天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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毎度毎度何か起こす、おっさん・・・。

ぜ~たくにも・・・。


遠くにある樹雷1(第九章始まり)

               妄想シミュレーション小説第九章

遠くにある樹雷

 「っっきゃああああああああああっっ~~。」

 布を引き破り、鼓膜を破るような女性の悲鳴だった。しかも思いっきり近くで。

 「あなた誰よぉ~!・・・・・・もしかして、田本一樹さん?」

きいい~~~んとまだ耳鳴りがしている。朝一発目としてはかなりキツイ。水穂さんが左手を見てそう言っている。と言うか、左手と顔、身体と視線が動き回っている。ちょっと透けたネグリジェが可愛い。まだ起きたばっかりなんだな、たぶん。

 「うん、僕だけど。」

あれ、なんか声が違う。咳払いを何度か繰り返す。あれれれ?水穂さんはまったく声が出てこないくらい驚いていた。

 「ああ、そうだ。隣の部屋に男の子がいるけど、あれ、ちょっと訳があってね。」

そこまでしゃべると完全に声が違う。左手には昨日と同じように、赤い宝玉が手の甲に付いている。昨日より赤い宝玉がめり込んだのかな。手に対して小さく見える。あれれ、いつの間に付けたのだろう。いつもの腕時計の後ろ、肘側に木の腕輪がある。木目が美しく、地球で言うマホガニーのような色合いだったりする。触ると、腕輪じゃ無くて皮膚にくっついていた。ぱっと見、ウエイトトレーニング用リストバンドのように見える。しかも両腕に付いている。重さはまったく感じない。厚みもほとんど無かった。よく見るとリストバンドと言うより、筋肉の形に添っている。まるで腕のその部分が樹になったようにも見える。

 「でもどうしたの?水穂さん。」

ベッド上で上半身を起こして、あぐらをかいて座ろうとして気付いた。なんか身体がでかい?あぐらをかいて座ると、気のせいか視線が高くなっている。さらに、ベッドサイドに昨日あの梅皇とかいう、天木辣按様の樹が借りていたパーソナルに着せて、寝たはずの樹雷皇阿主沙様の服があった。中身が溶けて無くなったかのように、くたくたっと床に横たわっていた。

 「あいつのために船穂様が送ってくれたのに・・・。どこいったんだろう?」

この僕らの部屋には、姿はないようである。まったく、第1世代の樹とか言われたけど、本当にこれからどうすれば良いんだろう。驚愕という表情で固まっていた水穂さんが、急に立ち上がって、僕の左手を引いて、ちょっと来て、というか来なさいと言って、部屋の隣の洗面所に連れて行く。引かれた手がちょっと長いし、昨日よりも立ち上がると水穂さんが小さく見える。

 「あなた、ですわよね?。一樹の中だし。鏡を見てみなさいよ。」

そう言われて、鏡を見る。たしか昨日は顔と頭が見えていたのに、今は目から下しか鏡に映っていない。って、顔が・・・。だれ、これ。なんとなく、昨日の男の子に似ている気もするけど、って僕は一体どうなったんだ?いつもの天木日亜似の姿にと思うと、もちろん変われる。鏡に映ったのは確かに昨日までの自分だった。ただ、さっきのは・・・。と考えると即座にさっきの見た目に戻った。背格好は一回り大きくなっている。しかも四肢が長く、顔が小さい。体つきもさらに逆三角形になって締まっている。ハッと思いだして、そう言えば昨日天木辣按様のパーソナルを借りているって言ってたな、と思いだし、タブレットモードで携帯端末を起動する。

 「天木辣按様の画像を出して。」

そう言うと、在りし日の天木辣按様が画像で見えた。若い頃の写真を出すと、昨日見た若者そのものだった。隣から水穂さんがのぞき込んで見比べている。

 「それ、その写真、今のあなたに似ている。目の周辺は昨日までのあなた、に見えるけど・・・。」

実は、昨日ね・・・・・・、と水穂さんをここに運んでからの、いきさつを話した。ベッドサイドにあるのは、その人のために船穂様が送ってくれた阿主沙様の若いときの服だよと。

 「それが、なんでベッドサイドにあるのよ・・・?」

 「確かに、隣の部屋に入る時のドアを閉める音は聞いたんだけど・・・。」

二人して隣の部屋をノックして開けるが、誰もいない。メイドさんに聞いても昨日僕が帰ってきてから部屋の出入りは無いそうである。お、そうだ一樹!

 「僕が寝てからの、この部屋の様子なんて出せる?」

 「う~ん、実は梅皇さんに、その画像は出さないように止められているんだ、けど。梅皇さんに聞いてみて。それからなら良いよ。」

第二世代の樹は、第1世代の樹に逆らえないのか。目を閉じて、梅皇さんと呼びかけてみた。かなりクリアに返答が帰ってきた。優しい樹の声が聞こえてくる。

 「昨日は突然にごめんなさい。目が覚めましたか?昨日、あなたが眠ったあと、そちらに行かせた天木辣按様のパーソナルをあなたに融合させたの。あなたの腕の樹に見える部分は、わたしとのマスターキーであると同時に、この世界にとどまってもらうためのリミッターを兼ねています。それは津名魅様の意思でもあります。アストラルレベルでの融合なので解除は出来ないわ。勝手にごめんなさいね、ほほほ。それに、わたしも一緒に跳びたいというのも偽りない気持ちですわよ。」

と言った。おーまいがっ・・・・・・。梅皇からの許しが出たのか、部屋の中心部に半透明のでかいディスプレイが出現し、昨日の様子がそのディスプレイに映し出された。入り口を開けて、僕が入り、水穂さんに声をかけてベッドに潜り込む、寝息を立て始めると、すぐにベッドサイドに、あの青年がふわりと現れて、愛おしそうな目をする。すぐにぼんやりとした光に変わり、服はその足下へ。光は僕に重なり、静かに融合してしまった。

 「あうう、梅皇さん、それは良いんですが、ことの詳細を・・・。」

ええ、霧封や水鏡その他、すべての樹に伝達済みよ、とこともなげにおっしゃる。あ、でも昨日の青年とのことを一生懸命説明せずに済んだことは、良いことか・・・。

 「え~と、水穂さん、どうも第1世代の樹の梅皇さんが・・・。」

津名魅様の命の元、天木辣按様のパーソナルをここによこして、それで、この腕のは梅皇様のマスターキーと、この世にとどまるリミッターらしく・・・と説明を始めると、ぶわっと涙を浮かべて僕の胸に飛び込んできた。

 「ああ、良かった・・・。これでわたしの知らないところに行ってしまわなくなった。」

そう言って泣きじゃくっている。しばらくすると、部屋入り口ドアをちょっと乱暴に叩く音がする。

 「失礼します。カズキ様、樹のネットワークで・・・。」

入って良いよ、と言うと竜木籐吾さんに謙吾さん、神木あやめさんに、茉莉さんと阿知花さんが走り込んできた。みんな、水穂さんの頭を撫でている僕の腕を見ている。

 「ええと、皇家の樹にまで心配されたようで、こんなになっちゃいました。」

と言って、朝の姿に戻ってみる。視線がスッと5cmほど高くなる。自分で言うのもなんだけど、ややこしさと怪しさ爆発である。ま、我ながらびっくりするほどのイケメンではあるな。びっくりと大きく字で書いたような表情で、ずざざっっと5人が後ろに引く。そりゃそうだわなぁ。

 「う~、おっさん、どこも行かないって言ったじゃん・・・。樹にまで心配されるってどゆこと?」

なんか、鎖付きの腕輪のように見える、手首に張り付いた樹の腕輪を見た。これが人外の存在にならないためのリミッターらしい。

 「えっと、昨日二回も空間転移で半径20光年くらいの宙域へ行きましたよね。」

ずい、と謙吾さんが一歩前に出る。

 「みんないっしょだと、何度も言ったような気もしますねえ。」

ずい、と籐吾さんも前に出る。

 「昨日の夜も呼んでくれるかと待っていたのに・・・。」

ずずずいっと5人が詰め寄ってくる。

 「だ、・・・だるまさんがころんだ!。」

ちなみに、関西圏というか、うちの地方だけかも知れないが、「坊さんが屁をこいた」ってのもバリエーションであったりする。もちろん5人は止まらない。よけいに青筋が深くなった気がする。

 「・・・・・・ごめんなさい・・・。でもさ、昨日はみんなかなり酔っていたでしょ。僕は、この宝玉のせいかまったく酔ってなかったし、ものが食べられなかったし・・・。」

胸に顔を擦りつけて、泣いていた水穂さんが、がばっと顔を上げる。いかん、勢いで言っちゃった・・・。そして再び泣き始める。なんかとても愛おしい。腰に手を回して、すこしかがんで、口づけした。ようやく泣き止む。

 「さあ、いつもの水穂さんに戻ってください・・・。泣いている水穂さんも可愛いけど、キリッとした水穂さんはもっと美しいですよ。」

あ~、いいなぁとか阿知花さんが小声で言っている。

 「う~、ほんとにお酒飲んでも酔わないし、お腹はすかないし。この宝玉は、鷲羽ちゃんに話して、マジに危ないので取ってもらうつもりです。はい。」

ほほを引きつらせて、立木謙吾さんが怒ったように言った。

 「それで、梅皇で船作るんですか?どーすんですか?」

 「ほ?」

 「第1世代の樹、梅皇は、一緒に跳びたいと言ってるんです。となればコアユニットになって、皇家の船として跳ぶと言うことです。」

 「・・・・・・じゃあ、全長10kmとかの船で、一樹と合体して超強力な戦艦になるとか。惑星規模艦数隻やそこらくらいなら一撃で粉砕可能とか、さ。」

あっはっは、無茶だよね~~って顔をしてみる。

 「その案イタダキです。ひっさしぶりに燃えてきたぞぉ。」

 「け、謙吾さん、樹雷皇阿主沙様や瀬戸様が怒るんじゃない?」

慌てて、ちょっと待ってよと言った。バカなおっさんの言葉を真に受けるとたいへんだよぉと。すでに、立木謙吾さんは、そんなことはまったく聞かず、その場でタブレットを起動して設計を始めている。工房に行くのも面倒みたいな勢いである。横から、籐吾さんが、「でかいと動き、鈍くなるんですかねぇ?」と聞くと、「いや、パワーあるから大丈夫。俺のノウハウ全部乗せで行くから、そんなみっともない船にはしない!」

ぐもももぉとかなりの勢いで盛り上がっている。

 「おお、昨日の若者は、梅皇の持っていたパーソナルだったか。田本殿なら良いだろう。簾座の海賊もかなり強力らしいしな。」

 「そうね、阿主沙ちゃんの言う通りね。まさか第1世代の樹がリミッターなんてねぇ・・・。津名魅様も結構やるわね。」

いつのまにか、僕の部屋にでかいディスプレイが二つ。

 「さて、今日も宴会だが、梅皇のお披露目も兼ねるのか。みんな喜ぶぞ。樹も昨日からずっとあの調子だしな。わしのお古で申し訳ないが、それを着て来てくれ。待ってるぞ。」

樹雷皇阿主沙様も納得顔で通信を切る。瀬戸様に至っては、またも濃厚な投げキッスだったりする。イヤイヤ、当事者の意見というか気持ちはまったく聞かないのね。

 「さあ、あなた。樹雷皇阿主沙様の服を選んでおきましたわ。着てみてくださいな。」

変わり身はや!。水穂さんは、すでにテキパキとメイドさんに手渡してもらって僕の着る服を用意してくれている。さっきまで泣いていた人とは思えない。はいはい、と言うと、

 「ハイは一回!」

と、にっこり、例の笑顔で答えてくれる。ちょっと目の端を人差し指でぬぐいながらいつもの口調で言った。可愛い・・・。美沙希様みたいにスリスリしたくなる。その代わりもう一度口づけした。そう言えば約束の時間まで余り余裕も無い。立木謙吾さんは、竜木籐吾さんと操縦性云々を討議しながら工房に行ったようだし、神木あやめ、茉莉、阿知花さんは、キッチンやおうちはどうするんですか?とか言いながら3人してついて行っている。水穂さんも、私も行く、ちょっと待ってぇとか言いながら着替えているし。僕もとりあえず、メイドさんに手伝ってもらって阿主沙様のお古を身につける。天木辣按様のパーソナルとの融合後の身体だと、本当に専用あつらえしたようにサイズが合ってしまった。

 「結局、あの天木辣按様のパーソナルって、なんだったのよ・・・。」

そう独り言のつもりでつぶやくと、

 「あら、いくら津名魅様の言うことだって、最後は身体の相性が物を言うじゃない。それを確かめたかったのよ。」

と梅皇さんがあったりまえじゃない!って感じで言った。いや、樹とエッチは出来ないでしょ、ふつ~。そっちの相性はあんまり関係ないでしょう?

 「まあ、本気だったの?ものの例えよ、た・と・え。」

とても先週さめざめと泣いていた樹とは思えない。

 「でもね、本当に悲しかった・・・。天木辣按様はわたしが小さかった頃からずっと一緒だった。いつも、何があっても、お話が出来ていたのに、最後は何も言わずに、わたしを置いてアストラルの海に沈んでいったのよ。」

そういえば、柚樹さんも似たような経験をしているな、あっちは大災害だったけど。

 「やはり、マスターが先に逝くのは、悲しいものなんですね。柚樹さんからも、永く生きることができても、気力を失って枯れていく樹も多いと聞きました。・・・・・・あ、そうか。もしかすると、天木辣按様はご自身の寿命だと感じられて、梅皇さんには生きて欲しくって何も言わなかったのかも知れませんよ。」

優しい樹。相手としては、まったく違う生物の人類でも、共に在るものがいなくなる悲しみをずっと抱えてくれている。

 「あなたとお話が出来て良かったわ・・・。あなたは、手放すと遠い遠いところに行ってしまいそうだった・・・。それなら、私も一緒に行きたいと思ったの。これからもよろしくね。」

 「こちらこそ、よろしくお願いします。」

思わずそう言った。しかし、なんとなくこの梅皇さん、瀬戸様とかアイリ様とかと似ている・・・。やっぱりやっかい事に頭から突っ込んでジタバタもがいている感が多々ある。

 「僕は、ひょっとすると、あなたがたとの別離を悲しむ側かも知れない・・・。なぜかここ最近そんな気がします。」

ふっとそう言う考えが頭をかすめた。あくまで直感だけど。柚樹さんがスリスリと足下で身体を擦りつけている。

 「だから、その両腕の印なのよ。私たちを置いてどこかに行くことは、たぶん出来ないわ。たぶんね。でも、あなた見てるとその自信が揺らぐわ。」

なんかえらい言われような気がする。って時計見ると、あんまり時間ないじゃん。そういや、この格好はまだ面が割れていない。水穂さん達はどうせ会場へ転送で来るだろうし


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