係者だろうな。着ているものは、仕立ての良さそうなブルーグレーのレディススーツ。そして、低めのヒール。足首とふくらはぎが締まっている。髪は短くしていてショートヘアよりも短く見える。あまり詳しくないけど。

 「お待たせしました。大臣がお待ちですわ。」

ツヤがあり良く通る声だった。結構視線にとげがある。まあそうでしょうね、なんでこんな田舎のおっさんが、と思うわなフツー。

はい、わかりましたと、ちょっと裏返り気味の声も出してみる。立ち上がりざま、手が当たったかのようにコップを倒してみる。

 「もお、あなた、気をつけてくださいね。」

水穂さんが、ハンドバッグからハンカチを取り出してテーブルを拭く。その顔は、おお、天地君みたいな軽い光学迷彩がかかっていた。僕にはわかるが、普通の人にはまずわからない。しかも印象に残らない光学迷彩。

 「ああ、ごめんごめん。」

ちょっとふらついて見せ、そのスキに視線を上げると、迎えに来た女性は、わずかに口の端を上げて笑っている。なるほど。そのまま女性に付いて廊下を歩き、エレベーターに乗り最上階に行った。ひときわ立派な扉の前で女性は立ち止まる。イヤホンを付けたスーツとネクタイの男性2名が扉の左右に立っている。上半身が分厚い。お連れしました、と声をかけると扉が開く。大きな執務机が入って右方に置いてあり、国旗やそのほかの旗が三脚で立っている。中央左に応接セットがあった。大臣らしき人物の左右にも同じような上半身の分厚いイヤホン装備の男性ふたりがいる。要人警護=SPの人でしょう。たぶん。入り口から前方、執務机の右手側は大きな窓が開いていて東京が見下ろせる。応接セットのさらに左には、本棚。そして扉。女性に促され、部屋に入ると入り口扉は閉じる。

 「やあ、来たようだね。まあ、そこのソファに座ってくれたまえ。」

頭が薄くなった、大柄で太り気味だけれどガッシリした体型の男性である。良くテレビで見る大臣だった。眼鏡はかけていない。大臣も歩いて行って、応接セットの上座に座る。さあ、どうぞとソファを勧められる。SP2名も付かず離れず、距離を置いた位置に立つ。天木日亜の記憶が、まあ、及第点だな、と言う。

 「急な呼び出しで申し訳ない。あるルートから、君たちをどうしても自分たちの国に来てもらいたいとの申し出があってね。」

足を組み、腹の前で手を組んでいる。にこやかな笑顔を装っているが、目は笑っていない。組んだ手の人差し指が神経質そうにトントンと組んだ手の甲を叩いている。さっきの女性は、僕たちが座ったソファの真後ろに立っている。

 「正直、僕もよくわかりません。素直に親切心から一緒に捜し物をしただけだったんですけどね。樹雷国なんて聞いたこともないですし。」

すっとぼけてみた。僕は岡山の田舎の役場職員・・・。

 「そうだろうね、君は樹雷国というのがどういう国か知っているかね?」

 「どこか中国の奥地と聞いていますが?」

と、にっこり笑って言う。ちょっと柾木家の笑顔を真似てみる。ビシッと音がするかのように大臣のこめかみに青筋が浮き出る。しかも顔が紅潮する。

 「・・・・・・まあ、いいだろう。そんな遠いところにある、知らない国に君はホイホイと行くのかね?」

遠いと言うところを特に強調する大臣。そりゃそうだろう、1万5千光年の彼方だし。まあ、ここいらへんで大臣の血圧を上げるのはやめようかと思う。

 「ええ、先週も行ってきましたから。」

ふたたび、あの笑顔。目を見開く大臣。瞬時に事情を悟ったようだった。背後の女性に目配せしている。女性から書類ケースを受け取り、自らそのケースを開け、書類を取り出す。組んでいた足は、降ろしている。書類をとりだし、僕の目の前へ手で押す。左から、さっきの女性が朱肉とボールペンを置いた。

天木日亜の記憶が、背後が危険だと言っていた。

 「・・・なるほど、すべては承知済みということか・・・。」

 「まあ、そういうことです。・・・済みません、慣れないもので肩が凝りました。ちょっと失礼します。」

そう言って、座ったまま伸びをする。ついでにあくびもしてみる。伸びをしたフリをして右手で円を描くように、自分と水穂さんの背後を囲むように亜空間ゲートを形成。女性の背後の空間と接続しておく。一瞬、SPの男性が動こうとする、それを大臣が手で合図して制する。

 「それでは、書類を確認させて頂きます。」

実はたっぷり時間をかけて、僕が読んだあと、水穂さんも読む。ふたりで、同じところをチェックした。視界の角で大臣がイラついている。右足の貧乏揺すりが凄い。水穂さんと目配せしあい、口を開く。

 「大臣、この書類には押印出来ませんね。我々は、初期文明の惑星への技術供与等は、固く禁じられています。」

その書類は、ふたりを総務省で雇用し直すが、その見返りとして日本に樹雷国の技術供与等を求む、などの文面が入っていた。

 「そう言うだろうな。だが、今回の君たちへの通達というか圧力は、その初期文明の惑星への関与を認めるものではないのかね?」

なるほど、なんらかの科学技術をよこせと。他国への牽制というか、某大国へのアドバンテージを得たい、そう言うことだろう。少し考えるふりをして、答える。

 「まあ、控えめに言っても、強引な手であることは認めます。ただ、やはり残念ながら、こう言ったことは認められません。僕は、日本が、また地球が消滅するのは見たくありませんから。何とかに刃物と言うでしょう?それに、お茶に薬物を混ぜるような人や国に譲歩する余地はないと思いますが?」

かなり不遜な態度と言えるだろう、ボールペンの尻で、書類の該当箇所をコンコンと叩きながらそう言った。我ながら嫌みたらしいこと甚だしい。さらに大臣の顔が紅潮する。ぎりりと歯を噛みしめる音が聞こえてきそうな表情だった。しかし、無理矢理笑顔を作って言葉を紡ぎ出す。さすが、日本の大臣。

 「・・・やれやれ、あなたは、自らの立場というモノがお分かりではないようだ。」

目を伏せてそう言い、パンパンと柏手を打った。かなり怒っているのだろう。耳が真っ赤だったりする。扉が乱暴に開けられ、ガチャガチャと何か重そうな物を持った多人数の足音がする。

 「田舎者は、黙ってお上の言うこと、聞いてりゃイイのにさ!。」

後ろから、あの女性の声がして、圧縮空気を放つようなパシュパシュと言う音がする。が、すぐに、あ、という女性の声がして、背後でドサリと倒れ、僕たちの座っているソファに手が当たる音もする。小声で、籐吾、謙吾、来てくれと呼ぶ。大臣は驚愕の表情を浮かべ、目と口を大きく開いている。

 「お呼びですか、カズキ様。おお、これは大人数のお出迎えですな。」

いつものように、転送され、ひざまずくふたり。もちろん樹雷の闘士の姿である。若干棒読み口調なのは、あとで注意しておこう(笑)。一樹にこの部屋にシークレットウォールを張るように言って、しかもこのビルすれすれまで降下することを命じた。ゆっくりと立ち上がって、振り返ると、テレビでよく見る特殊部隊と言った装備を付けた男達15人が銃を構えて立っていた。背後の女性は、背中に針のようなものを二本生やして倒れている。こっそり亜空間ゲートは閉じておいた。大臣のほうは、近くにいたふたりが抱えるようにして動かそうとする。その足下から、獣の、ぐるるる、と喉を鳴らし、威嚇する声がした。一瞬で銀毛柚樹さんが、テーブルをはねのけ、九尾の狐になっていた。でかい、みごとに3m以上あるだろう。その音を契機に、一斉に引き金を引いたようだが、全員弾は出ない。慌てて安全装置を解除しようとする。リリースされている安全装置を再び入れ直すことくらい、皇家の樹には簡単なことである。ほぼ目に見えないほどの速さで、籐吾さんと謙吾さんが武器を奪い、当て身を食らわし、特殊部隊らしき男達を無力化していった。取り上げた武器は、僕らの前にガチャンガチャンと置いてくれる。こちらも樹雷の闘士であれば、手加減をしつつ、無力化することも訳ないことだろう。ふたりのSPに両脇を抱えられ、大臣は硬直して立っていた。

 「大臣、力を誇示するようなことをして申し訳ありません。しかし、あなたは樹雷の皇族に対して、薬を盛り、警告無しに発砲しました。これがどういうことかわかりますか?」

透き通るような声で水穂さんが、事実だけを淡々と述べる。大臣とSPのふたりは、怒りか恐怖かわからないが、ふるふると震えて声も出ないようだった。さらに、姿を天木日亜似の格好になる。指差してぱくぱくと口だけが動いていた。

 「一樹、霞ヶ関全体にシークレットウォールを張って、今の高度のまま不可視フィールドを5分だけ解除してくれ。」

太陽が遮られて、暗くなる。全長350mの皇家の船が霞が関のビルを圧するように姿を現した。5分ほどして、またさっきのように瞬時に消える。シークレットウォールも解除された。

 「今、お話ししたことを理由に、この星や太陽系を消し去ることも我々には簡単なことです。我々の求めることは単純なこと。私たちふたりを偽装兼ねて、合法的に出国させて頂きたい。雇用の件は正直言って我らにはどうでも良いことです。さらに、西美那魅町と正木の村には一切手出し無用のこと。もちろん、我々のことも世間に公表しないこと。これは、この場で公文書として書いて頂きましょう。ちなみに、同程度以上の戦力があの地には存在していることも申し添えておきます。」

うんうんと無言で頷く大臣。ふたりのSPに指示して書類を作成させる。SPは慌てて外に出て行った。シークレットウォールはすでに解除されている。頭を振りながら、特殊部隊らしき男達も気がついたようだった。毒気を抜かれたように、大臣の指示で退出していった。

 「さて、と。」

また思いつきで、足下に倒れている女性を抱え起こし、針を抜き、右手を握って、少し力を分けて上げた。すぐに目を覚ます。

 「美しい人、あまり荒事は、良くないと思いますよ。」

今度は、水穂さんと籐吾さんと、謙吾さんのこめかみに青筋が浮かび上がる。い~じゃん、ちょっとキザだけどさ。

 「あなた、それが節操が無いって言うんですよ!」

と、水穂さんが静かな声で言った。その怒気をはらんだ声と迫力に驚いたのか、女性は、きゃ~~っと悲鳴を上げて、僕の腕を振り払い、慌てて外に走って出て行った。うん、やっぱり水穂さんは怖いんだよな、と再認識した。ほどなく、先ほどの雇用契約書の問題の一文を抜いたものと、大臣名で公印の押された誓約書が届く。こちらも記名押印して、話は終わった。誓約書はその場で一樹に転送する。また田本一樹の格好に戻り、柚樹さんも姿を消し、何事もなかったかのような顔をして大臣の部屋を一礼して退出した。それでは失礼しますと、籐吾さんと謙吾さんは転送されて姿を消す。自艦に戻ったのだろう。

 「そうそう、一連の出来事は、樹雷に報告させて頂きます。この誓約書で、何も無かったことにしてくれると思いますけどね。西美那魅町と正木の村の件は、くれぐれも頼みましたよ。」

言い忘れてましたと、もう一度顔を出すと、ビクッと大臣とふたりのSPは見てわかるように驚いていた。

 「う~ん、おかしい・・・。」

総務省の廊下を歩いてエレベーターにつき、下向きボタンを押して待っていたときにつぶやいてみる。

 「まあ?、何がですか?」

少しだけ言葉尻に、トゲがある声で水穂さんが答える。

 「いや、こういうの瀬戸様すっごく好きそうだと思うんだけど、何も介入してこなかったなぁと。」

 「瀬戸様が出てきたら、大まじめに大規模星間戦争に発展しかねませんからねぇ・・・。でも、たぶんどっかで、手ぬるいわっとか言いながら見てると思いますよ。」

それもそうだね、ははははは、そうですわよ、ほほほほほ。と乾いた笑いをぶつけ合う。

ふたりして、何となく冷たい汗が額から流れ落ちる。

 エレベーターを降り、総務省玄関から普通に出て行く。外に出ると陽光がまぶしい。一樹、ありがとう、もう良いよと言うと、小さくなった一樹が肩に乗る感触があった。ふと空から何かの気配が感じられた。

 「柚樹さん、リフレクター光應翼よろしく。」

即座に半透明の翼が展開される。頭上へ何らかのエネルギーが降ったようだが、見事に弾かれる。そのまま発射点の何かを破壊したようだった。その衝撃波で霞が関のビルの窓ガラスがほとんど割れたようだったが、まあ自業自得だろう。

 腕時計型携帯端末が、急に鳴動し始める。そして、僕たちふたりの周りにシークレットウォールが張られ、半透明の大型ディスプレイが現れる。三分割されて神木あやめさん、茉莉さん、阿知花さんが現れた。口々に一度に言う。

 「大丈夫ですか?田本様?」

何を言ったのか微妙にわかりにくいけど、たぶんこう言うことだろう。

 「うん、何にも影響ないよ。」

気象衛星に偽装した衛星から、突如大口径レーザービームが放たれたらしい。さすがに大量の衛星が回っているこの地球。廃棄されたものも含めて衛星軌道上から見ていても大変だろう。

 「そうですよね~。でも、うちのお母さんが大変なんですぅ。」

やっぱり瀬戸様、どこかから僕たちの様子を見ていたらしく、気象衛星に擬態した衛星がレーザービームを僕たちをねらって撃ち、跳ね返された自分のビームで破壊された破片から衛星所有国を瞬時に特定、いま水鏡でその国の元首がいる都市に降下中らしい。ちなみに、第七聖衛艦隊ごと、だそうである。

 「・・・ねえ、どうします?水穂さん。」

僕を見た人がいれば、たぶん額に縦線がたくさん走っているように見えたことだろう。

 「瀬戸様、怒りに我を忘れているんだわ・・・。」

 「でも、平田兼光さんや、天木蘭さんもいるんでしょう?それになんで今頃、この宙域にいるのよ。」

そりゃ、たぶん自分で蒔いた種ですからね~、事の次第を見たかったのよ、と顔を引きつらせながら言っている。ねえ、水鏡に通信入れてくれませんか?え~、イヤですわ。みたいなやりとりをした。

 「たぶん、まさか一国を消すようなことはしないだろうし、グウの音も出ないくらい追い詰めるだけだろうと思うけれど・・・。ま、とりあえず、聞かなかったことにして、駅弁買って帰りませんか?」

ほほほほほ、あははははと、また乾いた笑いをやりとりしつつ、シークレットウォールを解除して、霞ヶ関駅に急ぎ、また結構迷いながら東京メトロに乗った。今回は、新幹線がうまく座席が取れたので、ホントに駅弁買って、お茶買って、黙って乗り込んだ。駅弁食べて車窓をのんきに見ながらたわいの無い話をしたりして、午後4時過ぎには倉敷駅に着いた。とりあえず、荷物をクルマに載せて駐車料金を払って、柾木家に急いだ。何となくイヤな予感がする。午後5時前になんとか到着。困ったときには鷲羽ちゃん、である。

 「こんにちは~。ただいま帰ってきました。鷲羽ちゃんいます?」

ノイケさんが手をふきふき出てこようとしている。でも表情がかなり険しい。鷲羽ちゃんは、階段下の扉を開けて顔だけ出して手招きしている。目が笑っていない。

 「お、帰ってきたね~、面白いものが見えるよ、早くおいで。」

ノイケさん、砂沙美ちゃんごめんなさい、失礼します、と慌てて、柾木家の階段下研究室入り口をくぐる。そこには、GBSで見事に大アップで放送されている瀬戸様、というか、土下座して謝っている、某国首相、大統領、その他大勢の地球国家元首が居た。場面が切り替わり、第七聖衛艦隊が某国の防衛中枢の制空権を掌握、その真ん中に水鏡が浮かんでいる。某映画の1シーンかと見間違う状態だった。しかも憤怒の形相は瀬戸様だけでは無かった。平田兼光さんも、天木蘭さんも明らかに怒っている。よく見ると、護衛闘士や女官さんも怒り狂った表情だった。

 「樹雷の皇族を皇家の樹ごと殺害しようとしたんだ、まあ、あたりまえの対応さね。」

それはそれは怖い顔だった。あなた方は、他国で自国の王族が命の危険にさらされたら、どうなさるおつもりかしら。黙ってみていたりはしないでしょう?しかも、そこのあなた今日ごく普通に訪問しただけなのに、薬を盛って、さらに警告無しに発砲したわね。と、指差して、それはそれは厳しく詰めている。それに、一昨日あんたがたは、あの人にこんな艦隊から守ってもらっているのよ。恩を仇で返すとはこのことね!と、例の惑星規模艦の攻撃も見せている。

 「まあ、駆駒将殿の時にも、地球の国家元首達がちょっかいかけてきたからね、腹に据えかねている部分もあるんだろうさ。それに、子どものおもちゃ程度の兵器だったとは言え、あんたじゃなかったら、本当に殺されていたかも知れないしねぇ。」

鷲羽ちゃんも、かなり凶悪な表情である。もしかして、この人も怒ってる?

 「あのぉ、もしかして、鷲羽ちゃんも怒ってる・・・?」

ダンッと研究室のテーブルを叩く鷲羽ちゃん。

 「身内を殺されかけたんだ、怒りもするさ・・・・・・。」

逆立つ赤い髪。静かに言う言葉が底知れぬ怖さを醸し出す。事態は、かなりむちゃくちゃな方向に行こうとしていた。哲学士を本気で怒らせてしまった。しかも伝説の・・・。


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