天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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さすがに人外の者になって行ってる自覚はあるようで(^^;;。

遠い遠いところへ行くことになるんでしょうか。


遠くにある樹雷8

 「大丈夫じゃ、これは超長距離リープシステムの起動キーじゃよ。まあ、お主の身体そのものが生体キーになるのじゃが、の。」

アマナック委員長は、微妙に含みを持たせたような口調だった。な~んとなく、鷲羽ちゃんのような香りを感じてしまうのはどうしてだろうと、思いつつ、微笑むアマナック委員長の顔を見る。右手から両手で、その起動キーとやらを水をすくうようにもらう。青白い炎のように揺らめく光。受け取ってほんの数秒間、僕の両手の中で光っていたが、す~っとその炎は二つに分かれ、僕の両手のひらに沈んでいったように見えた。両手から何かの文様が光りながら全身を巡ったように感じられ、強風が吹き抜けていったような、錯覚にとらわれた。ふわりと身体が軽くなったように思うと、足下にたくさんの球状の光るものが見える。足に一番近く、ひときわ大きいのは・・・、さっきまでいた世界・・・かな?水穂さんと籐吾さん達、そしてアマナック委員長が見えた。

 「ようこそ、私たちの第5次元へ。わたしは、あなた方から言えば、上位次元を管理する者・・・。」

足下の球体の他には、自分の身体の周りには何も見えない。漆黒の闇が広がっている。しかし、声だけは聞こえてきた。女の人とも、男の声とも区別が付かない。

 「う~~、暴走はしないかもしれないけど、やっぱり何かあるのね・・・。」

両の手のひらには文様が浮かび上がり青白く光っていた。また何かに頭を突っ込んだのかと、うるうると涙が頬を伝う。

 「あらあら、ごめんなさいね。いちおう、超長距離リープシステムは、こちら側の世界を通っていくので、理論とそのノウハウ、そして注意事項があるのよ。そう言う意味で、あなた方の世界でおいそれと開示出来なかった・・・。しかもその理論を応用すれば、強大な武器をつくることもできる。それこそ、銀河系のひとつやふたつを別次元に飛ばし、その世界から消し去ることも可能になる。」

 「こちらこそ、どうもすみません、ちょっとここ数日、無茶苦茶なことばかり起こってるので・・・。さて、何を学べば良いんでしょう。」

ここまで来れば、毒を食らわば皿まで、だろう。

 「ここに来て、わたしと話をしている時点で、あなたにはすでにインストール済みです。その文様がキーであると共に、第5次元跳躍理論です。うふふ、アマナック最高評議委員長が気に入ったと言うから、ちょっとお話ししてみたくてね。」

言葉遣いが女性のそれに変わり、ふわっと視界が開け、明るくなると、ちょっとおしゃれな喫茶店のようなところに座っていた。つばの大きな白い帽子をかぶって、白いワンピースを着た女性が前に座り、僕は、左手の甲に赤い宝玉を付け、左右の手に例の木製の封印があり、樹雷の闘士の服を着ていた。座っているのは窓際。左側が窓だ。それに映った自分の姿も見える。顔は、天木辣按様似の方だった。外の世界を見るともなしに見た。地球の都市部に似ている。信号があり、それに従って、車両やバイク、歩行者が動いている。

 「え~あ~、何を気に入って頂いたのか、自分でもかなりよく分かっていませんが、僕としては、銀河系から飛び出し、その次の銀河にもいける力があることがとても嬉しいです。」

 「ふ~ん、なんか模範的な答えね~。」

つまんないわ~、的なリアクションだった。目の前の女性は、いつ注文したのか知らないが、運ばれてきた、パフェを長いスプーンで突きながら食べている。僕の前には、たぶんアイスコーヒーだろう、濃い褐色の液体が満たされたガラスのコップが置かれる。氷がコップに当たる音が涼しげだったりする。次いで、シロップだろう、ちっちゃなカップとミルクのような白い液体が満たされた、小さな水差しが置かれた。ガラスコップが小さく見えることでやはり自分が大きいことが何故か再認識される。紙の細い袋に入ったストローも置かれている。

 「じゃあさ、わたしが銀河連盟ぶっ壊してって言ったら、どうする?」

視線を目の前に戻すと、樹雷の正装をした水穂さんが座っていた。へえ、姿形は変えられるんだ。右手で頬杖ついて、ちょっと顔を傾けている。あんまりこの人、こういう仕草はしないなとか思ったりする。

 「最近、そんな感じで試されているような気がしますが、その力も充分にあるようですけど、僕には向いてませんね。天下とったとして、そこに住んでる人にとっては、ただ頭をすげ替えただけで、結局行政やらなんやらは複雑細分化している今のモノが最良なんでしょうし。メンドクサイから嫌です。」

行政職員だったというか、いちおうまだそうだけど、そんな僕にとっては、わーわー言ってる側の方が気が楽だろうし無責任だと、そう思っている。

 「そうなのね~。あんた面白いんだか、なんだかよく分からないね。」

今度は、スーパー山田の専務、山田西南君のお母さんのカッコだ。薄めのピンクのストライプがここの店のイメージカラーだったりする。その色の制服というかエプロン姿だった。

たぶん、飲んで良いんだろうな、アイスコーヒーらしきものにシロップ入れて、ミルクをちょっと入れて、ストローの紙袋を破って軽くかき混ぜて飲み始める。マーブル状になったミルクが好きだったりするのだ。

 「俺(僕も)、カズキ様に樹雷皇になって欲しいです。」

お、今度は、立木謙吾さんと、竜木籐吾さんだった。ちゃんと正面から見ると、この人達本当にイケメンだったりする。ちょっと背中がぞくっとする。こっちの方が、説得力が大きいかも。

 「第一世代の樹との証がこれだから、おいおい、その継承権の話は出るんだろうね~。西南君もいるし、こないだ樹雷皇阿主沙様には宝玉の力を分けているから、事故とか無い限り数千年以上あとのことだろうね。それでもあたしゃ嫌だな。あなたたちが信じられなくなるような社会的な地位なら、僕はいらない。」

ストローを持って、もう一度くるっと回してみる。お、このコーヒー結構上等じゃん。シロップ入れなきゃ良かった。

 ふと、思考を戻すと、喫茶店のビジョンではなくなり、この間の赤色巨星が目の前にあった。斜め下方には、赤く焼けただれた惑星。そして、左手は熱く、今にも燃え上がりそうだったりする。もちろん赤色巨星にエネルギー放出。ついでに惑星にも。この前と違って、それで左手の宝玉は落ち着く。傍らに柚樹さんの気配も、肩に一樹の気配もない。寂しいので、水が戻って、白い雲が復活、見る間に緑も復活している惑星に行ってみようと思った。復活の現場を見てみたい。そう思うと、その惑星に引っ張られ、惑星の大陸に降り立つ。ちょうど雨が降っていた。気温は、少し暑いくらい。気持ちの良い雨だ。ひとしきり降ると日が差してくる。僕の足下には草が生え、見ているうちに樹に育ち、数分後には森になっていた。草や樹の匂いが空気に満ちる。虫や、小動物達もどこからか現れてくる。

 ああ、良かったと心底ホッとしてしまう。動物たちはこんなに早く出てこないだろうと、ちょっと突っ込み入れながら。少し歩こうと思う。何故か動物たちがあとを付いてくる。しばらく歩くと巨大な樹に出会った。右手で樹にさわると僕はそのまま樹と同化していく。ああ水穂さん達に怒られるなぁ、とか思うけど身体は樹に埋没し、僕と樹の境目は分からなくなった。風は、生命の喜びを乗せて歌い、土は復活ののろしを上げ、水はすべてのモノを解かし合成し、新しい生命の源となった。

 樹になった僕は、足下からさらにエネルギーを惑星に込める。僕の周りにいた動物たちのうち、いくつかが二本足で立ち上がり、手に何かを持つ。離れたところで火をおこし、それはあっという間に大都市になる。ケンカして、なにやら有毒なモノもばらまくが、それもゆっくりと自分たちの努力で浄化して、惑星の外へと飛び立っていく。飛び立つ前に自分たちの争いで自滅してしまう者もいた。それを数十回繰り返す。僕は樹として、静かにそれを見守っていた。そのうち、この惑星の使命も終わったようだった。空は赤くなり、さっきと逆に、風は吹かなくなり、水は干上がる。土は鼓動を止め、赤い星に飲み込まれた・・・。数十億年というレベルの時間だろう。でもこの命達はをなんとか連れ出せないモノかそう思った。他のもっと若々しい星々で、命を永遠につないでいって欲しい・・・。

 「わたしたちも、そう思ったの。もしかすると傲慢と言われるかも知れないけど。いまだにそれが良かったことかどうか、答えは出ていないわ。それでもこの世界は賑やかになった・・・。」

最初の足下に世界の球体がある、あの場所にいつの間にか戻っていた。

 「僕もその結果のひとつなんでしょうけど、楽しくそして、興味深いではありませんか。寂しかったり、悲しいことも多いですが、そうじゃないこともまた多いです。それで良いんじゃないかと思います。」

 「私たち、良いお友達になれそうね。いちど、うちにいらっしゃいな・・・。」

とんっと音がしたような気がした。気がつくと、蛙の声がやかましい僕の家の近く。周りに水穂さんに籐吾さん達がいる。そう、目の前のおじいさんは、アマナック最高評議委員長・・・。足の裏には熱いアスファルト。

 「・・・戻ってきたかな。彼女には会えたかの?」

柔らかな微笑のアマナック委員長だった。

 「ええ・・・。良いお友達になれそうね、いちど、うちにいらっしゃいな、と言われました。」

 「そうか・・・。永かった、わしの役目が終わる日も近いかな・・・。」

僕から視線を外し、空を見上げるアマナック委員長だった。何となく寂しく感じて、こう言ってみた。

 「アルゼル最高評議委員長アマナック様、近々、お邪魔させて頂いてよろしいでしょうか?それと、いつになるか分かりませんが、一緒にシード文明のルーツを探しに行きませんか?」

はあっ?この人何を言うの?みたいな顔でこちらを見る水穂さん達。

 「謙吾さんと相談ですけど、たぶん今度の船だと、恒星系ごと亜空間固定出来るだろうし・・・。ね、梅皇さん。」

突然なによ、ようやく頼る気になったのね、簡単なことよ。と赤い宝玉が明滅し、腕輪がぼんやり光る。

 「関わってしまった以上、あなた方が、また何らかの危険にさらされて死んでいくようなことがあるのは僕は耐えられません・・・。それに近くにいれば、いろいろ僕の動きも監視出来るだろうし。」

籐吾さん達が目配せし合って、駄目だこりゃ、とお手上げのジェスチャーをしている。

 「ほっほっほ、嬉しいこと言ってくれるのぉ。そうじゃの、みんなと検討してみるかの。」

是非そうしてください。それでは、と、アマナック委員長は、また蛍のように小さな光に戻り星空に消えていった。

 「あなたって人は・・・。まあ、今回は私たちを置いてどこかに行かなかったら良いけど。」

いや実は、第5次元に行ってました、とは口が裂けても言えない。

 「超長距離リープシステムは、樹雷とGPで共同研究するんでしょ?なら、もうアルゼル惑星系がどこにあろうとあまり問題は無いじゃん。それよりも防御の方の意味が大きくなると思うけど・・・。それなら僕んちに入れてしまえと。第1世代の樹だし。そうなるとまず海賊は手出し出来ないし。一緒にお酒やご飯も食べられるし。」

ニッと笑って見せた。

 「瀬戸様が聞いたら、また寝込みますよ。ホントに・・・。まあ良い薬でしょうけどね。」

また、みんなで、しばらくそのまま蛍を見ていた。

 「僕達は、この光、見たことないんですけど、なんですか?これ。」

こんどは、こっちに金だらいが落ちてきた気分だった。そうか、樹雷の人達だな。

 「・・・、ごめんね、説明してなかったね。夏にこうやって光りながら飛ぶ虫で、ホタルと言ってね。雄と雌が光って互いを引き寄せ合うようだよ。昔は、この辺には結構飛んでたんだけどね。水が綺麗なところじゃないと、えさのカワニナが育たなくてねぇ。」

さらさらと流れる小川、遠くでモンスターのような低い声で鳴く、ウシガエル。ゲコゲコと言う声だけではない夏の風物詩だったりもする。さて、蚊も多くなってきたようだ、そろそろ寝ようか、と言って家に帰った。途中で立ち止まって、両手のひらを見る。ふわっと青白く光る不思議な文様が見えた。やっぱり夢ではないのね、と微妙に悲しくなる。

 「あなた、どうしたんですか?」

水穂さんが、ちょっと前まで歩いて振り返る。振り返った水穂さんがまた鮮烈に美しい。籐吾さん達は、他の家から見えないところで、自艦に転送で戻っていった。

 「いやぁ、どんどんある意味、人から離れてってるような気がして・・・。」

 「・・・何をいまさら・・・。それじゃあ、人じゃないかどうか、確かめてあげます。」

そう言って、僕の手を取って、どんどん家の中に入って、すでに暗くなった階段上がって僕の部屋に帰り、一樹に頼んでいつもの邸宅に帰った。うれし恥ずかし夜の時間ってことなのね。風呂に入って出てくるとすでに時間は、午後11時を過ぎている。ベッドに寝転がって、ぼ~っとしていると眠気に襲われたので、なんとなく柚樹さんに声をかけてみた。

 「柚樹さん、これからど~なるんだろうね~。怒濤の土日が終わったけど・・・。」

 「先週から、おまえさんの難儀の度合いは、天井知らずだのぉ。」

僕の足下、ベッドで丸くなってるんだろう。そこから声が聞こえてきた。

 「まあ、誰かさんの手の上で踊ってる感が、なきにしもあらずなのは、いつものことのような気がするけど・・・。」

 「さすがに瀬戸殿も、今回のことは青写真を書いているわけではなかろうて。」

 「そうかなぁ・・・、まあ、突発的なことが重なったからね。ん~・・・、シードを行った文明・・・。どこから来てどこへ行ったんだろうね。」

 「我らの辺境探査の目的のひとつもそれじゃった・・・。真砂希姫との探査では、その痕跡は発見出来なかったのぉ。ただ、お主が見つけた火星の遺跡に、ヒントがあるようなことを言っておらなんだかの。」

 柚樹さんと、ぼんやり話していると、水穂さんがお風呂から出てきた。長い髪を乾かしていた。さすがにヘアドライヤーみたいな物ではなさそうだ。一瞬で乾いている。薄いピンク色のネグリジェだったりする水穂さん。

 「さっき瀬戸様から連絡がありましたのよ。アルゼルの最高評議委員長御自ら、あなたに会いに来てキーを渡したことや、さっきの諸々の記録を報告しました。瀬戸様、アルゼルの惑星系を梅皇に固定すると言ったら、樹雷と、GPの駐留軍がいらないって喜んでましたわ。対外的に、まずいこともあるけれど、伝説の類いも多いからなんとか押し通しておくわ、アイリちゃんにも言っておくわね~ですって。」


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