天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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宴会の始まり始まり~。だけど、やっぱり影響が・・・。


広がる樹雷16

「もしかして、その赤い玉のエネルギージェネレーターもお前さんを選んだのかも知れないぞ。」

マジ?意思は感じられないけど・・・。

 「わかりました。もう充分なので、樹の間にでも行きませんか?」

 「ほっほっほ。面白いわ、その冗談。式典はまだ始まったばかりですわよ・・・。」

最近、水穂さん、怖くて厳しいのだ。しかも遠慮無くキツいこと言うし。まあ、夜は美しくて可愛いのだけれど。

 「なあに?まだ何か言いたそうですわね。」

 「いえ、なんでもありません!。最近瀬戸様のように美しいなと思っておりましたぁ。」

びしっと音がするように、こめかみに青筋が浮かび上がる水穂さん。

 「ほら、そこ。夫婦漫才(めおとまんざい)は、あとにしてちょうだい。式典会場に行くわよ!謙吾ちゃん、籐吾ちゃん、そのふたりを連れてきてちょうだい。」

瀬戸様が、扇子でびしっと僕らを指す。謙吾さんと籐吾さんが、しかたないな~と僕と水穂さんの脇を抱えて歩き始める。やっぱ現役闘士だわ。力が強いし筋肉の躍動がカッコいい。ふたりの肩から胸、腰のラインを見つめてしまう。

 「ま~た、僕らがカッコいいとか思ってるんでしょう?あなただって、さっき・・・。」

 「そうですよ。後ろ見てゾクゾクしてましたよ・・・。」

二人して顔を 赤らめている。そうすか。そういうモノかなぁ。

 ふたりに半分連行されて(?)、天樹大広間に準備されていた、式典会場に着いた。なんと広い!。一体何人がイスと机の配置で入れるのだろう。樹雷のテクノロジーなので、平面配置が必須でも無く、重力はそう言う備品類の配置に大きな制約とならない。その大広間と呼ばれるところが、見える部分だけで半径4,500mはあろうか。その状態で地球で言う結婚披露宴のように5,6人の円形テーブルが並んでいる。樹雷皇阿主沙様や僕ら皇族、各省庁や来賓、経済関連、さらに、各地域の有力者の来賓のように大きく渦を描くように三層構造になっている。こんなん誰がセッティングしたんだろう。準備と片付けの手間がとても気の毒に思えてきた。見える範囲でも、給仕の格好をした男性や女性が専用のカートを持って半重力フィールドに乗り、また転送フィールドもフル活用し、動き回っている。さながら小さなひとつの都市のようだった。

 「もの凄い規模の宴会ですよね。準備と片付けが気の毒に思えます・・・。」

会場責任者の一群に、案内された席に座ってキョロキョロあたりを見る。

 「あなたが、前のように逃げないように、と言う配慮もあるようよ。と言うのは冗談でも、これだけ大規模な祝賀会は、樹雷皇阿主沙様の結婚の儀以来のことじゃないかしら。」

さすがの水穂さんも、びっくりしているようだった。

 「もしかして、この場で何か言わないといけませんか?」

水穂さんが、腕輪をタブレットに変化させ式典式次第を確認している。

 「この式次第、というか次第がとても簡単な物になっています。開会宣言、樹雷皇のあいさつ、来賓祝辞5名、あなたのあいさつかねた経緯説明、宴会となっています。あなたはあなたの言葉で何か言うので良いと思いますよ。」

それでも来賓祝辞5名ですか・・・。少ない方だろうな。ふえええ、とげっそりした表情をしていると、うしろからがばぁっと抱きつかれた。け、気配が全くなかったぞ。

 「カズキちゃ~~~ん(はあと)。」

こ、この声は・・・。み、美沙樹様?

 「かわいい、かわいい~~ん。」

すりすり、すりすりと僕の横顔に顔を擦りつけてくる。またも僕は石化か凍結の魔法状態になる。瀬戸様も抱きつくけど、さすがに顔にすりすりはしない・・・。

 「ごめんなさいね。美沙樹の癖で、可愛いと思った者に抱きつく癖があって・・・。なんとかここまで止めていたんだけど・・・。もう無理みたいね・・・。」

船穂様が口に手を当て、複雑な表情で説明してくれる。樹雷皇阿主沙様は、やれやれといった表情だった。美沙樹様がさっき肩をふるわせて雰囲気がおかしかったのは、そのせい・・・?

 「あ、あのぉ、美沙樹様、こんなにたくさんのひとがいらっしゃいます。さすがにまずいのでは?」

あまりの人の多さと、まだお客様を招き入れている最中でもあり、ほとんどの人が気がついていない。しかし、こちらへの視線もいくつかあった。美沙希様は、あんまり僕の言葉は聞いてはいないようだった。あれ?、西南君と、霧恋さん他のお嫁さんも樹雷の服に着替えて、近くに着席している。霧恋さんが小さく一礼してくれた。

 「あ、そうだ、柚樹さんを抱いていてはいかがですか?」

柾木家で、柚樹さんに強い興味があったことを思い出した。男に抱きついてほおずりするより、まだマシだろう。阿主沙様が、顔を前に向けたまま、右手を握って親指を立ててグッジョブサインを返してくれる。あっそうそう!と美沙樹様も気付いたようで、仕方なく足下に姿を現した柚樹さんを抱いて、席に戻った。柚樹さんの顔がものすご~くイヤそうなのは、気のせいだろう。抱き上げて戻って、とても楽しそうに柚樹さんを撫でている。そのうち、心地よくなったのか柚樹さんも目を閉じて頭を美沙樹様に預けている。なんだか本当にネコそっくりである。そんなこんなで、祝賀会が始まる。阿羅々樹、緑炎、赤炎、白炎の歓迎、そしてその樹とマスターを救った、僕へのお礼だそうである。そっとしておいて欲しいのだけど、樹雷はそう言うわけには行かないらしい。開会宣言、樹雷皇阿主沙様のあいさつ、長いお定まりの来賓祝辞、そしてまた僕の番。

 「樹雷皇阿主沙様、皇家の皆様、そして関係各位の皆様、このような盛大な宴を開催して頂き誠にありがとうございます。」

これに続いて、このまえいろいろご迷惑をかけたことを謝る。一礼すると、会場がどよめく、と言うか笑い声が少し出る。すでに隣と話している人もいた。

 「あのあと、多数の皆様の暖かいお見送りを頂き、わたくしの故郷への帰還軌道を取り超空間航行で帰っていました。さすがに、お酒を頂きすぎていましたわたくしは、夜中に一杯の水が欲しくなり目が覚めました。ちょうどその折に、いま美沙樹様に抱かれております、柚樹が何かを感じ取り、一樹も同時に感じ取りました。そのため、超空間航行を一時中止して通常空間に出て詳細を確認することにしました。そして、わたくしの横に控えております、竜木籐吾の座艦、阿羅々樹と、緑炎、赤炎、白炎が艦隊を組み、亜光速で近くの宙域を航行、樹雷へ帰還中であることを確認しました。」

息継ぎ兼ねて周りを見渡す。静かに聞いてくれているようだった。

 「柚樹は、もともと一万三千年ほど前に、わたくしのアストラルと融合しております、天木日亜の樹でありました。縁があって、今は僕を選んでくれておりますが・・・。竜木籐吾や神木あやめ、茉莉、阿知花も、もともとは初代樹雷王の妹君の真砂希様と辺境探査の旅に出かけ、以前お話したように、大きな時空振に会い、双方とも大きな損傷を受け、超空間航行が不可能な状態になりました。真砂希様と天木日亜は、辺境の惑星で一生を終えましたが、阿羅々樹と緑炎、赤炎、白炎は、マスターも瀕死の重傷を負っていたため、樹雷への帰還軌道を取ったようです。その状態を把握したわたくしは、非常に永い年月を漆黒の宇宙空間でいた、樹やマスターのことを思うと、あまりに気の毒でいてもたってもいられず、わたくしの特殊な技能を使い、柚樹と一樹からエネルギー供給を受け、一樹とあと4艦を光應翼で包み、神木瀬戸樹雷様に連絡し、樹雷外縁部に空間転移しました。あまりに巨大なエネルギーが必要だったため、その時点でわたくしと、一樹、柚樹は意識不明になり、立木謙吾殿の機転などで、補機縮退炉を起動、故郷に帰還出来た次第です。あとでこの水穂に聞いたのですが、一時心肺停止状態一歩手前だったようです。」

あはは、申し訳ない、と頭を掻いて周りを見ると、涙をぬぐっている人が大半だった・・・。

 「その後、またいろいろあったのですが・・・、あの、また次回に・・・。」

雰囲気が重いので、そう言うと、神木瀬戸樹雷様が立ち上がり、すでに報道済みのことですが、もう一度ご覧くださいと、巨大なディスプレイを出させ、映像を映し出した。辺境の惑星を急襲する、惑星規模艦4艦を旗艦とする海賊連合艦隊の映像がまず出て、それを一樹のリフレクター光應翼で撃破、GPに嫌みを言う僕の通信、その後、籐吾さんを救うあのシーン・・・。ダイジェスト版で放映された。

 「一時、人ではないものになりかけたカズキ殿は、それでも私たちの元に返ってきてくれました。そして・・・。」

なんだか自分のことだけども、恥ずかしくて、真っ赤になってうつむいていたら、言葉を句切った瀬戸様が、そそそと歩いてきて、僕の左手首をそっと持つ。僕も慌てて立ち上がって左手の甲を見せた。

 「この赤い宝玉は、ある戦艦のエネルギージェネレーターだったもの。高名な科学者の詳しい分析のあと樹雷へ、守蛇怪に頼んで輸送中でした。ところが不安定な物だったようで、昨日暴走を始め、我ら艦隊ごと銀河のオリオン腕自体が、崩壊する危機に直面しました。その折にカズキ殿がこれを引き受け、生命エネルギーとして放出。いくつかの星の命をも、つなぎ止めました・・・。」

目を伏せがちに語りながら、ゆっくりと顔を上げ、計算し尽くしたような所作の瀬戸様だった。パチパチと、小さな拍手がまばらに起こり、それが引き金となって、ごうごうと巨大な拍手になる。それでは済まず、ほぼ全員が立ち上がってくれている。しかも天樹の壁から神経光に似た七色のレーザー光線が出て乱舞している。その間に酒や酒器が各テーブルに転送されている。拍手が少し納まった頃に、樹雷皇阿主沙様が立ち上がった。

 「皆の者、今日は阿羅々樹と、緑炎、赤炎、白炎、とそのマスター・・・・・・、竜木籐吾殿、神木あやめ殿、茉莉殿、阿知花殿の帰還祝いであると同時に、田本一樹殿への、この者達を樹雷へ連れ帰ってくれた礼を兼ねた祝いの会である。特に田本一樹殿には感謝しても仕切れぬものがある。残念ながら、田本殿は今しばらく故郷での残務があり、明日にはまた帰らねばならん。田本殿がこの樹雷にいる今日と明日は、樹雷を挙げての祝いの会とする!」

樹雷皇阿主沙様から名前を呼ばれると、竜木籐吾さんから、順に立ち上がり一礼する。水穂さんが破格と言った意味が、重~~くのしかかってくる。しかも、二日間ぶっ続けの星を挙げての祝賀会って・・・。生きて帰れるのだろうか。地球に・・・。

 「杯は行き渡ったかな。今日、明日は無礼講で行くぞ!。それでは、我らが英雄に、乾杯!。」

またもや、ほとんど怒号と化した乾杯の発声が押し寄せる。

 「あなた、そう言うわけで、どこにも逃げ場はありませんよ。樹雷の皆さんのお気持ちをありがたく頂きましょう。ちなみに、樹雷は人口のほとんどが闘士です。「英雄」と呼ばれることは最上級の賛辞ですのよ。」

今すぐ穴があったら入りたかった。ほとんど衆目の前で、裸踊りしている気分である。水穂さんに言い返すことも出来ない。そうするうち、さらに目の前に大量の、見た目からして高価そうな料理が転送されてきたり運ばれてきたりする。そういや、朝ご飯まだだったなぁとか思う。

 「う~~、胃が痛い。」

実際に傷むわけではないが、なんかこうきりきりと引き絞られるような気がする。隣の丸テーブルから西南君がお酒と杯を持ってきてくれる。霧恋さんと一緒である。

 「そういえば、西南君、今日は樹雷の皇族のカッコだけど・・・?」

 「そうですね、言ってませんでしたね。ほら先週、天地先輩んちの神社で最初にお目にかかったときに人型メカ乗ってましたよね。あれ、実は・・・。第1世代の皇家の樹、神武と言います。」

 「は?しかも瑞樹は、第2世代で霧恋さんの樹でしょう?と言うことは・・・。皇位継承権とか、かなり上位になるのでは?」

ぬおお、すっげ~第1世代の樹持ってるんだ西南君って。

 「そう、らしいです。」

顔を赤らめる西南君。この人も一瞬高校生のような笑顔を見せる。ちょっとホッとした。こないだから、鷲羽ちゃんにまで皇位継承権がどーのこーのと言われてたし。

 「あ~、びっくりした。なんだ、上には上がいるもんだね。それに遥照様や天地君もいるし。あたしゃ、ゆっくり超銀河団を見に行けるよ。それとも一千万光年先のシードをおこなった文明のルーツを探しに行く旅かな?」

と言うわけで、乾杯の時に口を付けただけで飲めなかったお酒の杯を取って、口に含む。

 「あら、あなたが水穂ちゃんと結婚すれば、あなたは柾木・一樹・樹雷。見事に西南殿と同列に並ぶわよ。しかも人や星を救える特殊技能も持ってるし。樹は2樹あるし。」

デビルイヤーは地獄耳。いや鬼姫の耳。口に含んだお酒をもうちょっとで霧吹きのように吹くところだった。しかもちょっと喉に行った分でむせる。

 「・・・ええっと、一樹の種もらってまだ2週間も経ってないおっさんとしては、棚の上に置いておきたい話題なんですけど・・・。」

ほら、見事に初心者だし。しまった地球の初心者マーク持ってきておけば良かった。西南君と霧恋さんがそろって気の毒そうな顔をしている。

 「置いといても、ぼた餅にはならないわよ。」

ぴしゃりと言う瀬戸様。

 「話題としては、ぼた餅が腐るまで置いときたいですぅ。」

 「うふふっ。面白いこと言うわね。でも周りは許してくれないわよ。あなたはその気だったら銀河に宣戦布告だって出来た。一樹と柚樹もいるからこの樹雷にだって勝てるかも知れない。でも、そうしなかった。それどころか何度も救ってくれたし。闘士も、星も生き返らせてくれた・・・。」

一瞬、瀬戸様が夢見る乙女のような目をした。

 「僕は、破壊は何も生まないけれど、物を生み出すこと、作ることはその何千倍も凄いことだと思うから・・・。それに、みんな好きだし。」

今日は恥ずかしいことばかりである。視線を膝に向けてそう言って、顔を上げると瀬戸様を筆頭に他の樹雷の高官らしきひとや皇族がテーブルの前に鈴なりになっていた。右に座っている水穂さんがイスごと近づいて、そっと手を強く握ってくれる。反対側には同じように籐吾さんと謙吾さんがくっついてくる。なんだか左右からくっつかれて体温が熱いくらいなのだ。熱い?特に左側が・・・?さらに熱い・・・。もっと熱くなった。


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