天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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想っていると、結構通じたりします。

この人も泣いていた樹が気になっていたようで・・・。

どーすんだろうね、これから。


広がる樹雷17(第8章終わり)

「うっわ~~、またこいつ暴走し始めてる。皆さん離れてください。茉莉さん、赤色巨星か、その類いの・・・。一樹、柚樹、行くぞ!」

茉莉さんがすっとタブレットを差し出してくれる。瞬時に僕の腕時計に転送され、そのデータを携帯端末で見る。ちょっと遠いがまあいいだろう。

 「樹雷皇阿主沙様、申し訳ありません。ちょっと失礼して行ってきます。」

 「気をつけて行ってきてくれ。必ずここに帰ってくるのだぞ。」

ニカッと笑ってそう言う。それでは、と空間転移し、指定座標に着く。エネルギー放出してと、それをいくつか繰り返す。ようやく落ち着いたので、さっきの天樹に帰ってきた。その時間は20分ほどだろうか。

 「すみません。どうもお騒がせしました。ただいま帰りました。」

待ってましたとばかりに、みんながお酒を注いでくれる。ありがとうございます、と何倍か飲んで、ちょっとほろ酔い、にならない・・・。お腹もあまりすかない。いくらか料理は食べてみるけどすぐお腹もいっぱいになる。もしかして、こいつのせい?とまじまじと宝玉を見る。

 「やっぱり鷲羽ちゃんに言って外してもらおうっと。」

ぼそっと言う。さらに下半身も、痛いほど・・・。まあゆったりした着物だから目立たないけどさ・・・。そうだ。談笑している瀬戸様を見つけて、失礼だけどと思って、ちょっと呼び止める。

 「瀬戸様、握手しましょう。」

不思議そうな顔をする瀬戸様と握手する。その手を通じてエネルギー放出。もともと美しかった瀬戸様がベールを脱ぐように肌につやと張りが出る。びっくりした顔をする瀬戸様。

 「ご内密に。」

耳元に口を寄せつぶやく。こっそり樹雷皇阿主沙様と船穂様と、美沙樹様にも餌食になってもらった(笑)。これで、すぐに死ぬこともないだろうし。皇位継承がと言ってもだいぶ先のことになるだろう。まだおさまらないので、水穂さんと謙吾さんと籐吾さん、あやめさんと茉莉さんと阿知花さんも餌食にする。それでようやく身体のほてりがおさまる。

しかし、お酒は飲めるが、ご飯はあまり食べられない。つるつるのお肌をした水穂さんが、こっそり聞いてくれる。

 「あなた、食べないで飲むとあとがキツイですわよ。」

そうだね、また先週みたいになってもいけないよね。といちおう答えた。実は、いくら飲んでもあまり酔わないんだよね・・・。と言うと心配するだろうし。そんなこんなで、あっという間にお昼の時間。宴会はみんな休みながら延々と続いている。天樹の大広間の横に休憩所もあったり、入浴設備もあったりする。至れり尽くせり。それに、さすがに樹雷の闘士である。お酒も強ければ食欲も半端ではない。なんか変な関係を結ぼうとする人と関わり合いたくも無いので、水穂さんや瀬戸様の近くでいることにした。しかし、不気味なほど酔わない。トイレには何回か行ったので、アルコール分解の速度が尋常じゃない位速いのかも知れない。お酒飲んでいてもつまんないので、そのうち訳を話して鷲羽ちゃんに宝玉を外してもらおうと心に誓う。昼になったので、料理が取り替えられる。うまそうだけどお腹いっぱいである。とりあえず、水のように感じるお酒を飲む。

 「どうしたのだ?さっきから物を食っておらんではないか。」

柚樹さんが、ようやく抱かれていた美沙樹様から開放されて、こちらに歩いてきた。

 「ええ、あまり何かを食べようという気にならないのです。水かお酒なら飲めるけど。たぶん、宝玉の影響でしょう。いくらお酒飲んでも酔わないし・・・。」

 「そうか、難儀じゃのぉ。どれ、わしもエネルギーを引き受けてやろうかの。」

柚樹さんにある程度エネルギーを流し込む。結構引き受けてくれたのでいくらか食べ物も食べられた。うん、やはり見た目通りもの凄く美味い。

 つまらなさそうな顔を見られまいとして、他の人と話すときは、適当に酔ったフリをしていた。そうして、時間は夕刻、一度お開きになる。泥酔している人もいるし、そうではなくても結構みんな酔っている。一樹に元の宇宙港に戻ってもらって、一樹の家で眠ることにした。やはり慣れているところが一番である。といってもまだ一週間程度だけど。結構ボロボロに酔っている水穂さんを抱えて、一樹に戻った。水穂さんすらこうだから、謙吾さんも籐吾さんも、今日は相手してくれないだろーなー。

 今のところ、宝玉も暴走の気配が無いので、一度はベッドに横になった。でも眠れない。なぜかこの赤い宝玉が左手の甲にくっついてから、異常に身体は元気だったりする。そうだ、柚樹さんと剣術の稽古でもしようかなと。柚樹さんを呼んで、邸宅を出る。今は夜の午後7時過ぎくらいだろうか。一樹の中に亜空間固定された土地は、まだまだ広大で広場もたくさんある。まだ作物も無いので、時間は関係なく昼間のように明るい設定である。邸宅からさほど離れていない場所で、すでに初代樹雷総帥に変わっている柚樹と稽古を始めた。やはり、パーソナルデータ相手なのである程度手が読めるとは言え、良い汗をかける。2時間ほど柚樹さんに稽古に付き合ってもらった。

 まあ、明日も大変だし、お風呂にでも入るかと、邸宅の方に戻る。転送は使わず、走り始める。実は、邸宅から20kmほど離れた場所で稽古していたのである。柚樹はもともと皇家の樹だから、走るのも問題ないし、飛ぼうと思えば飛べるようだ。柚樹は時々地を蹴りながら空中を飛んでいた。その方が気持ちが良いのだろう。突然後ろから誰かが付いてくる気配を感じる。謙吾さんか籐吾さんかな?と思うと、鋭敏さを増した感覚がふたりの気配ではないという。しかし、ここは一樹の亜空間固定された空間である。まず一樹が許した者しか入れないはず。以前の敵のようなとげとげしい気配でも無い、どちらかというと友好的?な気配。いよいよわからなくなって、走るスピードを落として、ついには立ち止まった。後ろを振り返りざま聞く。

 「どちらさまですか?」

ここは、僕の船の中ですが・・・。と言おうとして固まる。大学生?いや高校生くらいの若い美形の男の子が、裸で5mほど後ろに立っていた。ダッと走って、僕の胸に飛び込んでくる。均整がとれ青年前期の締まった身体が美しい男の子だった。そりゃ、うれしいけどさ。でもなんでここにそんなカッコでいるのよ?それにあんた誰?

 「僕の名前は、梅皇。天木辣按様が名付けてくれたんだ。ちなみに、今は天木辣按様の若い頃のパーソナルを借りてるよ。」

ねえ、柚樹さん、と横を見るとネコの姿のまま平伏している。一樹、と呼びかけると、梅皇は第1世代の樹だから、入れてくれと言われて、逆らえなかったと言う。

 「ええっとぉ、僕の好みとかそう言う性向というか、知ってる?」

ちょっと視線を合わせられない。うわずった声まで出てしまう。

 「うん、だから、このパーソナル使ってるんだけど・・・。嫌い?」

いや、嫌いじゃ無いです。むしろ欲望が暴走します。そうじゃなくて!

 「なんで、ここに来たのかな?」

なんかとってもイヤな予感がする。こう、またやっかい事に頭から突っ込んだような。

 「決まってるじゃん。先週いろいろお話を聞いてくれて、それからずっと気になってたんだ。今日は二度も樹雷が崩壊するのを阻止してくれているし。一緒に跳びたいなぁって、思ったんだ!」

 「ええと、さ、確か皇家の樹の間って誰か見張りがいるでしょう?」

 「入る方は、ね。樹の間から出る方は誰もいないよ。」

そうか、樹が歩いて出て行くことはまず無いし。って、歩いて出てきてるよこの人。なんかもの凄くヤバいんじゃない?連れだしたなんて言われたら、皇家の樹を盗んだとか言われて総攻撃されそう。受けて立てそうな気もするけど、ね。一樹、記録とってる?と聞くとそれは問題なくとってるよ、と言う。あ、でもパーソナルだし。樹そのものじゃないし。と少ない知識を総動員して、頭の中が上を下への大騒ぎしている。

 「そう言えば他の樹はなんて言ってるんですか?」

そうそう、樹が選ぶったって、他の樹の強い反対とかがあればまた違った結果になるだろうし。しかもパーソナルだけで出てきているし。確か普通は声が聞こえて、それに呼ばれて樹の間に入ると聞いたことがある。そこで皇家の樹を賜ると言うことになると・・・。

 「田本さんの場合、皇家の樹の声はみんな聞こえてるんでしょ?それに今はほとんど皇家の樹と同じような状態だしね。目を閉じてみて声が聞こえるでしょ?」

樹の声はさっきから聞こえていた。それこそ大歓迎だそうで。七色神経光は天空に向かって伸び、それが地上に雨あられと降り注いでいるらしい。樹達がそう言うイメージを伝えてくる。一樹が、ディスプレイを起動して外の様子を見せてくれる。天樹を中心に大花火大会の様相を呈している。地響きのような樹の声とともに神経光が乱舞する。夜なので、町の人達はその様子を楽しんでいるようだった。そう、樹は歌っていた。樹雷のすべての樹が朗々と歌っていた。

 「じつはさ、僕、みんなから言われているんだけど、梅皇君て言ったっけ?置いてどこか行ってしまうかも知れないよ。」

 「うん知ってる。だからどこにも行かせないし、いつも一緒にいたいから来たんだ。」

電子音が鳴って、外からの通信が入ったらしい。一樹につないで、と言う。もう一枚ディスプレイが起動する。すぐに、二枚になる。一枚目は瀬戸様、もう一枚は樹雷皇阿主沙様だった。

 「田本殿、一体何が起こっているの?」

明らかに飲み過ぎで、頭痛がしていそうな声と顔で瀬戸様が口火を切った。樹雷皇阿主沙様もあまり変わらない。船穂様が代わって前に出る。

 「さっき、水穂さんと一樹に帰ってきまして、水穂さんを寝かせて、まだ眠くなかったんで柚樹と剣術の稽古していたんですけど、それが終わったときに、この子が一樹内部に来てくれて・・・。」

まだ、ぼうっとしてるのだろう、何となく焦点の定まらない目をしている瀬戸様だった。

 「おかしいわね、一樹の中でしょ?一樹が入るのを許したってことですか?」

船穂様が、気がついたのだろう。人差し指を唇に当てて聞く。

 「ええ、この子が言うには、自分は梅皇と言うと。天木辣按様が名付けてくれたと。今は天木辣按様の若い頃のパーソナルを借りてこの場にいるんだそうです。一樹は入れてくれと言うこの子の命令に逆らえなかったそうです。」

 「僕は、この人と一緒にいたいと思ったんだ。そしてまた一緒に跳びたいと思ったんだよ。」

毅然とした態度で、梅皇=天木辣按様のパーソナルの姿の男の子は言った。

 「船穂様、どーしましょ~?」

 「もしかして、天木辣按様の樹があなたを選んだってこと?しかもパーソナルを使ってわざわざ会いに行ったってこと?」

船穂様と瀬戸様の声がユニゾンしている。その梅皇と名乗った男の子は、片手を僕の胸から離して、Vサインしている。

 「なるほど。樹達が大喜びしている訳が分かったわ。」

 「ええと、とりあえず、トップシークレットと言うことで、黙って無かったことに・・・。」

 「無理ね(よ)」

ふたりに冷たく言い放たれた。うるうると涙がほほを伝う。

 「とりあえず、今夜はその子を一樹に泊めてお上げなさい。明日は朝9時に開始だから何か服を着せて・・・、そうだわ!船穂殿、阿主沙ちゃんの若い頃の服があるのではなくって?ちょうど背格好もよく似ているし。」

 「瀬戸殿、確かあったと思いますわ。とにかく一樹に転送するから、それ着せて連れていらっしゃい。」

柾木家伝統のあの笑顔でふたりともディスプレイから消えた。はあ、そうですか、と返事をする。そういえば、こいつでかい。樹雷皇阿主沙様は僕より5cmくらい背が高かったりする。とにかく邸宅に帰ろう。なんか明日の朝が怖いんですけど・・・。スッゲー面倒なことが起こりそうな気がする。う~でも背に腹は代えられない・・・。なんだかよく分からないけど。

 邸宅に帰ると、メイドさんが転送されてきた服を仕分けてくれていた。結構たくさんあるし立派な衣装箱に入っていた。船穂様いいんだろうか・・・?

 「風呂でも行こうか。部屋は隣の部屋でも使ってくれれば良いし。」

 「あ、気にしなくて良いよ。本体の梅皇は皇家の樹の間にいるし。僕はその投影体だから実体は無いとも言えるし。」

第1世代の樹が作るパーソナルである。まったく普通の人と見分けがつかない。へえ、さよか。と微妙に関西人になる。まあ風呂に入るとなれば・・・。

 

 風呂から出てきたのは、それから2時間後。まあ想像はしてもらっても良いけど、そう言うことです、はい。船穂様から転送された服を着せる。それじゃあ、お休み。と言って、あくびをしながら自室に戻る。後ろで隣の部屋に入ってドアを閉める音がした。ベッドの上では水穂さんが結構エッチな格好で寝ている。上布団をかけて、僕もその横に潜り込む。

 「水穂さん、飲み過ぎは大丈夫?」

うん、大丈夫。水飲んだし・・・。と言ってまた眠る。僕はさっき、パワーを使ったので今は普通の状態。そのまま眠りについた・・・。

 

  第八章 「広がる樹雷」終わり


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