死に行く星を再生までして・・・。どこに行くのかこのおっさん・・・。
暴走は止まらない。
お昼休みにアップでございます。
「まあ、いいわ。あなた、これでまた逸話が増えたわね。あの英雄守蛇怪の危機を救い、皇家の樹の艦隊をエネルギージェネレーターの暴走から救った・・・。それにオリオン腕の崩壊も食い止めた・・・。」
「でも、瀬戸様、これを樹雷に運んでどうするつもりだったんです?」
「とりあえず、樹雷の研究機関で調べて、鷲羽ちゃんの所感やデータももらったし、次世代樹雷の戦艦とか使えないか、使えなければ封印する手筈だったのよ。でもあんなに暴走するんじゃ、ちょっと使えないわね~。田本殿にくっついてくれて良かったわ。」
さらっと、とんでもないことを言ってくれる瀬戸様。
じっと、左手を水穂さんが見つめていて、意を決したように口を開いた。
「わたし、この人と融合すれば、ずっと一緒にいられるのかしら・・・。」
水穂さんが、僕の顔を見上げて、涙目でそう言った。
「あ、おれも(僕も)そう思いました。」
立木謙吾さんと、竜木籐吾さんが同時に言う。
「いんやぁ、人面瘡みたいでやだなぁそれ・・・。でも、みんなずっと一緒に居よう。」
もお、ほんとに・・・。3人がようやく離してくれる。
「それじゃ、樹雷に帰るわよ。なんか危険物が増えたようだけど、まあ、鷲羽ちゃんが極上の制御ユニットと言ったから大丈夫でしょう。」
ニッと笑った瀬戸様。爬虫類顔が怖い。
「瀬戸様の副官のなり手が、なかなか無いんだがなぁ・・・。」
ちら、と天木蘭さんを見て、平田兼光さんがそう言った。いやいや、これ以上いらないし。
「まあ、とりあえずは、何とかなったようですから・・・。もう何も起きないでしょうし。」
「当たり前よっ(だ)!。」
う~~、今回は僕のせいじゃないんですけどぉ。とにかく皆さん自艦に戻っていった。
「さあ、あなた、明日は大変でしょうから寝ますわよ。」
ぐい、と水穂さんに手を引かれる。そーだろーなーと微妙に他人事だったりもする。だって、ねえ。あんまり凄いことやったような気がしていないし・・・。
「いやぁ、実はまだちょっと余波が残ってて・・・。」
「バカねぇ・・・。」
真っ赤になって、ぷいとそっぽを向く水穂さん。そう言っているうちに邸宅到着。そしてまたベッドへ。ベッドサイドに座った。ちょっと待っててと、水穂さんがシャワーや着替えに出て行った。左手の赤い宝玉はうっすらと光っている。拳を握ったり、開いたりしても手の動きにはまったく支障が無い。どこに埋まっているのかよく分からないが、まあ日常生活に支障が無ければ、ちょっとしたアクセサリーで通そうって・・・、地球では、困るよなぁ・・・。まあ包帯でも巻いておけば・・・。じっと赤い球体を見ていると、泉のように波紋が見える。まるで水のようにも見えるが右手の人差し指で触ると固い。寝転んで、しげしげと見ていると、水穂さんが帰ってくる。
「ヴィーナスの登場、ですね。」
「歯が浮きますわ。」
そう言って口をふさがれる。じっとりと汗ばむ素肌が心地よい。すでに一樹や他の艦は、元の航路に戻り、超空間ドライブに入っていた。
「・・・あなた、樹雷星系外縁部ですわ・・・。」
水穂さんの声がする。あううう、もう朝かなぁ。むっちゃ眠い~~。
「ええっとぉ・・・、きょうは土曜日だからお休みじゃん、寝かせてほし~~。」
「そうさせてあげたいんですが、とてもそうは言ってられない状況ですよ・・・。」
あり?、立木謙吾さんの声がする。って、樹雷星系外縁部???
がばっって、起き上がると、すでに水穂さんに、立木謙吾さんに竜木籐吾さん、神木あやめさん、茉莉さん、阿知花さんが勢揃いしていた。しかも正装しているし・・・。ここは、一樹のブリッジ・・・?
「あなた、死んだように眠っていらっしゃって、どうやっても起きないから、とりあえずみんなで着替えさせて、ここに座ってもらったんですわ。」
「元気良いですよね、ホント。」
3人が顔を赤らめている。あわてて、服を見ると、正装に着替えさせられていた。下着まで・・・。
「うわっっ、めっちゃ恥ずかしい。って、樹雷外縁部と聞きましたが、樹雷本星までまだしばらくあるのでは?」
「ええ、樹雷本星まであと1時間ほどの距離です。まあ、これをご覧ください。」
巨大なと言って良いディスプレイが、一樹のブリッジ一杯に広がる。そこには、まだ遙か彼方に見える緑の光点があり、そこまで無数の宝石をちりばめたように、それこそ数えるのが無駄とばかりに光点が煌めいていた。一樹の前に一筋の道が奥の緑の光点まであった。その光点の無い間近の道を見ると、樹雷の戦艦がずらりと並ぶ。
「樹雷の、作戦行動中の艦船を除いたすべてが、私たちを出迎えてくれています。その数、全艦船の75%ほど、十数万隻のオーダーです。それがここに並んでいます。」
「ああ、水鏡が守蛇怪と帰ってきたからですね。」
こりゃあ、すごいなぁ瀬戸様の水鏡と西南君の守蛇怪が帰ってきたんだし。
「ボケにしては、ちょっと切れ味が悪いですわ。まだ寝てらっしゃるのね。もう一度言いますわ。私たちを出迎えてくれているのですよ。」
「えっと、空間転移して地球に帰りませんか?」
だって、先週は6人の闘士の方が迎えてくれただけだし。
「後ろはしっかり、水鏡と守蛇怪が私達が逃げないように見張っていますよ。」
「で、今、目が覚めたばっかりの、自分ちの惑星政府に馬鹿にされた、このおっさんに何をしろと?」
ぷっっ、くくく、と謙吾さんと籐吾さんが笑うのをこらえていた。
「・・・いえ、すみません。いまから一樹に他の船を同調させ、このブラックカーペットを樹雷到着まで、しずしずと行進します。私達は、三次元ホログラフィで、おのおののパーソナルを自分の船の上に投影すると言うわけです。」
謙吾さんが、説明してくれた。むっちゃ恥ずかしいじゃん。それ。
「それなら、皆さん自分の船にいないと・・・。」
「あなた、この一樹は、艦隊旗艦ですわ・・・。あなたもパーソナルをこの一樹の上に投影しますが、同時に、一樹の前に、このブリッジの様子を投影しながら行進します。」
「平田兼光さんと、剣術の稽古しよーかなー。」
「・・・ほんっとに~。往生際が悪いですね。さあ、樹雷星の皆さんがお待ちかねです。微速前進から、通常空間航行へ移行します。」
それ以上有無を言わせず、籐吾さんが操舵系を操作すると、しずしずと一樹と阿羅々樹、樹沙羅儀、緑炎、赤炎、白炎は歩くような速度から、静かに速度を上げ内惑星巡航速度に到達したようだった。
「それでは、全員のパーソナルをそれぞれの艦上に投影します。」
同時に、道を作っている艦船から、空砲が順に打たれていく。空砲と言ってもエネルギー・ビーム砲らしく光の筋が上方へ伸び、消えていく。
「さあ、しゃっきりした顔をしてくださいな。このブリッジを投影しますわ。」
「じゃあ、柚樹さん、トラくらいの大きさになって、僕の右隣へ。水穂さんは・・・。」
「わたしはここで良いですわ。」
水穂さんは、僕の座っている席の左後方で、手を前で組んで立っていた。
「とりあえず、わたしゃ、ここでにこやかに固まっていれば良いのね。」
半ばあきらめて、どーでもいいや的に言ってみる。
「いえ、瀬戸様からのリクエストですが、初代樹雷総帥パーソナルとの稽古の時の構えで樹雷星に来て欲しいと。」
う~、ピエロじゃんそれぇ・・・。ま、いいか毒を食らわば皿まで、だな。おかげさまで、それくらいのポーズを一時間程度続けていても身体に応えるようなことも無い。
「一樹、時計出来た?」
「もう水穂さんが、左手に付けてるよ。」
なるほど、準備万端と言うわけだ。木刀モードにして、木刀の刃として光應翼を沿わせる。
「一樹、僕の左に光應翼を、柚樹さんは僕の右に。」
ええい、もう、大盤振る舞いだ。左手も赤く光らせちゃえ!もちろん、天木日亜似の姿である。木刀を左後方に引いた姿勢から、腰を落として低い姿勢を取った。ニッと笑った謙吾さんがブリッジ内部を一樹前方に映し出す。よく分からないが、それに合わせて、今着ている樹雷の服も、戦闘モードのように足首や手首が締まり、白が基調だが、ブラックと紫、そして赤のラインが入る。あたしゃ、某ナントカ戦隊かい!と心の中でひとり突っ込み・・・。そのカッコで固まって、約30分・・・。
「むっちゃ、だるい~~。」
まあまあ、もうちょっとですから、ほらほら、樹雷星が見えてきましたよ~、とかなだめられる。・・・・・・あれ、左手が熱い・・・。どんどん熱くなってくる。
「うわぁ、またこの玉、暴走し始めてる。近くに赤色巨星とか無い?」
ハッと、みんながこちらを向く。茉莉さんが、すぐに周辺探査を始めてくれる。
「ここは銀河系の中心に近い場所なので、結構あるはずですが・・・。見つけました、星図で示します。半径10光年以内に、赤色巨星3,褐色矮星2,白色矮星1。」
「みなさん、このままパレード続けていてください。ちょっと行ってきます。柚樹さん、光應翼で包んでくれますか?一緒に行きましょう。一樹は、このままパレードしてて。水穂さん、瀬戸様に連絡よろしく。」
とにかく最初にもらった座標に向けて、空間転移。そしてまたエネルギーを5個の恒星に投棄して、10分後くらいに一樹に帰ってきた。
「ふうう、危なかった。今度は、樹雷星系を消すところだった・・・。」
あ、服。と思って下を見るとちゃんと服も破らず着ていた。なんだかみんなが気の毒そうな顔で見ている。
「これ以上、逸話作ってどうするんですか・・・。」
籐吾さんが、頬を引きつらせながら、こっちに向いて言う。
「だってぇ、これ、鷲羽ちゃんのせいだよ~。想定外だって、そーてーがい~!。」
お~まいがってなもんよって大げさなリアクションをする。
「・・・あなた、GBSの放送よ・・・。」
そう言って、頬を引きつらせた水穂さんが小さなディスプレイを開いて、見せてくれた。そこには、トラの格好した柚樹さんを伴った僕が、赤色巨星へ向け宝玉を光らせると、きれいなG型恒星に戻っていくシーンが大写しされていた。そして次の瞬間にカメラの視界から消える。
「あ~、さっきの赤色巨星だね。もうさ、これ、危なくって駄目だよね。鷲羽ちゃんに言って外してもらわないと・・・。」
左手の甲を見せ、右手の人差し指でコンッと弾いた。そこに居る全員が、びくっと首をすくめる。そうだよなぁ、海賊の戦艦のエネルギージェネレーターだし。
「我が樹雷の皇家の樹、四樹とそのマスターを救った、強き若き者、カズキ様が樹雷近傍の死なんとする星々を救いました。まさに神の仕業!。生きとし生けるものの力の源!樹雷領宙内に、新たに有用な星系が誕生しました!」
わ~~~っと歓声が上がっている。そして、一樹が近づくにつれ、七色の神経光が樹雷星から四方八方へ放射されている。天木日亜さんのように、短く刈り込まれた頭を掻きながら、あきれた顔でみんなに聞いた。
「あのさ、これ、だれが放送するように言ったのよ・・・。あ、もしかして瀬戸様?」
ゆっくり全員が頷いている。に~っひっひっひっひ、と楽しそうな瀬戸様の顔が脳裏に浮かぶ。はああ~と脱力する。電子音が鳴って、またひとつディスプレイが起動する。ウワサをすれば何とやら。瀬戸様からの通信だった。
「あら、失礼ね。みんなを怖がらせちゃ駄目だと思ったのよ。それに、あなたの力を見せるのは悪いことじゃないわ。ちなみに、まだブリッジの様子は投影されているわよ。」
うわうわ、と慌ててまたポーズを取る。とったところで、まあ結局、格好つけても僕は僕だし、と。左手で水穂さんを抱き寄せ、大きく手を振ることにする。その状態で、樹雷本星衛星軌道に到達した。管制官とのやりとりと、衛星軌道ステーションのナノマシン洗浄を受け、樹雷本星宇宙港に着岸する。全システムがオフになり、一樹のブリッジも最小限の物を残し、順番に光が消えていった。